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第十話 本当の気持ち
古代ベルカ諸王時代。
それは、天地統一を目指した諸国の王による戦いの歴史。

聖王オリヴィエや、覇王イングヴァルトも、そんな時代を生きた王族の人間である。

いずれ優れた王とされる両者の関係は、現代の歴史研究においても明確になっていない。





ノーヴェはオープンカフェで、スバル、ティアナと一緒に、ヴィヴィオ達を待っていた。

「ふたりともせっかくの休暇だろ?別にこっちに付き合わなくてもいーのに」
「アインハルトの事も気になるしね」
「そうそう」

ティアナとスバルは構わないと言う。
だが、実は今、少し問題があった。

「まーそれはありがたくもあるけど、問題はさ…」

そう、問題は…

「なんでお前らまで揃ってんのかってことだ!」

ノーヴェが言うお前らとは、チンク、ウェンディ、ディエチ、オットー、ディードのことである。
ノーヴェが呼んだのはチンクだけであり、あとの四人は呼んでいない。

「えー?別にいいじゃないッスかー」

サンドイッチを頬張るウェンディ。

「時代を超えた聖王と覇王の出逢いなんてロマンチックだよ」

コップを手に取るディエチ。

「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし」
「護衛としては当然」

とはディード、オットーの談。

「すまんなノーヴェ、姉も一応止めたのだが…」

謝るチンク。

「うう…まー見学自体はかまわねーけど、余計なチャチャは入れんなよ?ヴィヴィオもアインハルトも、お前らと違っていろいろ繊細なんだからよ」
「「はーーい(!)」」

返事をするウェンディとディエチ。
オットー、ディードの二人は無言で親指を立てた。
そこへ、

「ノーヴェ!みんなー!」

ヴィヴィオの声がかかる。
全員が見てみると、そこにいたのはクリスを連れたヴィヴィオ。
柔らかな笑顔を振りまくコロナ。
活発そうな印象を与えるリオ。
青髪ににした金と銀の虹彩異色の眼のアクセル

「「「「誰⁉」」」」

漆黒の髪をポニーにした少年

「何人かは初めましてだな、ヴィヴィオの友達の八神 崇宏だ」

崇宏は始めての顔に自己紹介をした。

「こんにちわ」
「こんにちはー!」

コロナとリオは挨拶する。

「あーやかましくて悪ィな」
「ううん、ぜんぜん!」

ヴィヴィオは尋ねる。

「で、紹介してくれる子って?」
「さっき連絡があったから、もうすぐ来るよ」

スバルが答えた。
ヴィヴィオはさらに尋ねる。

「何歳くらいの子?流派は?」
「お前の学校の中等科の一年生、流派はまぁ……旧ベルカ式の古流武術だな」
「へー!」
「あとアレだ、お前やアクセルと同じ虹彩異色」
「ほんとー!?」

興奮するヴィヴィオ。
対照的にアクセルは珍しく、黙って話を聞いていた。

「まぁヴィヴィオ、座ったら?」
「そうそう」
「あ…そうですね!」

ヴィヴィオはティアナとスバルに言われて座る。

その時、

「失礼します」

声がして、全員が見た。

「ノーヴェさん、皆さん、アインハルト・ストラトス、参りました」

そこには、ノーヴェがヴィヴィオに紹介しようとしている相手、アインハルトがいた。
ヴィヴィオは、アインハルトの姿に思わず見入ってしまっている。

「すみません、遅くなりました」
「いやいや、遅かねーよ」

頭を下げるアインハルトと、応対するノーヴェ。

「でなアインハルト、こいつが例の…」
「えと…はじめまして!」

ヴィヴィオは急に話を振られて少し慌てるが、自己紹介した。

「ミッド式のストライクアーツをやってます高町ヴィヴィオです!」

(この子が…)

「ベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです」

アインハルトはヴィヴィオと握手し、同時にヴィヴィオを観察する。

(小さな手…脆そうな体…だけどこの紅と翠の鮮やかな瞳は覇王わたしの記憶に焼き付いた…間違うはずもない聖王女の証…)

「あの、アインハルト…さん?」

ヴィヴィオは心配そうに声をかけた。

「ああ、失礼しました」
「あ、いえ!」

我に返るアインハルト。

「まぁふたりとも格闘技者同士、ごちゃごちゃ話すより手合わせでもした方が早いだろ、場所は押さえてあるから早速行こうぜ」

ノーヴェの提案もあって、一同は移動を始めようとした。





区民センター内スポーツコート。
着替えたヴィヴィオとアインハルトは、ノーヴェの審判の下、並び立つ。

「じゃああの、アインハルトさん!よろしくおねがいします!」
「…はい」





話は、少し前にさかのぼる。
アインハルトはノーヴェに話した。

諸王戦乱時代、武技において最強を誇った一人の王女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのことを。

かつて『覇王イングヴァルト』は、彼女に勝利する事ができなかった。



『それで、時代を超えて再戦……か?』

ノーヴェが尋ねると、アインハルトは答えた。
覇王の血は歴史の中で薄れているが、時折その血が色濃く蘇る事があり、彼女の碧銀の髪や虹彩異色、覇王の身体資質と覇王流、それらと一緒に少しの記憶も受け継いでいると。

『私の記憶にいる『彼』の悲願なんです、天地に覇をもって和を成せる、そんな『王』であること…弱かったせいで…強くなかったせいで…『彼は彼女を救えなかった』……守れなかったから…そんな数百年分の後悔が…私の中にあるんです』

涙ながらに語るアインハルト。そして、

『だけど、この世界にはぶつける相手がもういない…救うべき相手も、守るべき国も、世界も……!』

ついにアインハルトは泣き出してしまった。
しかし、ノーヴェは言う。


『いるよ。お前の拳を受け止めてくれる奴が、ちゃんといる』




それが、少し前の話だ。

(本当に?)

アインハルトは目の前の少女を見つめる。

(この子が覇王の拳を…覇王の悲願を受け止めてくれる…?)

臨戦態勢に入るアインハルト。彼女の足元に出現した魔法陣と、彼女自身の気迫に、ヴィヴィオは何かを感じた。

「んじゃ、スパリーング四分一ラウンド、射砲撃とバインドはナシの格闘オンリーな」

ルールを定めるノーヴェ。
そして、

「レディ、ゴー!」

二人の戦いは始まった。


先に動いたのはヴィヴィオ。
素早く接近し、拳を放つ。
アインハルトはそれを防いだ。その後もヴィヴィオは攻め続け、アインハルトに反撃を許さない。

「ヴィ…ヴィヴィオって、変身前でもけっこう強い?」

ティアナはヴィヴィオの動きに驚く。

「練習頑張ってるからねぇー」

崇宏は、アインハルトの動きを、じっと見ている。

(あの動き…迷ってる?)


アインハルトはヴィヴィオの攻撃を防ぎかわしつつ、分析する。

(まっすぐな技…まっすぐな心…だけどこの子は…だからこの子は…)

アインハルトは一瞬の隙を突き、ヴィヴィオの懐へ飛び込み、

(私が戦うべき『王』ではないし)

掌底を食らわせた。
激しく吹っ飛ぶヴィヴィオを、オットーとディードが受け止める。

「す……」

(すごいっ!!!)

アインハルトの強さに目を輝かせるヴィヴィオ。
だが、アインハルトはつらかった。

(…私とは、違う)

「お手合わせ、ありがとうございました」

背を向けて歩き出すアインハルト。

「あの…あのっ!!」

ヴィヴィオは慌てて呼び止めた。

「すみません、わたし、何か失礼を……?」
「いいえ」
「じゃ、じゃあ、あの、わたし……弱すぎました?」
「いえ、『趣味と遊びの範囲内』でしたら、充分すぎるほどに」

かけられた言葉に、ヴィヴィオは黙ってしまう。

「…申し訳ありません、私の身勝手です」

言って再び歩き出すアインハルト。

「あのっ!すみません…いまのスパーが不真面目に感じたなら、謝ります!」

アインハルトは足を止めた。

「今度はもっと真剣にやります、だからもう一度やらせてもらえませんか?今日じゃなくてもいいです!明日でも…来週でも!」

必死に訴えるヴィヴィオ。
アインハルトはチラリとノーヴェを見た。
その視線を感じて、ノーヴェは提案する。

「あー、そんじゃまぁ、来週またやっか?今度はスパーじゃなくて、ちゃんとした練習試合でさ」
「ああ、そりゃいいッスねぇ」
「ふたりの試合、楽しみだ」
「「はいっ!」」

ウェンディ、ディエチ、リオ、コロナは同意した。

「…わかりました、時間と場所はお任せします」
「ありがとうございます!」

今度こそ去ろうとするアインハルトと、頭を下げるヴィヴィオ。
と、

「その前に、俺とやり合う気は?」

アクセルが珍しく標準語でアインハルトを呼び止めた。

「…え?」
立ち止まるアインハルト。

「なに、ちょっとした腕試しなんだな」

アクセルは歩み寄っていく。

「下がって欲しいんだな、ヴィヴィオ」
「う、うん…」

アクセルはヴィヴィオを下がらせ、アインハルトの前に立つ。

「さて、いくんだな」
「あの、着替えないのですか?」
「いらないんだな、ちょっと気になることがあって、それを確かめるだけなんだな、ノーヴェさん、一分欲しいんだな」
「お、おう…」

そして、アクセルとアインハルトの戦いが始まった。
アクセルは圧倒的なまでのパワーとスピードで、簡単にアインハルトを追い詰めてしまう。

(まずっ…!)

アインハルトも本気で反撃する。
だが、追い詰められる速度が少し緩んだだけだ。

(強い!でもこの動き、やはり…)
(…やっぱりな、実際に戦ってみてわかったんだな)

戦いの中で、二人の疑問は確信に変わる。

(間違いない…)
(大当たり…)
(この人は…)
(こいつは…)

そして、


アクセルの拳はアインハルトの顔面に直撃する寸前で止まり、
アインハルトの拳もまた、アクセルの顔面に直撃する寸前で止まった。

(あの時の人!!)
(覇王なんだな!!)

そして二人は崇宏の元に踏み込み拳を振るった………。

「アンサラー」

此間と同じく紫色の剣が飛んで来るが二人は躱す。

「此間のはやっぱりお前か?」
「私とノーヴェさんの戦闘も見てましたよね?」
「はぁ、だから?」
「剣を抜いけ!!」
「私もアクセルさんと同意見です」
『馬鹿者共が迷いのある拳に崇宏はわたしを抜かん……どうしてもと言うなら迷いを捨てて来い!!』
「黙れ!!」
「貴方達に何がわかるんですか!?」

アクセルとアイハルトは激情し崇宏に殴りかかるが…………

「「なっ!?」」

何かに吹き飛ばされて意識が飛んだ。

「何……今の?」
「崇宏に襲い掛かった二人が吹き飛んだッス」
「崇宏」
「何ですか?」
「今のは居合いか?」
「はい」
「えっ?」
「それって、どう言う事?」
「おそらく拳をポケットに入れた状態から、拳を繰り出しその拳圧によって攻撃する技だ」
『その通りだ、刀でいう居合いを拳で使ってるだけだ、ポケットを鞘、拳を刀にみたて高速で技を繰り出している……因みにこの技を見破ったのはノーヴェで五人目だ』

崇宏に意識を刈り取られたアインハルトとアクセルが目覚め、帰宅する一同。
ノーヴェはごめんなさいのポーズをしながら、念話でヴィヴィオに謝る。

(悪ィヴィヴィオ、気ぃ悪くしないでやってくれ)

ヴィヴィオは手を振りながら、念話で返す。

(全然!わたしの方が『ごめんなさい』だから!)

しかし、彼女の内心は暗かった。





高町家ヴィヴィオの部屋。

ヴィヴィオはベッドの上で落ち込んでいた。

(…あの人からしたら、わたしはレベル低いのに不真面目で、がっかりさせちゃったんだ……わたしが弱すぎて…)

アインハルトのことを考えて、次にアクセルと崇宏のことを考える。

(…アクセルくんがうらやましいな…わたしとそんなに年違わないのに、あんなに強くて…崇宏くんも)

ヴィヴィオは、今日のアインハルトと打ち合っていたアクセルを思い出していた。
ノーヴェ曰く、アクセルは本気を出してないし、遊んでいる。
崇宏に至ってはその二人をたった一撃で沈めた。

(わたしだって、ストライクアーツは『趣味と遊び』だけじゃないけど…)

思って枕を抱きしめるヴィヴィオ。
と、

「晩御飯だよ、ヴィヴィオ」

なのはから連絡が入った。





「ヴィヴィオ、なんか今日は元気ないね?」
「え」

夕食の席。
なのはに言われ、

「そそ、そんなことないよ?元気元気!ねークリス!」

ヴィヴィオは慌てて取り繕う。クリスも合わせてくれた。

「そお?」
「うん、へいき!」

そして、思い直す。

(そうだよ)

「えと……実はね?」

ヴィヴィオはアインハルトのことを話した。

「新しく知り合った人と、来週練習試合をするんだ、その事と考えてて、ちょっとね」

(落ち込んでちゃダメ)

「じゃあ、しっかり食べて、練習して、うんと頑張らないとね」
「ご馳走さま」

なのはとヴィヴィオが話をしていると崇宏が食べ終わった。

「ヴィヴィオ、アインハルトと友達になりたいなら、来週の試合は拳に自分の気持ちを乗せろ」

崇宏はヴィヴィオに一言アドバイスをし、自分の部屋にいった。

「うん!」

ヴィヴィオは食べながら、またアインハルトのことを考える。

(あの人の…アインハルトさんが求めてるものはわからないけど、精一杯伝えてみよう)

ヴィヴィオの頭の中は、アインハルトのことでいっぱいだった。



(高町ヴィヴィオの、本気の気持ちを)






「今日はありがとうございました」

アインハルトはスバル、ティアナ、ノーヴェにお礼を言った。

「また明日連絡すっから」
「何か困った事があったらいつでもあたしたちにね」
「じゃあ、車で送ってくるから」

ティアナはアインハルトを送っていく。
スバルはノーヴェに尋ねる。

「ねーノーヴェ、アインハルトの事も心配だけどさ、ヴィヴィオ、今日の事ショック受けたりしてないかな?」
「そりゃまあ多少はしてんだろうけど、さっきメールが来てたよ。あたしの修行仲間は、やっぱりそんなにヤワじゃねー」

ノーヴェはメールの内容を伝えた。

「今からもう来週目指して特訓してるってよ」


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