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解説書:原子力-原子力防災

4.原子力防災への備え

事業者、国、自治体における平常時の対策を解説しています。例えば、原子力災害が発生した際の指揮及び調整を行う拠点となるオフサイトセンターや文部科学省非常災害対策センター等の概要も紹介しています。その他、関連機関における原子力防災のための各種技術支援、研修などの活動が紹介されています。

キーワード:オフサイトセンター 原子力防災の技術


平常時の備え

a)事業者

事業者は地方自治体と協議して「原子力事業者防災業務計画」を作成し、その要旨を公表する。

事業者は、原子力災害の発生や拡大を未然に防ぐための組織を設け、原子力防災要員を置く。また、「原子力防災管理者」を選任し、国、地方自治体に届け出る。

原子力施設に異常が発生した際に状況を的確に把握できるよう、事業者はモニタリングポストなどの放射線測定設備を設置している。また、防護服、非常用通信機材などを備え付け、いつでも使えるよう保守点検をしている。事業者が平常時も測定している放射線の数値は、地方自治体に報告し公表する。

b)国

文部科学省と経済産業省には、「原子力防災専門官」が置かれている。原子力防災専門官は、原子力施設のある地域に常駐しており、ふだんは事業者に対して、防災に関して指導・助言し、地方自治体と連携して防災に備えた活動をしている。

事故が発生した際、周辺の住民の被ばくを低減するための防護措置を短時間に効率良く行うために、あらかじめ異常事態の発生を仮定し、施設の特性を踏まえて、その影響の及ぶ可能性のある範囲を「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲」(EPZ:Emergency Planning Zone)として定めている。原子力施設の種類ごとのEPZを表4-1に示す。

原子力緊急事態を想定した総合防災訓練は、国、地方自治体、事業者が共同して行う。この訓練の対象や時期などの計画は国が立案する。

<<表4-1>>原子力施設の種類ごとのEPZのめやす
施設の種類 EPZのめやすの距離(半径)
試験研究の用に供する原子炉施設(50MW以下) 熱出力≦1kW 約50m
1kW<熱出力≦100kW 約100m
100kW<熱出力≦10MW 約500m
10MW<熱出力≦50MW 約1500m
特殊な条件の施設 個別に決定(※1)
加工施設および臨界量以上の核燃料物質を使用する使用施設 核燃料物質(質量管理、形状管理、幾何学的安全配置などによる厳格な臨界防止策が講じられている状態で静的に貯蔵されているものを除く)を臨界量(※2)以上使用する施設であって、以下のいずれかの状況に該当するもの
  • 不定形状(溶液状、粉末状、気体状)、不定形状(物理的・化学的工程)で取扱う施設
  • 濃縮5%以上のウランを取扱う施設
  • プルトニウムを取扱う施設
約500m
それ以外の施設 約50m
原子力発電所、研究開発段階にある原子炉施設および熱出力が50MWより大きい試験研究の用に供する原子炉施設 約8〜10km
核燃料再処理施設 約5km
廃棄施設 約50km
(※1) 日本原子力研究所JRR-4 約1000m (※2) ウラン(濃縮度5%以上) 700g 235U
  日本原子力研究所HTTR 約200m   ウラン(濃縮度5%未満) 1200g 235U
  日本原子力研究所FCA 約150m   プルトニウム 450g 239Pu
  東芝NCA 約100m        

出典:原子力安全委員会「原子力施設等の防災対策について」

c)地方自治体

地方自治体は「地域(原子力)防災計画」を定め、応急対策に必要な備品を備え、職員の非常参集体制を整備し、日頃から訓練を行う。また、日本原子力研究所などで用意されている研修を受けるなど教育、訓練に努めている。

緊急事態に備えた施設

a)オフサイトセンター

原子力災害発生時に国、地方自治体、事業者および専門家などのさまざまな関係者が一堂に会して情報を共有し、指揮の調整を図るための拠点となる施設が「緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)」である(図4-1)。

<<図4-1>> オフサイトセンターの位置と原子力防災専門官・原子力保安検査官の配置
<<図4-1>> オフサイトセンターの位置と原子力防災専門官・原子力保安検査官の配置
出典:旧(財)原子力発電技術機構 防災センター パンフレットより作成

b)非常災害対策センター

文部科学省「非常災害対策センター」は、原子力災害時には原子力災害対策本部を、自然災害時においては非常災害対策本部を設置するための施設である。原子力災害時には、関係機関と連携して活動を遂行するための専用の通信機材などを整備している(図4-2)。

<<図4-2>> 文部科学省 非常災害対策センター
<<図4-2>> 文部科学省 非常災害対策センター
出典:文部科学省HP「環境防災Nネット」より作成

c)原子力緊急時支援・研修センター

「原子力緊急時支援・研修センター」は、緊急時に対応にあたる国、地方自治体、事業者などの防災関係者に対して技術的に支援するために、日本原子力研究所および核燃料サイクル開発機構が設けている機関である。この活動拠点として、茨城県ひたちなか市と福井県敦賀市にセンターを設置し、平常時には関係者に対し研修をしている。事故時には、オフサイトセンターとネットワークを通じて情報を共有し、中央官庁や現地の専門家と連携を図りながら、技術的な助言を行う(写真)。

原子力緊急時支援・研修センター

原子力緊急時支援・研修センター
茨城県ひたちなか市
茨城県ひたちなか市
写真提供:核燃料サイクル開発機構

原子力緊急時支援・研修センター
情報集約エリア
情報集約エリア

d)防災技術センター

「防災技術センター」は、緊急時には地方公共団体の防災活動を支援し、平常時には原子力防災に関する調査研究や防災研修を行うための拠点として、(財)原子力安全技術センターが青森県六ヶ所村に設置したものである(写真)。

防災技術センター(青森県六ヶ所村)
防災技術センター(青森県六ヶ所村)
写真提供:(財)原子力安全技術センター

原子力防災の技術

a)SPEEDI

SPEEDIとは、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)のことである。

SPEEDIは(財)原子力安全技術センターにより管理・運営されており、原子力施設で事故が発生した場合、収集したデータおよび通報された事故情報をもとに、地形や気象を考慮し、放射性物質の大気中濃度および被ばく線量の予測計算を行う。これらの結果は、国、地方自治体およびオフサイトセンターに配信され、防災対策を講じるための重要な情報として活用される(図4-3、図4-4)。

<<図4-3>>SPEEDIネットワークシステム
<<図4-3>>SPEEDIネットワークシステム
出典:文部科学省HP「環境防災Nネット」

<<図4-4>>SPEEDIネットワークシステムによる予測計算結果の例(外部被ばくによる実効線量図形)
<<図4-4>>SPEEDIネットワークシステムによる予測計算結果の例(外部被ばくによる実効線量図形)
出典:(財)原子力安全技術センター「SPEEDI」

b)ERSS

ERSSとは、緊急時対策支援システム(Emergency Response port System)のことである。

ERSSは独立行政法人原子力安全基盤機構(旧(財)原子力発電技術機構)により管理・運営されており、原子力発電所で事故が発生した場合、事業者から送られてくる情報に基づき、原子力発電所の状態を監視し、専門的な知識ベースに基づいて現在の施設の状態を判断し、その後の事故進展を計算機により予測するシステムである(図4-5)。

<<図4-5>>ERSSの構成<<図4-5>>ERSSの構成

c)航空機サーベイシステム

(財)原子力安全技術センターでは、原子力緊急時における放射線モニタリングにおいて、ヘリコプターによる空中モニタリングシステムを開発し、試験研究を行っている。

空中モニタリングは広域性、迅速性において有効な手法であり、以下の2段階により実施される。

第1段階モニタリング 放射性物質の拡散範囲を迅速に把握する(簡易航空機サーベイ)
第2段階モニタリング 事故終息後に詳細に汚染状況を把握する(詳細航空機サーベイ)

なお、簡易航空機サーベイは、原子力防災訓練においても緊急時モニタリング訓練の一環として実施されている。

簡易航空機サーベイシステム

簡易航空機サーベイシステム

簡易航空機サーベイシステム

写真提供:文部科学省HP「環境防災Nネット」

d)防災ロボット

日本原子力研究所と(財)原子力安全技術センターでは、原子力緊急時に事故現場の放射線量などの情報を遠隔操作収集するための防災ロボットを開発し、試験研究を行っている。

防災ロボットを使って情報収集を行うことにより、作業者の被ばく量を減らし、迅速で適切な対応が可能となることが期待されている。

日本原子力研究所の防災ロボットの例
日本原子力研究所の防災ロボットの例
RESQ-A(初期情報収集用)
RESQ-A(初期情報収集用)
日本原子力研究所の防災ロボットの例
RaBOT(放射線耐性型)
RaBOT(放射線耐性型)
写真提供:文部科学省HP「環境防災Nネット」

(財)原子力安全技術センターの防災ロボット
(財)原子力安全技術センターの防災ロボット
防災モニタリングロボット
防災モニタリングロボット

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