地蔵院は竹林の寺、高くそびえる竹のトンネルをくぐるとお堂が現れる。お地蔵さまと細川家の守り神、童子像に細川さん、そっと手を合わせる。「国民が一番、心配しているのは原発ですよ。日本列島の浮沈にかかわります。その点、浜岡原発をすぐ止めた菅さんを高く評価しているんです。この地震列島で、原発は制御不能な不完全システムです。増設はやめ、安全性を確認できないものは即時停止し、寿命のきたものから廃炉にしていく。20~30年で新エネルギーに代替できるかどうかわからないけれど、退路を断たないとテークオフはできませんよ。私なら思い切って脱原発、と言いますがね」
どじょう演説で民主党国会議員と国民の気持ちをつかんだ野田さん、首相になるや、なぜか増税議論ばかりで脱原発は夢物語みたいに遠くへ、遠くへ。国民は疑心暗鬼である。「国民から見限られないようにしないと。一国のリーダーは旗幟(きし)鮮明にしなければ。白か黒か、ねずみ色の旗じゃ困る。経済界などの圧力もあるだろうから、はっきり言いにくいかもしれないが、国が滅んで何の経済か。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)も大問題に違いないが、まずは脱原発へかじを切ること。松下政経塾を設立した松下幸之助さんは経営の神様といわれた人だったが。でも、ちゃんとしないと、増税への国民の理解なんてとても得られませんよ」
竹林の賢者よろしく熱弁をふるう。いまにも官邸に乗り込んでいきそうな勢いで。かつて国民福祉税導入でつまずき、政権崩壊へと転がり落ちた悔いもあるのだろう。方丈でもう一服、お茶をいただく。床の間に細川さんの筆になる書がかかっている。<人生五十功無きを愧(は)ず>。首相辞任の日の日記に書き付けていたご先祖さま、室町初期の武将、細川頼之の言葉である。地蔵院にはその頼之の墓がある。「日本新党は3年で解党しました。野田内閣には同志も多く加わっています。誰かが同窓会をやると言ってるらしいが、子どもじみているよ。この危機を乗り越えるため、歯をくいしばって努力するのみでしょう」
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毎日新聞 2011年10月20日 東京朝刊