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第十一話 はじめまして
『クラウス、今まで本当にありがとう、だけど、私は行きます』

『待ってくださいオリヴィエ!勝負はまだ……!』

『あなたはどうか、良き王として国民とともに生きてください、この大地がもう戦で枯れぬよう、青空と綺麗な花をいつでも見られるような、そんな国を…』

『待ってください!まだです!!ゆりかごには僕が…オリヴィエ!!僕は…!!』

『……』
『……』

『……僕は…あなた達が羨ましい』

『……』
『……』

『あなた達ほどの力と意志があれば、彼女を救えたはずなのに…』

『………』
『………』

『なぜですか…なぜ何も答えてくださらないのですか!!』

『…………』
『…………』

『アルカイド様!! スヴァイサー様!!』 
 







アインハルトは目を覚ました。気付くと、彼女の目からは涙が溢れている。
だが、この夢を見るのは初めてではない。

(いつもの夢)

アインハルトは鏡の前に立ち、

(一番悲しい覇王わたしの記憶)

力なく拳をぶつけた。

アインハルトが目を覚ましたのと同時刻


聖王教会・アクセルの部屋
アクセル視点

(また、あの夢か……俺もアインハルトと同じ過去を受け継ぐ者か……今度こそ…オリヴィエを愛した者として、クラウスの友として二人を護って見せる……)


高町家・崇宏の部屋
崇宏視点
俺は朝、早く目が覚めた。
原因は、あの夢だ……。
(アルカイドって誰だよ…あの光景から察するとスヴァイサーって奴の視点か……俺は俗に言う転生者なのに、なんでこんな夢を……あの青年は誰だよ?)


一方その頃
区民公園にて、早朝ランニングに励むヴィヴィオとノーヴェ。

「アインハルトの事、ちゃんと説明しなくて悪かった」
「ううん、ノーヴェにも何か考えがあったんでしょ?」

一通りランニングを終えた二人は休憩を取り、ノーヴェはヴィヴィオに説明する。

「あいつさ、おまえと同じなんだよ、旧ベルカ王家の王族…『覇王』イングヴァルトの純血統」
「……そうなんだ」
「あいつも色々迷ってんだ、自分の血統とか王としての記憶とか…でもな、救ってやってくれとかそーゆーんでもねーんだよ、まして聖王や覇王がどうこうとかじゃなくて」
「わかるよ、大丈夫、でも、自分の生まれとか、何百年も前の過去の事とか、どんな気持ちで過ごしてきたのかとか」

ヴィヴィオは軽く拳を繰り出す。

「伝えあうのって難しいから、思い切りぶつかってみるだけ」

そのまま、ノーヴェと軽く打ち合う。

「仲良くなれたら教会の庭にも案内したいし」
「ああ、あそこか…いいかもな」

ノーヴェはヴィヴィオの拳を受け止めながら、ヴィヴィオに詫びる。

「悪いな、お前には迷惑かけてばっかりで」
「迷惑なんかじゃないよ!友達として信頼してくれるのも、コーチとしてわたしに期待してくれるのも、どっちもすごく嬉しいもん、だから頑張る!」

ヴィヴィオは拳を出した。





アラル港湾埠頭の廃棄倉庫区画。
そこがアインハルトとの再戦の場所だった。
審判としてノーヴェが、見学としてリオ、コロナ、崇宏、アクセル、ウェンディ、チンク、オットー、ディード、ディエチが来ている。
そこへ、

「お待たせしました」

スバル、ティアナに連れられて、アインハルトが来た。

「アインハルト・ストラトス、参りました」
「来ていただいてありがとうございます、アインハルトさん」

ヴィヴィオは頭を下げる。
続いてノーヴェの説明。

「ここな、救助隊の訓練でも使わせてもらってる場所なんだ、廃倉庫だし、許可も取ってあるから、安心して全力出していいぞ」
「うん、最初から全力で行きます」

言ってヴィヴィオはクリスを掴み、

「セイクリッド・ハート、セットアップ!」

大人モードに変身して、バリアジャケットを纏った。

「武装形態」

アインハルトも同様に大人モードに変身し、バリアジャケットを纏う。

「今回も魔法はナシの格闘オンリー、五分間一本勝負」

ノーヴェはルールを告げた。

「「アインハルトさんも大人モード!?」」

驚くリオ、コロナ。

「二人共本気バリバリなんだな此れが⁉」
「2人共、良い感じの闘気だな」

アクセルと崇宏は凄く楽しそうだ。
そんな一同の前で、

「それじゃあ試合…開始ッ!!」

ノーヴェは試合開始を宣言した。

構えを取るヴィヴィオを見て、アインハルトは思う。

(綺麗な構え……油断も甘さもない、いい師匠や仲間に囲まれて、この子はきっと格闘技を楽しんでる)

アインハルトはヴィヴィオと自分を重ねた。

(私とはきっと何もかもが違うし、覇王わたしいたみを向けていい相手じゃない)

アインハルトはゆっくりと構えを取る。
ヴィヴィオはアインハルトの真の力を感じた。

(すごい威圧感…一体どれくらい、どんな風に鍛えてきたんだろう)

しかし、それはそれである。

(勝てるなんて思わない、だけど、だからこそ、崇宏くんのアドバイス通り一撃ずつで伝えなきゃ)

ヴィヴィオは動いた。

(『この間はごめんなさい』と…)

アインハルトも動く。
スピードはアインハルトの方が上で、アインハルトの拳を、ヴィヴィオは腕を交差させてガードした。
続いて来る左拳を紙一重でかわし、右拳をガード。
左フックをしゃがんで回避し、

(わたしの全力)

ヴィヴィオはアインハルトのボディに拳を打ち込む。

(わたしのストライクアーツ!)

凄まじい拳の直撃を受けて下がるアインハルト。
ヴィヴィオはアインハルトに反撃の機会を与えまいと接近し、拳を叩き込む。

(この子は…)

しかし、ヴィヴィオはすぐ反撃を受けてしまう。
だが、やられっぱなしのヴィヴィオではない。
次のアインハルトの拳をかわし、彼女の顔面に拳を食らわせた。
見学者達から歓声があがる。

「はぁぁあっ!」

再び挑むヴィヴィオ。

(この子はどうして)

アインハルトはヴィヴィオに蹴りを放ち、

(こんなに一生懸命に…?)

ヴィヴィオも負けじとアインハルトを蹴り上げる。

(師匠が組んだ試合だから?)

しかしアインハルトはそれをかわし、ヴィヴィオに拳を打ち込む。

(友達が見てるから?)

ヴィヴィオはアインハルトの壮絶な連打に耐える。

(大好きで大切で、守りたい人がいる)

浮かんだのは二人のママ。

(追いつきたい人達がいる)

次に浮かんだのはいつもは巫山戯ているに時折りその強さを見せる金と銀の虹彩異色の少年と漆黒の髪の少年。

(小さなわたしに、強さと勇気を教えてくれた…世界中の誰より幸せにしてくれた……強くなるって約束した……追いつくって約束した……)




「ああああっ!!」




(強くなるんだ)




ヴィヴィオは全力の拳を放つ。






(どこまでだって!!)





「覇王…」
「!」
「断空拳!!」

アインハルトは必殺の拳を、ヴィヴィオのみぞおちに叩き込んだ。
ヴィヴィオもカウンターを放つが、かすっただけである。
激しく吹き飛ぶヴィヴィオ。ノーヴェは判定を下す。

「一本!それまで!」
「「陛下!」」
「「ヴィヴィオ!!」」

オットーとディード。
そしてリオとコロナは、慌てて駆け寄った。

「決まったんだな、"お互いに"」
「あぁ、でもアインハルトは最後の一撃は手加減してた、ヴィヴィオの気持ち届いて良かったな」





「きゅううぅ~」

ヴィヴィオはディードに膝枕され、気絶して目を回していた。ノーヴェが心配する。

「ヴィヴィオ大丈夫か?」
「怪我はないようです…大丈夫」

ディードが状態を伝えた。

「アインハルトが気をつけてくれたんだよね、フィールドを抜かないように」
「ありがとっス、アインハルト」
「「ありがとうございます」」

お礼を言うディエチ、ウェンディ、リオ、コロナ。

「ああ、いえ…」

照れ隠しに目をそらすアインハルト。
と、

「……!?」

アインハルトは突然足元がふらつき、

「あらら」

ティアナの胸に倒れ込んでしまう。

「す、すみません……あれ!?」
「ああいいのよ、大丈夫」
「ラストに一発カウンターがカスってたろ、時間差で効いてきたか」

ノーヴェが言い、

「だ、大丈夫……大丈夫、です」

アインハルトはどうにか姿勢を維持しようとするが、できずに、

「よっと!」

スバルに抱き止められる。

「いいからじっとしてろよ」
「そのまま、ね」
「……はい」

ノーヴェとティアナに言われて、アインハルトは顔を赤くしながら、スバルに抱かれていた。
ノーヴェは尋ねる。

「断空拳はさっきのが本式か?」
「足先から練り上げた力を、拳足から打ち出す技法そのものが『断空』です、私はまだ拳での直打と、打ち下ろしでしか撃てませんが」
「なるほどな」

一通り断空拳の説明を聞いたノーヴェは、次に本当に訊きたかったことを訊く。

「で、ヴィヴィオはどうだった?」
「…彼女には謝らないといけません、先週は失礼な事を言ってしまいました、訂正しますと」
「そうしてやってくれ、きっと喜ぶ」

その後、アインハルトはスバルから離れ、いまだに気絶しているヴィヴィオを見る。

(彼女は、覇王わたしが会いたかった聖王女じゃない、だけど『わたし』は、この子とまた戦えたらと思っている)

そして、アインハルトはヴィヴィオの手を取った。


「はじめまして……ヴィヴィオさん、アインハルト・ストラトスです」
「それ、起きてる時に言ってやれよ」
「……恥ずかしいので嫌です」

ノーヴェに言われ、アインハルトは再び顔を赤くする。

「どこかゆっくり休める場所に運んであげましょう」
「「はい!」」

アインハルトの提案を聞いたリオとコロナは返事をし、アインハルトはヴィヴィオを背負った。





新暦79年春

高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトスは、こうして出逢った。


これが彼女達の鮮烈ヴィヴィッドな物語の始まりの始まり。





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