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2011/10/17

ストックホルム症候群 -水樹奈々 自伝「深愛」について-

「ストックホルム症候群」という概念がある。誘拐や監禁の被害者が、極限状態の中で犯人に同情や連帯感を抱くようになることであり、1973年にスウェーデンのストックホルム市で起きた銀行強盗において、1週間に及ぶ立てこもりの末に人質が解放されたが、その後、元人質たちが犯人をかばう証言をしたり、警察を非難したりしたほか、元人質の一人が犯人と結婚するに至ったことで注目され、この名が付けられた。

「まるでストックホルム症候群みたいだね」・・・水樹奈々が自分と「先生」との関わりを知り合いに告白した時に言われた言葉だそうだ。

堀越高校芸能科は、所属事務所があることが入学の条件である。彼女の才能を認め、上京して面倒をみることを引き受けた「先生」との二人暮らしでの生活は、厳しいレッスンと同時に、彼女のためなら、会社が倒産しても「自分名義の事務所」を立ち上げてまで面倒を見る熱心さがあった。

その「絆」が同時に「しがらみ」であり、「束縛」でもあることの辛さを心から受け入れるまでに、彼女は数年の歳月を必要とした。そこには「第3者」との関わりが必要だった。

どういう領域でも、密接な「愛に満ちた」師弟関係と言うのは、常識人が一歩踏み込んで聞いたらびっくりするような歪んだ側面を抱え込んでいるものである。

そして、そもそも、そうした「先生」との関わりの様式は、彼女の実の父との関わりが「反復強迫」されたものに他ならないとも言える。

演歌三昧の父から、生まれながらにして「紅白に出場する演歌歌手になること」を期待され、日常生活を拘束されて練習漬けの日々の中で育った彼女の生育歴は、まるで「巨人の星」の一徹と飛雄馬との関係性をなぞるかのようである。

それに加えて、子供時代から歌がうまいと遥かに年上の地元の演歌好きたちに言われて育った「オトナ子供」の彼女は、小学生の頃、周囲から浮いた「変な子」であり、普通の子達から見れば、嫉妬も入り混じった形でいじめの対象ともなることはごく自然な成り行きだろう。思春期に入る前の普通の子供というのは、ある意味では残酷なリアリストである。決して彼女の被害妄想ではない。

ただ、そうした父や「先生」の溺愛と厳しさが、彼女に芯の強さを植えつけたことも、また事実だろう。

本書は、奈々さんが、語り得る範囲で、本音の自分をありのままに描き出した本だと思う。

声優を目指す人達への、先輩としての十分なメッセージにもなっている。

=======以上、私のAmazonレビューの転載========

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コメント

・・・・というわけで、歌手兼声優の奈々さんの自伝について、古狸の帰っ
てきたアニメおたく兼現場カウンセラーの私が、敢えて臨床心理学者とし
ての顔だけで、硬派のレビュー書いてみました。

こちらの方だけで書いておきますと、本文でつかった「反復強迫」とい
うのは、フロイトが言い出した概念で、避けよう避けようとしても、同じ
ような嫌な思いをする重大な対人関係を繰り返し招き寄せることです。

更に言えば、彼女の上京からさほど立たないうちに、お父さんは治療
不可能な域の、進行性の脳梗塞で倒れ、10年間の闘病の末に亡く
なってしまい、彼女は危篤の知らせを聞き駆けつけるのですが、死
に目には会えなかったわけです。

精神分析家のメラニー・クライン風に行えば、彼女にとって、忍び寄る
父の死への不安との戦い、そして実際彼女のライブを見られないま
ま父が息絶えたということは、無意識の次元で父親に感じていた
敵意と攻撃性が、父親を実際に「殺してしまった」というファンタジ
ーを呼び起こしたことになるかもしれません。

これを「抑うつポジション」といいますが、父親という対象喪失から生
じる「喪の過程」の中で、父親を無意識のうちに「再建」しようとする
「償い」の過程が、今度は主体的な形で父親と自分を同一化させ、
父親のいい面を取り入れるという機制につながるかと思います。

その最初の試みが、父の死から一週間後に彼女によって作詞さ
れたという、「深愛」という曲なのだろうということになります。

その曲を、まさに父が夢に観た初の紅白で歌うことになるとい
うのは何とも因縁めいていますが。

父が病気で現実見当識を失って寝たきりになってしまわなかっ
たら、彼女が本格的にタレントとしての道を進む中で色々干渉す
る存在となり、今の水樹奈々はないだろうという逆説があるの
は、彼女が書いたとおりでしょうね。

セクハラ疑いの人を個人特定できるような、情報倫理の欠片もない 書き方には注目しないのは何故ですか?

そこまで書いて、訴えられる危険はないという慎重な判断はなされ
ていると思いますよ。

なぜなら、「どういう」セクハラかについてはただの一言も言及され
ていませんし。

週刊誌が、この記事に飛びついて、す旧ダルとして書きましたか?

週刊誌とか比べたら、この自伝は、比較にならない節度があります。

師弟関係というのは、非常に多くの場合に深い闇を抱えていて、例外ではない、

私の父親や亡き恩師との関係も、まあ、こんなものです。

ありふれていることに気がついていない人のほうが、まだ自分の心
を見つめ切れていないかもしれない。

例えば、会社の上司との関係で、あまり理不尽な中に置かれてい
ると心の底では感じている人は、ごくありふれているでしょう?

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