教養範囲1 … 数学の基礎・他の分野を学ぶのに必須の数学

 集合と位相

松坂和夫 「集合・位相入門」 (岩波書店)

 集合論・位相空間論に関して最低限のことがかかれている本

松村英之 「集合論入門」 (朝倉書店)

 集合の話が他の分野との関連に重きをおいてかかれている.学部以上でよく使う帰納的極限・射影的極限・カテゴリー論の基礎についてもふれてある点が非常に良い.

ブルバキ 「集合論要約」 (東京図書)

 集合論に関する内容が帰納的極限・射影的極限を含めてコンパクトにまとめられている好著

静間良次 「位相」 (サイエンス社)

 位相空間に関する内容がコンパクトにまとめられている好著

ブルバキ 「位相1,2」 (東京図書)

 「位相1」は位相空間についてやや詳しくまとめた後に,一様構造についてかかれている.「位相2」には位相群と実数論が展開されている.特に,将来,代数系を目指す人にはとても役立つ本.

 線形代数


奥元・清水 「問題詳解 線形代数」 (内田老鶴圃)

 数ベクトル空間,行列の理論を中心として2次形式・ジョルダン標準型までをコンパクトにまとめてある本.抽象的な話は少ないが,重要なことはほとんど網羅されている上に全体の構成に調和がある.「問題詳解」とあるが,問題集ではない.ジョルダン標準型の導出は巾零空間による.

永田雅宜 「理系のための線型代数の基礎」 (紀伊国屋書店)

 線形性に対する直接的,抽象的な説明がはじめにあり,行列式・連立1次方程式の話はそれを使って行う.後半で計量ベクトル空間,行列のさまざまな標準化を扱い,その中でジョルダン標準型を巾零空間を用いて導く.各章がわかれていて,構成としては非常にわかりやすい.第1章の「行列と1次変換」は線形性の本質がよくわかる良い記述だと思う.

斎藤正彦 「線型代数入門」 (東京大学出版会)

 線形代数の標準的教科書としてかかれた本であるが,そろそろ古くなってきた.本論は第2章からであり,単因子論によるジョルダン標準型までほぼすべての内容が扱われれているが,「大事な定理」がさりげなくかかれていたりして,いまとなってはやはり古さが目立つ本

佐武一郎 「線型代数学」 (裳華房)

 日本の線形代数のアヴェイラブルな本の中で最も内容が充実した本であり,数学者の中にもこの本のファンは多い.全体に成分計算が多いが,後半の「行列の標準化」は非常に充実している上に,日本の線形代数の本の弱点ともいえる多重線型代数についても「テンソル代数」の章が割かれている.腰をすえてやるのに最適の本だと思う.

ブルバキ 「代数2,3」 (東京大学出版会)

 専門家にとっての線形代数とは「加群の理論」のことであり,「ホモロジー代数」のことである.日本の線形代数の本は「多重線型代数の記述がほとんどない」,「線形空間の帰納的極限(順極限)・射影的極限(逆極限)の説明がない」,「テンソルの右完全性・Homの左完全性などがかかれていない」など学部レベルの本を読もうとすると困ることが多い部分について,この本は明確に答えてくれる.ただし,はじめて線形代数を勉強する人が読める本ではないと思う.

演習書・啓蒙書

 線型代数の演習については,簡単な問題集を1冊やれば十分であろう.また,

   山内・杉浦 「連続群論入門」 (培風館)
   佐武一郎  「リー群の話」 (日本評論社)


は線型代数続論のような本であり,特に前者は物理を学ぶ人などがよく読む本である.
 ジョルダン標準型の導出については,「PID上の加群の理論」として上記佐武「リー群の話」にコンパクトにまとめられているが,

   堀田良之 「代数入門 群と加群」 (裳華房)

にはもう少し丁寧に説明されている.


 微分積分法(1変数)

田島一郎 「解析入門」 (岩波全書)

 実数論,イプシロン−デルタ論法,1変数の微分法・積分法について,高校数学と大学数学がどのように違うのかを丁寧に解説してくれるすばらしい本.イプシロン−デルタ論法がどうしてもしっくりこないという人には「イプシロン−デルタ」(数学ワンポイント双書 共立出版)がわかりやすい好著である.

高木貞治 「解析概論」 (岩波書店)

 日本の数学書の中でもダントツのベストセラーといえる本.他の本と較べるといかにわかりやすいかを実感する.特に,第5章の「解析関数,とくに初等関数」は秀逸であり,ぜひ1度は読んでみるべきである.一部やや古い記述があるものの素晴らしさはいまだ変わらない.

笠原晧司 「微分積分学」 (サイエンス社)

 微分積分法の教科書としては珍しく,解析学(常微分方程式論)の専門家によって書かれた本.微分・積分を真っ向から扱った本であり,初学者にはややとっつきにくい記述もあるが,第3章「無限小解析」,第4章「関数列の収束」という展開は,いかにも「解析屋」という展開である.同著者の「対話微分積分学」(現代数学社)も素晴らしい内容の面白い本である.

小平邦彦 「解析入門」 (岩波書店)

 フィールズ賞受賞者による高木貞治「解析概論」のノートという感じの本であり,ほぼ同じ順序で,より詳しく,少し現代的に書かれている.小平先生らしく,非常に正確で緻密な論理展開でややくどい論理で展開されていく本であり,  第1章「実数」,第7章「積分法(多変数)」は正直くどすぎる.
 高木「解析概論」の第5章に対応する章がないのが残念であり,また,「解析
概論」に較べるとかなり読みにくい.小平「複素解析」,「複素多様体論」(岩波基礎数学)と読みすすむ予定のある人には悪くないかもしれないという程度.

W.Rudin "Principles of Mathematical Analysis" (McGRAW-HILL)

 実解析入門に必要な内容がRn上の微分形式・ルベーグ積分までコンパクトにまとめられている素晴らしい本であり.複素解析が扱われていないのが少し残念であるが,邦書にはない論理的簡明さのある素晴らしい本.かなり昔に訳本が出ているが訳語が古いのでこちらはあまりつかえない.

演習書・啓蒙書

 大学における1変数の微分積分学は,極限を真っ向から扱うため,何が公理で あり,どの定理を使ってよいのかという論理的な展開を覚えておく必要があるため,自分の力で解いて練習をしなければ理解することが難しく,簡単な問題集を1冊こなす必要がある.問題数は足りないが,著者の思い入れの伝わってくる印象深い問題集としては

   住友洸 「大学1年生の微積分」 (現代数学社)

がある.簡単な問題集を1冊こなした後に読んでみるとよいであろう.(最近同著者による上記の書の改訂増補版ともいえる「微分積分マスター30題」が出版されたが目を通していないのでこちらの良し悪しはよくわからない.)
 また,大学数学の特徴である「機能性を重視した概念・定義」(コンパクト性の定義など)を独学で理解していくには,
   
   森毅  「現代の古典解析」 (現代数学社)

が良い本であり,ぜひ1度は読んでほしい本である.

 微分積分法(多変数)

高木貞治 「解析概論」 (岩波書店)

 多変数の微分積分法に関しては標準的な内容である.

笠原晧司 「微分積分学」 (サイエンス社)

 多変数の微分積分法に関しては線形代数を縦横に使って理論展開していく.解析概論よりも現代的に扱われている.

小平邦彦 「解析入門」 (岩波書店)

 微分積分法(1変数)を参照のこと

W.Rudin "Principles of Mathematical Analysis" (McGRAW-HILL)

 線形代数を縦横に使っていて,多変数の微分積分法に関しても非常によくまとまっている.

演習書・啓蒙書


 多変数の微分積分法を理解するには線形代数の知識が必須である.本格的に理解するには,微積分の後に,ベクトル解析・多様体論と順番に学んでいくとよい.また,線形代数がどのように使われているのかという点については

   森毅  「現代の古典解析」 (現代数学社)

が参考になるであろう.

教養範囲2 … 応用数学の基礎

 ベクトル解析

横田一郎 「わかりやすい ベクトル解析」 (現代数学社)

細かいミスが目につくが,多変数の多変数値関数の理論であるベクトル解析を数学的にオーソドックスに展開する本.特に,よく使われる3次元のベクトル解析は微分形式を使って理論を一般化する際に問題点が出てくるが,この辺の解説がみごとに展開される.

スピヴァック 「多変数解析学」 (東京図書)


 グリーン・ストークスの定理の証明を目標に,微分形式を中心とした理論が簡潔に展開されている古くて新しい古典的名著.微分積分法続論としては素晴らしい書.

戸田盛和 「ベクトル解析」 (岩波書店)

 物理などの人向けに計算しながらベクトル解析を使うことに重点をおいて書いてある好著.曲線論・曲面論・ベクトル場の微分と積分と必要十分な理論展開で非常にわかりやすい.

岩堀長慶 「ベクトル解析」 (裳華房)

 ベクトル解析の本としてはむかしから有名な本.が参考になるであろう.物理などでテンソル解析の計算が必要な人には重宝するのだと思う.(←この本は私は読んでいないので実はよくわからない.)

演習書・啓蒙書

 ベクトル解析は,理論的にも

   ベクトル値関数の微積分 … ストークスの定理が目標
   曲面論         … 基本形式やガウス曲率

の2つの側面があるが,前者については

   森 毅   「ベクトル解析」 (日本評論社)
   志賀浩二  「ベクトル解析30講」 (朝倉書店)
   山崎圭次郎 「現代微積分」 (現代数学社)

がそれぞれ特色のある興味深い本である.後者の曲面論については
           
   長野 正 「曲面の数学」
   砂田利一 「曲面の幾何」 (岩波書店)
   佐々木重夫「微分幾何学I」 (岩波基礎数学)の最初の数十ページ

あたりを読むとよいであろう.

 常微分方程式

笠原晧司 「微分方程式の基礎」 (朝倉書店)

 第1章で微分方程式の初等解法を扱ったのち,第2章で解の存在と一意性,第3章,第4章で線形微分方程式を扱い,第5章で特異点,第6章では解の安定性他を扱う数学的に常微分方程式を扱う際のオーソドックスな理論展開を紹介する教科書という感じの本である.やや誤植が多いのが気になるが教科書としてや良い本であろう.同著者による「新微分方程式対話」(現代数学社)は,「微分方程式の理論は何を論じているのか?」という問いに対話を通じて応えてくれる面白い本である.

藤田 宏 「解析入門V」 (岩波基礎数学)

 第3章,第4章において常微分方程式の初等解法および線形微分方程式の理論
がコンパクトにまとめられている.

吉野崇・長澤壮之 「基礎課程 微分方程式」 (培風館)

 微分方程式の初等解法に重点をおいた100頁ほどの教科書であり,数理科学に微分方程式を応用する人には重宝するであろう.より初等的な教養レベルの本としては,
   石村園子 「すぐわかる微分方程式」 (東京図書)
   笠原晧司 「現代応用数学の基礎 微分方程式」 (日本評論社)
がある.

演習書・啓蒙書

 微分方程式の数学的理論は,初等解法からやや離れたところに重点があるため,応用を主眼に考えている人は演習書やいわゆる応用数学のための本を中心に勉強していくしかないであろう.
 物理への応用に関しては

   寺沢寛一 「自然科学者のための数学概論 基礎編」 (培風館)
   クーラン・ヒルベルト 「数理物理学の方法1〜4」 (東京図書)
   加藤敏夫・吉田耕作 「応用数学I」 (裳華房)
     
等が古典的名著として有名であるが私はやっていないので何ともいえない.特に,加藤・吉田は不朽の名著ときく.また,

   吉田耕作 「微分方程式の解法」 (岩波全書)

は本格的な微分方程式の教科書である.
 実特異点理論入門としては

   アーノルド 「常微分方程式」 (現代数学社)

も良い本であると思うが,程度はかなり高いと思う.

 フーリエ解析

入江昭二・垣田高夫 「フーリエの方法」 (内田老鶴圃)

 第1章では,フーリエ級数の必要性を歴史的に熱伝導方程式の解法を通じてしっかりと議論し,第2章でフーリエ変換・フーリエ積分に関して考察するコンパクトな本.ルベーグ積分の知識がなくとも読める本.

藤田 宏 「解析入門V」 (岩波基礎数学)

 第1章でフーリエ級数,第2章でフーリエ変換をコンパクトにまとめる教科書的な本である.ルベーグ積分の知識がなくてもよめる.

長瀬道弘・斎藤誠慈 「フーリエ解析へのアプローチ」 (裳華房)

 フーリエ級数・フーリエ変換を微分方程式の解法に用いることを主眼にした応用数学のための本である.数学的な正確さを犠牲にしているものの,応用を主眼とする人で数学的な誤りは気にならないという人には良い本であろう.

演習書・啓蒙書

 ルベーグ積分を既知としてフーリエ解析の有用性を理解するには
   伊藤清三 「ルベーグ積分」 (裳華房)
が古典的名著であるが,この本は一応学部レベルの本かと考えてここではあげなかった.また,実解析のさまざまな数学的現象に対して,フーリエ級数,フーリエ変換がどのようにあらわれているかをゆったりと論じる本としては,

   ケルナー 「フーリエ解析大全(上・下)」 (朝倉書店)
   (T.W.Kormer "Fourier Analysis", Cambridge University Press)     H.Dym,H.P.McKean "Fourier Series and Integrals" 
   (Academic Press)

などが非常に有名な本であり,ゆったりと読むと非常に面白い本である.

 複素解析

アールフォルス 「複素解析」 (現代数学社)

複素解析といえば「アールフォルス」と言われるほど有名な世界的教科書.前半のコーシーの積分定理が出て来るまではかなり冗長で読み難いものがあるが,後半の部分は他の本にはない詳しさと素晴らしさがある.コーシーの積分定理は複素解析の枠内でのグルサ流の証明を用いる本.

笠原乾吉 「複素解析」 (実教出版)

 全編を通じて「正則関数とは何か?」という問いに答えていく本で,グリーン・ストークスの定理を用いてコーシーの積分定理をあっという間に証明して,あとはそれを使った議論が続く.1次分数変換,ポアンカレ計量,楕円関数と複素解析を用いて何をするのかということがコンパクトにまとまっている好著.リーマン面の理論を早く学びたいという人には良い本

高橋礼司 「新版 複素解析」 (東京大学出版)

 もともとは筑摩書房から出版されていた本の改訂版.理論や証明の要点がかかれていてユニークな本.この本だけで計算ができるようになるとは思えないが,理論構成は非常によくわかる印象に残る本.

小平邦彦 「複素解析」 (岩波基礎数学選書)

 もともと岩波基礎数学から3分冊として出版されていたもの.コーシーの積分定理までの部分がホモトピーで書かれているわりにはとても冗長でなかなか議論がすすまない.後半はリーマン面にあてられている.小平先生の本の雰囲気を知るにはよい本.

演習書・啓蒙書

 整数論などで計算をしていると複素解析の計算がいかに大切なものかを実感する.しかし,複素解析の入門書ではDirichlet級数の計算などは出てこないので,その際にしっかりと計算できるように演習が非常に重要である.余力がある人は整数論の入門書(セールの"Cours d'arithmetique" (「数論講義」)などがおすすめですが,邦訳には訳語の間違いがいくつもあります.)のL関数,特に,算術級数定理の証明などを見てみるとよいでしょう.

   能代 清 「初等関数論演習」 (培風館)
   辻・小松 「大学演習新書 関数論」 (裳華房)

等を高校の参考書をやるような感じでやるのがよいと思う.

 これから書く予定のもの

大学教養範囲2  代数概論
          幾何概論(曲面論,微分幾何入門)

学部範囲1    <代数学>
             群論
             体論
             可換環論
         <幾何学>
             多様体論
             連続群論概論
             リー群とリー環概論
             代数的位相幾何
         <実解析学>
             ルベーグ積分
             関数解析
             偏微分方程式と物理数学
         <複素解析学(1変数)>
            リーマン面論

学部範囲2    <手法>
             加群とホモロジー代数
             層の理論
             カテゴリー論
             代数幾何学入門
             整数論入門  
             代数解析学入門
             偏微分方程式論入門 
             確率論入門
             複素多様体論入門
             多変数関数論入門
             連続群論・リー群
             ホモトピー論