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クローズアップ2011:権限争い大阪の陣 府知事・市長ダブル選、来月27日にも

御堂筋で開かれたイベントで談笑する橋下徹大阪府知事(手前右)と平松邦夫大阪市長(手前左)=大阪市中央区で2011年10月9日、後藤由耶撮影
御堂筋で開かれたイベントで談笑する橋下徹大阪府知事(手前右)と平松邦夫大阪市長(手前左)=大阪市中央区で2011年10月9日、後藤由耶撮影

 ◇橋下氏「大阪都」VS平松氏「特別自治市」

 11月27日に想定される大阪府知事選と大阪市長選は、大都市制度のあり方を問いかける選挙戦になりそうだ。大阪府と大阪市を再編し、「大阪都」を目指す橋下徹知事(42)は今回、市長選にくら替えし、都構想に反対する大阪市役所を自ら変えようとしている。全国19の政令市を抱える道府県は14に上り、「二重行政」の弊害は全国共通の課題。大阪ダブル選挙の行方は、今後の地方自治論議にも大きな影響を与えそうだ。【小林慎、大場伸也】

 大阪都構想は大阪府と大阪市を「都」に再編する構想だ。現在24区ある大阪市を8~9の特別自治区に再編し、区長を公選する。都が広域行政を担い、特別自治区は住民に近い行政サービスへと「すみ分け」を図る。橋下知事が率いる首長政党「大阪維新の会」が今年9月、工程や概要をまとめ、ダブル選で勝利すれば、15年度の実現を目指している。

 広域行政に関する権限は都知事1人に集中させ、迅速な政策決定を図る。大阪市内と関西国際空港を結ぶ高速鉄道「なにわ筋線」の建設について、橋下知事は推進派だが、都市計画権限を持つ平松邦夫・大阪市長(62)は慎重姿勢。橋下知事は「大阪全体の指揮官と財布を一本化すれば都市機能が強化され、世界の都市と戦える」と主張する。

 デメリットは特別自治区の間で財政格差が生じることだ。日雇い労働者が集まる同市西成区では、生活保護受給世帯の割合が3割を超える。橋下知事は新たな財政調整制度を設ける方針。しかし、財政リスクが顕在化するほか、議員数が増え、行政コストがふくらむ可能性もある。

 一方、平松市長は「府県集権主義ではなく、基礎自治体の力を強める方向にいくべきだ」と大阪都構想を批判。再選出馬を表明した9月、対案として「特別自治市構想」を打ち出した。特別自治市にすべての権限と財源を集中させ、一体的な都市経営を行う。海外では、カナダ最大の都市・トロントの例がある。

特別自治市のメリットは窓口の一本化により、住民の利便性が向上することだ。国のハローワーク機能の移譲により、就職支援に加え、生活保護の受給や公営住宅への入居などの手続きが1カ所で可能。近隣都市と救急医療などで連携し、効率化や行政サービスの充実も図る。

 ただし、道府県と特別自治市が併存するため、二重行政の解消にはならない。構想は全国19政令市でつくる指定都市市長会が7月にまとめたが、道府県側には慎重論も残る。平松市長自身、特別自治市の実現を目指すものの、自民党府議の反対を受けて、市長選での公約には盛り込まない方針だ。

 ただ、大阪都構想も特別自治市も実現へのハードルは高い。都構想は、地元議会の議決や住民投票での過半数の賛成が必要。両構想とも地方自治法など関連法の改正が必要とみられ、国政を巻き込んだ議論が不可欠になる。

 「大阪市をつぶそうとする人の心が分からない。独裁なんて大阪市には似合わない」

 17日夜、平松市長は大阪市内で開かれた政治資金パーティーで都構想を重ねて批判した。一方、橋下知事はこの日、府庁で記者団に対し「選挙で知事と市長を取れれば、府市再編を図る協議会を作る」とけん制。11月に見込まれるダブル選挙をにらみ、舌戦はすでに始まっている。

 ◇総務相「避けて通れない課題」

 政令市などの大都市と道府県との「二重行政」問題は、大阪だけでなく、全国的な課題になっている。川端達夫総務相は17日、首相の諮問機関「地方制度調査会」の会合で、大都市の行政制度について「各地域でさまざまな意見が提起され、避けて通れない課題だ」と述べ、検討対象にするよう要請。大阪ダブル選挙の結果次第で、国の議論も急展開する可能性が出てきた。

 大都市問題が全国に広がっているのは近年、政令市が急増していることが一因だ。「平成の大合併」後、政令市の基準が人口100万人規模から70万人程度に緩和され、静岡市、堺市、浜松市、新潟市、岡山市、相模原市などが相次いで政令市に移行。道府県の事務権限を一部移譲されている中核市(41市)、特例市(40市)も増え、二重行政の弊害が指摘されるようになった。

 大都市行政の効率化に向け、基礎自治体の権限強化を図る「都構想」を模索する動きも広がっている。新潟で「新潟州」、愛知でも「中京都」構想が浮上。これらの構想に対し、19政令市でつくる指定都市市長会は「市を分割する乱暴な議論」(静岡市長)などと反発している。

 政令市と道府県の権限争いは根が深い。横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の各市は戦後、より権限の強い「特別市」を求めたが、府県側の抵抗で権限を限定した政令市にとどまった経緯があるからだ。指定都市市長会は道府県からの独立を主張し、広域行政を含めた権限や税財源の移譲を求めている。

 地方制度調査会は大都市問題を審議事項に加え、今後、検討を本格化させる見通し。西尾勝会長は「大阪都構想を掲げる橋下徹氏が選挙に勝てば、大都市論議が過熱するのは間違いない」との見方を示す。一方、横浜、川崎、相模原の3政令市を抱える神奈川県は「大阪の動きを受けて、政令市から権限移譲を求める動きが強まっている」と警戒している。

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 ◇大阪都構想と特別自治市構想の概要

 ■大阪都構想

・政策決定の迅速化と行政運営の効率化のため、広域行政トップを大阪都知事に一本化

・政令市は解体し、人口30万~50万人規模の「特別自治区」に分割

・特別自治区には中核市並みの権限を与え、公選の区長と区議会を設置

 ■特別自治市構想

・大都市が一体的な都市経営をするため、市域内の地方行政機能を大阪市に一元化

・特別自治市税を新設するなど全ての地方税を賦課徴収し、財源を強化

・近隣都市の行政運営の効率化を図るため、救急医療など一部の行政サービスで連携

毎日新聞 2011年10月18日 東京朝刊

 

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