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第十七話 温泉 男組
さてさて、約30分後、夕食前に一行は予定通り露天風呂で一息付くことにした。
それぞれ、洗面用具や着替えなどを持って、お風呂場の男女別更衣室の前に集まり、各々が温泉に対する期待に胸を膨らませていた。

そこで、やはりというか、予想通りというか……一悶着が起きてしまうわけで……

「崇宏、一緒に入ろ♪」
「ふ、フェイトさん……!」


そう、フェイトによる、崇宏の女風呂へ強奪作戦だ。
何故か崇宏はフェイトに物凄く気に入られたらしく夕食中も何故か恋人の様にベタベタされていた。
そのフェイトとしては、やはりお気に入りである崇宏と、洗いっこなどをしたいという保護者属性?全開な思いでの誘いなのだが、崇宏的には、そういうお誘いは素直に受け入れることは出来ない。

「崇宏……羨ましいぜ」
「アクセル、お姉さんが手取り足取り、体の隅々まで洗ってあげるわよ?」
「勘弁してくれーーーーー!!!」
「アクセルはやっぱり、ルーさんのこと苦手なんだね……」

アクセルが羨ましがるが、ルーテシアの一言で撃沈。
嫌っているわけではないのだが、過去の……トラウマが体を勝手に動かしてしまうのだろう。

「だ、大体!! 十歳になって、女風呂に入るとかあり得ないし!!」
「うっ!(ザクッ!!)」
「え、エリオ……ドンマイ……」

崇宏の必死な言い分が、エリオのHPを直撃した。
エリオに、スバルがドンマイと声をかけるが、立ち直る気配はない。
恐らく、六課時代の地球での出張任務でのことを思い出したのだろう。
あの時、彼は10歳だった。

「大丈夫だよ、崇宏♪ エリオ君は10歳の時に女風呂に入ってたから♪」
「ぐはっ!!?(ザクザシュッ!!)」

「キャロ!! もうやめてあげて!」

止めのキャロの一言に、エリオは完全に撃沈されてしまう。

「ね? 崇宏、一緒に入ろ?」
「~~~~~~っ!! アクセル……何とかしろ」

崇宏に助けを求められたアクセルは、少し頭を捻り逡巡する。

「崇宏………女風呂ってのはな……大人になると、自然に入れなくなってしまう、男にとっては桃源郷なんだ、それも、向こうから誘ってもらえるなんて、それはもう光栄なこと、加えて据え膳にも等しいイベントだ」
「野郎……こうなったら」

崇宏は最後の砦に通信する。

《なんだ、崇宏》
「母さん、助けて!フェイトさん達が俺を女湯に入れようと」

ジャキ

「ん?ジャキ?…………ってうァァァァァァァ!?」
「何を驚いてる……崇宏?」
「何で此処に?」
「お前がテスタロッサの毒牙に掛かってないか心配でな………テスタロッサ…たまには私と風呂で少しお話をしようじゃないか」
「え?」

そんな感じで、風呂にはいる一歩手前でゴタゴタしてしまったが、一行は男女に分かれて脱衣所、お風呂に入る事になった。






満天の星空の下、高温のお湯から生まれた、薄く広がったモヤ。
岩造りになっている湯船は、手作りとは思えないほどの壮厳さを演出しており、高級旅館のそれを見ているかのような錯覚を利用者にもたらしてしまうほどだ。
お湯の加減も申し分のない、入れば一気に疲れが飛んでしまうような幸福感と爽快感、癒しのオーラというものを一度に感じることが出来る。

「ふへ~……生き返る……」
「今日はかなり動いたからね~」
「いい湯加減ですね……気持ちいい…」

男風呂に入った、男性陣。
アクセル、エリオ、崇宏の三人は、お湯加減や温泉独特の開放感などに思わず気の抜けた声を出してしまう。
こういう場合、実年齢関係なく、何故か年寄りのような事を口走ってしまうのは何故なのか。
まぁ、それはともかくとして。
三人は露天風呂に大いに満足していた。

と、その時……

バッシャーーーーーン!!!!


「今……誰か空に向かって吹っ飛んで行かなかった?」
「アクセル……今のって………」
「あぁ、セインでしたね………大方、女湯のメンバーにセクハラ紛いの事してぶっ飛ばされたんだろ……馬鹿な奴だ…今日はシグナムさんがいたのにな……」


突然、女風呂の方から大きな音がしたと思ったら、空に向かって水着姿の女の子らしき影が星になる勢いで飛んでいってしまった。
崇宏が驚いている中、エリオとアクセルはそんなことをする人物と、チラッと見えたシルエットに見覚えがあった。
元ナンバーズで、今は聖王教会のシスター見習いをしているはずのセインだ。

「お…おい…知り合いなら、助けに行ったりは……?」
「大丈夫、大丈夫、ちょっとやそっと事じゃ、ビクともしない奴だし、それに、妙なことをするアイツが悪い」
「あはは、アクセルにも一里あるね」

と、そんな風にアウトロー過ぎる露天風呂の楽しみ方をしていると、女風呂の方向から、なにやら声が飛んできた。

「崇宏、アクセルが覗いたら斬っちゃって!!」
「あいよ~」
「ぶへ!?」


恐らく、リオからだろう。
本当に、悪い意味で信頼されまくっているようで、アクセルは若干涙目になった。
だがしかし、アクセルとて『まだ』何もしていない。
いや、何かするつもりはないのだろうが。
ともかく、少しカチンと来たアクセルは、そのリオの警告に対してしっかりと抗議しておく。


「言われなくても覗いたりしねえよ!!! ていうか、俺が覗くのは大人の女性のお風呂シーンだけだ!! せめて、フェイトさんやシグナムさん、並みのおっぱいに成長してから出直してきやがれ!!」

が、それがいけなかった。

スカーン!!!

「ぐあっ!!?」

まぁ、そんな返事をするもんだから、崇宏が桶で一閃。
鋭いスピードで桶が見事にアクセルの頭にクリティカルヒットした。
彼は、そのまま湯船に浮かんで『プクプク』と泡を吹いたまま動かなくなった。

「今のはアクセルが悪い……」
「ですよねー」

湯船に浮かぶ死体(仮)を見て、エリオと崇宏は口を揃えてそう言った。

「崇宏……どうかしたのか?」
「いや、母さん達の風呂を覗く宣言をした悪漢
ばか
を桶の錆にしただけだよ~」
「そうか、程々にな」
「あいよ」

シグナムと会話をし暫くすると


「痛ぅ…お前………手加減してくれよ」
「するか……馬鹿……人の保護者の風呂を覗くなんてよく本人の前で宣言出来るな」

アクセルが黄泉路から帰還した。

「あ、そうだ、崇宏、お前に聞きたかったことがあるんだけどさ」

「スルーされた!? お前はフリーダム過ぎるだろ!」

自由過ぎるアクセルに、取り敢えず八神の姓を持つものとして突っ込まずにはいられなかった。
崇宏は、とりあえずアクセルの聞きたいことという質問がなんなのかを聞いてみる。

「お前、アインハルトの事好きなのか?」

「……………………は?」

その質問の内容を聞いた数秒後、崇宏は真顔で首を傾げた。

「なんでそんな話になるんだ?」

「いやぁ、なんだか今日一日見てて、お前らの間にただならぬ熱い何かを感じたわけよ……ほらなんて言うの……?」
「……そんなもんかね?…てか、アクセルはヴィヴィオだろう」
「……………………(ボフンッ!!)」

崇宏が聞いた数秒後、アクセルはのぼせるのとは別の形で顔どころか、全身が真っ赤になってしまった。
見れば、湯気が出る勢いで顔は真っ赤、視線はあたふたと、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
それに加えて、手をぶんぶん振り回して、傍から見れば面白い踊りを踊っているようにも見えなくもない。

「おお、懐かしのキタキタ踊り」
「なななな、なんでそんな話になるんだよ…?!」

(ヒソヒソ…)

「何かヴィヴィオとコロナを見てる、お前を見ると、好きな女の子に告白する男子を見ているときの気持ちになるんだよね~?」
「なんだよそれ」

声のトーンを落として話しているため、女風呂には恐らく聞こえてはいないだろうが、アクセルとしては内心ヒヤヒヤモノだ。


「ま、兎に角だ、お前のヴィヴィオとコロナに対する………気持ちの向かい方って言うか、接し方って言うか、そう言うのが、他の女の子たちとは違ってるように見えたんだよ」
「そ、そう……見えたか…?」

崇宏が自分の思ったままをアクセルに話すと、彼は顔を赤くしたまま恥ずかしそうに聞き返してきた。
「う~ん……僕も崇宏と同意見かな、なんだか、意識してるように見えるし」
「あぅ……」

エリオからも、崇宏と同様の意見を貰うことになり、アクセルはますます赤くなってしまう。
既に、お湯でのぼせたという言い訳も通用しない。
恋バナによって彼の心の中は一杯である。

「崇宏はどうなんだよ?」
「何が?」
「アインハルトの事だよ」
「好き……だとは思うんだけどな………」
「ああ」
「でも、それが友達としての好きなのか、女の子として好きなのか………それが分かんなくてな~」
「そう言う物か?」
「まあ、男女の間に友情は生まれないって言葉が本当なら、俺の気持ちは友情としての好きじゃなくて、異性を意識しての好きになるんだけどな………実際はそうそう単純な話でもないもんだぜ」
「僕達も日常的に、なのはさんやフェイトさん、スバルさん達と仲良くさせてもらってるわけだし……」
「確かに俺もノーヴェさんとか、セインとか、リオとか仲いいと思ってるし、友達だと思う」


崇宏からの大人の意見に、エリオとアクセルは自分達を当て嵌めてそう言い加えていく、二人とも、エリオならキャロ、アクセルならヴィヴィオの名前が出てこなかったところを見ると、つまりはそういう事なのだろう。

「LikeなのかLoveなのかの区別って………一体どうやって付ければいいんだろうな………?」

そう、詰まるところ、崇宏が悩んでいるのは、彼自身が言ったように、そういう事だ……本人は最早……歳の事など気にして無かった。

「まあ、まだ若いんだしゆっくりと答えを出せば良いさ」
「「………………」」
「どうした、エリオさん、アクセル?」

「ううん」
(今、一瞬だけ)

「何でもねえよ」
(彼奴が大人に見えた………てか、そうだったな)


「まあ、アインハルトは凄く可愛いと思うけどな!」
「結局、そうなんのかよ、俺はヴィヴィオの方が可愛いと思うんだな!」
「あはは」

こうして男性陣は他愛ない話をしながら温泉を満喫した。


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