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第七話 ストライク・アーツ

ここに来客があった。

「いよーっスオットー、ディード♪」
「久し振り」

現在聖王教会にて職務に勤しむ執事オットーとシスターディードに挨拶するウェンディとディエチ。

「ウェンディ姉様、ディエチ姉様」
「ふたりともごぶさた」

ちょうどお茶の準備をしていたオットーとディエチは、二人を椅子に座らせ、ディードが尋ねる。

「他の皆さんは?」
「チンク姉は騎士カリムとシスターシャッハんとこ、なんかお話だって」
「ヴィヴィオとノーヴェはイクスのお見舞い」
「イクス、元気っスか?」

ウェンディに訊かれ、

「健康状態には異常無し、静かにお休みだよ」

お茶をカップに淹れながら答えるオットー。

「陛下やスバルさんもよくお見舞いに来て下さいますし、きっと楽しい夢を見ておいでなのかと」

ディードも茶菓子を用意しながら言う。


その頃、ヴィヴィオとノーヴェは、とある一室にいる少女、イクスの元へお見舞いに来ていた。

イクスヴェリア。
ガレア王国の君主であり、冥王と呼ばれた少女。
彼女はマリアージュという生体兵器を無限に生み出す力があり、その力ゆえ、ずっと苦悩してきたのだが、とある事件の最中、スバルに救出され、彼女にとって望む世界を見た後、機能不全によって眠りについた。
その機能不全は現代の技術による修理ができないらしく、現在聖王教会の保護を受けた彼女は、いつ覚めるともわからない眠りについている。

ヴィヴィオはイクスが眠りにつく前に彼女と対話しており、それから友人になった。
以来、スバル達とともに、よくお見舞いに来ている。

「ごきげんようイクス、お加減良さそうだね?」

ノーヴェとセインが見守る前で、イクスの手を握って話しかけるヴィヴィオ。
イクスは依然として目覚めないが、その寝顔は、安らかなものだった…。





チンクはカリム・グラシアの執務室で、騎士カリム、シスターシャッハに話をしていた。
アクセルは何故か正座させられている。

「お話っていうのは……例の傷害事件の事よね?」
「ええ、我ながら要らぬ心配かとは思ったのですが…」

言いながらコンソールを操作して、写真を出すチンク。
写っていたのはイングヴァルト。

「件の格闘戦技の実力者を狙う襲撃犯、彼女が自称している『覇王』イングヴァルトと言えば…」
「ベルカ戦乱期…諸王時代の王の名ですね」
「はい、時代は異なりますがこちらで保護されているイクスヴェリア陛下や、ヴィヴィオのオリジナルである『最後のゆりかごの聖王』オリヴィエ聖王女殿下とも無縁ではありません」

そこまで言われて、カリムはチンクの言いたいことに気付いた。

「ヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性が?」
「無くはないかと、聖王家のオリヴィエ聖王女、シュトゥラの覇王イングヴァルト、ガレアの冥王イクスヴェリア、いずれも優れた『王』達でしたから…ああもちろん、かつての王達と今の二人は、別人ではあるのですが…」

慌てて両手を振るチンク、
が、

「ええ」
「それを理解しない者もいるという事ですよね」

カリムとシャッハは全てわかっていた。
シャッハは言う。

「とはいえ、『覇王イングヴァルト』は物語にも現れる英傑です、単なる喧嘩好きが、気分で名乗っているだけという可能性も大きいですよ」
「ですね」
「あれはただの喧嘩好きじゃない」
「何?」

チンクとカリム達の話を聞いて正座していたアクセルが口を挟んだ。

「昨日、戦った…………アレは間違い無く、イングヴァルトの覇王流カイザー・アーツだった……それにもう1人…刀を持った妙な男も出て来た」
「成る程……では犯人が捕まるまで、イクスの警戒は強化するわ、ヴィヴィオについては……」
「それはこちらで、私と妹達が、それとなく」
「まあ、それが妥当か」



その頃…………とある砂漠地帯
「ガァァァァァァァ」
「なんやの、こいつ」
「硬てぇ、なんなんだこいつ等」
「魔法も効きませんわ…しまっ!?」
「ヘンテコお嬢様!!」
「ヴィクトー!!」

女性に迫っていた化け物の動きが止まり、
つぎの瞬間………ぐちゃ
生々しい音をたて化け物の腹から刀が突き出した。

「ぐぎゃぁぁぁぁぁ」

化け物は悲痛な叫びをあげて真っ二つにされた。

「全く、街の人間か?」

聞いてきた青年は漆黒の髪にダークパープルの瞳が特徴的だった。

「街ってなんですの?」
「………………………」
「おい、黙りか?」
「辞めや、ハリー、きっと守秘義務なんよ」
「そう言う事だ、じゃあな」

青年は立ち去ろうとしたが、

『待て…崇宏』

青年のデバイスが呼び止める。

「なんだ千冬?」
「あのポニーテールを良く見ろ!!」
「ん?砲撃番長バスターヘッドだと!?」
「オレを知ってんのか?」
「と言う事はそっちの金髪は雷帝・ヴィクトーリア・ダールグリュンか!?」
「私を知ってますの?まさかファン?」
「勘弁してくれ、俺的には剛腕が一番好きだ」
「「へ~」」
「なんだよ?」
「貴方の探し人はあの子ですわ」
「ヴィクト!!辞めてや、ウチ恥ずかしいわ~」
「本当か?」
「マジだぜ、あいつがIM世界代表戦の優勝者、ジークリンデ・エレミアだ」

シュ
パシッ

「君、危ないやないの」

崇宏の無言の拳をジークは止める。

『成る程な、無音拳を止めるか………崇宏が惚れる訳だ』
「惚れ!?」
「黙れ千冬!ふんっ!!」
「しもうた!!」

デバイスのコメントで油断したジークを崇宏が弾き飛ばした。

「ええわ、ウチもやったるで!!」
「来るが良い」

崇宏は刀を構えてジークと対峙する。


1時間後

「君、タフ過ぎや」
「まあな」

激戦を終えた二人は仲良くなり砂の上に寝転んでいた。

「本当にお前は人間か?」
「私もポンコツ不良娘に賛成ですわ」

ヴィクトとハリーが言う様に二人の周りは抉れたり斬撃の後が残り戦争後の有様だった。

「ヴィクトも番長も歳下を虐めたらあかん」

そう言ってジークは崇宏を抱き締める。

「何だ…気付いてたのか?」
『ふっ、流石だな』

崇宏は元の姿に戻った。

「なっ、小学生だと!?」
「か、可愛い~ですわ」
「はぁ、名前は八神 崇宏よろしく」
「崇宏か……オレはハリー・トライベッカって言うんだ…まぁ、好きに呼んでくれ」
「私はヴィクトーリア・ダールグリュンですわ、ヴィクトと呼んで下さいまし」
「ウチはジークリンデ・エレミアや、ジークで良えよ、それより此処は何処なんよ、崇ちゃん」
「此処はアルハザードなんだな」
「「「は?」」」
「いや、だからアルハザード」
「ホンマに?」
「本当だ」
「どうしましょう、帰る手立てが……」
「俺と一緒に帰れば良い、取り敢えずついて来て」
「まぁ、それしかねえか……」





オアシス

「なんだよ…オアシスじゃんか?」
「ヴィクト…ゴメン」

崇宏はそう言うとヴィクトリアの髪を一本引き抜いた。

「痛っ!何をしますの!!」

怒っているヴィクトリアを他所に崇宏はオアシスにヴィクトリアの髪を落とす。
するとオアシスに

「これ、ヴィクトの家や」
「本当だ、ヘンテコお嬢様の家だ」
「なんですってポンコツ不良娘」
「2人共煩い」

崇宏はハリーとヴィクトリアを押した。

「ちょ!?」
「きゃぁぁぁぁぁ」

2人はオアシスに落ちた。

「成る程……これ、転移装置なんや」
「そう言う事、番長とヴィクトにゴメンって言っといて」
「了解や、ほなまたな」

それだけ言うとジークリンデも飛び込んでいった。

『面白い連中だったな』
「確かに、んじゃ、俺等も帰るか」

そう言って崇宏も髪の毛を抜きオアシスに落とし飛び込んだ。






「みんな、ごきげんよう~♪」

お見舞いを終えてきたヴィヴィオは、オットー達に挨拶する。

「ああ、これは陛下」
「陛下、イクス様のお見舞いはもう?」
「うん、ディード、いっぱい話したよ」
「あたしらはもう戻るけどお前らは?」

ウェンディとディエチに訊くノーヴェ

「あーあたしも」
「私はもう少し」

ウェンディが同行し、ディエチは残ることになった。

「陛下、よろしければこれを、自信作のビスケットです」
「わ♪ありがとオットー♪」
「んじゃ、あたしは三人を送ってくるなー」

セインに送られ、ヴィヴィオ、ノーヴェ、ウェンディは、オットー、ディードと別れた。




ノーヴェはヴィヴィオに尋ねた。

「しかしいいのかヴィヴィオ、双子からの陛下呼ばわりは」
「え?」
「前は、『もーっ、陛下って言うの禁止ーっ』……とか言ってたろ」
「あー…まあ、もう慣れちゃったし、あれもふたりなりの敬意と好意の表現だと思うし」
「あいつら、なんかズレてっからなぁ」


ヴィヴィオとノーヴェがそんなやり取りをしている間、セインはウェンディに言う。

「この後はいつもの『アレ』か、ん?ウェンディもやるんだっけ?」
「ま、ふたりにお付き合いっス」





ミッドチルダ中央市街地。
リオとコロナは、待ち合わせをしていた。

「リオ!コロナ!おまたせー!あれ?」

ヴィヴィオはあることに気付く。

「崇宏くんは?」
「わかんない」

答えるリオ。

「そっか…」
「わりぃ、お待たせ~」
「崇宏くん!」
『遅れて済ま無いな、此方もいろいろあってな』
「ううん、全然、あっ、崇宏くんとリオはふたりと初対面だよね?」
「うん、はじめまして!去年の学期末にヴィヴィオさんと友達になりました、リオ・ウェズリーです!」

元気よく挨拶するリオ。

「ヴィヴィオの家で居候している、八神 崇宏です」

崇宏も挨拶した。

「ああ、ノーヴェ・ナカジマと、」
「その妹のウェンディっス♪」

二人も挨拶する。
さらに、コロナが紹介した。

「ウェンディさんはヴィヴィオのお友達で、ノーヴェさんは私達の先生!」
「よ、お師匠様!」

茶化すウェンディ。

「コロナ、先生じゃないっつーの!」

ノーヴェは否定するが、

「先生だよねー?」
「教えてもらってるもん」
「先生って伺ってます!」

三人に言われ、

「ホラ」
「…うっせ」

照れるしかなかった。





中央第四区公民館。
ヴィヴィオ達はストライクアーツという格闘技の練習をするため、練習着に着替えていた。

「でもやっぱ意外~!ヴィヴィオもコロナも文系のイメージだったんだけどなぁ、アクセルなんかは見た目から体育系なのに、テストはいつも上位だし、人は見かけによらないよね」

言ったのはリオ。

「文系だけど、こっちも好きなの」
「わたしは全然、エクササイズレベルだしね」
「ほんと~?」

着替えながら談笑するヴィヴィオ、コロナ、リオ。
そこへ、ノーヴェが来た。

「さ、いくぞー」
「「「はーいっ!」」」

元気よく返事をし、早速練習に入る。
ヴィヴィオ達。

「おお、やるもんだな」
「へー!なかなかいっちょまえっスねぇ」
「だろ?」

ストライクアーツはミッドチルダで最も競技人口の多い格闘技であり、広義では『打撃による徒手格闘技術』総称でもある。

「でもヴィヴィオ、勉強も運動もなんでもできてすごいよねぇー」

ヴィヴィオに拳を放つリオ。

「ぜーんぜん!まだなんにもできないよ、それ言ったらアクセルくんの方がすごいし」

言いながら受け止めるヴィヴィオ。

「自分が何をしたいのか、何ができるのかもよくわからないし」

そのまま、ヴィヴィオはリオと軽く打ち合う。

「だから今はいろいろやってみてるの」
「そっか」

リオはヴィヴィオの蹴りをかわす。
ヴィヴィオは一度打ち込みをやめ、言った。

「リオとコロナと、アクセルくん、それから崇宏くんといろんな事、一緒にできたら嬉しいな。」
「いいね!一緒にやってこう!」

同意するリオ。
コロナも柔らかな笑みを浮かべた。

「さてヴィヴィオ、ぼちぼちやっか?」

そこへ、ノーヴェが来た。

「うん!さー出番だよクリス!」

右手を上げて応えるクリス。

「セイクリッド・ハート!セット・アップ!」

ヴィヴィオは大人モードになった。

「すみません、ここ使わせてもらいまーす」
「失礼しまーす」

お願いして周囲の人々に場所を空けてもらう二人。

「なんかふたりとも注目されてない?」
「ふたりの組み手凄いからねー、リオもきっと、ちょっとびっくりするよ」
「いくよ、ノーヴェ」
「おうよ!」

静まりかえる練習場。

先に仕掛けたのはノーヴェだった。
繰り出されるハイキックとアッパー。
ヴィヴィオはこれをかわして右ストレート。

「ふたりとも、やるもんっスなぁ」
「はい!」

ヴィヴィオとノーヴェ、互いの蹴りがぶつかり合った。



時刻は夜。
ヴィヴィオ達は練習を終え、公民館から出た。

「今日も楽しかったねー」
「てゆーか、びっくりの連続だよー」

楽しげに話すヴィヴィオとリオ。
と、ノーヴェがウェンディに頼む。

「悪ィ、チビ達、送ってってやってくれるか?」
「あ、了解っス、なんかご用事?」
「いや、救助隊、装備調整だって、じゃ、またな」
「「「「おつかれさまでしたー!」」」」

ノーヴェと別れる四人。
そこで、ヴィヴィオにメールが来た。

「アクセルくんからだ」

ヴィヴィオはメールの内容を見る。

『今日は行けなくて御免……………ちょっとシャッハに説教を喰らってて、埋め合わせはするから、本当に御免な』

ヴィヴィオはそれを見て返信した。

「うんわかった、と」

ウェンディが尋ねた。

「どうしたっスか?」
「アクセルくんはシスター・シャッハに怒られてて来れなかったんだって」
「馬鹿だな彼奴」
「崇宏、アクセルに失礼だよ…」
「じゃあ仕方ないね」

崇宏が呆れ、リオが突っ込み、コロナが残念そうに言い、一同はその場をあとにした。





「ただいまー」

ヴィヴィオは帰宅した。
崇宏は途中で忘れ物をしたと公民館に取りに帰った。

「おかえりーヴィヴィオ」

なのはが迎える。

「ママ、これからお風呂?」
「うん、いまフェイトママが入ってるから、そのあとにね」
「ほんと!?それじゃあ……」

ヴィヴィオの顔が輝いた。





フェイトはシャワーを浴びながら、通信でシャーリーことシャリオ・フィニーノと、明日の打ち合わせをしていた。

「フェイトさん、今日も会議と臨検お疲れ様でした。明日も早朝からで申し訳ないんですが」
「ん、大丈夫」
「いつもの所までお迎えにあがりますので!」
「うん、お願いねシャーリー」

フェイトは通信を終わる。

「フェイトママ~♪一緒に入っていいー?」

今度はヴィヴィオの声が聞こえてきた。

「いいよーいらっしゃーい」

フェイトは当然許可する。

「それじゃあ~……」
「「おじゃましまーす」」

ヴィヴィオとなのはが入ってきた。

「な……なのはもッ!?」

真っ赤になって慌てるフェイト。

「ヴィヴィオが一緒がいいって」
「フェイトママ、明日も早いんでしょ?一緒にいられる間は一緒にいようよー」
「…うん、そうだね」

ヴィヴィオの言葉に折れたフェイトは、ヴィヴィオの頭を撫でる。

「フェイトちゃん、久し振りに髪の毛洗ってあげようか?」

なのはの発言に、フェイトは思わず胸を高鳴らせた。

「あー!わたしもー!」

ヴィヴィオも洗いたがった。





「それで、クリスみんなに大人気、かわいいって!」
「ほんと?」

ヴィヴィオ二人のママと一緒に湯船につかりながら、今日の事を話した。
フェイトはヴィヴィオに顔を近付け、こっそり訊く。

「みんな、クリスの正式名称については何か言ってた?」
「やっぱりねーとか、いい名前だねって」

すると、

「なーに、ふたりでナイショ話!」

なのはが水鉄砲を撃ってきた。

「やーん」

思わず顔をそむけるヴィヴィオとフェイト。

「あ…そういえばノーヴェ達が、今度ママ達にお礼したいって、こないだ本局を案内してもらったお礼だって」
「なんだ、そんなこと」
「気にしないでって言っといて」

それからなのはは考える。

「でもほんと、ノーヴェ達もまっすぐ育ってくれてるよね」
「うん……ほんと」

フェイトも同意した。
少し前までは、ノーヴェ達とも敵同士だったのだから、それを思うと、今の状況は、まるで奇跡だ。





一方ノーヴェは、一人夜道を歩いている。

その時、


「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします。」


突然彼女に声がかかった。
ノーヴェが驚いて振り返ると、すぐ近くの街灯の上に、

「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が。」

イングヴァルトが立っていた……。


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