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【発明の名称】 |
導電性ポリマー溶液の製法 |
【発明者】 |
【氏名】吉川 均 【氏名】倉本 憲幸 |
【課題】汎用の有機溶剤に可溶で、導電性に優れるとともに、溶解安定性にも優れた導電性ポリマーを得ることができる、導電性ポリマー溶液の製法を提供する。
【解決手段】溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合する導電性ポリマー溶液の製法である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合することを特徴とする導電性ポリマー溶液の製法。 (A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基が、ベンゼン環またはナフタレン環に結合した、上記溶剤に可溶な化合物。 (B)アニリン,およびアルキル基またはオキシアルキル基を有するアニリン誘導体の少なくとも一方からなるモノマー。 (C)0.3〜3.0Nの酸。 【請求項2】 上記(A)成分が、少なくとも1つのアルキル置換基を有し、その炭素数の合計が15〜25である請求項1記載の導電性ポリマー溶液の製法。 【請求項3】 上記(C)成分の酸の混合割合が、上記(B)成分のモノマー1モルに対して、1.0〜30.0モルの範囲である請求項1または2に記載の導電性ポリマー溶液の製法。 【請求項4】 上記(A)成分の上記溶剤に対する溶解度が15%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ポリマー溶液の製法。 【請求項5】 上記溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤が、芳香族系溶剤およびケトン系溶剤の少なくとも一方の溶剤である請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性ポリマー溶液の製法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、導電性ポリマー溶液の製法に関するものであり、詳しくは、電気、電子、材料等の諸分野において、高分子材料表面の導電性化や各種絶縁材料の導電性化、もしくは金属材料の表面被覆等に有用な導電性ポリマー溶液の製法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 一般に、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール等の芳香族系の導電性高分子は、空気中における安定性に優れ、また合成も容易であることから、その活用が注目されている。例えば、これら導電性高分子の中でも、ポリアニリンは、空気中における安定性に特に優れ、また安価な材料であるため、二次電池の正極材料として実用化されている。 【0003】 しかし、従来、上記ポリアニリン等の芳香族系の導電性高分子は、溶媒に不溶、不融であるため、成形性に劣り、その応用分野は限られていた。このため、溶解性の良好な導電性高分子の実現が求められていた。 【0004】 そこで、本発明者は、界面活性剤構造を持ったアニリンを重合してなるポリアニリンが、水や有機溶剤に可溶であることを突き止め、このポリアニリンについてすでに特許出願をしている(特許文献1参照)。 【0005】 しかし、本発明者は、さらに研究を続けた結果、上記ポリアニリンは、メチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系溶剤や、トルエンのような芳香族系溶剤への分散(溶解)性に対する要求に充分に応えられず、求められるような均一溶液になりにくいということを突き止めた。 【0006】 そこで、本発明者は、これらの問題を解決するため、鋭意研究を続けた結果、界面活性剤構造を有する導電性ポリアニリンの溶液であって、上記界面活性剤構造を形成するために用いられる界面活性剤が、分子構造中に、アルキレンエーテルの繰り返し構造を有する導電性ポリアニリンの溶液により、上記問題を解決できることを突き止め、このような導電性ポリアニリン溶液について、先に特許出願した(特許文献2参照)。 【特許文献1】特開平6−279584号公報 【特許文献2】特開2003−277500号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、上記特許文献2に記載の導電性ポリアニリン溶液について、さらに研究を続けた結果、導電性ポリアニリンの溶液を所定時間、例えば、1週間程度放置すると、ポリアニリンの沈殿物が生じる傾向にあることを突き止めた。この沈殿を生じたポリアニリンは、再溶解がやや難しく、したがって、導電性ポリアニリンは、その溶解安定性にやや劣るという傾向がみられる。 【0008】 本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、汎用の有機溶剤に可溶で、導電性に優れるとともに、溶解安定性にも優れた導電性ポリマーを得ることができる、導電性ポリマー溶液の製法の提供をその目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記の目的を達成するために、本発明の導電性ポリマー溶液の製法は、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合するという構成をとる。 (A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基が、ベンゼン環またはナフタレン環に結合した、上記溶剤に可溶な化合物。 (B)アニリン,およびアルキル基またはオキシアルキル基を有するアニリン誘導体の少なくとも一方からなるモノマー。 (C)0.3〜3.0Nの酸。 【0010】 すなわち、本発明者らは、汎用の有機溶剤に可溶で、導電性に優れるとともに、溶解安定性にも優れた導電性ポリマーを得るため、鋭意研究を重ねた。そして、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする特定の溶剤中に、特定の化合物を予め溶解した後、アニリンおよび特定のアニリン誘導体の少なくとも一方のモノマーと、特定濃度の酸とを添加し、これらを攪拌して乳化させることを想起した。このようにすると、上記特定のモノマー中に、上記特定の化合物のスルホン酸構造が導入(ドーピング)され、その後、このスルホン酸構造が導入(ドーピング)された上記モノマーを重合すると、上記特定の化合物から誘導される部分(上記化合物で構成される部分)が、スルホン酸イオンを介して、上記モノマーの重合体(導電性ポリマー)のイオン性部分と強固に結合(イオン結合)するようになると考えられる。すなわち、アニリン等のモノマーの重合体(ポリアニリン等)の「−NH+ 」のようなイオン性部分と、上記化合物のスルホン酸官能基の「SO3 - 」イオンとがイオン結合し、ポリアニリン等と上記化合物とが強固に結合すると考えられる。その結果、得られる導電性ポリマーは、溶解安定性に優れるとともに、有機溶剤に可溶で、導電性にも優れるようになる。しかも、それを湿熱(高湿高温)環境に放置した場合でも、上記強固な結合(イオン結合)によって、導電性ポリマーの凝集現象が殆どみられず、湿熱環境での電気抵抗の変化が少なく、湿熱環境での安定性にも優れるようになる。 【発明の効果】 【0011】 このように、本発明の導電性ポリマー溶液の製法によると、上記特定の化合物から誘導される部分が、スルホン酸イオンを介して、上記モノマーの重合体(導電性ポリマー)のイオン性部分と強固に結合(イオン結合)するようになると考えられる。その結果、得られる導電性ポリマーは、溶解安定性に優れるとともに、有機溶剤に可溶で、導電性にも優れるようになる。しかも、それを湿熱環境に放置した場合でも、上記強固な結合(イオン結合)によって、導電性ポリマーの凝集現象が殆どみられず、湿熱環境での電気抵抗の変化が少なく、湿熱環境での安定性にも優れるようになる。なお、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、少量の有機溶剤で導電性ポリマーを溶解できるため、例えば、この導電性ポリマー溶液を用いて導電性薄膜を作製した場合には、有機溶剤の乾燥時間を短縮でき、また、厚塗りが可能になったり、他のポリマーとブレンドが可能になる等の利点がある。 【0012】 また、上記特定の化合物(A成分)が、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基と、親油性成分とを有し、数平均分子量が368〜30,000の範囲内の化合物(界面活性剤、相溶化剤等)であると、溶剤への溶解性を保つことが容易となり、上記のモノマー(B成分)と、強固な結合(イオン結合)を形成しやすいため、湿熱環境での安定性がさらに向上する。 【0013】 そして、上記の酸(C成分)の混合割合が、上記のモノマー(B成分)1モルに対して、1.0〜30.0モルの範囲であると、上記特定の化合物(A成分)と、上記のモノマー(B成分)の重合体と、のイオン結合が強固になり、湿熱環境での安定性が優れるようになる。 【0014】 また、上記特定の化合物(A成分)の上記溶剤に対する溶解度が15%以上であると、本発明の製法により得られる導電性ポリマーの溶解性が増し、厚塗りが可能になるとともに、乾燥時間の短縮も可能になる。 【0015】 また、上記溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤が、芳香族系溶剤およびケトン系溶剤の少なくとも一方の溶剤であると、上記特定の化合物(A成分)への溶解性が高く、上記の酸(C成分)を混合攪拌する時の乳化が微細になり、均一で強固なスルホン酸基を導入することができるとともに、均一な重合反応が可能になるという効果が得られる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 つぎに、本発明の実施の形態について説明する。 【0017】 本発明の導電性ポリマー溶液の製法は、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤中に、下記の(A)成分を溶解した後、(B)成分と(C)成分とを添加し、これらを乳化させて上記(B)成分のモノマー中に上記(A)成分に由来するスルホン酸構造を導入した後、このスルホン酸構造が導入された上記(B)成分のモノマーを重合するという構成をとる。 (A)スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基が、ベンゼン環またはナフタレン環に結合した、上記溶剤に可溶な化合物。 (B)アニリン,およびアルキル基またはオキシアルキル基を有するアニリン誘導体の少なくとも一方からなるモノマー。 (C)0.3〜3.0Nの酸。 【0018】 本発明では、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤を用い、かつ、特定の化合物(A成分)をドーパントとして用い予め溶解するとともに、特定の酸(C成分)を併用し、モノマー(B成分)の重合時を中心に効率的にA成分をドーピングするのであって、これらが最大の特徴である。 【0019】 ここで、主成分とするとは、上記の溶解性パラメーターを有する溶剤が、C成分を除いた溶剤全体の少なくとも60重量%を占めることをいい、溶剤全体が上記パラメーターを有する溶剤で占められていてもよい。 【0020】 また、本発明において、スルホン酸官能基とは、スルホン酸基およびスルホン酸塩基(スルホン酸ナトリウム塩基,スルホン酸カリウム塩基等のスルホン酸金属塩基や、スルホン酸アンモニウム塩基等)からなる群から選ばれた少なくとも一つの官能基をいう。そして、このスルホン酸官能基は、導入されたモノマー中において、スルホン酸構造(スルホン酸金属塩構造,スルホン酸アンモニウム塩構造等)を形成する。 【0021】 上記特定の化合物(A成分)は、スルホン酸官能基量が0.3〜2.3mmol/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5 〜2.0mmol/gの範囲内である。すなわち、上記の化合物(A成分)のスルホン酸官能基量が0.3mmol/g未満であると、上記のモノマー(B成分)へのスルホン酸構造の導入が行いにくくなるため、湿熱環境での安定性の効果が悪くなる傾向がみられ、また、上記のモノマー(B成分)のみが重合して沈殿が生じる傾向がみられるからである。逆に、上記の化合物(A成分)のスルホン酸官能基量が2.3mmol/gを超えると、溶剤への溶解性が低下する傾向がみられるからである。 【0022】 また、上記スルホン酸官能基量の測定は、例えば、上記の化合物(A成分)をフラスコで燃焼させ、イオンクロマトグラフ法でイオウ元素量を求め、これをスルホン酸官能基量として換算することにより求めることができる。 【0023】 本発明において、上記の化合物(A成分)が溶剤に可溶であるとは、溶解性パラメーターが8.0〜10.0である溶剤を主成分とする溶剤に対する、上記の化合物(A成分)の溶解度が、10%以上であることを意味し、好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。すなわち、溶解度が10%未満であると、重合時の乳化状態が不均一化したり、重合によって得られる導電性ポリマーの、溶液に対する溶解性が悪くなるからである。 【0024】 上記の化合物(A成分)としては、スルホン酸基およびスルホン酸塩基の少なくとも一方のスルホン酸官能基が、ベンゼン環またはナフタレン環に結合した、上記溶剤に可溶な化合物が用いられ、通常、界面活性剤や、相溶化剤として用いられる場合が多い。 【0025】 上記界面活性剤としては、例えば、炭素数4〜18の長鎖アルキル基を少なくとも1つ含むベンゼンスルホン酸(塩)やナフタレンスルホン酸(塩),エーテル基等を少なくとも1つ含むポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸(塩)等があげられる。 【0026】 また、上記界面活性剤としては、具体的には、下記の式(1)で表れるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。 【0027】 【化1】
【0028】 また、上記の化合物(A成分)は、少なくとも1つのアルキル置換基を有し、それらアルキル置換基の炭素数の合計が15〜25であるものが好ましい。 【0029】 上記の化合物(A成分)は、その数平均分子量(Mn)は、368〜30,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは400〜3,000の範囲内である。すなわち、上記の化合物(A成分)の数平均分子量(Mn)が368未満であると、溶剤への溶解性が低下する傾向がみられ、逆に30,000を超えると、モノマー(B成分)へのスルホン酸構造の導入が行いにくくなったり、または合成時の増粘により、均一な重合が行いにくくなる傾向がみられるからである。 【0030】 つぎに、本発明においては、上記の化合物(A成分)とともに、アニリン,およびアルキル基またはオキシアルキル基を有するアニリン誘導体の少なくとも一方からなるモノマー(B成分)が用いられる。 【0031】 上記のアニリン誘導体は、アニリンのベンゼン環に、アルキル基またはオキシアルキル基を置換基として有するものであれば特に限定はなく、炭素数1〜2のアルキル基またはオキシアルキル基が好ましく、特に好ましくは炭素数1〜1のアルキル基またはオキシアルキル基である。上記特定のアニリン誘導体としては、例えば、o−アニシジン、o−トルイジン、2−エチルアニリン、メトキシアニリン、m−アニシジン,m−トルイジン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。 【0032】 前記の化合物(A成分)と、上記のモノマー(B成分)との混合比(モル比)は、A成分/B成分=1/0.5〜1/20.0の範囲内が好ましく、特に好ましくはA成分/B成分=1/5.0〜1/15.0の範囲内である。なお、A成分は、スルホン酸基1つに対する分子量(モル当量)を1モルとして計算する。 【0033】 前記の化合物(A成分)および上記のモノマー(B成分)とともに用いられる酸(C成分)としては、アレニウス,ブレンステッド・ローリー,ルイスの定義にして用いられるものであれば制限はないが、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ素化合物、クロラニル(テトラクロロ−p−ベンゾキノン)等のp−ベンゾキノン構造をもった化合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。 【0034】 上記酸(C成分)の濃度は、0.3〜3.0Nの範囲内であれば特に限定はないが、好ましく0.5〜2.0Nの範囲内である。すなわち、上記酸(C成分)の濃度が0.3N未満であれば、上記特定のモノマー(B成分)へのスルホン酸構造の導入が困難となり、逆に3.0Nを超えると、重合時に、前記化合物(A成分)の分解が生じたり、導電性ポリマーとしての高分子量化が困難になるからである。 【0035】 また、上記酸(C成分)の混合割合は、上記特定のモノマー(B成分)1モルに対して、1.0〜30.0モルの範囲内が好ましく、特に好ましくは12.0〜25.0モルの範囲内である。混合の方法は、重合前に酸の全量をモノマーと混合してもよいし、酸を分割し重合の進行段階に応じて混合してもよい。 【0036】 本発明の導電性ポリマー溶液の製法に用いられる特定の溶剤は、溶解性パラメーター(SP値)が8.0〜10.0である溶剤を主成分とするものである。 【0037】 ここで、溶解性パラメーター(SP値)とは、溶解度係数(solubility parameter)と同義であり、液体間の混合性の尺度となる液体の特性値である。このSP値をδ、液体の分子凝集エネルギーをE、分子容をVとすると、δ=(E/V)1/2 で表される。 【0038】 上記特定の溶剤としては、上述のように、SP値が8.0〜10.0である溶剤を主成分とするものであれば特に限定はなく、SP値が8.0〜10.0である溶剤を、1種もしくは2種以上混合しても差し支えない。また、上記特定の溶剤は、SP値が8.0〜10.0である溶剤(x)のみからなる場合が好ましいが、上記SP値が8.0〜10.0である溶剤(x)と、SP値が8.0未満もしくはSP値が10を超える溶剤(y)とを混合するすることも可能である。この場合、溶剤(y)の割合は、特定の溶剤(混合溶剤)全体の30重量%未満とすることが好ましい。すなわち、SP値が8.0〜10.0である溶剤(x)の割合が少なすぎると、上記特定の化合物(A成分)の溶解性が悪く、特定のモノマー(B成分)へのドーピングが効率的に起こらないからである。なお、上記溶剤(y)としては、例えば、n−ヘキサン(SP値:7.3)、n−ブタノール(SP値:11.4)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(SP値:11.2)、ジメチルスルホキシド(SP値:12.8)、N,N−ジメチルホルムアミド(SP値:11.5)等があげられる。 【0039】 上記SP値が8.0〜10.0である溶剤としては、特に限定はなく、例えば、芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。上記SP値が8.0〜10.0である溶剤としては、好ましくは芳香族系溶剤およびケトン系溶剤の少なくとも一方の溶剤が用いられ、両者を混合する場合の混合比は特に限定されるものではない。 【0040】 上記芳香族系溶剤としては、例えば、トルエン(SP値:8.9)、キシレン(SP値: 8.8)等があげられる。上記ケトン系溶剤としては、例えば、MEK(SP値:9.3)、アセトン(SP値:10)、メチルイソブチルケトン(SP値:8.4)、シクロヘキサノン(SP値:9.9)等があげられる。また、上記エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル(SP値:9.1)、酢酸ブチル(SP値:8.5)等があげられる。上記エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)(SP値:9.5)、エチルセロソルブ(SP値:9.9)、ブチルセロソルブ(SP値:8.9)等があげられる。 【0041】 ここで、本発明の導電性ポリマー溶液の製法について、具体的に説明する。すなわち、溶解性パラメーター(SP値)が8.0〜10.0である溶剤を主成分とする特定の溶剤、好ましくはトルエン等の芳香族系溶剤およびMEK等のケトン系溶剤の少なくとも一方の溶液を準備する。つぎに、上記特定の溶剤中に上記の化合物(A成分)を溶解し、さらに、上記のモノマー(B成分)と、上記の酸(C成分)とをそれぞれ所定量添加し、所定温度(好ましくは−10〜30℃)に調節する。つぎに、この溶液を所定温度(好ましくは2〜10℃)に保ちながら攪拌して乳化させ、上記のモノマー(B成分)中に、上記の化合物(A成分)に由来するスルホン酸構造を導入する。つぎに、過硫酸アンモニウム等の化学酸化剤を所定量加え、所定時間(好ましくは、10〜25時間)重合反応を行うことにより、目的とする導電性ポリマー溶液を得ることができる。 【0042】 また、上記導電性ポリマー溶液に、水やメタノール等の貧溶剤を加えて、未反応物、化学酸化剤や、その分解物等を取り除き(洗浄)、高純度な導電性ポリマーを得た後、これを芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤等の溶剤に溶解させ、静置または遠心分離し、吸引濾過して不溶分を取り出すことにより精製すると、凝集不純物の殆どない均一な導電性ポリマー溶液を得ることができる。 【0043】 なお、本発明の製法において、上記化学酸化剤として過硫酸アンモニウムを用いたが、これに限定するものではなく、過酸化水素水や過酸化ベンゾイル等の過酸化物、クロラニル等のベンゾキノン、塩化第二鉄等の公知の酸化剤を用いることも可能である。 【0044】 このような本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、1週間程度放置しても、凝集のない均一な溶液に保たれていることから、溶液安定性に優れている。また、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液から作製した導電性フィルム(塗膜)は、前述のように、強固な結合(イオン結合)によって、例えば、湿熱環境下に10日間程度放置しても、塗膜中において導電性ポリマーの凝集現象が殆どみられず、湿熱環境での電気抵抗の変化が少なく、湿熱環境での安定性に優れている。 【0045】 本発明の製法により得られる導電性ポリマー(主鎖部分)の数平均分子量(Mn)は、500〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは1,000〜20,000の範囲内である。 【0046】 本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、例えば、ラングミュアーブロジェット(LB)膜形成手法や、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット法、ディップ法、遠心成型法等によって、ポリマー薄膜とすることが可能である。また、ミセル、ベシクル構造を形成する両親媒性物質(界面活性剤)とともに、ミセル、共ベシクルを形成して、ポリマー複合体を形成することも可能である。 【0047】 また、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した場合、その電気抵抗は、1×10-2〜1×1010Ω・cmの範囲内が好ましく、特に好ましくは1×100 〜1×106 Ω・cmの範囲内である。 【0048】 また、本発明の製法により得られる導電性ポリマー溶液は、単独で用いても、他の樹脂やゴム,塗料,無機物と混合した複合物として用いてもよく、その加工性や電気特性の安定性を生かした分野である電気、電子、材料等の諸分野において、特に有用である。具体的には、静電気防止用のコーティング剤、電子写真機器等のプリンター、コピー機に用いられる、ローラ,ベルト,ブレード部材、繊維の処理剤、自動車用燃料ホースの帯電防止材料、二次電池の正極材料、有機薄膜太陽電池や色素増感型太陽電池の電極や活性層材料、防錆塗料、電磁波シールド材、IDタグのアンテナ材料、高分子アクチュエータ、スーパーキャパシターの電極材料、有機EL用材料、有機トランジスタの半導体等に用いることができる。 【実施例】 【0049】 つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 【0050】 〔実施例1〕 (導電性ポリマーの調製) メチルエチルケトン(SP値:9.3)4500mlに、下記の式(2)で表されるジノニルナフタレンスルホン酸(Mn:460.7、スルホン酸基量:2.2mmol/g、メチルエチルケトンへの溶解度15%以上)1モル(スルホン酸官能基換算)を予め溶解し、アニリン1モルを加えた後、1N塩酸15リットル(15モル相当)を加え、この溶液を−5〜0℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記アニリンに、ジノニルナフタレンスルホン酸に由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記アニリン1モルに対して15.0モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。 【0051】 【化2】
【0052】 つぎに、上記導電性ポリマー5gに、トルエン95gを加えて攪拌したところ、トルエンに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は8×101 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は9.0×101 Ω・cmであった。 【0053】 〔実施例2〕 (導電性ポリマーの調製) 酢酸エチル(SP値:9.1)4500mlに、前記式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(3つのアルキル置換基を有し、アルキル置換基の炭素数の合計が20)(Mn:460、スルホン酸基量:2.2mmol/g、酢酸エチルへの溶解度15%以上)1モル(スルホン酸官能基換算)を溶解し、o−アニシジン1モルを加えた後、1N塩酸15リットル(15モル相当)を加え、この溶液を2〜8℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記o−アニシジンに、上記アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩に由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記o−アニシジン1モルに対して15.0モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリo−アニシジン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。 【0054】 つぎに、上記導電性ポリマー5gに、MEK95gを加えて攪拌したところ、MEKに完全に溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は3×102 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は2.2×102 Ω・cmであった。 【0055】 〔実施例3〕 (導電性ポリマーの調製) MIBK(SP値:8.4)4500mlに、ペンタデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(1つのアルキル置換基を有し、アルキル置換基の炭素数の合計が15)(Mn:368、スルホン酸基量:2.7mmol/g、MIBKへの溶解度12%)1モル(スルホン酸官能基換算)を予め溶解し、m−トルイジン1モルを加えた後、1N塩酸15リットル(15モル相当)を加え、この溶液を2〜8℃に保ちながら攪拌して乳化させ、上記m−トルイジンに、上記アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩に由来するスルホン酸構造を導入した。ここで、上記酸(塩酸)の混合割合は、上記m−トルイジン1モルに対して15.0モルである。ついで、酸化剤(過硫酸アンモニウム)1.2モルを加え、20時間重合反応を行った。重合反応が進行するにつれて、ポリm−トルイジン特有の緑色の溶液が得られた。そして、この溶液にメタノールを加え、生じた沈殿を乾燥して導電性ポリマーを得た。 【0056】 つぎに、上記導電性ポリマー3gに、トルエン97gを加えて攪拌したところ、トルエンに25%の溶解度で溶解した導電性ポリマー溶液を得た。この溶解した導電性ポリマー溶液を7日間静置したところ、均一に相溶したままで溶液の状態は変化しなかった。この溶液をSUS板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は3×102 Ω・cmであった。また、この導電性ポリマー塗膜を湿熱環境(80℃×95%)下に10日間放置し、25℃×50%RHの環境下での電気抵抗を、上記と同様にして測定した結果、電気抵抗は2.2×102 Ω・cmであった。 【0057】 〔実施例4〕 実施例2の1N塩酸量15.0リットルを1.5リットルに変え、かつo−アニシジンに代えて2−エチルアニリンを用いたものの電気抵抗は3×104 Ω・cmであり、湿熱環境放置で、3.5×104 Ω・cmとなった。 【0058】 〔比較例1〕 アニリン塩酸塩0.2モルと、水100mlとの混合液に、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.2モルを加えた後、0℃に調節した。つぎに、この溶液を0℃以下に保った状態で攪拌しながら、過硫酸アンモニウム0.25モルを加え、4時間重合反応を行った。溶液は、当初、不均一系であったが、重合反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。ついで、この溶液に、メタノールを加え、ポリアニリンの沈殿物を得た後、JIS K 7194に準じて、電気抵抗を測定した結果、電気抵抗は115Ω・cmであった。 【0059】 つぎに、上記ポリアニリンの沈殿物に、MEKを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとMEKとの相溶性が悪く、均一な溶液とならなかった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み1μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は7800Ω・cmであった。 【0060】 また、上記ポリアニリンの沈殿物に、トルエンを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとトルエンとの相溶性が悪く、均一な溶液とならなかった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は10500Ω・cmであった。 【0061】 〔比較例2〕 特開2003−277500号公報の実施例1に準じて、ポリアニリン溶液を作製した。すなわち、アニリン塩酸塩0.2モルと、水100mlとの混合液に、界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム塩(第一工業製薬社製、ハイテノールNo.8)0.2モルを加えた後、5℃に調節した。つぎに、この溶液を2〜8℃に保った状態で攪拌しながら、過硫酸アンモニウム0.2モルを加え、8時間重合反応を行った。溶液は、当初、不均一系であったが、重合反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。ついで、この溶液に、メタノールを加え、ポリアニリンの沈殿物を得た後、JIS K 7194に準じて、電気抵抗を測定した結果、電気抵抗は35Ω・cmであった。 【0062】 つぎに、上記ポリアニリンの沈殿物に、MEKを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、上澄み部分では、ポリアニリンと、MEKとが相溶し、均一溶液となった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は49Ω・cmであった。また、その上澄み液の7日後の状態は、ポリアニリンの凝集物(沈殿物)が発生しており、再度上記と同様にして塗膜を作製し、電気抵抗を測定したところ2880Ω・cmであった。 【0063】 また、上記ポリアニリンの沈殿物に、トルエンを加えて攪拌し、上澄みを分離させたところ、上澄み部分では、ポリアニリンと、トルエンとが相溶し、均一溶液となった。この上澄み液をガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した後、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の塗膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は120Ω・cmであった。また、その上澄み液の7日後の状態は、ポリアニリンの凝集物(沈殿物)が発生しており、再度上記と同様にして塗膜を作製し、電気抵抗を測定したところ4380Ω・cmであった。 【0064】 上記結果から、全実施例品は、MEKやトルエンとの相溶性に優れるとともに、経時での安定性(溶解安定性)や、導電性に優れていた。また、湿熱環境での安定性に優れていた。 【0065】 これに対して、比較例1品は、MEKやトルエンとの相溶性がやや劣っていた。比較例2品は、MEKやトルエンに対する可溶性は初期的には良好だが、保管による安定性が若干劣っていた。 【産業上の利用可能性】 【0066】 本発明の導電性ポリマー溶液の製法は、電気、電子、材料等の諸分野において、高分子材料表面の導電性化、もしくは各種絶縁材料の導電性化等に有用である。
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【出願人】 |
【識別番号】000219602 【氏名又は名称】東海ゴム工業株式会社 【識別番号】592046507 【氏名又は名称】倉本 憲幸
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【出願日】 |
平成17年8月19日(2005.8.19) |
【代理人】 |
【識別番号】100079382 【弁理士】 【氏名又は名称】西藤 征彦
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【公開番号】 |
特開2007−51247(P2007−51247A) |
【公開日】 |
平成19年3月1日(2007.3.1) |
【出願番号】 |
特願2005−238775(P2005−238775) |
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