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第九話 アイハルト・ストラトス
ノーヴェとの戦い勝利したイングヴァルトは、コインロッカーの前に来ていた。

(…彼女の一撃…凄い打撃だった…危なかった…そして何より…見られてた)

ノーヴェの実力は凄まじいものがある。
加えて、アクセルから受けたダメージも回復しきっていないのに挑んだのだ。
勝てたのは、奇跡に近い。
そして何者かに見られていたが手出しはされ無かった。

(この体は…間違いなく強いのに…)

「武装形態……解除……」

イングヴァルトはふらつきながらも、騎士甲冑を解除する。

(私の心が弱いから…)

光に包まれるイングヴァルト。

やがて姿を現したのは、小さな少女だった。

(帰って少しだけ休もう、目が覚めたらまた……)

少女はコインロッカーの鍵を出す。

と、ここで受け続けたダメージが限界を迎える。
少女は倒れた。

(だめ…こんな所で倒れたら……)

立ち上がろうとする少女。
しかし、抵抗虚しく、少女は意識を手放した。





アクセルはイングヴァルト戦の罰として夜の街を走っていた。
そして、道の真ん中で仰向けに倒れているノーヴェを発見した。

「ノーヴェさん‼」

ノーヴェに駆け寄るアクセル。

「アクセルか、助かった、ちょっと手ぇ貸してくれ」
「ガッテンなんだな」

アクセルはノーヴェに手を貸し、起き上がらせた。

「本気で助かった、でも子供がこんな時間にあぶねぇぜ?」
「覇王と勝手に戦った罰として走り込みをさせられてたんだ」

そう言ってアクセルは帰った。

残されたノーヴェはコンソールを出し、ナカジマ家に連絡を入れる。モニターが現れ、スバルの姿が映された。

「はいスバルです、ノーヴェ、どうかした?」
「ああ、悪ィスバル、ちょっと頼まれてくれ、喧嘩で負けて動けねー」
「ええッ!?」

驚くスバル。
ノーヴェは構わず続ける。

「相手は例の襲撃犯、きっちりダメージブチ込んだし、蹴りついでにセンサーもくっつけた、今ならすぐに捕捉できる」
「わ、わかった!とにかく今から行くね!」

ノーヴェとスバルは通信を切った。


アクセルは走り込みをしながら考えていた。

(まさか、まさかとは思っていたが、昨日の今日でもう動けるとは思わなかったんだな…)

アクセルとしては思わぬ誤算だ。
アクセルの断空拳は、まともに食らえば並みの魔導師なら丸一日は動けなくなる。
其れほど高威力の一撃だ。
しかし、イングヴァルトは動いて見せた。

(其れにあの、ノーヴェさんも相当できる、それをここまで…一体何者なんだな?)





朝。
少女は目覚めた。
しかもなぜかベッドの中にいる。

「!?」

飛び起きる少女。
その隣には、

「よう、やっと起きたか」

ノーヴェが横になっていた。

「……あの、ここは……?」

少女は状況が理解できず、ノーヴェに訊いてみる。
と、部屋のドアがノックされた。

「はい」

ノーヴェが返事をすると、一人の女性が入ってくる。
彼女の名はティアナ・ランスター。
スバルの同僚だ。
ナカジマ家には時々遊びに来る。

「おはようノーヴェ、それから……」

ティアナはノーヴェに朝の挨拶をしてから、少女に目を移した。
ノーヴェは少女の名を言う。

「自称覇王イングヴァルト、本名アインハルト・ストラトス、St.ヒルデ魔法学院中等科一年生」
「ごめんね、コインロッカーの荷物出させてもらったの、ちゃんと全部持ってきてあるから」

ティアナは謝罪の意を述べた。アインハルトと呼ばれた少女がすぐ側にある机の上を見ると、確かに持ってきてある。

「制服と学生証持ち歩いてっとは、ずいぶんとぼけた喧嘩屋だな」

ノーヴェに言われ、アインハルトは目をそらす。

「学校帰りだったんです。それに、あんな所で倒れるなんて…」

そこへ、

「あーみんなおはよー」

料理を乗せたお盆を持つスバルがやって来た。

「おまたせ♪あさごはんでーす」
「おお、ベーコンエッグ!」
「あと、野菜スープね」

ノーヴェは喜ぶ。
アインハルトはそれをあっけに取られて見ていたが、スバルはアインハルトの存在に気付く。

「あ…はじめましてだねアインハルト、スバル・ナカジマです、事情とか色々あると思うんだけど、まずは朝ごはんでも食べながら、お話聞かせてくれたら嬉しいな」





というわけで、一同は朝食を摂ることに。

「んじゃ、一応説明しとくぞ」

ノーヴェは紹介する。

「ここはこいつ……あたしの姉貴、スバルの家」
「うん」

スバルは軽く返事をし、

「で、その姉貴の親友で、本局執務官」
「ティアナ・ランスターです」

ティアナは名乗った。

「お前を捜して保護してくれたのはこのふたり、感謝しろよ」
「でもダメだよノーヴェ、いくら同意の上の喧嘩だからって、こんなちっちゃい子にひどい事しちゃ」
「こっちだって思いっきりやられて、まだ全身痛ェんだぞ」

ティアナはアインハルトに尋ねる。

「格闘家相手の連続襲撃犯があなたって言うのは……本当?」
「…はい」
「理由聞いてもいい?」

しかし、ティアナの質問には、ノーヴェが答えた。

「大昔のベルカの戦争が、こいつの中ではまだ終わってないんだとよ。んで自分の強さを知りたくて、あとはなんだ…聖王と冥王をブッ飛ばしたいんだったか?」
「最後のは……少し違います、古きベルカのどの王よりも、この覇王の身が強くあること、それを証明できればいいだけで…」

それを聞いたティアナは、さらに尋ねる。

「聖王家や冥王家に恨みがあるわけではない?」
「はい」
「そう、なら良かった」

スバルは安堵の表情を見せ、アインハルトはそれを見た。
ティアナが言う。

「スバルはね、そのふたりと仲良しだから」
「そうなの」

スバルは優しく笑った。
アインハルトは、スバルをじっと見ている。

「ああ、冷めちゃうからよかったら食べて」
「……はい……」

アインハルトはスバルに言われて、手を進めた。
ティアナはアインハルトに言う。

「あとで近くの署に一緒に行きましょ、被害届は出てないって話だし、もう路上で喧嘩とかしないって約束してくれたら、すぐに帰れるはずだから」
「あの…ティアナ」

そこで、ノーヴェが割り込んだ。

「今回の事については、先に手ェ出したの、あたしなんだ」
「あら」
「だから、あたしも一緒に行く、喧嘩両成敗ってやつにしてもらおう」

それからアインハルトに訊く。

「お前もそれでいいな?」
「はい……ありがとうございます」





湾岸第六警防署。
ノーヴェ、アインハルトとともにここを訪れたスバル、ティアナ。
スバルはティアナに謝る。

「ごめんねティア、折角の非番なのに」
「それはあんたも一緒でしょ、しかしあんたってば、ベルカの王様とよく知り合うわよねぇ」
「ねー」

ヴィヴィオにイクスにアインハルト。
スバルは三人もの王と対面したのだ。

「でもあの子…アインハルトも色々抱え込んじゃってるみたいだし、このまま放ってはおけないかも」
「そうね、でもその前に、あんたの可愛い妹がひと肌脱いでくれそうじゃない?」

ティアナは手続きをしているノーヴェとアインハルトを見ながら言った。





手続きを終え、結果を待つアインハルトは、一人思っていた。

(私は何をやってるんだろう…やらなきゃならない事、沢山あるのに…あの人にも…もう一度会いたいのに……)

あの人、とは崇宏である。
何故か彼女は崇宏が気になってしょうがなかった。
と、

「よう」

ノーヴェが缶ジュースをアインハルトの頬に当てる。

「ひゃっ!!」

アインハルトは驚いた。

「スキだらけだぜ、覇王様」

してやったりという顔のノーヴェ。
アインハルトは顔を赤くしながら、あわあわするしかなかった。





ノーヴェはアインハルトにもジュースを渡し、自分のジュースを飲みながら訊く。

「もうすぐ解放だと思うけど、学校はどーする、今日は休むか?」
「行けるのなら行きます」
「真面目で結構、で…あのよ、うちの姉貴やティアナは、局員の中でも結構凄い連中なんだ、古代ベルカ系に詳しい専門家も沢山知ってる、お前の言う『戦争』がなんなのかはわかんねーけど、協力できる事があんならあたしたちが手伝ってやる、だから……」
「聖王達には手を出すな……ですか?」
「違ェよ、あ、違わなくはねーけど」

ノーヴェはうまく説明できなくて、頭をかいた。

「ガチで立ち合ったからなんとなくわかるんだ、おまえさ…」

ようやくそれっぽい言葉を見つけたノーヴェは、言った。

「ストライクアーツが好きだろう?」

アインハルトはノーヴェを見つめる。

「あたしもまだ修行中だけど、コーチの真似事もしてっからよ、才能や気持ちを見る目だけはあるつもりなんだ」
「…」
「……違うか?好きじゃねーか?」
「…好きとか嫌いとか、そういう気持ちで考えた事がありません、覇王流カイザーアーツは、私の存在理由の全てですから…」

どこか悲しそうな顔をするアインハルト。
ノーヴェは尋ねた。

「聞かせてくんねーかな?覇王流のこと……おまえの国の事……おまえがこだわってる戦争の事……」
「……私は……」





St.ヒルデ魔法学院初等科校舎図書室。

「あったあった!これがオススメ!」

コロナは本を持ってきた。

「『覇王イングヴァルト伝』と『雄王列記』、あとは当初の歴史書!」
「ありがとコロナ」

ヴィヴィオはお礼を言って本を受け取る。

「前にルーちゃんにおすすめしてもらったんだ」

と、リオとアクセルが訊いた。

「でもどーしたの?急にシュトゥラの昔話なんて」
「歴史の勉強でもするんだってばよ?」
「うん、ノーヴェからのメールでね、この辺の歴史について一緒に勉強したいって」
「なるほど、俺も手伝うか、何か資料を集めてみるよ」
「ありがとうね崇宏くん、あ、それから今日の放課後ね!ノーヴェが新しく格闘技やってる子と知り合ったから、一緒に練習してみないかって」

アクセルはヴィヴィオを手伝いながら思った。

(シュトゥラか、イングヴァルトの奴は無事だと良いんがな)


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