【ニューヨーク山科武司】「ウォール街を占拠せよ」を合言葉に、格差の是正を訴える運動が始まって17日で1カ月となる。当初は1000人規模だった運動は、今や日本を含む80カ国以上、951都市(AFP通信)にまで急激に拡大した。発端となった米ニューヨークなどの動きをみると、会員制交流サイトを通した自然発生的な運動で、特定のリーダーがいない--などと特徴付けることができる。
◆ネットで自己増殖
カナダ・バンクーバーの非営利雑誌「アドバスターズ」が呼びかけたこの運動は、参加者がそれぞれ、自らの簡易ブログ・ツイッターやインターネットの会員制交流サイト・フェイスブックで伝えて急速に広まった。
デモ行進や集会では、大勢がビデオカメラを回して動画をネット上に投稿し、動きをツイッターで伝えるのが主な手段となっている。「これしか伝える方法がなかった。だがそれが以前の運動とは異なる強力な手段となった」。初期段階から運動に参加するブロガー、ケリー・ハージーさんは言う。
◆総会で自由に発言
食料供給や広報、医療など役割ごとのグループはあるが、運動に特定のリーダーがいないのも特徴だ。
全員参加で自由に発言する「総会(ゼネラル・アセンブリー)」で今後の活動内容が決まり、その模様は動画サイトで世界中に伝わる。ハージーさんは「透明性は高い。現代のアゴラだ」とたとえる。古代ギリシャの都市国家に設けられ、集会や議論の場となった広場(アゴラ)に総会をなぞらえた。
◆反発の視線も
運動で批判される世界最大の金融街(ウォール街)の富裕層は「表現の自由は尊重しなければならない」(JPモルガン・チェースの最高経営責任者)などと表向きは静観の構えだ。
だが15日付ニューヨーク・タイムズ紙は運動を「薬物やセックスに狂うクズ野郎どもの仕業」と断ずるファンドマネジャーの言葉を紹介。「ニューヨークのトップの1%が税金の40%を払っている」と主張し、運動側の批判は的外れとの声を伝えた。
◆運動の行方
15日にタイムズスクエアに集まった人々が掲げたプラカードを見ても「戦争反対」から「金持ち優遇反対」までさまざま。その多様性がメッセージの分かりにくさとなっている。
ただ、「戦争反対」を訴える人には「無駄な戦費のために、米国の教育費や社会福祉費が不足している」と考える人が少なくない。
少年期に両親とベトナム戦争反対運動に参加して以来、さまざまな運動に関わったというジョナサン・ウィルナーさん(54)は「訴えがこれほどさまざまなのは、それだけ米国が病んでいるのだ。やがて経済問題に収れんすると思う」と語った。AP通信はデモ参加者の言葉として、1960年代の公民権運動も初めは、今回と似て無統制なものだった、と指摘した。
毎日新聞 2011年10月17日 東京朝刊