2009.4.2.
樹状細胞療法により、がん細胞を
攻撃できるとすると、当然、
正常細胞も攻撃されます。
とても、単純至極、当然の話なのです。
何も知らない ウブ な樹状細胞がいたとします。
WT1ペプチドというのが、敵なのよ、と教え込みます。
ほら、WT1ペプチドをみつけたら殺すのよ、と。
(実際には、樹状細胞が直接、がん細胞を攻撃するのではなく、
WT1ペプチドを認識するキラーT細胞を誘導する、
というステップがあることになっておりますが)
さて、がん患者さんの体内で、WT1ペプチドを探してみましょう。
もう、いたるところに存在しています。
一気に攻撃しましょう!!
ところが。
その大半は、正常細胞なのです。
ある細胞は、WT1をポツポツともっています。
別の細胞は、さっきの細胞の1万倍もWT1ペプチドをもっています。
ということは、1万倍もってる細胞の方を攻撃する確率は高い、ですね。
そして、1万倍もってるのが、がん細胞である可能性が高いのです。
細胞1個ずつに注目すると、がん細胞の方が、正常細胞よりも
沢山、WT1ペプチドをもっている、顕著な差がある、としてもですよ。
細胞総数で言えば、どうでしょう。
圧倒的に正常細胞の方が、数が多いのです。
樹状細胞によって訓練された殺し屋T細胞(CTL)は、
どうやって、がん細胞と正常細胞を区別するのでしょうか?
できないのです。
WT1ペプチドは、正常細胞の場合、抗原提示されていないんだ、
と、言われていてます。 ひょっとして、本当にそうなのかもしれませんが、
この言い回しは、過去、何度も繰り返されたことです。
体内の全ての正常細胞を調べるのは容易ではありません。
とりあえず、いくつか調べた正常細胞では、抗原提示されていない、
と思って実際に人体に投与すると、全身、いたるところで反応して
しまった、、、、
特定物質に特異的に反応する、のです。
ところが、がん細胞にのみ存在し、正常細胞には存在しない
そんな都合のいい物質はみつかっておらず、WT1もまた、
かつて数多、期待を集めては裏切っていったオンコジーンの
産物と同じなのです。
特定物質に特異的に反応する限り、
がん細胞と正常細胞を見分けることはできない
のです。
NK細胞は、特定物質に依存せず、
「がん細胞を特異的に認識」する
只一の存在です。
特異性といっても、物質に対する特異性ではなく、
細胞に対する特異性でなければ、
がん治療には使い難いのです。
細胞に対する特異性でなければ、
がん治療には使い難いのです。
抗体医薬品ハーセプチン。
よく、標的物質であるHER2抗原陽性の患者さんしか、
使えない、という言い方をする人がいますが、
それは正確ではありません。
HER2抗原強陽性のがん細胞である場合に
使うことができるのです。
少し陽性、程度では、正常細胞との差が少なく、
投与された抗体が、圧倒的に大量に存在する正常細胞に
吸収され、がん細胞に届くのが、ごく僅かになってしまいます。
では、強陽性であれば、抗体が、がん細胞だけに集まるのか、というと、
そんなことはありません。やっぱり、正常細胞にも抗体を取られてしまいます。
そうであっても、抗体の場合は、結合したといっても、細胞が「増殖信号」を
受け取るアンテナを塞いでいるだけなので、
細胞が直ちに殺されることはありません。
ADCC活性(NK細胞を刺激する働き)がある、といっても、
NK細胞は、がん細胞しか殺しません。
NK細胞は、抗体が結合しているかどうかで、がん細胞か正常細胞かを
識別することはありません。
NK細胞は、抗体が結合しているがん細胞 を、激しく攻撃し、
抗体が結合している正常細胞は無視します。
ところが、抗体と違って、CTLの場合は、標的細胞を殺してしまいます。
抗体が、正常細胞のアンテナにひっかっているだけなのとは、訳が違います。
ほんとに、樹状細胞療法によって、WT1ペプチドを認識し、攻撃する
CTL軍団が育成されるのであれば、あちこちで、WT1を持つ正常細胞が、
CTLによって殺されてしまいます。
標的細胞を殺さない抗体医薬品でさえ、使用にあたっては、
患者さん、一人ひとりの、がん細胞の性質を調べるのですよ。
さあ、大変なことになりました。
樹状細胞療法を実施するには、
きっちりと、患者さん一人ひとりの、がん細胞や
正常細胞の抗原の型や、発現量を調べてから
実施しないと、とんでもないことになる!!!
いえいえ、大丈夫でしょう。
強い免疫抑制状態にある、がん患者さんの体内に、
樹状細胞を投与しても、キラーT細胞は眠っています。
何も起こらないでしょう、ご安心ください。
ちなみに、久留米大学で、テーラーメードな
がんワクチン療法の治験参加受付が始まりました。
こちらは、同じペプチド抗原であっても、個人個人の
HLAタイプが、ある決まった性質の人でないと、
うまくCTLを誘導できない、としています。
最初から、治療を受付ない人もいるのです、
と、きっちりとHP上で説明しておられます。
これは、かなり前進ですね。
ただ、治療対象になる人は、限られてしまいます。
また、正常細胞を攻撃しない保証はないこと、
更に、免疫抑制を打破する仕掛けがないことに
かわりはありません。
久留米大学さんは、NK細胞の重要性はよく認識
しておられますが、所謂、大学研究用の活性の低い
NK細胞しかご存知ないようです。
オープンなマインドをお持ちならば、フルに活性化された
NK細胞がどれ程、強力なものか、一度、評価して
もらえばいいのですが、まあ、今、新しい治験を
始めたばかりで、そんなことをやる余裕はないでしょう。
さて、真面目な話。
T細胞は、時として、正常細胞を攻撃します。
キラーT細胞が、正常組織に浸潤して、激しく
正常細胞を殺すことがあります。
自己免疫疾患の類は、概ね、獲得免疫系の暴走です。
もともと、獲得免疫は、個体差、つまりAさんの獲得免疫系は、
Bさんの細胞に対して、敏感に反応し、排除しようとします。
目印が違っていれば、相手が正常細胞であっても、攻撃するのです。
そんな獲得免疫に、がん細胞にも正常細胞にも存在する物質を
標的として教え込んで攻撃させる、というのは、発想からして、
無茶苦茶です。
一方、自然免疫は、正常か異常かを識別しますが、誰の細胞かは
無頓着です。 AさんのNK細胞は、Aさんのがん細胞であれ、Bさんの
がん細胞であれ、異常細胞であれば、攻撃します。 ところが、Bさんの
正常細胞と一緒にしても、知らん顔してます。
他人の精子を受精した受精卵は、獲得免疫だったら排除するでしょうが、
自然免疫は、他人が混じったものであれ、受精卵という正常細胞は保護します。
NK細胞が、包み込み、静かに、子宮粘膜に着床させます。
ところが、自分の細胞であっても、がん細胞には容赦しませんし、
オタマジャクシの尻尾のように、もう要らない、となった正常細胞を
片っ端から攻撃し、排除します。 自然免疫は、「生きる」のに
必要なものと、要らないもの、邪魔なものを識別するのです。
獲得免疫は、本人と他人の差に敏感なのです。
そのため、正常細胞であっても、毛色の違う名札をつけていると、
殺してしまうのです。
獲得免疫に勝手に人工的な抗原を覚えこませて、正常か異常かを
区別できない戦闘細胞をつくることが、どれ程、危険なことか、
お分かりいただけたでしょうか。
映画「ターミネーター」でいえば、獲得免疫は、インプットされた標的をひたすら
攻撃するロボットです。 自然免疫は、いちいち教えられなくても、本能的に
敵を認識し、警告を発する犬なのです。
獲得免疫系の免疫細胞療法の中でも、特定の物質に
対する特異性に拘るタイプのものは、たまたま、今のところ、
対する特異性に拘るタイプのものは、たまたま、今のところ、
戦闘力が弱いがために、害がないだけです。
これから、技術が進歩すると、がんも殺せるようになるかもしれませんが、
今の「考え方」のままでは、正常細胞も襲う日がくることになります。