東京電力が、福島第一原発の敷地内で作業員に義務付けている全面マスクの着用について、一部緩和を検討していることが分かった。作業員の負担軽減や敷地内の放射性物質の濃度低下を理由にしているが、専門家からは安易に切り替えることには疑問の声も上がっている。 (片山夏子)
現在、作業員は、福島県楢葉町にある作業拠点のJヴィレッジから約二十キロ離れた福島第一に車両で移動する途中、放射性物質を防ぐフィルター付きの全面マスクを装着。原発構内では取り外さないよう指導されている。
この運用を一部緩和し、第一原発の正門から直線距離で約一キロ先にある作業員の前線基地「免震重要棟」に向かう区間は、車両内や徒歩の場合でも顔全体を覆う全面マスクではなく、インフルエンザ防止などで利用される医療用マスクでよい、との内容に変更することが検討されている。
東電は「敷地内の放射性物質の数値は全体的に下がってきた。作業員の心身の負担を軽減できればと検討を始めた」と説明。九月中旬から検討が始まっており、国や関係自治体とも調整したいとしている。
事故直後に比べると、敷地内の放射性物質の濃度は落ち着いている。建屋や敷地では、降り積もった放射性物質の飛散防止剤の散布も進んだ。ただ、放射性物質の放出は完全には止まっていない。
これまでの作業員の高線量被ばくの事例では、外部被ばくよりも、全面マスクの不適切な着用などで放射性物質を吸い込むことによる内部被ばくの割合が、圧倒的に高かった。
立命館大の安斎育郎名誉教授(放射線防護学)は「全面マスクを外しても汚染は心配ないという十分なデータの提示と、実際に外して本当に内部被ばくが無いか調べる必要がある。大地震など緊急事態が起きた時にも、対処できるかどうかの検討も必要」と話した。
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