82歳男性が誤って進入したとみられる近鉄額田駅付近の踏切。車は駅を通過し、線路上を爆走した =13日午前、大阪府東大阪市山手町(撮影・頼光和弘)【フォト】
人間、追い詰められると、どんな行動に出るか予測不能。82歳男性も考えるよりまず、アクセルを踏み込んだようだ。
大阪府警枚岡署によると、男性は12日正午ごろ、車で外出した。その後の経路は不明だが、日付が変わった13日午前0時ごろ、東大阪市の近鉄奈良線額田(ぬかた)駅付近の踏切を横断中、右前輪を脱輪したとみられている。
男性は慌てて車をバックしようとしたが、タイヤは空転するばかり。そうこうしているうち「カンカンカン」という音とともに遮断機が下りてしまった。
大パニックに陥ってしまった男性は、苦し紛れに車を前進させ、線路に車を進入させると、「近鉄奈良駅」方面へ向けて走り出した。
近隣住民によると、車が進んだ額田駅から石切駅方向は、生駒山麓を駆け上る急坂で、「左側には大阪市の美しい夜景が見える絶景スポット」というが、男性に夜景を楽しむ余裕などあるはずもなく、「次の踏切から車を脱出させようと必死だったようだ」(捜査関係者)という。
しかし、車とは逆の方向から、回送電車が走行していたため、車が進む方向にあった3つの踏切は遮断機を次々と下ろし、男性の避難を阻んでしまった。
回送電車の運転士が信号で異常に気づき、額田駅構内で電車を停止させると、前方左カーブから車が現れ、線路上を石切駅方面へ走り去っていったという。回送電車とはここですれ違った。
近鉄司令室などが、枚岡署に緊急通報。男性の車はヘッドライトを点灯させたまま、ゴトゴトと1キロ以上も走り続け、石切駅ホーム手前で、ようやく男性駅員に止められた。車から降りた男性は「踏切から、はよ出ないかんと思ったが、そのまま前へ進んでしまった」などと説明。車の前輪タイヤは2本ともパンクしていたという。
枚岡署では過失往来危険容疑もあるとして、男性から事情を聴いたが、悪質性がないと判断し、13日午前に男性を帰宅させた。
近鉄秘書広報部によると、男性の車には、後方から最終の普通電車が迫っていた。「時間にして約6分の余裕があったが、大惨事もあり得る危機一髪の状態でした。事なきを得てよかった」と胸をなで下ろしていた。
奈良線は線路に異常などがなかったため、13日朝から通常運行した。
(紙面から)