桜井淳の原子力界の古い記憶から(3)-原子力界は原子炉等規制法違反の総合商社-
テーマ:ブログ私は原子力界のすべての出来事を知っているわけではありません。わずか四半世紀の経験しかありません。昔のことは、昔の人に聞き、自身で体験したことは、できるだけ、詳細に、あるいは、一般化して記しています。
昔、JCOの土地には、住友原子力の臨界集合体(臨界実験装置とも言う)が設置されていました。臨界集合体とは炉物理実験研究をするための熱出力100W前後の小型原子炉のことです。役割を終えて、解体撤去されましたが、その時に、廃棄物として扱われた放射化されたステンレスの構造材が再利用されてしまい、スプーンとして流通しました。昔はその程度の認識でした。明らかに原子炉等規制法違反です。
その頃、東大病院では、医療に利用した放射性同位元素が東大構内の地中に投棄されるという出来事がありました。放射性同位元素の法的管理は、めんどうであるため、担当の医師は、何を錯覚したのか知りませんが、構内の地中に生めて知らん顔をしていました。明らかに原子炉等規制法違反です。
東大は、1970年代初め、東海村の原子力工学研究施設の弥生炉で、無届けの中性子・ガンマ線スカイシャイン実験を行いました。明らかに原子炉等規制法違反です。遮蔽研究者はみなこの件を知っていました。しかし、触れないようにしてきました。
東大は、そればかりか、1980年代初めに、弥生炉のパルス運転の際、認可された原子炉出力をいくぶん超える実験を行いました。明らかに原子炉等規制法違反です。私は、この件について、2009年に、文科省をとおして、弥生炉の運転日誌と原子炉出力チャートの提示を求めました。しかし、「法的な記録保存期間が10年であるため記録が残ってない」という回答でした。日本にいくつもない研究用原子炉の運転日誌と運転記録は、教材としても貴重であり、捨てる人などひとりもいません。原研では永久保存しています。東大は原子炉等規制法違反の証拠を隠蔽しました。いまでも保存されています。
私はあることに気づきました。原子炉スクラムの発生については新聞の茨城版に掲載されます。研究用原子炉のスクラムは、個々の原子炉とも、年間数回くらい報じられていました。しかし、起動回数が研究炉よりも一桁多い臨界集合体のスクラム発生は、1件も報じられていませんでした。人間がいくら注意しても誤操作やノイズなので、必ず発生します。報じられていないということは、発生していないということではなく、経験からして、隠蔽していると直感しました。明らかに原子炉等規制法違反です。
知り合いの協力を得て、大学・原研・サイクル機構の臨界集合体(KUCA、TCA、FCA)と研究用原子炉(弥生炉、KUR、JRR-3M、JRR-4、JMTR、常陽)、さらに、電力九社の発電炉のスクラム発生と無届例を調査しました。原子炉等規制法違反となる無届例は予想どおりの数でした。電力九社は計十数件、大学は計十数件、サイクル機構は数件、原研は計数十件におよびました。
新聞にも掲載されましたが、2000年代後半、文科省は、管轄対象機関のものだけ、スクラム無届例を公表しました。京大炉計数件、原研の軽水臨界実験装置TCA計十数件、同高速炉臨界実験装置FCA計数件でした。文科省の公表基準は原子炉等規制法で定められている記録保存期間の10年間でした。なお、東電不祥事の際の社内調査によって、東電については、計2件が公表されました。
しかし、私の調査によると、少なくとも、四半世紀遡ったならば、いずれの組織においても、公表された数字の数倍に達します。原子力界は原子炉等規制法違反の総合商社です。JCOとそれら組織の違反はみな同一次元のものです。違いは事故になったか否かだけです。
研究炉のスクラムは、正しく報告され、臨界実験装置のスクラムが隠される原因は、非常に単純です。研究炉は、いくつかの課室からなる50名くらいの大きな組織であるため、炉の起動と停止が誰にでも分かるような体制になっています。それに対して、臨界実験装置は、1日に数名程度しか出入りしない隔離されたような小さな施設であるため、密室状態になっていて、隠しやすい条件がそろっています。そこに携わっている人たちの倫理観だけに頼っていました。スクラムの原因は操作ミスと老朽化(接触不良やノイズ)です。
各組織が、いくらスクラムを隠しても、年1回実施される監督官庁検査官立会いの定期点検の際、安全系の作動確認だけでなく、運転日誌・核計装チャート・放射線モニターチャートのチェックもありますから、検査官に解読能力があれば、すぐに分かります。実際には、それらを机の上に並べて、必要資料がそろっていることを確認するだけで、運転日誌と核計装チャートの一致性などの解読まで行っていません。検査官にそれだけの能力がありません。そのため、四半世紀にわたって、日本で100件くらいのスクラム無届という原子炉等規制法違反が野放しになっていました。
JCO臨界事故の際、原研東海研所長のTさんは、原研の過去の数十件のスクラム無届による原子炉等規制法違反に気づかず、原子力施設の安全管理について、新聞などのインタビューにおいて、現実と遊離した理想論を述べていましたが、あまりにも大きな現実との落差に、直視していられませんでした。