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社説:TPP参加問題 結論急ぐ必要あるのか
環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加問題が、大詰めを迎えようとしている。野田佳彦首相は、11月12日からハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の前に日本が参加するかどうか結論を出すと明言、関係閣僚会合で議論を急ぐよう指示した。
しかし、どう考えても性急すぎるのではないか。そもそもTPP参加の是非については菅直人前首相が今年6月まで結論を出す方針を示していたが、東日本大震災の影響で判断が先送りとなっていた。被災地では津波や原発事故で農業をはじめとする第1次産業も甚大な打撃を受け、再生への取り組みがやっと本格化したばかりである。
震災前と震災後では国内の状況が一変した中で、野田首相はこのわずか1カ月でTPPについて結論を出すという。しかも、政府は今月中に農林漁業の強化策を打ち出す考えを示すなど、米国の圧力を受けた形で参加への地ならしともみられる動きが活発化してきた。
国民的な議論が十分に行われないまま仮に参加を表明するようなことになれば、農業者らの反発は必至で、復興にも大きな影響を与えかねないだろう。国民が力を合わせて国難に立ち向かっている中、その流れを分断するようなことがあってはならない。結論を急ぐ必要はなく、もっと時間をかけて慎重に議論すべきである。
TPPは原則関税撤廃を掲げており、日本が交渉に参加すれば安い農産品が流入して農業が危機的な状況に陥るとして農業団体などが強く反対している。しかし、問題は農業にとどまらない。協議対象は医療、金融サービスなど計24分野に及び、交渉いかんによっては国内のさまざまな分野で影響を受ける。
それがどのような形で生活に影響を及ぼすのか、現在でも国民の多くはよく分からないのが実情ではないか。参加賛成派は「アジアの成長を取り込むには貿易自由化の推進が不可欠」と言うが、「この時期に貿易をさらに自由化すれば、一層深刻なデフレに陥る」と警鐘を鳴らす経済学者もいる。
加えて、現在の交渉参加9カ国にはアジア経済をリードする中国、韓国は入っておらず、TPPが目指す貿易の枠組みの実効性に対して懐疑的な見方も少なくない。政府は交渉に参加した場合のメリット、デメリットを具体的かつ明確に示すべきで、国民の声を広く吸い上げる努力を怠ってはならない。
オバマ米政権は、米経済を再建するために輸出倍増計画を重点目標に掲げており、TPPに参加するよう日本への働き掛けを強めている。日本国内で賛否両論が渦巻く中、米国の圧力に屈する形で拙速に参加を決めては混乱を招くばかりだ。結論を急ぐ前に復興を軌道に乗せ、日本農業を成長産業にするためのビジョンを示すなど野田政権が行うべきことは多い。
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