第十三話 少しだけ、一緒に歩けたら
船での長旅を経て、約四時間。
崇宏達一行は、オフトレ拠点となっている無人世界カルナージに到着した。
無人世界カルナージは、首都クラナガンから臨行次元船で約4時間。
標準時差は7時間。
一年を通して温暖な、大自然の恵み豊かな世界である。
「「みんな、いらっしゃ~い♪」」
「「こんにちわー、お世話になりまーす♪」」
カルナージの住人にして、なのはやヴィヴィオ達にとっては友人でもある、ルーテシア・アルピーノと、その母であるメガーヌが明るい笑顔と共に、崇宏たち一行を迎えてくれた。
親子ということもあるのだが、ルーテシアとメガーヌは容姿が非常によく似ている。
バイオレットの長い髪と柔らかい物腰が大きなポイントだ。
「みんなで来てくれて嬉しいわ~♪ 食事もいっぱい用意したから、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!」
なのはやフェイト、スバル達はメガーヌとそんなやり取りをしながら、久しぶりの再会を喜び合う。
そして、ちびっ子たちの方でも、同じような光景が見られた。
「ルーちゃん!」
「ルールー、久しぶり~!」
「うん、ヴィヴィオ、コロナ♪」
既知の間柄であるヴィヴィオとコロナ、ルーテシアもまたこれが久しぶりの再会だ。
モニター越しの会話ならよくしているが、やはり直接あって話すのとはわけが違う。
「リオは直接会うの初めてだね」
「今までモニターだったもんね」
「うん、モニターで見るより可愛い」
「ほんとー?」
そして、今まではずっとモニター越しでしか会ったことがないリオとルーテシアは、今日が正式な初顔合わせということになった。
モニター越しでの会話があったので、初めましてという訳ではないが、少し妙な感じでもある。
「でもって………アクセル、はっと………」
ササッ!
「おい………」
そして、今度はルーテシアがアクセルの姿を探すのだが、その瞬間、アクセルは崇宏の背中に隠れてしまった。
「ほ~ら、アクセル~♪ こっちおいで~、 また可愛い服の着せ替えにんg……モデルになって欲しいなぁ~」
「うわーーーーーッ!!!」
アクセルは逃亡した。
『ほう……』
「何を面白がってんの?、てか、あの人、着せ替え人形って言いかけてなかった? ………アクセルが何をされたのか、少し予想できた………」
「可愛いと思っていろいろ考えたんだけどねぇ~……お気に召さなかったみたい」
千冬は新しい玩具を見付けて、崇宏はそんなアクセルに同情の視線を送っていた。
主犯のルーテシアは、特に気にした様子も無いようで、あっけらかんとそう言った。
「あ、ルールー、このお二人が、メールでも話した……」
「アインハルト・ストラトスです」
「八神 崇宏です」
そして、漸くというかなんというか、ずいぶん遠回りになってしまったが、ヴィヴィオがアインハルトと崇宏をルーテシアに紹介してくれた。
二人は、お辞儀をしながら自分の名前を名乗り、簡単な自己紹介とした。
「ルーテシア・アルピーノです。ここの住人で、ヴィヴィオの友達、14歳」
「ルーちゃん、歴史とか詳しいんですよ?」
「えっへん!」
崇宏たちの自己紹介に、ルーテシアも同様に答える。
歳で数えれば、ルーテシアは崇宏よりも四才年上のお姉さんということになるのだが、コロナに煽てられて意気揚々と胸を張っているあたり、陽気な性格なのかお調子者なのかの判断が難しいところだ。
「あれ? エリオとキャロはまだでしたか?」
「あぁ、二人は今ねぇ…」
と、スバルが現地合流する予定となっている、エリオとキャロの姿を探しながらキョロキョロしていると、メガーヌがおっとりとした声で教えてくれようとしたのだが……
「「おつかれさまでーすっ!」」
噂をすれば影。
エリオとキャロが、薪を抱えてやって来た。
キャロが使役する飛竜、フリード・リヒも一緒だ。
「わーお!エリオまた背伸びてる!」
「そ、そうですか?」
「わたしもちょっと伸びましたよ!?…………1.5センチくらい……」
エリオの成長を喜び、スバルが彼の肩をバシバシ叩くと、キャロも自身の成長をアピールするが、パッと見では全く分からないほどの変化である。
「アインハルト、崇宏、紹介するね、ふたりとも、私たちの家族で……」
「エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエと、飛龍のフリードです」
家族間の温かい再会もそこそこに、フェイトがアインハルトと崇宏にエリオとキャロのことを紹介しようとすると、二人の方から自己紹介をしてきてくれた。
キャロは自身の頭に乗っかっているフリードのこともしっかりと紹介してくれた。
「一人ちびっ子がいるけど、三人で同い年」
「なんですと!!? 1.5センチも伸びたのに!!」
そこで、ルーテシアがキャロの身長ネタをからかうと、キャロは若干涙目になりながら小さい体を全力で使った抗議を行うが、やはり如何せん体が小さいので迫力というものに欠ける。
エリオも、二人のやりとりを見て苦笑するばかりだ。
「アインハルト・ストラトスです」
「八神 崇宏です、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ、どうぞよろしく」
「よろしくね、アインハルト、崇宏くん」
そして、アインハルトと崇宏も、エリオとキャロに自己紹介を済ませる。
年上ということで、二人にとってはお姉さんとお兄さんだ。
と、緩やかな空気の中会話を進めていた時。
林の中から『ガサッ』っと何かが動く音が聞こえた。
「!」
いち早くその物音に気がついたアインハルトが、音の発生源の方向に視線を向けると、そこには人形の……しかし異形の何かが立っていた…………背中に食材を満載した荷物を背負いながら………。
「!?」
その何かの姿を認めた瞬間、アインハルトはすぐさま戦闘態勢に入る。
無人世界ということで、野生の原生生物か何かだと思ったのだろう。
しかし、アインハルトがそうするのと同時に、傍にいた崇宏が動いた。
「崇宏さん……?」
「大丈夫、危ない感じはしないから」
戦闘態勢に入ったアインハルトを制するように、彼女の前に手をやりながらそういう崇宏。
見れば、謎の原生生物? は襲いかかって来る様子もない。
「あ、そっか! アインハルトさんはガリューのこと知らないんだった!」
「え? が、がりゅー?」
アインハルトの様子を見て、ヴィヴィオが思い出したようにそう言う。
アインハルトたちには、ヴィヴィオに代わってルーテシアがガリューを紹介してくれる。
「わたしの召喚獣で、大事な家族、ガリューって言うの、まぁ、初めてだとびっくりするのも無理ないから」
「し、失礼しました!!」
「あはは……わたしも最初はビックリしました~…」
ルーテシアがそう言うと同時に、ガリューは彼なりの礼儀なのだろうが、執事の取るようなポーズで礼をしてきてくれた。
話を理解したアインハルトは、すぐにルーテシア達に謝ったが、コロナが言うように最初は誰でも驚くということなので、ルーテシア達もそんなに気にはしていないようだ。
「でも、崇宏はどうしてガリューが危なくないって分かったの? 見たことはないのよね?」
「敵意を感じなかったし……大丈夫かなと……それに」
「それに?」
「野生の原生生物が食材満載の籠をしょってないでしょ、普通に考えて」
「確かに……」
ルーテシアに尋ねられ、崇宏は思ったままに答える。
いつも、シグナムの模擬戦で冷静な対応と洞察眼、気配の感じ取りなどを教わった結果である。
(へぇ……流石はシグナム………気配の感じ取りに優れてるってわけなの? ………シグナムも模擬戦をしてて楽しいって言ってたな)
フェイトは表情には出さないが、そんな事を思っていた。
(凄い、あの冷静な観察眼……そういえばシグナムさんは射撃型との戦闘の荒い部分だけって言ってたな、教導……したいな)
なのはも又、そう思っていた。
「さて、お昼前に大人の皆はトレーニングでしょ? 子供たちはどこに遊びに行く?」
「やっぱり、最初は川遊びかなと、お嬢も来るだろ?」
「うん!」
と、メガーヌが午前中のみんなの予定を確認する。
遊び場所を尋ねられたノーヴェは、ルーテシアも誘い、川遊びを提案した。
「アインハルトと崇宏もこっち来いな」
「はい―――」
「はい………って、川遊び!?」
アインハルトと崇宏にも声をかけるノーヴェ。
アインハルトは戸惑いながらも彼女に付いて行くようだが、崇宏は若干のノリツッコミの形で川遊びという単語に反応した…………流石は八神家の一員だ。
「えっと……大人はトレーニングなんじゃ………」
「お前もバッチリ子供だろ、ヴィヴィオ達と同い年なんだし」
「あ、それは………千冬はどうする?」
『良いじゃないか、たまには羽を伸ばせ』
どうやら、崇宏も川遊びに行くしかないようだ、退路が完全に絶たれてしまった。
『それにこれだけの綺麗どころだ……水着姿見ながら目の保養でもしたらどうだ?』
「「「「めめめ、目の保養って………/////」」」」
『それにシグナムが言ってたぞ、川遊びだって立派な訓練になると………騙されたと思って、はしゃいで来てみろ』
「母さんが……コレは早く行かねばならないな」
千冬にそう言われ、崇宏は急にやる気をだし、アインハルト達は真っ赤になる。
こうして一行は午前中のスケジュールを開始することになった。
オフトレ最初のイベント。
崇宏はいつも通り、訓練というと文字通り厳しいものを予想していたのだが、それはカルナージに到着した後、数分で崩れ去った。
まさか、トレーニングとして『川遊び』が来るなどとは、夢にも思っていなかった。
「川遊び……か……」
「どうした? 崇宏、もしかして泳げなかったりするのか?」
「あぁ、いや……そんなことはないんだけど、トレーニングって聞いてたから、まさか川原で遊ぶなんて夢にも思ってなくてな……」
半ズボンタイプの、一般的な水着を着た崇宏と、アクセルは一足先に川原でボケーッとしていた。
そんな中、崇宏の呟きを聞いたアクセルがそう尋ねてきたが、崇宏はすぐに言い直した。
『たまには良いだろう、お前は根を詰めすぎる』
「そりゃまぁ、たしかにね」
崇宏の首に掛かったままの、千冬からもそう言われ、一応の同意は見せてみるが、崇宏の気持ちはどちらかというと大人組の方に混ざってみたいというのが本音だった。
「アクセルくーん!!! 崇宏くーん!!!」
と、川の流れを眺めながらアクセルと崇宏がボヘーっとしていると、漸く着替えが終わったのか女性陣が川原にやって来た。
ヴィヴィオが元気にアクセルと崇宏の名前を呼びながらこちらに走ってきており、コロナやリオ、ルーテシアもそれに続いている。
ノーヴェとアインハルトは、彼女たちの後ろをゆっくりと付いてきていた。
「お待たせ~」
「アクセル~♪ ほらほら、私の水着姿どう?」
「うわーーーーーーッ!!!!」
「あれま」
リオとルーテシアがそう言いながらこちらにやって来ると、アクセルは相変わらずルーテシアに対してトラウマで、崇宏の後ろに隠れた。
まぁ、相変わらずルーテシアは気にしていないようだが。
「あ、アクセルくん……私の……水着……どうかな?」
「…………ま、まぁいいんじゃないの…露出も少ないし……」
「すげぇ変わり様!」
「うるさい!!」
が、反面コロナの水着姿を見るや、誉める。
崇宏にその態度の変わり様を突っ込まれ、顔を真赤にしながら反論する。
「あ、あの、 崇宏くん……私のは……どうかな?」
そして、次に水着の感想を尋ねてきたのはヴィヴィオ。
それも、相手は崇宏だ。
ヴィヴィオによく似合った可愛らしいデザインの水着であり、ハッキリ言ってダメな所を探す方が難しい。
「うん、ヴィヴィオの明るい感じによく合ってる水着だと思うよ、それに、とっても可愛い」
「あは…♪ あ、ありがとう/////」
崇宏は、照れることも物怖じすることもなく、ヴィヴィオの頭を撫でながら、スラスラと水着の感想を述べて見せる。
まぁ、元々が二十歳なので、ヴィヴィオ達年下の女の子に対しては照れる必要がないのだ。
「お、お待たせしました……////」
『ほう……』
崇宏に、少し遠慮気味に声をかけてきたのは、黒色の水着に着替え、恥ずかしいのか、パーカーを羽織ったアインハルトの姿だった。
いつもと違うところは、水着だということだけではない。
碧銀の綺麗な髪も、今日は少し結い方が違っており、彼女にいつもとは違った魅力を作り出す。
「あの、変じゃ……ないですか?」
「いやいやいやいや!! 全然変じゃないし!! めちゃめちゃ似合ってるから! 可愛いから!! ほんとゴメンナサイ、在り来りな感想しか思いつかなくて!!」
『崇宏……何を動揺している?』
「そ、そこまで力説されると……ちょっと恥ずかしいです……////////」
アインハルトは恥じらいながら、崇宏は何故かテンションが暴走しそうになりながら、微笑ましいやり取りをして千冬から、突っ込まれ、お互いに気まずそうな、それでいてなんとも言えないムズ痒い空気を作り出した。
「………」
「た、崇宏さん? どうかしたんですか…? どこか落ち着きがないようですけど……」
「あ、うぇ!? ななな、なんでもない!!?」
しばらく向い合っていた崇宏とアインハルトだったが、今日は崇宏の方がやたらとソワソワしている。
それもそのはず、水着×パーカーということで、アインハルトの上半身はあまり露出度が高くはないのだが、綺麗な生足が、崇宏の視界にダイレクトアタックをかましてくる。
水着とパーカーが微妙に重なった先から見える、綺麗な肌色。
(駄目ダメだめーーーーーーー!!!! アインハルトをそんないやらしい目で見るなんて!!! 俺はロリじゃない!!! 絶対ちがーう! 煩悩退散!! 失せろ煩悩ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!)
ガスッ!! ガスッ!! ガスッ!!
「た、崇宏さん!!? 木に頭を打ちつけてなにしてるんですか?! どこか具合でも…」
「いやいやいや、全然だけど!!? もうこれでもかってくらい、元気で冷静沈着ですけど!!!? うん、ちょっと新技の開発をね!!」
「「「「崇宏【くん】が壊れた!!?」」」」
若干危ない感じの人になってしまった崇宏は、いきなり近くにあった木に頭をぶつけ始める。
アインハルトが慌ててそれを止めようとするが、彼は支離滅裂な事を言いながら止めようとしない。
ヴィヴィオ達は崇宏が壊れたと思ってしまっても無理は無いだろう。
『少しは落ち着け、この馬鹿者が!!』
スパァァン!!
「ヘブッ!!?」
そんな崇宏を、すらりと伸びた長身で黒の水着姿の狼を思わせる鋭い吊り目の女性がどこから取り出したのかよく分からない出席簿で叩き止めた。
『木が折れるだろう、馬鹿者』
「はっ? 千冬…何で人型に『なれないとは言っていない』………ええ!?」
『いちいち、煩い奴だ……少しは落ち着け』
結果的に、崇宏は木をへし折らん勢いだった頭突きを止めることができた。
『はぁ~……アクセルみたいな変態も問題だけど、崇宏みたいな純情派もある意味問題だらけね………』
「楯無…どう言う意味だってばよ!」
「だ、大丈夫ですか崇宏さん? あ…おでこが赤くなってます………」
先程までのことが頭から吹っ飛んだのか、崇宏は今まで自分が何をしていたのか覚えていないようだ。
アインハルトは彼に怪我がないかチェックし、ノーヴェはやれやれといった風に肩を竦めた。
『というか、ヴィヴィオ達の時と、アインハルトさんの時で反応に差がありすぎるような……』
「確かに……」
『単に歳上好きなだけだろう…同世代ならともかく、年下相手にはそういう感情は持てないのだろう』
楯無、アクセル、千冬がそう言いながら、アインハルトに介抱されている崇宏に苦笑いを含んだ視線を送っている中、ヴィヴィオは少し複雑な気持ちだった。
(なんでかな…? ものすごく羨ましいな……)
気を取り直して、一行は川遊びを開始した。
川遊びと言っても、出来ることはそれなりにあって、普通に泳ぐもよし、ボールを持ち出して遊ぶもよし、競争するのもありだ。
だが、水の抵抗力というのは、思った以上に負荷がかかる。プールなどの流れのない場合でも、水中での運動というものは、陸上のそれとはまた違ったものになる。
「それ!! 崇宏くん!!」
「オーライ……っと、コロナ!!」
「はい! ルーちゃん!!」
「お任せ~♪ アクセル~!」
「シャーーーーーーッ!!」
たかがボール遊びといえども、やはり水中と陸上ではワケが違う。
ヴィヴィオからトスされたボールが、順々に宙を舞いながらそれぞれの手を渡っていく。
ただこれだけのことなのだが、崇宏達の運動量、筋肉に対して掛かる負荷というものはいつもとは全く毛色が違う。
「行きますよ! アインハルトさん!!」
「どうぞ!!」
ポスン!!
リオからアインハルト、そしてノーヴェにボールが繋がれる。ヴィヴィオ達の動きは、崇宏とアインハルトの二人から見ても、明らかに元気そのものだった。
泳ぎにしても、かなり泳ぎ慣れているというか、元気が良すぎるようにすら感じられた。
(皆さん、ちょっと元気すぎるような……?)
あまり川遊びなどしたことのなかったアインハルトは、ヴィヴィオ達の運動量に驚きながらも、必死でボールに食らいついた。
で、その結果………
「ヴィヴィオ達……すごいな……」
「はい……私も……体力には少し自信があったのですが……はぁ、はぁ……」
「いや、大したもんだと思うぜ二人とも……てか、崇宏は平気そうだな」
「ほら、うちはヴィータさんと母さんが元気ですから」
「成る程………」
アインハルトはヴィヴィオ達よりも一足早く岸に上がり、荒い息を落ち着けなければならない状態になってしまっていた。
崇宏はアインハルトが心配で一緒にあがっただけだが……。
だが、ノーヴェの言うとおり、アインハルトに体力がないというわけでは決して無い。
「あたしも救助隊の訓練で知ったんだけど、水中で瞬発力出すのはまた違った力の運用が要るんだよな」
「じゃあ、ヴィヴィオさんたちは……」
「なんだかんだで週2くらいか? プールで遊びながらトレーニングしてっからな、柔らかくて持久力のある筋肉が自然に出来てんだ」
「なるほど……だからあんな運動量こなしてるのに元気一杯なわけなんですか…」
「お前も慣れてんな」
「うちはヴィータさんがプール大好きですから」
ノーヴェの話に、アインハルトと崇宏は納得したように頷きながら、未だに元気にボールで遊んでいるヴィヴィオたちの方を見る。
アクセルも、息一つ切らしていない。
「どーだい、ちょっと面白い経験だろ? 何か役に立つことがありゃさらにいい」
「はい…」
「まさか…ヴィータさんとの遊びにこんな秘密が……」
水中での瞬発力、力の運用、筋肉の質の違い。
これだけでも、かなり有益な知識だ。
プールでの遊びを薦めてきたヴィータも、こういったことは織り込み済みだったのだろう。
「んじゃ、折角だから面白いもんを見せてやろう、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、アクセル!!」
そう言って立ち上がったノーヴェは、ボール遊びをしている四人の名前を呼ぶ。
面白いものとはなんなのか、少し気になったが、どうもヴィヴィオ達が何かしてくれるようだ。
「ちょっと『水斬り』やって見せてくれよ!」
「「「「は~いっ!!!!」」」」
「水斬り??」
「水……斬り…何ていい響きだ……」
「水斬り」という聞きなれない単語に、首を傾げるアインハルトと何故か感動している崇宏。
ノーヴェは、二人に『水斬り』の簡単な概要と目的を説明してやる。
「ちょっとしたお遊びさ、おまけで打撃のチェックも出来るんだけどな」
ノーヴェがそう説明する間、まず最初に水斬りをやって見せてくれたのはコロナだ。
ゆったりとしたモーションから、なめらかに上体を捻り……
「えい!!」
シュパァッ!!
コロナが拳を放つと、川の水面が飛沫と共に少し割れたではないか。
シュザァァァァ!!
コロナに続いて、リオも拳を放つと、走るように川の水面が飛沫を上げつつ割れて行った。
コロナに比べると、格段に威力の高さがあることが分かるが、こればかりは個人の適正だろう。
「いきますっ!!」
ズシャアァァァァァァァァ!!!
ヴィヴィオの水斬りも見事なもので、その勢いたるやリオのそれをも上回っているようにも見えた。
彼女の拳を放つモーションは、見ているだけでも滑らかで綺麗なものだった。
「シャッ!」
ドシャアァァァァァァァ!!!!
が、アクセルの水斬りはそれよりもさらに凄まじかった。
というか、川の向こう岸に届かんばかりの勢いで、彼の恐ろしさを証明してくれる。
「………すごい……」
「ですね……」
崇宏とアインハルトも、四人の水斬りを見て、素直にそう感想を口にした。
傍目から見ても、ただ馬鹿正直に拳を放ったわけではないことが分かる。
恐らく、先程のノーヴェが言っていた、『水中での力の運用』というものが関係しているのだろう。
「アインハルトも格闘技強いんでしょ? 試しにやってみる?」
「はい」
ヴィヴィオ達の水斬りを見て、ルーテシアがアインハルトにもやってみないかと薦めてくる。
まぁ、彼女としてもやらないわけはなかったので、すぐにタオルを置いて川に入って行く。
アインハルトが水斬りをするということで、ヴィヴィオ達四人はワクワクという顔で注目して、崇宏も座った状態から立ち上がって、アインハルトの動きの観察に集中していた。
(水中じゃ大きな踏み込みは使えない……)
川の水に体を慣らしながら、普通の状態で放つ拳との違いを見付け出していくアインハルト。
川の水を割るなど、これまでやったこともないので上手く行くかは分からないが、先程のヴィヴィオ達の実演から大方のやり方は理解できているつもりだ。
(抵抗の少ない回転の力で………できるだけ柔らかく……!)
ドッパアァァァァァァ!!!
アインハルトが拳を川面に向かって放つと、大きな音を立てながら水の柱が立ち上った。
上空に打ち上げられた水が、重力に従って振り落ちてくる。
少し、ヴィヴィオ達がやっていたのとは違っていたようだ。
「あはは……すごい、天然シャワー!」
「水柱、五メートルくらい上がりましたよ!」
「……あれ?」
降り注ぐ天然シャワーの中、大はしゃぎのリオとヴィヴィオ達。が、アインハルトは自分の水斬りと、ヴィヴィオ達のそれとの違いに首を傾げてしまっていた。
まぁ、初めてで五メートルもの水柱を発生させられたのは、彼女の力の一端なのだろうが、少しやり方を間違ったのだ。
「お前のはちょいと初速が速すぎるんだな」
それを見たノーヴェが、アインハルトにアドバイスするべく同じく川に入って行く。
ヴィヴィオたちとアインハルトとの水斬りの違いを、彼女は一目で理解していたというわけだ。
「はじめはゆるっと脱力して、途中はゆっくり………インパクトに向けて鋭く加速、これを素早くパワー入れてやると……」
シュパアァァァァ!!!
「こうなる」
ノーヴェの足技から放たれた水斬りは、見事に川を真っ二つに割り、川底がその姿を見せてくれた。
流石というべきか、ノーヴェの水斬りは精度もさる事ながら、技を放った彼女には余裕が見て取れた。
(―――構えは脱力……途中はゆっくり、インパクトの瞬間にだけ……)
アインハルトは、ノーヴェにもらったアドバイスを元に、もう一度構えを取り、先程よりもゆったりした動きで水斬りの体勢に入る。
先程の水斬りは、初速が速すぎた。
意識を向けるべきなのは、拳速ではなく……インパクトの瞬間を見誤らないことだ。
(撃ちぬく!!)
ズバシュッ!!!
「あ! さっきよりちょっと前に進みました!」
「すごいっ!」
二度目のトライで、先程よりも川面に生まれた割れ目は、水柱を上げるだけではなく、前方に進んだ。
ヴィヴィオ達は、アインハルトの飲み込みの速さに嬉々とした様子だ。
そして、それと時を同じくして………
バシュゥゥゥゥ!!!!
「あ、出来た……」
いつの間にか、アインハルト達と同じように川に入り、少し離れた場所にて、木の棒を振り抜いて、川を真っ二つに斬り裂いていた崇宏の姿がそこにはあった。
「お前は本当に人間か!! 今のは なんだっけ? ばっとう…じゅつ? あれで水斬りやったのか!?」
「抜刀術とも居合いとも言うけどな…俺の居合いは基本が脱力だからな…出来るかと思ってな…」
「い~や、大したもんだぜ? まさか棒切れでやるなんて思っても見なかったからな」
「崇宏くんも凄い!!」
アクセルとノーヴェ、ヴィヴィオの賞賛の声が、崇宏に向けられる。
もしかしたらと思ってやってみたのだが、なんとかなるものだ。
「アインハルト、もうちょっとやらせてもらおっか?」
「そうですね、少しコツが掴めかけてきましたから……ヴィヴィオさん達は、構わないでしょうか?」
「はい!」
「どんどんどうぞ~!!」
崇宏はアインハルトとそう言い交わし、二人で距離を取りながら剣と拳による水斬りの特訓に入る。
ヴィヴィオ達も、二人の動きを興味津々という様子で観察しており、ノーヴェがちょっとした遊びと称した水斬りではあったものの、崇宏達にとってはまた新たな発見に繋がったようだった。
ドシャアァァァァァ!!!
ザシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!
そのまま、アインハルトと崇宏は、しばらく無心で川面を切り裂くことに熱中するのだった。
一方、その頃……トレーニング中の大人組はというと……
「はひ・・・!! これは……なかなか……!!」
「ひ、久しぶりとはいえ……このぉ!!!」
フェイトとティアナの、執務官コンビは高町鬼教か………もとい、なのはの立てた練習メニューに、少し鈍り気味だった体が悲鳴を上げていた。
「アインハルトちゃん、楽しんでくれてるかな?」
「ヴィヴィオ達が一緒ですし、きっと大丈夫です」
「ノーヴェ師匠もついててくれるしね」
「あ、ありがとうございます」
スバルとしては、やはり身内を褒められるのは嬉しい。
「ところでみんなは大丈夫ー?」
なのはは声を掛けた。
「休憩時間伸ばそうかー?」
「だ……だいじょーぶでーすッ!」
「バ…バテてなんか……いないよ…?」
言ったティアナとフェイトは、もうバテバテだった。
再び子供組
「そりゃぁっ!!」
勢い込んだ声と共に水が左右に割れる。
「ああぁ!?また負けた!」
「むぅ……」
「あはははっ!また俺が一番!次は誰だ?」
得意気に鼻を鳴らすアクセルはこの中で一番水斬りが出来た。
まだそこまでの身体的差は出て来ていないが、男の子らしく筋力や体力が頭一つ抜き出てき始めた為だろう。
『では、私がやろう……崇宏……貸せ』
千冬は崇宏から棒をひったくり振るった………。
「なんだ? 何も起きないぜ?」
アクセルがそういった瞬間……
ザァァァァァァァァ
川が滝ごと真っ二つになった。
「さ、流石は千冬…」
『当然だ』
「さーお昼ですよー!みんな集合ー♪」
みんなに呼び掛けるメガーヌ。
やがて全員が集合し、昼食の席についた。
と、メガーヌはプルプルしているヴィヴィオとアインハルトに気付いた。
「あらあら、ヴィヴィオちゃんアインハルトちゃん大丈夫?」
「いえ…あの」
「だ、だいじょうぶ…です」
ノーヴェは二人がこうなった理由を話す。
「ふたりで水斬り練習ずーっとやってたんですよ」
「あらー」
「だらしないな2人とも」
「お前と女の子を一緒にするな、アクセル」
「はい、おまたせー!」
「「わーー!」」
スバルに料理を並べられて喜ぶリオとコロナ。
リオは目を輝かせている。
「じゃあ、今日の良き日に感謝をこめて」
『いただきます!!』
メガーヌの指揮のもと、一同は合掌した。
一同が昼食を楽しんでいる間、ガリューはフリードに木の実を与えていた。
『ごちそうさまでしたー!』
昼食を終えた一同。
「片付け終えて一休みしたら、大人チームは陸戦場ねー」
「「「「はいっ!」」」」
「崇宏は私と模擬戦ね」
「い、今なんと!?」
「私と模擬戦」
「シャッァァァァァァァ!!」
『黙れ! 馬鹿者!!』
スッパァァァァアン
なのはに言われて返事をするスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。
崇宏はフェイトと模擬戦できる事を喜ぶが千冬の出席簿に沈められる。
その頃、ヴィヴィオとアインハルトは、皿洗いをしていた。
アインハルトはヴィヴィオに訊く。
「ヴィヴィオさんは、いつもあんな風にノーヴェさんからご教授を?」
「あ、そんなに『いつも』でもないんですが…わたしは最初、スバルさんに格闘の基礎だけ教わったんです、それから独学で頑張ってたらノーヴェが声をかけてくれて、その時から、時間作っては色々教えてくれて、なんだかんだでコロナとリオの事も見てくれるようになって、優しいんです、ノーヴェって」
「…わかります」
ノーヴェの優しさに触れているだけに、ヴィヴィオの言うことはアインハルトにも理解できた。
「少し、うらやましいです、私はずっと、独学
ひとり
でしたから」
ヴィヴィオには、そう言ったアインハルトの顔が、少し、悲しそうに見えた。
「でもこれからはもう、ひとりじゃないですよね?」
ヴィヴィオの言葉。
沈黙が流れる。
「あ……その、流派とかはあくまで別にしてですよ!?」
「いえ、あの、大丈夫ですわかります」
二人は照れ隠しに、慌て皿を洗い出す。
古流武術と近代格闘技では、同じ道は辿れない。
だが二人は思っていた。
だけど、時々こんな風に、
少しだけ一緒に歩けたら、と。
ルーテシア、リオ、コロナ、アクセルは、ルーテシアの部屋に来ていた。
ルーテシアは本棚から、一冊の本を出す。
「あ、ルーちゃん、もしかしてその本…」
コロナはルーテシアの出した本が何なのか気付く。
「うん、アインハルトに見せてあげようと思って」
ルーテシアが出したのは、
「歴史に名を刻んだ『覇王』イングヴァルト…クラウス・イングヴァルト自身の回顧録」
だった。
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