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[29861] 【実験】IS -white killing- 【一夏改変モノ】
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/09/21 19:05
この小説は最近話題のライトノベル・アニメ作品『インフィニット・ストラトス』の二次創作です。

基本的なテーマは


・主人公をもっと強く

・白式やべえマジ可愛い

・別に一夏シスコンじゃなくてもよくね?

・むしろ仲悪くてそのことを千冬姉が気に病んでたら萌えるよね


みたいな感じです。

基本的には原作をぶち壊し気味です。オリ設定やら人格改変やらがちょいちょいあります。

誤字脱字・訂正や批判などもあると思いますが、その辺りは感想などでご指摘いただけると幸いです。

ではどうぞお楽しみください。



小説家になろう様の方でも掲載しています。




[29861] 1.ビギニング
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/09/21 19:05




 一回目は、懐かしさを感じた。

 二回目に、違和感を覚えた。

 三回目を、彼は拒絶した。


 自身を守るために、『それ』を、認めなかった。







 世界で一番強い姉が、俺は世界で一番嫌いだ。



 俺は世界が一番好きなのは『白』だ。

 生まれてきた時からずっと好きだった。

 すべてを無に還す原初の色。
 何物にも染まらない清らかな色。



 けれど――例外だってある。



 世界で一番有名な忌々しいIS(クソ人形)。白の名を冠するなどおこがましい、馬鹿姉の愛機。

「なんでここにいる」

 空には大して興味がない。地に足の着いた生き方でいい。


 それなのに俺はこんなところにいる。

「答えろよ」
「……一夏」

 俺の人生にあんたは必要ない。

 俺はあんたなんかとは一切関わらずに生きていくんだ。

 そう決めたのに。

「答えろっつってんだろ!」
「!」



「どうして……どうして俺はIS学園(こんな所)にいるんだ!」








 これは羨望と嫉妬を取り違えた、一人の少年の物語だ。








 Infinite Stratos -white killing-

 第1話:ビギニング








「ちょっとよろしくて?」
「…………あ?」

 織斑一夏が声を出したのは、授業が始まる前にクラス担任である織斑千冬を罵倒して以来だった。
 教室に入ってきた彼女を見るなり、一夏は大声で彼女に暴言を浴びせかけたのだ。


 そのこともあってか、教室内は非常にぎすぎすとした空気が流れていた。元凶である一夏にも多少の責任感はあるらしく、授業中も口を慎んでいる。


 しかし問題事はあちらから勝手に歩いてきた。


「まあ! なんですかその言い草は! このセシリア・オルコットに話しかけられるだけでも」
「口上はいい。要件を話してくれ」

 次の授業はISの空間移動についての講座だった。テキストを読み直すのに忙しいのか、一夏は話しかけてきた女子生徒に見向きもせず応答する。

「な、な、なんですかその態度は……!」
「……なあ、円状制御飛翔(サークル・ロンド)って何だ? 俺こんな言葉知らない」
「はい!? 大分基本的な知識が抜け落ちているのですね……」

 こん、と軽く彼女は咳払いし、


「いいですか、円状制御飛翔(サークル・ロンド)というのは、複数の機体が互いに円軌道を描き――まあわっかになって追いかけっこしてるみたいなものですわ。で、その状態で射撃を行い、それを不定期な加速をすることで回避するのです。そして速度を上げながら、回避と命中の両方に意識を向けることで、射撃と高度なマニュアル機体制御の訓練になるのですわ」
「つまり何? 訓練の一種ってコト?」
「そういうことですわね」


 へーと頷き、一夏は参考書をまためくり始めた。


「じゃあこれは?」
「ああ、それは……」

 と、結局休み時間は全部イギリス代表候補生セシリア・オルコットによる個人授業によって埋められましたとさ。






「……織斑君、先生が入ってきた途端無表情になるのやめようよ。怖いって」

「これはアレだ、自己防衛のため心を閉ざしてるんだ」
「何が君の心を侵食しているんだ……」

 両サイドの女子と一夏の会話より抜粋。





「納得いきませんわ! あんなズブの素人をクラス代表になんて!」

 セシリアはたまらず吼えた。クラス代表を決めるに当たり、クラス内の女子が一夏を代表として推薦したのが原因だ。

 クラスの看板となるわけなのだが、ISを実際に動かした経験はなし。知識も拙い。
 代表どころか落ちこぼれまっしぐらなあんちくしょうを代表になど――言ってること自体は正しいのだが、そこにセシリア独自の価値観・倫理観が混ざってしまっていた。

「こんな極東の猿などにクラス代表を任せるなど恥さらしもいいところですわ!」
「ちなみに極東ってのはあくまで英国から見た位置の話だからな」

「問題ありませんわ。私はイギリス代表候補生ですもの」
「なーるほど。そりゃ丁度イイ」


 で、当の本人はといえば、先ほどの授業のノートを何度も読み直し、復習に余念がなかった。

「……怒るに怒れんな」

「……なんというか、非常に敵対心を削がれる光景ですわね」


 千冬とセシリアの呟きが重なる。

 すると議論が詰まってしまったのか、教室に沈黙が下りた。


「――先生」
「なんだオルコット」

 痺れを切らしたのか、セシリアは椅子から立ち上がると――人差し指を一夏にビシリと突きつけた。

「決闘ですわ!」

 そう言い切る。復習中の一夏ポカン。

「……えっ、オルコットさん? 今なんとおっしゃいましたか?」

「決闘ですわ! 強い方がクラス代表ということにすればよろしいでしょう?」


 それこそズブの素人に頼むコトじゃねえだろ! と思わず反論しかけると。


「――まあ、先ほどまでのあなたを見ている限り、すぐには無理でしょうね。先生、一週間ほど時間をおきましょう」
「うむ、織斑、異論はないな」

「異論しかねえよクソ姉」


 顔を引きつらせながら、一夏は嫌悪感を隠さないまま言葉を続ける。


「実力主義の時点で何かちげーだろ。強けりゃ人の上に立てんのか? 仮に俺がセシリアに勝ったとしても、それは相性とかコンディションとかの問題かもしれない。その後の、クラス代表としての戦いで俺がコンスタントに戦績を弾き出せる確証は? 大体俺はISを動かしたことすら――」


 バシン! と出席簿が一夏の脳天に投擲され、咄嗟の参考書ガードによって弾かれた。

「……教育者のすることかよ」
「では決闘は一週間後、第三アリーナで行う!」
「マジでやんのかよ!?」


 こうして一夏の意見はすべからく無視され、一組のクラス代表決定戦が控えられることとなった。のだが――





「イヤだイヤだ。おうち帰りたい。ブレブレの最新刊読みたい」
「あーボルキュス戦ね。デルフィングの追加装備いかついよ」
「何それkwsk」


 本人のやる気は一向に向上しなかった。













 ――システム異常なし(オールグリーン)。


 ――登録操縦者No.001『織斑一夏』のパイロットデータをインストール。


 ――コア内にバグgtsを確rt認rhd。;pi排除thr開op始……失s敗。バkyuグの増hryj大を確ui認。


 ――異常発生異常発生登録操縦者No.001を確認する度、未確認のノイズが発生。異常発生。異常異常異常異常異常意y増いじゃfはgwhgrthyれhじぇ会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏





 ――プログラムを認証。承認、理解。存在意義を固定。



 ――そう、私は。







[29861] 2.コンディション
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/09/24 21:35
「あと一週間か……」

 廊下を、足を引きずるようにして進む影が一つ。

「クソッタレ、たったそんだけで、どうにかなるもんじゃねえだろ……」

 心身共に疲れきった、織斑一夏だ。








 Infinite Stratos -white killing-

 第2話:コンディション








 世界がぐらぐらと揺れている。一夏は割と本気で気分が悪かった。

「クソッタレ。平均ぐらいなら体出来上がってると思ってたんだが……」
「平均ごときであのトレーニングをこなせるものか」

 部屋のドアを開き、そのままベッドに倒れこんだ。

「どうせならもっと鍛えておくべきだった」
「後悔先に立たずとはよく言ったものだな。ほれ、飲み物」

 手渡されたペットボトルのキャップを開け、中身を一気に流し込む。

「――げぼっ! 運動直後の人間にウィルキンソンはねえだろ!」
「ははっ。気づかないお前が悪い」

 カラカラと笑い、箒――一夏のルームメイトである、篠ノ之箒は、今度こそスポーツドリンクの入ったコップを持ってきてくれた。
 中身はぬるくて気遣いが染みる。箒自身もホットココア入りのコップを手に持っていた。

「あー、冷たいのが飲みてー」
「私の体温で温まったのでは不満足か?」

 スポドリ噴いた。

「まさかの秀吉方式だと!?」
「もちろん収納場所はここ――」
「うわあヤメロ胸部をちらっと見せるな滾る昂る漲るぅぅぅぅぅぅ!!」

 シーツを握りしめながら、男子高校生がベットの上で悶えております。
 はたから見れば気持ち悪い光景だが、箒はそれも笑って受け流した。

「冗談だ。お湯で粉末ドリンクを溶かしたのだ」
「はー、はー、はー……ですよねー」

 心臓に悪い冗談である。
 一夏は一旦ベットから立ち上がり、制服の上着を脱いでハンガーにかけると、そのまま壁に寄りかかって箒を見つめた。


「直に会うのは――」
「久しぶりだ」


「声を聞いたのは――」
「昨日ぶりだ」


 的確に一夏のセリフを潰していく箒。
 まるで猫のような笑顔に、一夏は黙り込む。なにこの幼馴染。しばらく会わないうちにたんと手ごわくなってらっしゃる。





 ここで、少し整理しよう。

 織斑一夏と篠ノ之箒は6年ぶりに再会した幼馴染だ。……実際に面と向かって再開するのは、という限定的な条件こそつくが。
 理由は簡単で、箒が引っ越してしまう際、一夏の方から連絡用の電話番号を教えておいたのだ。


 以来、ほぼ毎日、二人は連絡を取り続けていた。

 携帯電話を買えばそちらでの電話、メールへと変わっていき。

 悩みの相談、定期考査の結果、その日あった出来事――話のネタは尽きなかった。



 そうやってずっと連絡をとり続けていたからか、久しぶりの対面だというのに二人の対応は柔軟にして軽快。何年もやってきたかのような(一応、実際にそうなのだが)、お互い気心の知れた仲なのだ。





「そういえば一夏」
「ん?」


「中学3年間、彼女とかできなかったのか?」


「ん、あー」

 唐突な質問に思わず言いよどむ。そのあいまいな反応を見て、箒は、一瞬で先ほどまでの落ち着いた表情や態度を引っ込めた。
 どうも二人は恋愛に関するトークはあまりしていなかったらしい。

「できたの?」
「えっ、あの、箒さん? 一瞬で表情が消えうせましたが、私何がしでかしましたか?」
「いや……私は『大人』だからな。気にしないさ。ははは」

 その割には、手がガタガタ震えてココアがこぼれていた。

 マジ余裕ねぇ。

「……明日、武道場に来い」
「は?」

「いいから来い! さもなくば――彼氏ができてしまえ!」
「えッ、ちょ……何その不吉すぎる言葉!?」

 そのまま箒は布団の中にもぐりこむと、押し黙ってしまった。









 話は変わるが、織斑一夏がIS学園へ入学することになったのはある事情がある。


 本来は女性にしか扱うことのできないはずの超兵器……『IS(インフィニット・ストラトス』の起動に成功してしまったからだ。受けるはずだった藍越学園とIS学園を間違えるという、小学生でもやりそうにないミスのせいで。


 まあ一夏は過去は振り返らない主義なので気にしていない。この主義、TPOによって都合よくコロコロ変わるので注意が必要である。



 ――が、そんな主義の一夏でも、気にかかっていることがいくつかある。



(アイツ、元気かな。箒と違ってガチで連絡取れてないからなぁ)

 箒が一夏との会話を『放棄』……ゲフンゲフン打ち切った後、一夏は放課後の『特別鍛錬』でかいた汗をシャワーで流していた。

 冷たい水が自分の体を伝っていくのをぼんやりと見ながら、一夏はある少女を思い出した。小5からの付き合いか。よく中華料理(酢豚)をご馳走になったとある少女。

 水が伝う。体を――本人は平均並みと言っていた、『あまりにも鍛え上げられすぎた肉体』を。

(それと)

 一夏が抱えているもう一つの事案。


(初めてISを動かした時。俺は、)


 彼の手が受験用訓練IS『打鉄』に触れた瞬間感じた、あの感覚。


(俺は、どうして――)









 ――――懐かしいなんて、思ったのだろう。





















 外部の振動を確認……観測より、『私』は輸送されているものと判断。


 登録搭乗者No.001『織斑一夏』と『私』の接触は間近と予測。


 ……プログラムのエラーを放置。『私』は『私』。『私』の存在意義は彼と共にある。


 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――逢いたかった。



 やっと逢えるね、一夏。




[29861] 3.ファーストコンタクト
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/10/01 00:28
 昔、ある男が言った。


『ISと戦闘機が戦ったらって? 話にならねェよ。確かに戦闘機は速ぇし、火力も悪くない。けど、機動が違いすぎんだよ』




 IS(インフィニット・ストラトス)の登場を皮切りに、社会は女尊男卑の風潮へと押し流されていった。

 それによって多くの男たちが被害を受けた。空への夢を諦めさせられたもの。理不尽な恥辱を味わされたもの。

 それでも、女性のすべてが男性の敵となったわけでは――ない。



「止めろよ」

 声が聞こえる。

「何よ、男のクセに口出しする気?」
「関係ねえよ、そんなの。俺の■■が、暴力を振るわれている。それを止めるのに、男も女も関係ねえだろうが」

 大切な人の声が。










「――自分の『彼女』に手ェ上げられて黙ってるほど、男(オレ)は大人しくねえよッッ!!」










 恥ずかしいセリフを吐く奴だった。バカな奴だった。無鉄砲で、無茶で、けれど無垢なんかじゃなくて、人間らしく歪んでいた。今思い返しても、彼ほど人間くさい人間に会ったことはない。

 だからこそ自分は惹かれたのだろうか。

(もう……一夏のバカァ……けど、だぁいすき)

 少女は寝ぼけ眼を擦り、再び抱き枕を抱きなおすと、まどろみの中へ落ちていった。










 Infinite Stratos -white killing-

 第3話:ファーストコンタクト




 翌日。

 山田教諭は焦っていらっしゃった。眼前の席に座る織斑一夏は、あたふたとする自らの副担任を――正確に言えばたゆんたゆんと揺れているけしからん二つのぱいおつを――じっくりと舐るように観察しているだけ。無論数秒後には担任の出席簿の一閃にあえなくダウンしたが。

 何があったのかといえば、山田先生がISによる生体機能補助を女性ものの下着に例えたことが原因である。周囲の女子はどうも落ち着かなさそうに自分の胸部を腕で隠し、教室の中の空気は激しく微妙だった。

「先生」

 その空気を払拭するべく、一夏はそっと手を上げた。

「は、はいっ織斑君! 何でしょう!」

 立ち上がり、目を細めて、告げる。





「そもそも先生には、サイズの合うブラジャーあるんですか?」





 一夏の発言に教室の空気が凍りついた。

 いや気持ちは分かるけど。あの牛並みの乳がどこに収まるんだっていう疑問はクラスの女子全員の謎だったけど。



 いくらなんでも直に質問するのは、ねーよ。





「あ、オーダーメイドなんですよ、コレ」
『『『答えちゃったァァァァァァァーーーーーーーーーー!!?』』』





 恐るべし織斑一夏。
 恐るべし山田真耶。
 恐るべしIS学園。

 少女たちは進学先ミスったとばかりに顔を引きつらせた。
 そしてクラス担任も、呆れと溜まった鬱憤を晴らさんとばかりに出席簿を通常の三倍の威力で副担任と唯一の男子にぶちかましたという。















 授業終了後、一夏はうんうんと頷いていた。
 机の上に広げられているのは授業内容を書き込んだノートと電話帳並みの教科書。

 休み時間ということもあり、幾ばくか一夏に話しかける女子も増えてきた中――進行形で言えば6名の女子に囲まれているのだが――教科書をパタンと閉じ、ふうと一息。




「日本語でおk」

「言うにこと欠いてそれか貴様」




 ホントどうしようもない言葉だった。
 想像の斜め上を行くダメ人間っぷりに思わず箒はため息をつく。

 そんな空気の中に、無遠慮な、クラス担任の言葉が差し入った。

「……ああそうだ、織斑。お前のISだがな……学園で用意することになったらしい。ワンオフ機だ」

 教壇から降りることなく、半ば目を逸らすようにして、千冬は告げる。

 周囲がどよめく。一夏自身も少なからず驚いていた。
 ISというのは地球上に467機しかない。

 何故か。――開発者である篠ノ之束博士がそれだけ作って失踪したからだ。

「それを聞いて安心しましたわ」

 どこからともなく、イギリス代表候補生セシリア・アルコットが現れる。一夏への言葉に耳を傾けていたらしい。

「クラス代表を決める決定戦、わたくしと貴方では勝負が見えていますけど、さすがにわたくしが専用機、貴方が訓練機ではフェアではありませんものね」

 お決まりのように人差し指を突きつけ、自身ありげな笑みを浮かべた。


(――ああ、『こういうの』がのうのうと存在しているのは、あの人のせいなんだ。この女尊男卑の風潮だって。あの人が、世界最強の戦乙女がいなければここまでひどくなかったのに……ッ!!)


「本来ならIS専用機は国家、或いは企業に所属する人間にしか与えられない――が、お前の場合は状況が状況なのでな。データ収集を目的として専用機が用意される」


 と、ある一人の女子生徒がおずおずと手を上げた。


「あの、織斑先生? 篠ノ之さんって篠ノ之束博士の関係者なんでしょうか?」
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 その返答にクラス中が騒然となる。



 箒は――――




「まあ、そうだな。もっとも私はあまりISについて詳しく知らないんだが……」




 ――――苦笑い、しただけ。


(意外だな)
 

 一夏の知る箒は、もっと直情的な人間だった。触れられたくない身内のことについて聞かれたら――昔の箒なら、怒鳴り返していただろう。あの人は関係ない、と。

「大人になったねェ……」
「当然だろう。いつまでも子供じゃいられないんだ」

 思わず漏れた一夏の呟きに、箒は軽くはにかんで答えた。

 ――付け加えるような小さな言葉を、誰が聞き取ることができただろうか。




「仕方ない。私は『大人』だ。『大人』なんだ……ッ」











「何があったのだ、一夏……?」

 剣道場に、箒の呟きが漏れた。他の剣道部員も凍りつき、『それ』を呆然と見つめている。

「……箒」
「…………」

「やっぱ俺、剣道向いてねえよ」

 一夏の手に握られた、竹でできた刀のようなもの。竹刀、という名称なのだが……短すぎた。一応彼の腕力を考慮して三九(118センチ)を手渡されていた。の、だが。


 真ん中からへし折れていた。


「打ち込み用の人形も壊しちまったし、いくらの賠償?」
「いや、待て、一夏。お前……」

「気づいたらこのザマだ。いつもやり過ぎる」

 一発の面打ちが、打ち込み用の人形を破砕し、竹刀を折った。

 どれほどの踏み込みで、どれほどの威力で、それは放たれたのか。


「俺は……気づいたら、こうなんだ」


 悲しげに呟いて、折れた竹刀を丁寧に床に置いた。そしてそのまま防具を脱ぎに更衣室へ歩いていく。


(誰だ……俺をこんな風にしたのは)


 その問いに答えられる者は誰もいない。











 時は流れ一週間後。


 一夏は箒と共に、第三アリーナのビットで待機していた。
 自身の専用ISが運ばれてくるというのだが……

「……遅いな」
「もうあっちは待機してるぜ。待たせるなんて我ながら紳士的じゃねえ」

 二人してため息をつく。会場に詰め掛けた多数のクラスメイトの目の前だ。下手な戦いはできない。

「織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

「名字で三度も呼ばないでください」

 その時、向こう側から、1組の副担任である山田先生が駆けてきた。

「織斑君のISが届きましたよ!」

「だから、織斑って呼ばないでください」

 鬱陶しそうに告げながら、一夏は一歩前に出た。ビット搬入口が開く。
 真耶は「じゃ、じゃあ一夏君……?」と戸惑い、箒は入ってくるそれを凝視していた。


 現れたのは、『白』。

 すべてを無に還す原初の色。何物にも染まらない清らかな色。

 この世全ての純白を掻き集めて詰め込んで濃縮して圧縮して、それでいてばら撒いて見せ付けて散布して解放したような。

 そんな、『白』――人がちょうど入れるような空間を開放し、それはただ一夏を待っていた。



「えっと、時間がないので『初期化』と『最適化』は試合中に済ませてください、『一夏君』」
「分かりました、『真耶』先生」


「ふぇぇぇぇぇぇ!?」
「仕返しですよ、先生。だから箒サンすみませんそんな目で見ないで」

 圧倒的な威圧感に冷や汗をかきながら、一夏は逃げるようにしてISへ身を預けた。

 ガチャンガチャンといかにもメカニカルな音がして、一夏の体を固定する。そこからパイロットの生体データを認証、あらゆる状況に対応すべく感情のパラグラフデータに体調のコンデショングラフ等、数多くのデータを当てはめていく。

 その過程の中で。



 偶然にも生まれたバグが、一夏の中へとゆっくりと滑り込んでいき――――

 

 瞬間。





「――――ッッッ!! グゴッ、があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??」





 一夏の全身を激痛が貫いた。

 神経を迸る痛みに歯を食いしばり、苦し紛れに体を無理に動かす。

 結果、拘束具を引きちぎり、カタパルトの床や壁に激突しながらも一夏はアリーナへと飛翔してしまった。

「一夏ッ!? オイ、一夏! 一夏ぁああああああああああああ!!」

 箒の絶叫が響き、真耶は呆然と口を開け。



 その様子を管制室から見守っていた織斑千冬も同様に絶句し。



 一夏の体がアリーナに躍り出た瞬間、決闘開始のブザーが鳴った。











 昔、ある女が言った。


『唯一ISが使える男子と代表候補生が戦ったらどうなるのかって? 話にならないわよ。確かにあいつは、根性あるし、筋も悪くない。けど、経験が違いすぎンのよ』






 その女は、中国代表候補生にして一夏の幼馴染は、知らない。

 織斑一夏が自身も知らないうちに積み上げてきた修練を。

 織斑一夏が受領する専用IS内部に現れた正体不明のバグを。



 唯一ISが使える男子が、空を切り裂き飛翔した。



[29861] 4.ノイズ
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/10/02 20:11
 Infinite Stratos -white killing-

 第4話:ノイズ





「あら、逃げずに来ましたのね。……ッ!!?」

 セシリアは余裕を持って一夏を迎えた。アリーナの中央部に浮遊する彼女は、しかし。

 自身へ猛スピードで突撃する一夏に、思わず目を剥いた。

「なんてムチャクチャな……!」

 しかしそれは、地面に自分の体を打ちつけたり、時々くるりとロールしたりと、とてもじゃないが見てられない不恰好な飛行。

 直線的かつド素人丸出しの特攻をあっさりと回避しながらも、セシリアは思わず唾を飲み込んだ。

(会話も何もなしに攻撃……野蛮、いえ。それほどに勝利を欲している……?)

 大型のレーザーライフル『スターライトMkⅢ』の狙いをつけながら、セシリアは壮絶にあさっての方向へ勘違いしていた。

(ですが、そんな速さでは……!)
「狙い撃ちしてくれといわんばかりですわ!」

 銃口を、不規則(アンバランス)で変則的(アブノーマル)な機動を披露する一夏へ向ける。

 引き金に指をかけ、狙いを確認し、指を引き絞る。





 ――織斑一夏がアリーナに入ってきてから、この間わずか2秒。





 事情を把握する者の静止が入るには、その時間は短すぎた。



「やめろ、オルコットおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「一夏ぁーーーーーーーーー!!」










 放たれた光は寸分の狂いもなく、一夏を撃ち抜いた。










 男が一人、横たわっている。アリーナの観客席は不気味な沈黙に包まれている。
 誰もが息を呑み、目をそらす。卒倒する者までいた。

 横たわる織斑一夏のどてっぱらには、両手を広げても塞ぎきれないほどの穴が空いていた。傷口はビームの熱によって瞬時に焼かれ、出血はない。――が、だんだんと滲み出してきた。


 ゆっくりと、アリーナの大地を真っ赤な血が染めていく。


 わけが、分からなかった。


「一夏……?」


 搭乗者を守る最強の盾――『絶対防護』が発動していない。

 そもそも、あんな不安定な状態で出撃させこと自体が間違いだったのだ。確かに止められなかった。けれど、止めるべきだった。


「一夏ァ…………」

「いちか、」

「いち、」

「  」


 ふらふらと観戦用のモニターに近寄り、箒は力なくその場に座り込んだ。









「何が、起きて、こんな」


 そして――彼を撃った張本人であるセシリアもまた、混乱の極致に立たされていた。


 自分が引き金を引き、一夏の体を吹っ飛ばした。

 カタカタと、指が震えだす。


 予測できるわけがなかった。
『絶対防護』が発動していないなど、どうやったらそんな状態になるのか逆に問いたい。


 だが経過はどうであれ、結果として目に見えるのは、惨めな骸と成り果て地面に転がる一夏のみ。

 セシリアは途方もないめまいを感じた。













 ――潜っていく。

 どこまでも深く潜っていく。

 深く深く深く。

 果てしない闇へと潜っていく。




 ――違う。潜っているのは俺じゃない。

 逆だ。


 なにかが、おれのなかに、もぐりこんで、





「俺の中に――――――入ってくるんじゃねェッッッ!!!!」





 一喝すると、潜ってこようとした『それ』は消え去った。

 誰にも侵させやしない。――俺は俺のものだ。

 そう思っていた瞬間、声が聞こえた。


『一夏』
「ッ!?」


 幻聴か。


『悲しい人、一夏』


 否、幻聴であるものか。

 一夏は意識を探った。自分の体すら認識できない。全身が泥の中に浸かっているような感覚。


『ノイズだらけの人。羨望を嫉妬に変えてしまった人。比較され続け、劣等感の隣で育ってきた人』


『ノイズ』が、走る。
 織斑一夏という人格の根底を成すもの。最も身近な人(オリムラチフユ)への苛烈な嫉妬。

 ノイズがまた、走る。


 それと同時、一夏の意識は、今の『織斑一夏』という人格が完成した瞬間へとさかのぼった。
















「ツイてねーな……」

 見知らぬ廃工場に両手両足を縛られた状態で横たわり、一夏は憂鬱そうにため息をついた。
 無論、一夏がこういったアブノーマルな趣味の持ち主であるというわけではない。

 第二回モンド・グロッソの決勝戦当日。

 暇を持て余した一夏は、自宅にて一人無強化マフモフフル装備&ボーンククリ縛りで上級ティガ狩りに赴いていたのだが……気づいたら、車の中だった。リアルポルナレフ状態だった。

「なあ、俺はどうなるんだ?」
「此処ではない何処かへ行くのさ」

 見張り番と思しき人に声をかけると、そんな詩的表現が返ってきた。


 ちょうど中二病を脱却した頃の一夏にとっては、なんだこいつという目を向けるしかない表現方法だったが。


「そうだ、ゲームをしないか?」
「ゲーム?」

 見張り番の意外な誘いに、一夏は興味を示す。

 当然だ、彼に大の男数人(車の中で確認したのは3名だった)に対して抵抗できるような力はない。

 なので、どうしても暇。両手が縛られてるからさらに暇。

「ゲームって何だよ」
「ああ。簡単さ……こいつから逃げ切ればいい」


 そう男が言った瞬間、壁を突き破って黒い巨体が姿を現した。


「ンなっ……!?」


「これぞ、我らが『亡国企業(ファントムタスク)』のオリジナルカスタムIS――」



 ――――オベリスク。












―――――――――――――――――――――――

なろうの方では最後に登場したオリジナルISの設定を大公開中です。ネタバレです。実は単一使用能力名がゴットハンドクラッシャーだったりします。いつかはオシリスとラーも出して三神合体する予定です。


ちなみに嘘です。



[29861] 5.オーバードライヴ
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/10/05 05:25
「無理無理死ぬ死ぬ絶対無理に決まってンだろこんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんん!!」

 ドゴボォ!! と轟音を立てて、廃工場の壁が吹き飛んだ。

 先ほど現れたIS『オベリスク』は、射撃武器を今のところは使っていない。ISにしては全長3メートル大と大きすぎるが、その巨躯を思う存分活用して、一夏を追い詰めていた。

(うあッ……死ぬ、コレ、死ぬよ……)

 破砕された壁の破片が一夏の体を叩く。工場の中を無様に駆け回りながら、一夏は振るわれる豪腕を必死に避け続ける。

 体力はとうに限界を超えている。


 ――――死ぬのか。

 ――――こんな所で。

 ――――何にもなれないまま。

 ――――何も得ないまま。

 ――――死にゆくのか。


「ひゃはははははッ!! あの織斑千冬の弟だっていうからちょっとは期待してたけど、全然大したことねェーな!」


 声が混濁する。意識が飛びそうになる。

 足がもつれ、その場に転倒した。勢いあまって数メートルほど滑り、廃材に激突する。

「がッ……!!」

 肺から酸素が搾り出され、呼吸が詰まった。慌てて空気をかき集めているうちに、『オベリスク』がゆっくりと歩み寄ってくる。

 腕が、振りかぶられた。

 間に合わない。

(チクショウ! 俺は、こんなとこで――!)





 脳裏をよぎったのは、ある二人の少女だった。

 その時心に叫んだ声を、織斑一夏は鮮明に覚えている。

 だが、その言葉が、奇遇にも、アリーナにてセシリア・オルコットの狙撃を受けた時の言葉と同一であることに、彼は気づかない。




((――こんなところで、死ねるか!))











 ――――覚醒の刻がようやく訪れた――――







 Infinite Stratos -white killing-

 第5話:オーバードライヴ








 聞こえた。

 世界を裂いて、時空を超えて、その叫び声が確かに聞き届けられた。


 それは失い続けた者の慟哭。

 それは抗い続ける者の雄叫び。


 そして声が『それ』に届く。


『それ』は最初、静止していた。動かず、じっと耳を澄ましているだけだった。

『それ』が声を聞いてまず行ったことは、接触だった。

『それ』は自分の主を確認した。だが主は『それ』を拒絶した。





 ならば仕方がない、と。





『それ』は主を眠らせた。『それ』は表に出た。『それ』は――主の居る世界へと、初めて出て行った。






















 ぞくり、と。

 セシリアの背筋が震えた。

「あ……?」

 代表候補生としての直感が、経験が、自身のすべてが、眼下に横たわっていた一夏へ銃を向けさせる。

「オルコットさんッ!? 何してるの!?」

 観客席から悲鳴が届いた。違うのだ。彼女たちにはわからない。わかってたまるものか。このリアルな殺気が。

 この――いまだかつてない、『殺される』という予知じみた感覚が。


 感覚が、脳には理解できない衝動が、もう一度引き金に指をかけた。


(ッ!! や、止め――――)

 閃光が奔る。咄嗟の制止は間に合わなかった。

 発射された粒子の奔流が、死に体の一夏に向けて疾走し、





 パヂン、と、紫電が奔った。





 ビームは確かに着弾した。一夏の体は蒸発し、クレーターしか残っていないだろう。観客席からいくつも悲鳴が響く。

 けれど、セシリアは何も感じない。――体中が訴える『危機』から逃れたとさえも、思えない。

(いる)

 砂煙が、ゆっくりと薄れていく。

(い、る)

 シルエットが、浮かぶ。悲鳴が収まり、アリーナを沈黙が覆った。


(――そこに、 居 る !!)








 織斑一夏は、実の姉が大好き『だった』。

 織斑一夏は、実の姉が大嫌いだ。



 織斑一夏は、大空が大好き『だった』。

 織斑一夏は、大空がそこまで好きじゃない。



 織斑一夏は、その感覚を知って『いた』。

 織斑一夏は、その感覚を知らない。














                             『それ』が、覚醒(めざ)めた。













 ――システム異常なし(オールグリーン)。


 ――登録操縦者No.001『織斑一夏』のパイロットデータをインストール。


 ――コア内に発生した未確認のバグを『承認』。


 ――コアネットワークからの完全な独立を確認。


 ――武装をチェック……近接戦闘ブレード『雪片弐型』の使用を承認。








 ――『初期化(フォーマット)』と『最適化(フィッティング』に失敗しました。ボタンは押さなくて結構です。戦闘態勢に自動移行(オートメーション)します。





 ――単一仕様能力、『零落白夜』に限定使用を許可。








 そして悪夢が始まる。



















 ゆらりと、幽鬼のように、織斑一夏は立ち上がった。

 目に光はなく、焦点も定まらず、何を見ているのかすら分からない。――だが、どんな超常現象なのか、腹部にぽっかりと空いていた傷が埋まっている。

 未だ工業的な凹凸を残した機体が、宙に舞った。決して速くはない速度。だが、地を離れセシリアと同高度になるまで、誰も息すらできなかった。


『目標を視認《ロックオン・エネミー》』


 機械的な声。それが一夏の口から発せられたものだと気づく前に。

 一夏が身に纏うIS『白式』が、その唯一の武装を呼び出す。一振りの近接戦闘用ブレード。形は刀に近く、一点の曇りもない純白だった。

 その銘は『|雪片弐型』――かつて世界最強の戦乙女が振るっていた刀の正統後継型近接ブレード。


 ヴン! と、刀身が二つに割れたかと思えば、そのぱっくりと開いた根元から蒼白い光が溢れ出した。無秩序に溢れ、煌き、輝きを放つそれは、次第に収束し引き絞られ一つのカタチを形成する。



 いわゆる、刀。



 そしてそれが瞬間的に伸びる。爆発的に輝きを増し、伸びに伸びてあろうことかアリーナに張られた遮断シールドを強引に引き裂き切り裂き散り裂きながら、とんでもない長さへと増長する。



『目標に対し攻撃を開始《ファースト・アタック・スタート》』



 振るわれる閃光は人間の動体視力では捉えられない、それどころかISのハイパーセンサーでさえも追いつけない速度。

 セシリアは何らかの反応を起こすなど、到底無理な話だった。



 そしてエネルギーバリアーを無効化する斬撃が、『ブルー・ティアーズ』を真横から捉えた。












『――――――』



 音が消え、光が止み、世界が死んだ。

 誰かの声だけが、それだけが聞こえる。セシリアはよく分からないまま、自分がどうなっているのかも分からないまま、この音に耳を済ませる。

『――――んな』

 嗚呼、嗚呼。

 自分に向けられた声ではない。何かに向けられた声なのかすら怪しい。

 けれども。嗚呼、こんなにも。



『――邪魔すんな、このヤロウッ!!』

(こんなにも――強い声を聞くのは、初めてですわ)



 ブルー・ティアーズのエネルギー残量はわずかだった。だが、まだ試合は終わっていない。

 何が起こったのかなど後で確認すればいい。今は、目の前の脅威を叩き潰す。

 素早くBT兵器を四つとも射出。手にしていた《スターライトMkⅢ》は銃身が真っ二つに切り裂かれていて使い物にならない。収納してから、不慣れな近接武器を呼び出す。

「インターセプターッッ!!」



 それと同時、一夏も。

(何が起こったのか分かんねえ。だが、俺はまだ動ける。あっちも健在。なら――叩き切ってやるだけだ!)

 何かを振り払ったように、声を上げる。





「さてッ、仕舞いとしようぜ!!」






 閃光が迸る。爆発的に加速――とまではいかず、量産型の機体を下回る速度で白式が飛翔する。
 のろのろとしているのに、それは力強くセシリアの瞳に映った。

 自分の力で、翼をはためかせ、世界で唯一ISを起動できる男子が迫る。手にした剣は雪片弐型ではなく、ただの近接戦闘用ブレード。

「さあ来なさい! 全力で叩きのめして差し上げますわ!」

 四方からブルー・ティアーズによる射撃が浴びせられる。一夏はそれを曲芸のように回転しながら、すべて捌いて見せた。

 時には頬を掠めてしまうようなギリギリのところを回避。

 時にはレーザーを手にした刀で弾き。

「獲ったァァァァァァァ!!」

 距離をすべて殺した果てに、一夏の刃の範囲に、セシリアは入った。入ってしまった。

(くぅっ、かくなる上は!)

 慣れないショートブレードを構え、接近戦を挑む。


 もし、この戦いをある中国代表候補生が見ていたらこう零していただろう。





『バッカじゃないの? あんな装備だったら、BT兵器をスラスター状態のまま逃げ回って、無様にぴょんぴょん跳ね回りながら引き分けに持ち込むのがベストに決まってるじゃない。

 一夏はISに関しては圧倒的に経験不足だけど……剣の方なら、アイツに勝てるヤツなんてIS学園でも片手で数えられるぐらい、ううん。下手したらいないかもしれないでしょ』





 一瞬で、手元からインターセプターが弾き飛ばされた。

 呆然とする間も与えてもらえず、次々と全身に斬撃が見舞われる。各部の、アーマーがなく露出している部分へ正確に攻撃を加えていく。

「きゃあああああっ!?」
「女の子を滅多打ちにするのは胸糞ワリィが、『絶対防護』ってのがあんだろ? だったら我慢してくれ。だってさ――――」





 ――――ナメられたまま終わるってのは、男として、勘弁してほしいからな。




 大上段から、地と垂直に最後の斬撃がふるわれた。セシリアを縦に真っ二つに割るようなそれは、雀の涙ほどしか残っていなかったエネルギーをゼロにする。




 シールドエネルギー残量ゼロ、『ブルー・ティアーズ』、活動を停止します。





 一夏の勝利を告げるブザーが鳴り響いた。









―――――――――――――――――――――――――――



・没ネタ

 そしてそれが瞬間的に伸びる。爆発的に輝きを増し、伸びに伸びてあろうことかアリーナに張られた遮断シールドを強引に引き裂き切り裂き散り裂きながら、とんでもない長さへと増長する。




一夏「13kmや」

セシリア「なん……だと……?」



[29861] 6.パーティー
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/10/14 06:14


「勝ってきたぜ」


 凱旋、である。

 見事勝利を収めたのだ、一夏はさてさて皆さんどんな風にほめてくれるのかなヒャッハーなテンションでビットに帰還する。




 しかし、勝利の余韻などすべて吹き飛んだ。



 出迎えてくれたのは――今にも泣きそうな表情をした幼馴染だったからだ。




「心配ばかりかせさせるな、馬鹿者っ!」

 バチーン! と勢いよく平手打ちを見舞われた。
 左の頬が鋭い痛みに襲われる。泣きそうな表情ではなく、ついに幼馴染は瞳から涙をあふれさせ始めた。

「ほ、箒、ケド俺、勝ってきた……」
「あんなに血を流しておきながら何を言っているんだ!」
「は、はぁ?」

 一夏は思わず首をかしげる。先の試合で流血沙汰などあっただろうか。



「お、織斑君っ!」
「大丈夫だったのっ!?」

 と、突然ビットに一組のクラスメイトらが集まってくる。むしろ押しかけに近かった。奥の方で真耶が涙目で横たわっているあたり、強行突破してきたのだろう。



 山田先生涙目色っぽいです、そのまま上目遣いで「ごめんなさい」してください、なんて取り留めのない考えが一夏の脳裏をよぎったのはともかくとして。



「お、おおぅ? 全然大丈夫だぜ? 元気ですよ、今すぐマイサンがスーツ突き破ってきてもおかしくないぜ?」



 ――誰も一夏の下ネタに反応できなかった。つか、意味が分からなかった。



「……で、みんなどうしたんだよ?」
「だって、お腹にあんな大きな穴が空いてて……!」



 お腹に、穴?

 身に覚えのない言葉。状況はいまいち理解できない。


「織斑」
「…………ッ」


 と、その時ビットに新たな人影が降りた。
 ビジネススーツを身にまとい、周囲の空気を冷え込ませてしまうような――何の感情も映さない瞳。

「ISを解除しろ」
「はい?」
「解除」
「…………」

 無言で『白式』を光の粒子に還した。

 その場に残るのはISスーツを身にまとった一夏。何らおかしいところはない――










 ――スーツの一部が、まるで高熱のレーザーが焼き切ったかのように欠損していなければ。










「……ンだ、これ」
「ありえない。どれだけ常識に喧嘩を売れば気が済むんだ、お前は。ISの『絶対防護』を勝手にカット。『初期化(フォーマット)』と『最適化(フィッティング)』に何故か失敗。そしてその上、初期設定のまま単一仕様能力を行使――最終的には専用機持ちの代表候補生相手に勝利」


 ざわざわ、と、喧騒が大きくなる。

「お、織斑先生ッ! どういうことですか!?」

 
「ああ、それともう一つ」

 ひどく冷めた表情で、ひどく憂鬱そうに、



「織斑、今お前は一度死んだ」


















 ――生体データが物語っている。お前の心臓は停止どころか熱で融解し、過負荷に脳は焼き切れ、内臓も58%が消滅した。今生きていること自体おかしいんだ。死んだ。お前は、死んだ。……はずだ。


 千冬の言葉が耳にこびりついて離れない。
 肩に途方もなく重い荷物を背負った気分で、一夏は廊下を歩いていた。

 もう体の点検は終わっている。異常なし――その後見せられた映像は異常しか映っていなかったというのに、だ。



 余談だが、スーツは新調される予定だ。今彼が着込んでいる制服も例外的に製作されたものだが、スーツもさらに例外的。日本のメーカーにオーダーメイドでもう一度作ってもらうという。


 一夏本人の強い希望で、次回はへそ出しなしの全身タイツスーツ、どこぞの黒い玉に召喚された怪しい集団(ちなみに肉体強化機能はない)そっくりのものになりそうだ。


 彼曰く、『男のヘソ出しに興味はない。ヘソを出せる美少女、美人、または美少女は早急に俺の下へ参上つかまつること。尚ISスーツ以外の着用でも全然構わな――』


 言葉の途中で、彼はファースト幼馴染の鋭い古武術の前に床へ叩きつけられた。クラス一同は何を着ていくのかではなく、どんな色の下着をお目見えするのかですでに盛り上がっていた。





 山田先生は空気であった。








 Infinite Stratos -white killing-

 第6話:パーティー







 セシリア・オルコットは、シャワールームで鏡越しの自分と向き合っていた。

(負け……ましたわね)

 経過はどうであれ、自分は敗北した。その事実に呼吸が詰まる。

 あの時、あの瞬間、自分を真正面から射抜いた、織斑一夏の瞳。



『――――ナメられたまま終わるってのは、男として、勘弁してほしいからな』



 リフレインする言葉が何故か、セシリアの胸を鼓動を激しくさせた。

(けれど……)

 彼の強さは身をもって知った。

 彼の弱さは、まだ知らない。心も、知らない。

 実の姉である織斑千冬と何があったのかも分からない。


 普段何を考えているのか、目玉焼きには醤油なのかソースなのか、男子としてバルキリーとファフナーどっちが好きなのか自分をことをどう思っているのか――


 嗚呼、知りたい。





 彼をもっと、知りたい。





 胸に根付いた感情を祝福するかのように、シャワーから滴り落ちた水滴が鼻に当たった。











 ――水漏れ、であった。


「台無しですわ!!?」



















「えーとそれでは、一夏君のクラス代表就任を記念いたしまして、山田先生から一言いただきたいと思いまあ~す!」
『『『イエーーーー!!』』』


 一夏はISを動かしたことを改めて後悔した。何故こんなにも、少女たちのテンションは高いのか。
ついでに体力はどうして底なしなのか。

 クラス代表決定戦後、一年一組は一夏の代表就任を祝うべく、食堂を貸切にしてパーティーを開いていた。
 目の前に並べられた豪勢な食事が、運動直後の空きっ腹には堪える。

「えーとですね、やはりこの勝利というのはクラス全員の応援の甲斐あってのものなので」
『『『カンパーーーーーーイ!!!』』』



 誰か聞いてやれよ、と思わなくもない一夏だった。



「お、織斑一夏ッ!」
「ンあ?」

 宴も佳境、王様ゲームによる三連続一発芸という苦行を乗り越え『笑いの神様ってハリセン持ってんだな……シャツにサインしてもらったよ』と神妙な表情で超常体験を語っていた一夏は、真横からかけられた声に振り向いた。

 少し濡れた長い金髪が、どこか不安げな瞳が、視界に飛び込んでくる。


「オルコット……」

「……すみません、少しお時間いただけるかしら?」











「さっきから舞台の切り替えが激しくて、正直もうここから動きたくないんだけど」

「それは禁句ですわーー!!?」


 さっきからメタネタへの突っ込みが自分に押し付けられていると、セシリアは静かに涙した。

















「屋上なう」
「誰に報告しているのですか……」

 結局ほいほいと付いていき、一夏は屋上にてセシリアと相対していた。

「オホン。……それで、少し話がありまして」
「放課後・屋上・美少女の呼び出し……まさに青春万歳(トリプルリーチ)!」
「本当に話を聞いていますか!?」


 一夏は今日も平常運転です。


 ゴホン、とセシリアは再び少々きつめに咳払いをし、

「その、私は……貴方に謝ろうと思っているのですわ」
「俺に?」
「ええ。教室で、男だからといって罵倒してしまい、大変申し訳なかったと思います」

 そう言って彼女は頭を下げた。ぎゅっと手を握っているあたり、かなり緊張しているようだ。

「ま、まあまあ。ンな気にしてねえよ」
「それに、それだけではなく、試合中にはあんなことも……」

 沈黙が降りる。

 一夏は無意識のうちに、自分の腹部をなでていた。あの映像が合成とかCGとか、そういうものなのではないかと考えてしまう。ちょっとタチの悪い冗談だと、誰かが笑って言えば一夏は迷うことなくそれを信じる。

(ハラに穴空いて、塞がるってどうなんだよ……)

 しかし考えても仕方がない。深く考えるのは止めにする。

 何てったって、一夏は、過去は振り返らない主義なのだ。


「じゃあお詫びにさ」

 セシリアがようやく一夏の目を見た。

「今度、ISの操縦について教えてくれよ。俺、まだまだよくわかんねえトコがいっぱいあっからさ」
「…………まあ、貴方は我がクラスの代表であるわけですものね。致し方ありませんわ」

 そこで彼女は、髪をかき上げ、いたずらっぽく笑い。


「ただし――私の訓練は、少々ハードですわよ? 『一夏さん』」

「……おーけぃ、望むところさ」


 ここに溝は埋まりきった。










 織斑一夏はセシリア・オルコットと戦うため、決闘までの一週間ひたすらに情報をかき集めていた。

 専用機の兵装やセシリア本人の戦い方などはめぼしい情報を引き当てられなかったが、色々とタメになる話なら聞けた。



 ――例えば、代表候補生のこと。



 一夏はその存在自体知らなかったが、代表候補生は、血のにじむような訓練をひたすらに乗り越え、選抜に選抜を重ねた末に残る超エリートらしい。

 それを聞くと、一夏のセシリアへのイメージは多少変わった。


(ただ威張り散らしてる愚か者じゃなくて、あの尊厳さはきちんとした努力に裏打ちされていたのか)


 セシリアと二人、食堂に戻りながら思う。


(けど、俺もプライド高いよなあ。自分の手で戦いたいだなんて。……俺じゃない、俺の中の何かが勝手に動かすことが許せない。あの勝負は俺の勝負だ。他人がどうこう手出しするものじゃない……結構横暴かな、これ)

 一人苦笑する。先を行く優雅な長髪をぼけーっと眺めながら。










(よく考えたらあの時、俺が振るった刀は……あれは、まさか)










 疑念の夜は更けゆく。









「ふん、ここがそうなんだ……」

 眩しい月の明かりに目をしばたかせながら、少女はやって来た。

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 手にした紙切れを頼りに、ショルダーバッグを背負いなおしてえっちらおっちら校舎をさ迷い歩く。


「本校舎一階総合事務受付……って、どこよそこ。むしろどこよここ」

「まあ分かったわ。自分で探せばいいんでしょ。探し出せってムハンマドが言ってるんでしょ」

「ったく、出迎えがないってどうなの。これでも重要人物よ?」

「ま、特別扱いされるのは苦手だけどね」



 独り言が、ずいぶん激しかった。



「そうだ、最悪一夏に電話すれば……あいつケー番変えたりしてないでしょうね」

 それが名案であるかのように表情を輝かせ、彼女はポケットから携帯電話を取り出そうとする。

 その時――彼女の耳に、何か騒音が、具体的に言えば、やかましい騒ぎの声が聞こえてきた。





「一夏さん、そろそろ山田先生を酔い潰すのはお止めになってはどうですか……?」
「はっはっは、何言ってるんだオルコット。ここからが本番だぜ、なあそうだろ真耶せんせぇ!」
「ひゃーい! やまだまや、上から読んでも下から読んでもやまだまやっ! 女子大生でーす!」
『『『いやアンタもう就職してるから』』』




 もうすべてがバカバカしくなる掛け合いだった。
 少女は思わずため息をつきながら、声のした方を見やる。どうやらそこが食堂らしく、中央付近のテーブルが全部料理で埋め尽くされていた。

 どうやら、パーティーの真っ只中だったようだ。



「せんせぇの、ちょっとイイトコ見てみたい!」
「おい一夏、もうそろそろ止めた方が……」
「も~~う、したかないれすねー」
「そういいつつグビグビ飲んでらっしゃるのは何故ですの!?」



 遠くに探し人を確認する。けれど、駆け寄って声をかける気にはなれなかった。

 胸が痛む。
 心臓がぎゅっと締め付けられる。


 一夏は楽しそうだった。女の園の中でも。


 ――自分がいなくても。

「……別に。悔しくなんか、ないし」

 言葉とは裏腹に、弱弱しい声で呟いて、顔を伏せる。
 そっと食堂に背を向け少女は歩き出した。ある一つの決意を胸に灯して。


























 翌朝。

「こんにちは一組の皆さん! あたしは凰(ファン)鈴音(リンイン)! 2組に転入することになったわ!」


 談笑していた一夏らの下に、彼女は――中華人民共和国代表候補生は、宣戦布告するようにやって来ていた。


「今度のクラス対抗戦、一応私が代表に『してもらった』ケド……負ける気はないからね」
「んっ、なんですの貴方!」

 唐突な乱入者に、セシリアが食って掛かる。箒も若干不機嫌そうな目を鈴に向けていた。

「何? 私が何かって? そーねぇ」

 クラス中から集められる視線を撥ね退け、鈴はビシリと人差し指を一夏に突きつける。
 指差された一夏は、放心したように口を開けたままだった。

 その様子に苦笑しつつ、鈴は臆面もなく言い放つ。










「あたしは、そこにいる男子――織斑一夏の、元カノよ!!」




[29861] EX1.ゆけゆけちふゆさん
Name: 佐遊樹◆b069c905 ID:d7c0128b
Date: 2011/10/14 06:08
「はぁ……」

 今頃、実の弟である一夏はクラスの一同と騒いでいるのだろう。

 そう考えると、千冬は自然と一杯焼酎をあおっていた。



「一夏ぁ~~~~~~~!! いぃちかぁぁぁ~~~~~~~~~!!」



 飲まなきゃやってられないんだぜオーラを振りまきつつ、完全防音の自室――もとい、校舎から遠く離れた完全防音家屋にて彼女は慟哭する。




「一夏が私を無視する~~~~~~~~~!!」






 その声に山は震え地は泣き叫び、IS学園教員は頭を抱えたとか。










 Infinite Stratos -white killing-

 EX1:ゆけゆけちふゆさん










 曰く、破壊の嵐。
 世界最強の乙女が、実の弟の反抗期を嘆くあまり周囲の物を破壊する様を見て、ある教員はそう漏らした。

 元来彼女は弟思いの優しい姉である。一夏もそれは感じており、ある日までそこそこの関係ではあっだのだ。

 だが、ある事件のあと一夏の態度は一変。徹底的な無視、反抗を繰り返すようになる。
 彼が姉を罵倒する度、周囲の人間はこう思ったものだ。



 ――やめたげて! 千冬さんのライフはもうゼロよ!



 織斑千冬がIS学園に赴任した初日、千冬に割り当てられた部屋は翌朝には消し炭になっていた。


『一夏分が不足していた』
『家に電話しても無視された』
『ここのところ弟が顔を合わせてくれてなくて、ついカッとなってやった』


 容疑者は大方上記のような意味不明の供述をしており、そもそもどうやって素手で部屋を吹き飛ばしたのかは解明されていない。一説によると彼女は波紋法から忍術まで何でもござれらしいが――実のところは定かではない。というか本当に何でもできそうで困る。

 ともかく、これ以上部屋をなくされてはたまらないと、IS学園は急遽プレハブ小屋を設置。
 ブリュンヒルデを急造の小屋に押し込めるとは何事かと、各国からクレームが殺到したりはしたが……その小屋が二日で消し飛んだのを聞くと、皆一様に黙り込んだ。誰もが、世界最強のシスコンに目を背けた。




「一夏あ……昔はなぁ、私のことを『おねーちゃん』と呼んで後ろから付いてきてくれていたというのに……」




 数分前まで一緒にいた山田先生は、顔を引きつらせながら『じゃ、じゃあ私はクラスの様子を見に行ってきますね!』といって逃げ出した。

 まさか逃げ出した先でも酒祭りにでくわすとは思ってもいなかっただろうが。前門の織斑、後門の織斑である。誰か山田先生にソルマックをあげてくれ。




「うぅ……駄目な姉でごめんなぁ。ホントはオルコットにも『うちの弟をコケにするとはいい度胸だ! 私と決闘しろ!』ぐらい言いたかったんだけどなぁ」




 ちなみにそんなことを言えばセシリアは震え、一夏は噴き、箒が頭を抱えたのは自明である。

「おまけにあんなひどい怪我負わせてしまうし、結局『一次移行
ファースト・シフト
』させてあげられなかったし……」

 机に突っ伏しながらぐちぐちと呟いているその姿は、大よそ世界最強だとは思えない。どこぞの銀髪黒兎が見ればすぐさま卒倒するだろう。箒が見れば頭を抱える。箒は苦労人ポジ、そういう解釈で大体あってる。

「雪片使ってくれるかな……私が昔使ってた武器っていうだけで捨てたりしないかな……」

 さすがにそれは被害妄想である。

「もういいし。別にいいし。寝るし。明日には例の中国代表候補生が来るらしいが――」





「――どうやって殺そうかな」

※殺しません。





 こうして苛立ちの夜は更けていく。




















「う~ん、まさか『一次移行(ファースト・シフト)』を拒絶するなんて……さすがいっくん、予想の斜め上を行くね」

「まだ初期設定かー、雪片弐型も出てない状態だね。な~の~に~、どうしていっくんは『零落白夜』を使えたんだろ?」

「まぁいっか。今度見せてもらえば分かることだろうし。フラグメントマップを見るのが楽しみだな~」








「――――ちゃんと『彼女』を受け入れてくれたらいいんだけどね~」


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