第十八話 温泉 女組
「はぁ~………色々ありすぎて疲れそうになっちゃったけど……やっぱりこの温泉最高だわ~…」
「全くだな…其れにしても千冬が人型になれたとはな……今度、手合わせをしたいものだ」
『私は構わないぞ、シグナム……其れにしてもシャッハもどんな躾をしているのやら』
「う……ご、ごめんなさい……」
湯船に使って一息つくティアナに、同じく湯船で大人しくチョコンと座っているセイン。
更にシグナム、千冬と言う鬼神2人に睨まれていた。
男風呂で崇宏達が彼女たちと同じように、この温泉を楽しんでいる最中にセインは悪戯心から、ティアナ達の胸やお尻などを、自身のISであるディープダイバーを使用してまぁ、タッチや揉んだりなどのセクハラ行為に及んでいた。
当初は温泉に住み着いた新種の生物、またはルーテシアのペットか何かだと思っていたティアナ達だったのだが、最後の標的となってしまったリオにセインが後ろから胸を鷲掴みにしたところ、驚いたリオが大人モードに変身。
結果、セインはリオの【絶招炎雷砲】によってぶっ飛ばされ、落ちて来た所にシグナムの【紫電一閃】と千冬の【斬鉄閃】をくらい星になった上でここにリターンしてきたというわけだ。
正体が分かってホッとした女性陣だったが、一歩間違えば怪我人が出た可能性もあるとして、セインに厳重注意をしたところだった。
彼女が大人しく湯船に浸かっているのはそういう訳だ。
ちなみに、セインにはペナルティというか罰というか、今夜と明日の朝の食事を作るというルーテシアの示談交渉が持ちかけられ、彼女もそれにありがたく同意。
事件は一応の解決を見せた。
「まぁまぁ、あんまりイジメないであげましょうよ……セインも十分反省しているんですし」
「そうですよ、馬鹿アクセルよりマシですよ」
「あぁ~……あれはまぁ……アクセルの自業自得ね……崇宏に断罪されてたし…」
「スコーンって、めちゃめちゃいい音してたな」
シグナムと千冬をルーテシアがまぁまぁと宥め、リオがアクセルを引き合いに出し、スバルとノーヴェが男風呂のやり取りを思い出しながら苦笑する。
「でも……崇宏君は……本当に良い子だよね」
「アクセルも、問題はあるが良い奴だと思うがな」
「まぁ、確かにアクセルが良い奴なのは確かだな…………たまにリボルバー・スパイクかましたくなるけどな」
「あはは……ノーヴェ、それかなり危ない人の発言だからね…?」
なのはがそうつぶやくと、シグナムがアクセルを褒め、ノーヴェも思うところがあるようで溜め息混じりで物騒なことを言う。
ヴィヴィオ達は苦笑している。
「あ………」
とそんな話の最中、なんとなくシグナムと千冬の方に視線がいったアインハルトは、あることに気がつく。
シグナムと千冬の胸にキラリと輝く、八角形のような形に宝石のようなものが埋め込まれたお揃いのアクセサリー。
ただしシグナムはピンク、千冬は白い宝石だった。
アインハルトにとっては千冬とシグナムがアクセサリーを身に付けていることが、とても新鮮に思えた。
「何を見ている?」
『どうした、アインハルト?』
「あ……えっと…」
その視線に気がついたシグナムと千冬は、アインハルトにそう尋ねてくる。
一瞬、聞いていいものか迷った様子のアインハルトだったが、このままお茶を濁すのも悪いと思ったので、少し思い切ってアクセサリーのことを尋ねてみた。
「えっと……シグナムさんと千冬さんの、そのアクセサリーが……綺麗だなと思って」
「……そ……そうか」
『まあな』
「そういえば、ヴィータちゃんも真紅のやつを付けてたような気がするの」
「こないだ、はやても黒いのをしてたような気がする」
「ザフィーラも青いのを付けてたような気が」
「シャマルも持っているぞ…緑をな」
『これは私と八神家の全員に崇宏が作った物だ』
「そ、そうだったんですか………」
「全然知らなかった……」
「わ、私も……」
アインハルトに準じて、なのはとフェイトも同じようにそう呟いた。
「崇宏、見かけによらず器用だね」
「良いな~」
「家にいた時も良く手伝いしてくれるしね」
「確かに……後……時々子供に見えないっていうか……」
『彼奴は二十歳過ぎだぞ』
「おい、千冬」
『構わんだろう、彼奴も気を許しているんだ…それにな、アクセルには自分から伝えてある筈だぞ」
「えっと其れって?」
シグナムと千冬は崇宏の過去について語った。
「えっとつまり」
「崇宏は此処とは別の世界で死んで」
「神様にこの世界に飛ばされた」
『まあ、信じられないのは当然だな』
「この事は我等と主、三提督しか知らない事だ」
「じゃあ、あの強さは……」
『勘違いするなよ…小娘共…あの強さは八神家とシャッハとの修練で身に付けたものだ』
「ああ、何度か死にかけていたな」
「死にかけてた!?」
「其れであの強さか!?」
「シグナム……何で止めないの!?」
『あれは私やシグナムでは止められんさ』
「そうだな……」
シグナムと千冬は静かに目を閉じる。
『だから……アインハルト』
「は、はい?」
「お前も、素直になるのは早いほうがいいぞ、男なんて、ちょっと綺麗で優しくしてくれる女の方に、ついて行ってしまうからな、少しくらいは気持ちを向けたほうが男は振り向いてくれるものだ…生憎…ウチのは記憶があっても奥手な物でな」
『いっその事…押し倒してしまったらどうだ?』
「ふぇ?! あ……うぅ……」
そこで突然のシグナムと千冬からの強烈なパス。
アインハルトは妙な声を上げながらも、顔を赤くしながら湯船に沈んでしまいそうになる。
「わぁ……アインハルトさん顔真っ赤……♪」
「意中の彼は一体誰なのかな~」
「あぁ~、なんでこうも恋する女の子は可愛んだろう……ムギューってしたくなるよぉ~」
「す、スバルさん? ちょっと目が怖いです………」
コロナが、アインハルトの乙女化に良いものを見たという表情に。
その裏では、ルーテシアが『意中の彼』が誰か分かっているにも拘わらず、わざとらしい口調でニヤニヤしていた。
スバルはスバルで、可愛らしいアインハルトにハートキャッチされてしまったようで、目をハートにしてしまい、傍にいたリオがドン引きしていた。
「あ、あにょ!! わたしはその……!!」
噛みながらも、必死で弁明しようとするアインハルト。
しかし、そんな彼女に止めの一撃が……思いがけない方向、崇宏達が入っている男風呂から飛んできた。
「まあ、アインハルトは凄く可愛いと思うけどな!」
「結局、そうなんのかよ、俺はヴィヴィオの方が可愛いと思うんだな!」
「「…………(ボフンッ!!)」」
「「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」
ちょうど良い頃合いで崇宏とアクセルの褒め言葉が炸裂する。
数秒遅れて、アインハルトとヴィヴィオは頭から湯気を出しながら、真っ赤な顔が更に赤くなった。
そんな彼女達を、女性陣はポカーンとしながら見ていたわけで……
「「キュゥ……」」
バッシャーーーーーン!
「「「「「「「「「「あ、アインハルト、ヴィヴィオ!!?」」」」」」」」」」
あまりの恥ずかしさから、アインハルトとヴィヴィオはその場で気絶。
彼女達は湯船に派手な音を立てながら倒れ込み、意識を失ってしまった…………
で。
「キュゥ……」
「あの………何故、俺はヴィヴィオをおんぶしているんでしょうか………?」
お風呂から上がり、着替えを済ませた男女全員がお風呂場の前で集合したところで、突然アクセルは、ぐったりとしたヴィヴィオをおんぶさせられた。
崇宏はアインハルトをお姫様抱っこしている。
頭の上にはてなマークを浮かべながら、ティアナたちに説明をお願いしてみると、女性陣からはそれぞれ……
「決まってるでしょ、あんたのせいでヴィヴィオがぶっ倒れたからよ、責任とって、ベッドまで運んでやんなさい」
「確かに、アレはアクセルが悪い……」
「弁護の余地なしです」
「その一言でヴィヴィオの意識を奪ってしまう……まさにジゴロね、将来悪い男になること間違いなしだわ……アクセル、恐ろしい子!!」
「責任は取らねぇとな」
「「責任責任~~♪」」
「あはは………アクセル君……これは仕方ないよ…」
「……アクセル諦めろ……」
『崇宏の口車に乗った、お前が悪い』
上から、ティアナ、リオ、コロナ、ルーテシア、ノーヴェ、スバル&セイン、キャロ、シグナムと千冬。
若干攻めるようなお言葉と、生暖かい視線を頂いてしまったアクセル。
まぁ、スバルとセインに限って言えば、一緒になって「責任責任~♪」と歌っているだけなので、そこまでの威圧感はないのだが。
「崇宏…エリオさん……」
堪らず、後ろの崇宏とエリオに助けを求める。
やはり、こういう場合は同じ性別の力を借りるのが一番。
「お前のヴィヴィオ好き好き発言が筒抜けだっただけだろ?」
崇宏はアクセルにトドメをさした。
「アクセル君………人間、時には諦めも肝心なんだ……これはいい機会なんだよ」
エリオは遠い目をしていた。
「こ、孤立無援かよ……うぅ…」
結果的に全然役にたたなかった。
四面楚歌とはまさにこのこと。
「ほら、さっさと連れてけ、ヴィヴィオが湯冷めしちまうだろ…アクセル………襲うなよ…やるならお互いの同意のうえでな」
それだけ言い残して崇宏はアインハルトを運んで行った。
「崇宏…覚えてろよ」
孤立無援となってしまったアクセルに、選択の余地など無い。背中に感じるヴィヴィオの柔らかさと暖かさ。
加えて、お風呂上りなこともあって、彼女からは女の子独特のいい匂いと、仄かにシャンプーの匂いがした。
それがまた、アクセルの脳を痺れさせる。
(駄目だダメだだめだ!!! 気を失ってる女の子に対して、不埒な妄想をするなんて男として教会騎士(見習い)として最低だ!! ……兎に角気を逸らすんだ………羊の数を数えて……あれ? 違ったかな……? こういう場合、何を数えればいいんだったっけ……??)」
そんな感じで、ヴィヴィオに対して邪な感情を必死に殺し、押さえ込みながら、彼女をおぶって廊下をゆっくりと歩いて行くアクセル。
崇宏やシャンテが見たら大爆笑間違いなしだ。
「さてと………私も主の所に帰るとするか」
「ですね、洗面用具とかも置いてこなきゃダメですし」
「あとで広間に集合ってことでいいよね?」
アクセルとヴィヴィオの姿を見送ったシグナムやなのは達も、いつまでもそこにつっ立っている訳にはいかない。
シグナムはミッドに帰る。
そして、ティアナの言うとおり、手に持った洗面用具を片付ける必要もある。
一度解散して、スバルの言うように、もう一度広間に集まろうと言うことになった。
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