(前回から読む)
2004年の春、私は、ある人物を介して「19兆円の請求書―止まらない核燃料サイクル」と題した「内部告発文書」を受け取った。A4判で25頁にわたって、大きな文字でわかりやすく核燃料サイクルが「無用の長物」になったことがしたためられていた。
このまま「プルサーマル計画」が進めば19兆円を注ぎ込み、電気料金や税金に化けて国民にツケが回るという。作成したのは、後世に途方もない負担を残すことに危機感を募らせた経産省の現役官僚だ。9電力の地域独占体制に風穴をあけ、ブラックボックスだらけの電力供給システムを「透明化」したいという意思も伝わってきた。
青森県六ヶ所村の再処理工場でのプルトニウム抽出試験の開始まで秒読みの段階だった。試験が始まれば、後戻りはできない。いまから思えば、ひとつの転機だった。
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(文中敬称略)
原子力発電には「使用済み核燃料(高レベル放射性廃棄物)」の処理(バックエンド)問題が、影法師のようにつきまとう。しかも、適正な解答は、見出されていない。
原発は「トイレのないマンション」といわれる。使用済み核燃料の処理方法が確立されていないからだ。原発は自ら出した汚物にまみれて、雪隠詰めになる怖れがある。
そもそも使用済み核燃料の処理は、ワンスルー方式(1回限りの使い捨て埋設)とリサイクル方式に大別される。日本は資源の有効利用をタテマエとして、後者を選び、最初の原子力長期計画1956から「核燃料サイクル」を国内で確立する方針を掲げてきた。
「夢の原子炉」という筋書きの破綻
使用済み燃料は、再処理してプルトニウムを分離、回収。MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合燃料)をこしらえる。それを「高速増殖炉(FBR)」に回して稼働させる。高速増殖炉は消費した核燃料よりも多くの核燃料が得られ、そのうえ軍事転用も可能なプルトニウムを生成できるとあって「夢の原子炉」と呼ばれてきた。67年の原子力長計では高速増殖炉を80年代後半に「実用化すること」を目標と定めた。
ところが、この筋書きは破綻した。
高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」は、初発電から4カ月足らずの1995年12月、ナトリウム漏出火災事故を引き起こす。管轄する動力炉・核燃料サイクル事業団(動燃・現日本原子力研究開発機構)の事故後のビデオ公開が「情報隠ぺい」と糾弾され、長期間の運転停止を強いられた。
高速増殖炉のメドが立たないとみた政府は、90年代末に稼動中の軽水炉でMOX燃料を燃やすプルサーマルへと方針を切り替える。プルサーマル導入に際し、資源の活用、エネルギー自給率の向上、余ったプルトニウムを持たないという国際公約の遵守などの利点を自民党政権はしきりにアピールした。
だが、MOX燃料を使うプルサーマル計画には経済性の欠如、重大な事故発生の危険、再処理をしても利用できるプルトニウムは使用済み核燃料のわずか1〜2%(燃え残りウランは溜まり続ける)といった欠点が次々と浮上する。