環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加問題について、民主党内では積極派と慎重派の溝が埋まらない。野田佳彦代表(首相)になって初めて開かれた先日の全国幹事長会議でも異論が続出した。
政府は11月のアジア太平洋協力会議(APEC)首脳会議までに結論を出す方針のようだ。しかし、党内の意見集約ばかりでなく、農業関係者との合意形成はさらに難航しそうで、先行きは見通せそうにない。
TPPはAPECの一部参加国が締結を目指している自由貿易協定(FTA)で、原則として全物品の関税撤廃を目指す。現在、米国やオーストラリア、ニュージーランド、ベトナムなど9カ国が交渉に参加している。
日本は昨秋、菅直人前首相が所信表明の中で参加への検討を示唆。今年6月までに交渉参加の是非を判断する方針だったが、東日本大震災や政局混乱で十分に議論できていないのが実態である。
ここにきて党内協議を急ぎ始めたのは、先月の日米首脳会談で「早期に結論を出す」と、野田首相が「約束」してきたためだ。
TPPは域内の貿易や投資を自由化しようという経済問題であるが、現状は交渉参加の是非が日米関係を左右しかねないやっかいな問題になっている。このため、「外圧」によって、生煮えな議論のままで結論を急がされているとの印象が否めない。
日本が各国・地域との貿易自由化を推進していこうとの方針は理解できる。
しかし、TPPに中国が参加する可能性は低い。それでも日本にとって最善の経済連携の在り方なのか。日米関係を重視するあまり、他の枠組みを放棄していないか。
TPP参加に疑念や不安、懸念を抱くのは何も農業関係者ばかりではない。なぜTPPを選択するのかを、政府にはきちんと説明する責任がある。国民が判断するのに、今は情報不足である。
自由貿易問題が浮上する都度、焦点となるのが安い農産品の流入で打撃を受けかねない農業対策である。
今回も野田首相は、農林漁業分野の体質強化に向けた基本方針や、行動計画を今月中にまとめるとの意向を農業視察先の群馬県で表明した。
農林水産省幹部は「TPPとは別問題。あくまで農業の衰退に歯止めをかけるための強化策」との受け止めのようだが、TPP交渉参加への環境整備、説得材料にするのが狙いだろう。
農業の再生は、もはやその場しのぎの対症療法では間に合わない。従来の全国一律の農業政策を見直し、各地で地域の特性を生かした農業が成りたつようにしていくことが欠かせない。