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第十二話 ブランニューハート
「じゃあフェイトママ」
「いってきます」
「いってらっしゃい」

今日もわたしとなのはママは出掛けます。
と、なのはママが言いました。

「そういえばヴィヴィオ、新しいお友達、アインハルトちゃんだっけ?ママにも紹介してよ」
「んー、お友達っていうか、先輩だからねー…もっとお話したいんだけど、なかなか難しくて…」

そう。

出会ったのは少し年上の女の子。





「あ…アインハルトさん!」

中等科の一年生、アインハルト・ストラトスさん。

「はい」
「ごきげんようアインハルトさん!」
「ごきげんようヴィヴィオさん」

アインハルトさんはすごく強い格闘技者で、真正古流ベルカの格闘武術、覇王流カイザーアーツの後継者。
それから、ベルカ諸王時代の王様、覇王イングヴァルト陛下の正当な子孫。
わたしもこないだ試合させてもらったけど、まだまだ全然かなわなくって…。
できれば、今よりもっと仲良くなって、一緒に練習したり、お話したりしたいんだけど…。

「…ヴィヴィオさん、あなたの校舎はあちらでは」
「あ!そ、そうでしたっ!」
「それでは」
「あ、ありがとうございます、アインハルトさん」

なかなかうまくいかなかったり、

「……遅刻をしないように、気をつけてくださいね」
「…はいっ!気をつけますッ!!」

なにげない一言が嬉しかったり、そんな一喜一憂の日々だけど、今はもうなくなってしまった旧ベルカの出身同士、『強くなりたい』格闘技者同士、
触れあえる時は、きっとあるから。







「……ていうかー」

リオは教科書を見ながら、

「今日も試験だよー!大変だよー!」

と嘆いた。

「そうなんだよね~~!!」

ヴィヴィオも嘆いた。
現在初等科も中等科も、一学期前期試験の真っ只中である。
しかし、リオはすぐ持ち直す。

「でも試験が終われば、土日とあわせて四日間の試験休み!」
「うん!楽しい旅行が待ってるよー」

コロナも同意した。

「宿泊先も遊び場も、もう準備万端だって!」
「「おおー!」」

ヴィヴィオからの知らせに感嘆するリオ、コロナ。
今回の休日はなのは達の引率で、友人達と一緒に異世界旅行に行くのだ。

「よーし、じゃあ楽しい試験休みを笑顔で迎えるためにッ!」
「目指せ百点満点!」
「「おーっ!」」

ヴィヴィオとリオは拳を上げた。
そこでヴィヴィオは、コロナにずっと気になっていることを訊く。

「ところでコロナ、あれ、どうしたの?」

と言ってヴィヴィオが見た先には、全身から炎のようなオーラを立ち上らせて勉強に励む、アクセルの姿があった。

「さあ?」

今度はコロナがリオに尋ねる。

「そうだ、そういえば崇宏くんは?」

リオは無言で、アクセルの席を指差した。





「た、助けてくれ……こんな事、やりたくないんだ!!」


沈痛な面持ちで、絞り出すように声を出すアクセルを崇宏は冷ややかな顔で見下ろす。


『馬鹿者、続けろ、それ以外にお前に未来は無い……』
「千冬に同感だ」


冷たく言い放つ崇宏の顔は滑稽だと言っているかのように、細く笑みを浮かべていた。


「何で……何でこんなことに……!」


自分がやらされている物を睨みつける。
其処には……


≪試験用対策問題≫と書かれていた問題集が置かれていた。

「こんな事なら、お前を頼るんじゃなかった……」
「その場合お前は赤点で旅行に行けずに勉強漬けになるだけでしょ、シャッハさんだしね」
「その通りになる可能性大でした……すんません」
『わかったらさっさとやれ、馬鹿者!』
「くそっ!全部六十点以上だなんて無理に決まってるんだな! シャッハの鬼め!!」
「もの凄く譲歩してくれた方じゃないの?暗記物が多いし何とかなるでしょ」
「お前には解らないだろう!俺の頭から伝って出る単語を!」
『馬鹿者が、くだらない事を言ってる暇があるなら、早くやれ、もう時間が無いぞ』

教室で千冬と崇宏の監督の下黙々と問題を解かされるアクセル。

「もう……ダメだ、俺を置いて行ってくれ……」

机に突っ伏し、知恵熱で熱くなった頭を机で冷やす。
崇宏はそれを見て首を振り、千冬は馬鹿者と漏らした。

「これが時間のロスなのに……」
「アクセルくんに崇宏くん、試験勉強?」

終わりにしようと、声を掛けようとした時、ヴィヴィオに声をかけられた。

「ばっちり勉強してたぜ!旅行に行く為だからな、だけど崇宏と千冬の進行が遅くて、少し止まってたんだ、さぁ~てと!勉強進めようぜ!」
「………へえ…」
『………ほう…』


ヴィヴィオの声が聞こえた途端に、人が変わったかのように元気を取り戻し勉強に取り掛かるアクセルの姿に、崇宏と千冬はイラついた。

「あはは、うん頑張ってね?旅行楽しみにしてるから!それじゃね」

ヴィヴィオは自分の机に帰って行った。


「うんうん、勉強楽しいな」

ドサドサドサ…………

『……そうか、なら問題集を更に三冊追加してやろう、どうだ、嬉しいだろう?』
「ちょっ!? 待ってくれ!ホントに待ってくれぇぇぇぇえええぇ!?」
「問答無用じゃ、ボケぇぇぇぇぇぇ!!」





なのはとフェイトは、エリオとキャロに連絡を取っていた。フェイトが尋ねる。

「エリオ、キャロ、そっちはどう?」
「はい、さっき無事に引き継ぎが終わりました」
「予定通り、週末からお休みです!」
「そう、よかった!」
「じゃあ予定通りにみんなで行けるね。春の大自然旅行ツアー&ルーテシアもいっしょにみんなでオフトレーニング!」





「みんなで旅行、あたしも行きたかったッス~~!」

ウェンディは駄々をこねている。

「ノーヴェとスバルだけってズルいっス~~!」
「あーうるせーな…あたしらだって別に遊びに行くわけじゃねー、スバルはオフトレだし、あたしはチビ達の引率だ」

突き放すノーヴェ。
そんな彼女に、ディエチはある物を見せる。

「とかいって、通販で水着とか川遊びセットを買ってるのをおねーちゃんが知らないとでも?」
「なんだ、そうなのか」

納得するチンク。
ノーヴェは慌ててディエチが出した荷物を取り上げた。

「おまえヒトのもの勝手にッ!」
「いや、発送データに中身書いてあるし」

ディエチは思わず苦笑するが、チンクともに言う。

「まあいいじゃない、ノーヴェはバイトも、救助隊の研修も頑張ってるんだし」
「まったくだ」
「だから遊びじゃねーって」

しがみついて駄々をこねるウェンディを鬱陶しく思いながら、ノーヴェは言った。
チンクは訊く。

「そういえばあの子……アインハルトも誘うのか?」
「そのつもり、これから誘うんだけどね」

というわけで…。





「合宿…ですか?」

早速アインハルトに連絡するノーヴェ。

「すみません、私は練習がありますので」
「だから、その練習のために行くんだって、あたしや姉貴もいるし、ヴィヴィオやアクセルや崇宏も来る、練習相手には事欠かねー、しかも魔導師ランクAAから、オーバーSのトレーニングも見られる」
「崇宏さんが…来る…」
「ついでに、歴史に詳しくておまえの祖国のレアな伝記本とか持ってるお嬢もいる、まぁたった四日だ、だまされたと思って来てみろって、つまんなかったら走り込むなり、一人で練習するなりしてりゃいいんだし」
「あの……」
「いいから来い!絶対いい経験になる!後で詳しいことメールすっから、とりあえず今日の試験頑張れな」
「……はい……」

アインハルトは断れず、ノーヴェに強引に押し切られた。ディエチはそんなノーヴェを見て言う。

「ノーヴェのああいう強引さって、つくづくスバルと姉妹だよねぇ」
「ああ……そうだな」

同意するチンク。

「うう、あたしも行きたかったってス~」

ウェンディは、まだ駄々をこねていた。





そして、試験期間終了。

「ふはははははっ!やれば出来るんだな!この高評価の数々!まだ夢を見ているようだぜ!」

テストの結果を手に高笑いをしながら、喜びを表現しているアクセルは一人好奇な視線を浴びていた。


「傾向と対策を確りこなせば、それくらいは確実だ、出来ない方が異常だ」

その横でテストを仕舞いながら、突っ込む崇宏。
アクセルも頭の回転は速いのだが、勉強というものを嫌い、それがアクセルにとっての地獄だったのだから反省して欲しいものだ。


「わあってる!よっしゃぁー!!このままヴィヴィオの家にダッシュだ!」


「はあ」
『馬鹿者が…………』


アキはヴィヴィオの家にお邪魔して、そのまま旅行に行く手筈になっている。






なのはとフェイトは訊く。

「試験終了おつかれさま」
「みんな、どうだった?」

それに対して、リオ、ヴィヴィオ、コロナ、アキの順番で答える。

「花丸評価いただきました!」
「六人そろって」
「優等生ですッ!」
「ふっふっふ……甘く見てもらっては困るよ、俺が本気になれば!」

自身有り気にテストを掲げた。
確かに其処に記された結果は目標を超えて七十台だった。

『しかし、この場では一番点数が低い事を忘れるな、大馬鹿者が!』

千冬のキツイ一言で拗ねてしまった。

「崇宏はどうなんだよ!」
「たいした事は無いさ」

崇宏のテストは百点満点だった。
それも一つではなく、全てがだ。

「こんな物、丸暗記すれば余裕でしょうな?」
「崇宏……お前なんか親友じゃねえ!」
「いつから俺とお前が親友になったんだ?」
「ひでぇ」
「あはは、でも、これならみんな堂々とお出かけできるね」
「わーみんなすごいすごーいっ」

拍手で褒めるなのはとフェイト。

「じゃ、リオちゃんコロナちゃんアキくんは、いったんおうちに戻って準備しないとね」
「「はいっ」」
「OK」
「おうちの方にもご挨拶したいから、車出すね」
「あ、じゃあ準備すませてわたしも行く!」
「あーヴィヴィオは待ってて、お客様が来るから」
「おきゃくさま?」
『いらっしゃったようです』

レイジングハートが来訪を告げた。
そしてやって来たのは…。

「こんにちは」
「アインハルトさん!?…とノーヴェ!」

だった。

「異世界での訓練合宿とのことで、ノーヴェさんにお誘い頂きました、同行させていただいても宜しいでしょうか?」
「はいッッ!も~、大歓迎ですッ!」

ヴィヴィオはアインハルトの手を握り、何度も振って喜ぶ。

「ほらヴィヴィオ、上がってもらって」
「あ、うん!」

フェイトの言葉で我に返るヴィヴィオ。

「アインハルトさんどーぞ!」
「お邪魔します」

ヴィヴィオはアインハルトを招いた。
フェイトはノーヴェに耳打ちする。

「あの子が同行するって教えなかったの、正解だったねノーヴェ」
「はい」





「「こんにちはー」」
「はい!」
挨拶するリオとコロナ。
ヴィヴィオはアインハルトが座る席をはたいている。

「はじめまして…アインハルトちゃん、ヴィヴィオの母です、娘がいつもお世話になっています」
「いえ…あの、こちらこそ」

なのはも挨拶した。

「格闘技強いんだよね?凄いねぇ」
「は…はい…」
「ちょ、ママ!アインハルトさん物静かな方だから!」
「えー?」

湾岸警備隊隊舎にて。

「それでは司令!」

スバルはヴォルツ・スターンに報告する。

「スバル・ナカジマ防災士長、本日只今より四日間の訓練休暇に入ります!」
「おう、頑張ってこいや、今回の訓練は例の執務官殿も一緒だったか?」
「はい、ランスター執務官と一緒に、いろいろ鍛え直してきます」


本局、次元航行部第三オフィスにて。

ティアナは自分のデバイス、クロスミラージュに話しかける。

「オフトレとはいえ、本格的な戦闘訓練はちょっと久しぶりよね。気合い入れなきゃ!ヴィヴィオやアインハルト達にダメなところは見せられないし!」
『はい、マスター』
「でもその前に、このデータ整理を終わらせなきゃ」
『がんばりましょう』





場所は再び高町家に。

無人世界カルナージ、アルピーノ家。
なのはは人数が決まったので、連絡を入れた。メガーヌ・アルピーノが応対する。

「じゃ、それで人数確定ね」
「はい!お世話になります、メガーヌさん」
「いいえ~♪じゃ待ってるわね~」





「ふふ…うふふ…」

ルーテシア・アルピーノは微笑んでいた。
そのまま、自分の相棒たる召喚獣に言う。

「ねぇガリュー、わたし自分の才能がちょっと怖いかも」

その理由は、

「なんといっても今回のおもてなしは最高!」

らしい。

「レイヤー建造物で組んだ訓練場は陸戦魔導師の練習に!わたしとガリューの手作りアスレチックフィールドはみんなのフィジカルトレーニングに!」

ルーテシアの力説は、まだ続く。

「我が家の横に建築した宿泊ロッジも内外ともパワーアップ!」

設計ルーテシア。

「掘ったら出てきた天然温泉も癒しの空間にノリノリで改造ッ!!」

掘ったのか。

「完璧!」

ルーテシアは自宅の屋根の上に立つ。

「元六課のみなさんもヴィヴィオ達も!我が家にどーんとおいでませーー!!」

大笑いするルーテシア。
そこへメガーヌが登場。

「ルーテシア~、スープの味見手伝ってー」
「はーいママ」





みんなで一緒のトレーニング&ツアー。

クリスとの遠出も初めてだし。


アインハルトさんが一緒だし。

「アインハルトさん、四日間よろしくお願いしますね」
「はい、軽い手合わせの機会などあれば、お願いできればと」
「はい!!こちらこそぜひッッ!」





これから四日間、素敵なイベントがはじまります!


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