きょうの社説 2011年10月18日

◎鈴木大拙館 学びと発信が何よりの顕彰
 金沢市本多町に18日オープンする「鈴木大拙館」は、郷土が生んだ世界的な仏教哲学 者に光を当て、その功績を地域全体で共有し、後世に語り継いでいく重要な施設である。

 「歴史都市」第1号に認定された金沢市では、城下町遺産の文化財指定や伝統的な町並 み保存が進んでいるが、目に見える歴史遺産を磨く取り組みとともに大事なのは、郷土の歴史群像を掘り起こし、いつまでも忘れないように手厚く顕彰することである。それが「歴史都市」の責任と言ってもよいだろう。歴史上の人物とのつながりを強めることは、都市の風格を高めることにもなる。

 欧米に禅の思想を伝えた大拙は、世界的な知名度では群を抜く日本人の一人でありなが ら、その人物像や功績については、国内のみならず、地元でも十分に浸透しているとは言い難い。施設をつくるだけでなく、それを最大限に生かしていくことが何よりの顕彰である。開館を機に、大拙に学び、大拙を内外に発信する取り組みをさらに活発にしていきたい。

 大拙館の整備は金沢経済同友会が2005年に提言して具体化した。金沢には生家跡や 墓所、旧四高(県専門学校)など、ゆかりの場所がいくつもある。住まいのあった鎌倉、活動拠点の京都に劣らず、足跡は色濃く残っている。北陸全体を見渡せば名だたる禅宗寺院があり、大拙が説いた思想の実践の場も豊富である。

 市が施設整備を表明後、大拙ゆかりの人や顕彰団体、米国の財団から、直筆の書や著作 、写真、小物類の寄贈が相次いだが、それは生地に本格的な顕彰施設ができることの期待の表れでもある。大拙を発信する金沢の役割と責任はますます重くなっている。

 台湾で烏山頭ダムを築いた八田與一、世界的化学者で日米交流の懸け橋となった高峰譲 吉など、金沢では郷土の偉人に光を当てることによって、新たな国際交流の実りが生まれている。

 世界に名の知れた大拙であれば、よりスケールの大きな展開も考えられるだろう。ふる さとの財産として生かすためにも、まず地元の人たちが大拙を知ることが大事である。

◎介護職の給与維持 民主党の政権公約どこに
 介護職員の賃金を引き上げるため、自公政権下の2009年度補正予算で設けられた「 介護職員処遇改善交付金」が今年度末で期限切れとなる。厚生労働省は全額国費で賄う同交付金を来年度以降も継続するのは困難と判断し、その補てん策として、大企業のサラリーマンの介護保険料を引き上げる案などを提示した。今後、社会保障審議会などで議論されるが、民主党のマニフェスト(政権公約)に照らし合わせると、疑問もぬぐえない。

 民主党は09年の衆院選マニフェストで、介護労働者の月額給与を4万円引き上げると 明記し、10年の参院選マニフェストでも、引き続き給与の引き上げに取り組むとうたっている。これに基づき、同党の介護保険制度改革ワーキングチームは昨年末、利用者らの負担増を避けながら介護職員の給与水準を維持するため、交付金制度の継続を求めた経緯がある。

 東日本大震災で状況が変化したとはいえ、交付金を打ち切って介護保険料の引き上げや 利用者の一部負担増などの案を厚労省が持ち出す現状は、財源の裏付けのない民主党の政権公約のあてどなさを示すものともいえる。

 介護職員の処遇改善は、一時的な交付金ではなく、しっかりした給与体系の中で実現す るのが望ましいが、民主党は介護職員の給与引き上げをどうやって実現するつもりだったのか、政権公約に関する真摯な説明と反省がまず必要であろう。そうでなければ、厚労省の保険料引き上げ案などは簡単に受け入れられまい。

 重労働の介護職員の賃金は全産業の平均を大幅に下回り、離職率も高いため、09年度 に介護報酬が3%引き上げられた。しかし、それに見合った賃上げに結びつかなかったため、1人当たり月額平均1万5千円を事業者に交付する時限措置がとられた。

 介護労働安定センターの10年度調査では、介護職員の平均月収は約21万6千円で前 年度より約4千円アップした。それでも、全産業平均よりまだまだ低く、離職率は17・8%と前年度(17%)より高くなっている状況である。