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社説:視点・暴言の連帯責任 スポーツ権へ配慮を

 スポーツ選手個人が起こした不祥事の責任をチームはどこまで負うべきなのか。

 所属選手が試合中に東日本大震災の被災地を冒とくする発言をした責任をとって、社会人ラグビーの横河武蔵野が来月13日までの1カ月間、ラグビー部の活動を自粛することを決めた。予定されていたリーグ戦4試合を辞退するほか、自粛期間中、部員は週末に被災地に出かけ、ボランティア活動を行う。

 先月25日、被災地の岩手県釜石市を本拠とする釜石シーウェイブスと対戦した際、選手の一人が「お前たち、震災で頭がおかしくなったのか」という内容の暴言を吐いた。関東ラグビー協会は9日付で、この選手を30日間の対外試合出場停止処分、チームを厳重戒告処分にした。

 個人の不祥事がチーム全体に及ぶ連帯責任は日本スポーツ界の慣習と言える。大学の運動部員による不祥事が相次いだ際、ほとんどのチームが対外試合を自粛したことは記憶に新しい。

 数年前の同時期、日本と米国の大学で運動部に所属する選手が強盗事件を起こした。日本の大学が当該選手の退部に加え、歴史ある運動部の廃部にまで踏み切ったのに対し、米国は当該選手の退部処分だけだった。あくまでも個人の犯罪という考え方に基づいた処分で、そこには連帯責任という発想はない。

 日本にも変化の兆しはある。かつて厳格な処分で知られた高校野球は近年、複数部員による組織的な関与が認められない場合、原則として処分は当事者にとどめ、チームの責任は問わなくなっている。不祥事に関与していない部員にまで制裁が及ぶ連座制のような処分は行き過ぎという認識が広がっている。

 法律の後押しもある。今年6月に成立したスポーツ基本法は「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人の権利」とうたう。欧州から遅れること30年余、日本でようやく「スポーツ権」が法律で認められたことの意義は大きい。

 今回の暴言の当事者が処分を受けることに異論はない。だが、チームの活動自粛が結果として、仕事をしながら試合に出るために厳しい練習を続けてきた他の選手たちからスポーツをする権利を奪うことになることを見過ごしてはいけない。

 暴言の事実が発覚後、会社には批判と非難が殺到した。スポーツ支援を社会貢献の柱に位置づけている企業として信頼回復に向けたアクションがチームの活動自粛だったのだろう。だが、スポーツ権の侵害にもつながる連帯責任を安易に問うことには極めて慎重であるべきだ。【論説委員・落合博】

毎日新聞 2011年10月17日 2時30分

 

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