社説

文字サイズ変更

社説:日韓首脳会談 摩擦小さくする知恵を

 まずは無難な2国間外交の滑り出しになったのではないか。野田佳彦首相は韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領とソウルで会談し、未来志向の日韓関係を引き続き目指していくことなどで一致した。困難な課題は少なくないが、さまざまな分野で交流を深めることで両国の絆を一層太くし、摩擦や対立を深刻化させない知恵を双方が出し合っていきたい。

 今回の訪韓は野田首相にとって政権発足後初の、相手国との首脳会談を目的とする外国訪問だった。日本の首相が2国間会談のため訪韓するのは、09年10月の鳩山由紀夫元首相以来2年ぶりのことだ。

 首相がまずどこに外遊するかは、その政権の外交姿勢と密接にからんでいる。初訪米前にアジア諸国をまわって足場固めをした岸信介首相、電撃訪韓で日韓関係重視を強調した中曽根康弘首相、対中関係改善のため中国を初訪問先に選んだ安倍晋三首相。最初の外遊を戦略的に活用した歴代首相は多い。

 中国の台頭で不透明さを増す東アジア情勢などを考える時、野田首相が初外遊先を韓国としたのは賢明な判断だった。民主主義や自由、市場経済といった価値観を共有する韓国との緊密な関係は、日本のアジア外交の基盤でもある。「最も重要な隣国」(野田首相)である韓国との首脳相互訪問はもっと気軽に、頻繁に行われるべきだ。

 野田首相の訪韓に続き、李大統領がシャトル外交の形で年内に訪日することも検討されるようだ。来年は韓国の総選挙や大統領選があり、政治家や世論が反日にふれやすい季節に入るが、首脳同士の信頼関係があれば、摩擦の芽を大きくさせないことも可能になる。今回の首脳会談で竹島の領有権問題や旧日本軍の元従軍慰安婦問題を取り上げなかったのは、双方の政治判断だろう。歴史や領土にかかわる問題は互いのナショナリズムに気を配りつつ、外交問題として先鋭化しないよう慎重に取り扱っていくべきである。

 一方、欧州連合(EU)や米国との自由貿易協定など、グローバル化戦略で先行する韓国への焦りが日本側にあるのは否めない。その遅れを取り戻し、日韓経済連携協定(EPA)を軌道に乗せるためにも、日本は外に開かれた国として生きていくという外交戦略、国家戦略を早急に固めることが必要だろう。

 安全保障でも経済でも、日韓は互いに切り離せない関係だ。東アジアを代表する二つの民主主義国家として、地域の安定にも責任を持っている。政治や経済だけでなく、文化や人的交流も含む両国間のパイをもっと大きくし、摩擦や対立を相対的に小さくする努力を重ねたい。

毎日新聞 2011年10月20日 2時31分

 

PR情報

スポンサーサイト検索

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド

特集企画

東海大学を知る「東海イズム」とは?

東海大学の最先端研究や学内の取り組みを紹介