2011年10月18日10時15分
■内山朋香さん(29)=体組成計の基礎研究
短時間で体脂肪率などが表示される体組成計は、身体に微弱な電流を流して得られた電気抵抗値(インピーダンス)を測る。抵抗値を使い、別の方法で得た実測値を推定するための数式を生み出すのが仕事だ。
お茶の水女子大で生活工学を専攻し、4年生で具体的な研究テーマを選ぶ際に、足が不自由な祖母が床ずれに悩んでいることを思い出した。床ずれは、同じ姿勢を続けて患部の血流が滞るのが原因だ。生体の電気抵抗値で血流量などを推計し、変化を読み取って床ずれを予防できないかというテーマがあった。これが体組成計と同じ、「生体電気インピーダンス法」を研究するきっかけだった。
床ずれ研究は、修士課程で動物実験の直前まで進んだ。研究を進めるうち「自分のアイデアが製品化され、人々の健康に役立ったらどれほどうれしいか」と思い、就活は、健康、福祉、医療関連のメーカーに絞り約20社にエントリーした。面接では、逆境でもあきらめない粘り強さを強調した。ライバル社との2社から内定を得て、2007年に入社。同時に社会人学生として博士課程にも進み、今春、博士号を取得した。
体脂肪、骨、筋肉の量は、2種類のX線を使うDEXA(デクサ)法で正確に測れる。同時に電気抵抗値も測り、抵抗値を入力すると実測値とほぼ同じ値になるような計算式を作り上げる。筋肉量なら、身長の2乗を抵抗値で割った数値が実測値と相関があることが知られており、相関が強くなるよう数式に補正を繰り返す。例えば、割り算する項目に体重の3乗で割った数値を使うと、実測値との相関関係が高まるといった具合だ。
入社後、絶対値を測りにくい内臓脂肪を研究の中心に据えた。抵抗値をもとに数式を作ろうとしても、DEXA法のような実測値が存在しない。そこで股から胸までの、1人の患者で30〜40枚にのぼるCTスキャン画像から内臓脂肪量を算出、自ら実測値のデータベースを作った。被曝(ひばく)量が多いためふさわしい画像は集まりにくく、医療機関の協力で3年かけて400人分近くを集めた。この実測値に合う数値が出る変換式を編み出し、09年に学会で発表した。
07年から厚労省に協力、筋ジストロフィー患者の筋肉量を電気抵抗値から推計する研究にも携わる。筋ジス患者の筋肉量はCTやMRI画像から測るしかなく、現在は筋力から推定している。のべ50人の患者の実測された筋肉量と電気抵抗値をもとに推定式を編み出し、病状を簡易に確認する手段として注目が集まる。
自分の研究をもとにした製品が店頭に並ぶ姿は、残念だがまだ実現していない。「一日も早く実現させ、一人前の開発者として認められたい」
(文・畑川剛毅 写真・郭允)
■こんな会社
【社員数】184人(うち女性50人)【今春入社】院修了3人(同1人)大卒3人(同1人)【給与】大卒初任給非公開、35歳モデル賃金非公開、平均年収非公開【平均勤続年数(平均年齢)】14.6年(39.9歳)【女性管理職数】3人【有給休暇消化率】約70%
1944年設立。本社は東京都板橋区。家庭用・業務用の体組成計、活動量計などの計測計量機器の製造・販売が主業務。来春入社は内定済み。3年後の新卒定着率は100%。1食500キロカロリーの定食を提供する社員食堂を運営。
■採用担当から
二瓶琢史・総務部長の話 新卒採用は技術系のみで毎年数人程度。部長4〜5人による面接が実質的な選考の場です。技術者としてだけでなく、1人で二、三役こなせる幅の広い人材を求めます。