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スペインの銀行のクレイジーな提案

 スペインというのは世界でもっとも解雇規制がきびしい国のうちのひとつで、この国では社員を一度雇ったらまずクビにすることができません。しかし今回の金融危機でさすがのスペインの銀行もリストラせざるを得ませんでした。そこでこの銀行は社員に次のような提案をしたのです。

 「あなたの夢を実現するためにこれから5年間休暇を取りませんか? その間、今の給料の3割を保障しますし、休暇から戻ってきた時のポジションも保証します」

 この募集に応募した社員は、5年間世界旅行に出かけてもいいですし、他の会社でアルバイトしてもいいですし、(戻る場所が保証されているので)リスクなしで起業にチャレンジしてもいいのです。その間、ずっと会社からお金をもらえます。

 スペインでは社員をクビにすることが不可能なので、不景気で仕事もないのに会社の椅子に一日中座られて、給料を毎月毎月満額請求されてはたまったものではありません。そこでこのようなものすごくいい話を社員に持ちかけて、少しでもコストを減らして金融危機を生き残ろうとしたのです。

 この話を聞いて、アメリカや香港のように簡単に会社が社員のクビを切れる国で働いている僕の友人は「クレイジーだ」と言って大いにうらやましがっていました。僕もこんな条件を提示されたら真っ先に飛びついたことでしょう。

 実際スペインでは、多くの中小企業はばかばかしくて正式に社員を雇いません。社会保険料の負担が重くどんな時でも社員を解雇できないとなれば会社が抱え込むリスクはものすごく大きいからです。結果的にスペインでは形式上は失業者なのに隠れて働いて、証拠が残らない形で裏で現金の給料をもらっている労働者がたくさんいます。

 このようにスペインでは闇労働市場がものすごく発達したのです。そして闇の市場ではふつうの司法制度は機能しませんから、私的な司法機関であるマフィアも大いにうるおうというわけです。 

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藤沢数希 (ふじさわ かずき)

欧米の研究機関にて、計算科学、理論物理学の分野で博士号を取得。科学者として多数の学術論文を世界的なジャーナルに発表する。 その後、外資系投資銀行に転身し、経済動向の予測、リスク管理、トレーディングなどに従事している。 おもな著書に『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』(ダイヤモンド社)がある。言論サイト「アゴラ」のレギュラー執筆陣のひとり。
主催するブログ「金融日記」は月間100万ページビュー 。 http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/
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