春先の東日本大震災や秋口の台風被害などによって、収入が伸び悩むJR貨物(小林正明社長)だが、1年半後には大阪地区で2ヵ所の大規模ターミナル駅が完成することにより、東海道・山陽線のコンテナ列車の輸送体系が抜本的に改善される。13年3月に実施予定の梅田駅の吹田、百済への機能移転だ。
現在、東西間の中継貨物は、いったん列車を梅田駅に引き込んでから輸送しているが、吹田貨物ターミナル駅完成後は、本線上のホームを含めた4面のホームでスムーズに捌くことができるようになると同時に、大阪南部の貨物は百済駅に振り分けることで効率化が図られる。また、E&S方式の導入により、締切り時間、引渡し時間が改善されるほか、全国の中規模都市と関西方面の各駅を結ぶ輸送では、中継待ちのロスタイムが減少し、輸送チャンスが大幅に増える効果が期待されている。
また、吹田貨物ターミナル駅は、東京貨物ターミナル駅のように機関区が隣接しており、輸送障害時にもすぐに要員の手配がつくなど、いったん東海道線で輸送障害が発生しても、そこからのダイヤの復旧時間も短くなりそうだ。
●合意に19年、JR発足後26年目に完成へ
JR貨物が吹田貨物ターミナル駅の起工式を行なったのは07年1月。鉄道建設・運輸施設整備支援機構による基盤整備事業の一環として、現在の梅田駅を移転するため、その機能を百済駅と、現在吹田信号場がある吹田操車場跡地に移転させることを目的にしている。
梅田駅の土地が旧国鉄の長期債務返済のために売却されることは87年の国鉄改革時に決まっていたが、地元との調整で移転先がなかなか決まらなかった。98年には吹田操車場跡地への移転計画に関する基本協定書が締結されたが、その後、一部を百済駅にも移転することになり、06年2月の最終的な合意には19年かかった。
吹田操車場はかつて81万平方mの敷地面積を持つ東洋一の操車場で、終戦直後の47年には昭和天皇も行幸に訪れたほどの拠点駅だったが、国鉄末期の86年に廃止された。24時間体制の連結作業による騒音公害などに悩まされていた住民による反対運動で、機能の半分は百済駅に移転させざるをえなかったというわけだ。現在、梅田駅に発着している貨物列車は毎日24本。これをほぼ半々の割合で将来の吹田貨物ターミナル駅と百済駅に振り分けることになる。
JR貨物は02年に北九州貨物ターミナル駅、04年に鹿児島貨物ターミナル駅、06年に鳥栖貨物ターミナル駅と九州地区を中心に貨物駅の整備を進めてきたが、コンテナ列車の長大化(20両→26両)が東京から九州まで可能になった今、いよいよ大阪地区の大規模ターミナル駅が完成することで、メインルートである東海道・山陽線で大幅なダイヤ組み替えが可能になり、コンテナ輸送の抜本的なサービス向上が実現することになる。
●2駅への振り分けで輸送体系が効率化
大阪地区のコンテナ列車は現在、梅田、大阪貨物ターミナル、安治川口、百済の4駅が一体となってサービスを展開しているが、いずれも本線上に無い終端駅であることから、入換え作業やコンテナ中継作業などで時間や労力がかかっていた。これを、東海道線を走る列車が通過している吹田信号場に面した場所に大規模貨物ターミナル駅を誕生させることで、こうした作業を素早く処理すると同時に、大阪南部を主体としたコンテナ貨物は百済駅が受け持つ、という形になる。
百済駅はかつて、車扱貨物を中心に取扱っていたが、梅田駅からの機能移転が決まった後も、その名残ともいうべき荷捌施設が駅のど真ん中に位置していた。これを07年からの基盤整備事業で取壊して線形を整理し、長大コンテナ列車に対応した近代的なコンテナ列車専用のターミナルに生まれ変わろうとしている。最終的には26両編成に対応したホーム2面と20両編成に対応したホーム1面が整備され、「終端の駅ながら一部にE&S方式を採用するなど素早い荷役が可能になる」という。また、駅構内にはコンテナの修理などを行う検修庫や荷捌き施設もあり、使い勝手の良い駅になりそうだ。
吹田貨物ターミナル駅となる現在の信号場周辺は、かつての操車場の名残りであるハンプ(坂)も残っていたが、全面的な改修によって構内を平面に整地するなど大規模な改修工事が行われている。東海道線の本線上にあるため、全国各地から輸送されるコンテナ貨物の中継作業をスムーズに行えることが移転の最大のメリット。例えば、広島・岡山・米子・四国から北海道・新潟・北陸への“行きづらい”ルートが13年以降は少なくなるという。また、E&S方式による荷役で、コンテナの積卸し作業がスムーズになるほか、異常時における途中卸し・トラック代行なども柔軟に行えるようになる。
コンテナホームの工事などはまだ途中だが、構内には倉庫や荷捌場も立ち上がりつつあり、13年には最新鋭の貨物ターミナル駅が誕生する。
●大阪鉄道倉庫の新築倉庫も建設中
現在の梅田駅構内にはグループ会社である大阪鉄道倉庫(河島真砂造社長)が保有する倉庫2棟があり、現在も営業中だが、これも13年春には百済駅と吹田貨物ターミナル駅に機能分散される。
倉庫内まで貨車が入り、荷役も可能な梅田倉庫は百済駅に、やや規模の小さい北倉庫は吹田貨物ターミナル駅の代替え施設にそれぞれ移転する。
このうち大規模なのは百済倉庫。プレキャストPC構造の3階建で延床面積は1万8873平方m(うち定温倉庫は1731平方m)。現在、1階部分が建設中で、完成後は紙製品などを中心に取扱っていく。百済駅の周辺は東部市場があり倉庫街が広がっているが「おそらく地域で最も大きく、最新の設備を誇る倉庫となる」という。
一方、吹田貨物ターミナル駅内にオープンする吹田倉庫は鉄筋コンクリート2階建で延床面積は4445平方m。すでに外装部分は完成間近で、後は内装を完成させればすぐにでもオープン可能なほどだ。隣には紙・パルプなどを運んできたコンテナなどを一時仮置きする荷捌き場もあり、完成後は連携して有機的な使い方も可能になりそうだ。
(2011年10月18日号)
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