2008年3月2日
705 日韓の春
2月25日、李明博(イ・ミョンバク)韓国新大統領の就任式典に参加しました。式典終了直後から雪が降り出すような厳寒のソウルでしたが、6万人もの人々が集まった国会前広場には熱気があふれていました。
就任演説の冒頭、李大統領は招待に応じ出席した盧武鉉、金大中、金泳三、全斗煥といった歴代大統領に対して謝意を述べました。混乱の中での大統領交代劇を繰り返してきた国にとっては、異例の光景だったのではないでしょうか。国全体が一丸となって一流国家をめざそうという、新大統領の心憎いばかりの演出でした。
その後、40分ほど力強く決意と抱負を述べた結びに、李大統領は次のように語りかけました。
「尊敬する国民の皆さん。その日の食事さえ難しかった田舎の少年が露天商、苦学生、日雇い労働者、サラリーマンをあまねく経験して大企業の会長、国会議員とソウル市長を務めました。そして大韓民国の大統領になりました。
このように大韓民国は夢を見られる国です。そして、その夢を実現させることができる国です。私は大韓民国の国民皆が夢を持つようになることを望みます。そして、それを実現するため、熱心に働くようになることを望みます。
私はこの大切な地にチャンスがあふれるようにしたいのです。貧しくても希望がある国、倒れてもまた立ち上がることのできる国、汗を流し努力した国民ならば誰にも成功の機会が保障される国、そんな国をつくろうと思います。」
こう語り終わった瞬間、会場は万雷の拍手と喝采の声に包まれました。アジアに期待のもてるニューリーダーが誕生したと、強く実感することができました。李大統領は大阪生まれの知日家でもあります。しかも、未来志向の実利主義者です。後ろ向きの姿勢が強かった盧前政権下で冷え込んでしまった日韓関係でしたが、春の訪れを予感できました。
翌26日は、新大統領と中曽根康弘元内閣総理大臣との会談に、陪席することができました。世界のリーダーだった大先輩が、アジアのニューリーダーに帝王学を授けるかのような会談でした。中曽根元総理は、
「外交は国のトップの仕事です。外務大臣はアシスタントにすぎません」
「日本、韓国、中国の3首脳会議を定期的に開きなさい。あなたがイニシアチブをとるのがいいでしょう」など、ご自身の経験を踏まえて、数多くの助言をしました。李大統領は、真剣な眼差しで耳を傾けていました。そして、最後に「元総理が韓国にお越しの際は、必ずお会いさせていただきます」と、固く約束しました。国が異なる新旧のリーダーですが、お互いに尊敬の念を持っていることがよくわかった感動的な会談でした。改めて、大勲位おそるべしだと思いました。
平成20年3月2日 野田よしひこ
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