貿易の自由化促進か農業保護か。固定化された感のある対立が再び表面化してきた。環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の是非をめぐる問題である。
交渉には米国や豪州など9カ国が参加している。大枠合意を目指すアジア太平洋経済協力会議(APEC)が1カ月後に迫る中、野田政権が政府、与党内の調整を本格化させている。
大枠合意は流動的な面もあるが、政府は11月上旬にも交渉に参加するかどうか結論を出す方針という。だが、賛成、反対派の対立は根深く、調整が難航するのは必至の情勢といえる。
太平洋を囲む国同士で自由貿易圏づくりを進めるTPPの特徴は、関税撤廃に関し原則として例外を認めない点にある。
賛成派は交渉に乗り遅れて取り残されれば、基幹産業の自動車、家電などの輸出で不利益を被ると懸念する。貿易立国として当然の考えだろう。
一方で反対派の主張も理解できる。関税が撤廃されると、海外から安い農産物が流入し農業に大打撃を与える恐れがある。
交渉参加に前向きとされる野田佳彦首相は「農業再生と経済連携の両立を図りたい」とする。確かに資源の少ない日本が進むべき道は、これしかないのではないか。「貿易か、農業か」という二者択一的な議論は非現実的としか言いようがない。
ただ、両立は容易ではない。農業への影響を最小化する対策が不可欠だ。TPP問題に対応する政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は、月内に農林漁業強化の基本方針を策定する。説得力のある方針を示せるかどうかが局面打開の鍵となろう。
TPPには労働、通信分野などの市場開放も含まれる。農業に偏らず、幅広い対象分野でメリット、デメリットを論議することも怠ってはならない。