少女たちの聖戦 第1話 【困惑の前奏曲】
みなさま、大変長らくお待たせいたしました。
少女たちの聖戦、本編のスタートです。
前作・プロローグに登場したメンバーは、
追々登場させていこうと思います。
慣れない日常シーンを書いていたせいか、
プロローグからも二週間近くかかってしまいました。
多少だらけた展開になっているかもしれませんが、
ひらにご容赦を。
それではどうぞ。
時空界震。世界の理を変えた大異変からおよそ1年。ここ明堂市でも桜の季節がやってくる。この一年で街の風景は大きく変わった。遅れていた開発は急ピッチで進み、大都市と呼ぶに相応しい高層ビル群。そして歴史を感じさせる旧い街並が同居している。否、風景だけではない。そこに住む人々もまた、大きく変わっていた。魔法世界の住人たちの移住も進み、街角では種族の違いを感じさせることの無い日常が繰り広げられていた。
そして、春の訪れとともに始まる新たな生活。今やこの町の象徴となった海上学園・私立星凛女子学園でも、少女たちの希望に満ちた新たな生活が始まる。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第1話 【困惑の前奏曲】
「行ってきまーす!」
私は玄関を飛び出す。今日から始まる高校生活にワクワクしながら、商店街のアーケードを駆け抜ける。早朝の商店街は静まり返っていて、少し寂しい。この道を通ることもこれからは少なくなると思うと、さらに寂しく感じてしまう。
「でも、楽しみのほうが大きいんだよねぇ・・・。」
全寮制の女子高。初めて両親と離れて生活する。不安よりも期待のほうが大きい。そして、新しい友達が出来る喜びはそれを上回っている。
学園の前に向かうバスに飛び乗り、流れる街並みを眺める。子供の頃から見慣れた街の風景は、この一年で大きく変わってしまった。それが嬉しくもあり、寂しくもある。バスのなかの光景も一年前とは違う。角が生えていたり、下半身が蛇だったり、そんな少女たちが制服を着てバスに乗っている。
「ま、私たちと大して変わらないよね・・・」
近所に越してきたアラクネさんの一家はいい人だったし。そんなことを考えていると、学園の入り口が見えてくる。
「うわぁ・・・!」
入江の中に浮かぶ人工島。そこに私が今日から通う学校、星凛女子学園はある。何度見てもため息が出てしまう。
入り口のゲートにIDカードを使って入ると、大きな扉が三枚。その中央にある扉をくぐると、そこはすでに学園の中だった。これが魔法の力らしい。
学園の中は、ここが海上であるとは思えないくらい近代的で開放的な造りになっていた。私は案内表示に従って、一際大きなホールに入っていく。入り口でクラス分けとホール内での席順を確認する。ちょうど真ん中くらい。私は中で時間を待つことにした。
「あのぉ・・・同じクラスですか?」
ホールの中で声をかけられ振り向く。するとそこには金髪碧眼の、まるでお人形さんのような少女がいた。
「え、あ、うん。そうみたいだね。私、瀬名ひかり。あなたは?」
「あ、はい。私はラウレンティア・フォン・シトラウス・エルグランデ・アルベルティーニと申します。」
「え、ラウレ・・・長いね。レティ、って呼んでもいい?」
「レティ・・・はい!お願いします!」
なんだか急にキラキラし始めたレティ。とても嬉しそうだ。
「おい。そこのお前。初対面なのに失礼だとは思わないのか。」
突然声をかけられ、驚いて振り向く。そこには同じく金髪の少女が立っている。エルフ、だろうか。
「お前って・・・私のこと?」
「そうだ、無礼者。そのお方は・・・」
「エイプリル!私が良いと言ったのですから。貴方こそ名乗りもせずに。」
古くからの友人なのだろう。レティに窘められ、プイと目をそらす。
「・・・エイプリル・エアハートだ。」
「よろしくね。エイプリルさん・・・エイルさん。」
「な・・・?!」
「仲良くしなきゃダメですよ?エイル。」
愛称を付けられ驚くエイルに、レティが追い討ちをかける。それに怒ったのか、赤い顔をして席について俯いてしまう。私とレティも笑いながら席に着く。ほどなく入学式は始まった。
「みなさん、今日この日を迎えられたことを嬉しく思います。あの・・・」
学園長のお話が続くなか、私は辺りを横目で見回す。レティ、エイルのほかにも、どこか浮世離れした雰囲気のクラスメイトたち。
「時空界震の結果、私たちは新たな隣人を得るに至りました。みなさんの隣にも、新たな仲間が座っています。」
姿かたちが違っても、みんなこの世界に生きる仲間。一緒に暮らす友人たち。
入学式が終わり、私たちはそれぞれのクラスに向かう。私もレティとエイルの三人で移動しようと腰を浮かせる。
「ちょっと。そこの貴方、私を案内なさい。」
言われてそちらを向くと、銀髪の少女。側頭部から伸びる角は、彼女が魔族であることを示している。
「いいよ。行こ。」
私は彼女の手を取って歩き出す。
「私、ひかり。瀬名ひかり。あなたは?」
「私の名はリューシャ・アヴェリン。偉大なる魔王様の娘よ!」
最後のほうは聞き流し、私は彼女を連れて行く。
「リューシャ・・・リズでいいよね?呼びやすいし。」
「リズ?!・・・ま、まあいいでしょう。サブリナ、行きますわよ。」
「はい、お嬢様。ひかりさん、私はサブリナ・コントレラス。お嬢様のメイドをしております。今後ともよろしく。」
どこにいたのだろう?ふっと影のように現れた少女、サブリナは褐色のエルフのようだ。二人を連れてレティたちのところに来ると、エイルが露骨に嫌そうな顔をした。
「お前は・・・」
そしてそのまま先に行ってしまった。レティはそれを追いかけるように歩いていってしまう。
「どうしたのかな?」
「彼女はエルフ、私はダークエルフ。私は気になりませんが、彼女たちエルフは私たちダークエルフを嫌っていますから。」
サブリナが説明する。その表情は淡々としていて、事実だから仕方ないと言う感じに見える。
「エルフ族は孤高を気取っておりますし。ドワーフとも仲が悪いんですのよ?」
リズが補うように説明してくれる。
「じゃ、仲直りしないとね♪」
そう二人に笑いかける。リズとサブリナはきょとんとした様子だったが、急に笑い出す。
「それは冗談かしら?貴方、面白いわね。」
私はリズ、サブリナの二人と教室に入る。もうすでにレティとエイルは席について話をしている。私たちもそれぞれの席に付いて、あたりを見回してみる。翼を持った少女も、尻尾が生えている子もいる。去年までなら想像もできない光景だけど、これが今の私たちの世界。
「さあ、みんな席について。・・・私は担任のルイーダ・バシルール。よろしくね?」
入ってきて早々自己紹介を始めるルイーダ先生。そのまま流れるように各自の自己紹介に移っていく。
レティ、エイル、リズ、サブリナ・・・ここまでで知り合ったみんなも綺麗だったけど、改めてクラスメイトを見てみると美少女ばかり。ルックスの審査でもあったのかな?と思うくらい。私が選ばれているのが不思議な気がする。
海外から来た少女や天空都市出身の子、ちょっと子供っぽい妖怪娘や天然なけもの娘までクラスメイトは個性があって楽しそう。
自己紹介が終わると、今後の授業に関する説明や学校の説明などが行われた。そのほとんどは事前にパンフレットなどで知っているものだったが、再確認ということだろう。
「じゃ、今日はここまで。明日から一緒に頑張りましょう。」
そう言ってルイーダ先生は教室を出て行く。途端にざわめきだす教室。どこかぎこちなく始まった雑談も、色恋沙汰やファッションの話で盛り上がっていく。私もその輪に混ざりながら、レティやエイル、リズにも話を振っていく。
「わ、私はドレスばかりでしたから、こんな服は・・・」
「私か?いや、可愛いのはちょっとな・・・」
「もっと露出を増やしたほうがよくありません?」
さすがにこちら側の服には興味があるらしく、ファッション雑誌を食い入るように見つめている。
「私は濡れない服とか欲しいですね・・・。」
マーメイド族のデルフィナさんがそう答えている。
「でもでも、こんなのも良くない?」
スキュラ族のアーニャが勧めているのは、露出度の高い服。二人とも魔法の力で私たちと変わらない姿をしている。
あれやこれやと話をしていると、学校の鐘の音が聞こえてくる。
「あ~・・・。そろそろ移動しようか?」
私たちはそろって寮へと歩き出す。寮もこの学校の敷地内にある。歩いてもそうたいしてかかることは無かった。道すがら特別教室や保健室などの場所を確認しながら、のんびりと何人かのグループで話しながら寮に向かう。
「フィーとアーニャは同じ部屋なのかな?」
私はそう問いかけてみる。私は同室が誰かは知らないのだけど、他の子たちのなかには特別に決まっている人もいるらしい。
「あ、はい。無理を聞いていただきました。」
「ま、あたしがいないと何も出来ないからね。」
幼馴染だと言う二人の息はぴったりだ。
「それを言うなら私とサブリナも同室でしてよ?」
「お嬢様の身の回りの世話を仰せつかっておりますから。」
リズの答えを補うようにサブリナが答える。この二人も幼馴染のような関係なのだろう。
「私はまだ知りません・・・。その、できればこちらの方と一緒に生活してみたかったので・・・。」
「私も聞いていないが。まあ、出来ることなら話の合う者と同室であってほしいが。」
レティとエイルはまだ誰と一緒になるか分からないらしい。私と同じように初めて親から離れて暮らすんだろう。期待と不安が入り混じったような顔をしている。
寮の入り口に辿り着くと、広いロビーは荷物と人でごった返していた。家から送った荷物がロビーに置かれていて、それぞれが自分で持って上がらなければならないらしい。私は家が近いから、今回の荷物自体は少なめだと思う。それでもダンボール二箱にはなったけれど。足りない分などはあとで家に取りに行くこともできる。
「まずは鍵をもらってこないとね。受付に行こうか。」
受付では名前とクラス番号で鍵と番号札をもらえる。番号札は荷物を受け取るために必要なのだ。
「えっと、私は6階の16号室だね・・・。」
台車に乗った荷物を受け取りエレベーターに向かう。それぞれが荷物を運ぶのに精一杯で、誰かとお喋りしている余裕はなさそう。私もとりあえず自分の荷物を部屋に運ぶことにする。すると、そこにレティの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「もう!こんなにいらないって言っておいたのに!」
ふとそちらを見ると、レティの前にはダンボールの山が出来上がっていた。多い人でも5個くらいなのに、三倍はあるだろうか。ロッカールームが特別製とはいえ、入りきるのだろうか?
「レティ・・・。あとで手伝うから、ね?」
私がそう声をかけると、涙で潤む瞳をこちらに向けるレティ。
「はいぃ・・・。お願いします、ひかり・・・。」
不覚にもドキッとした。・・・うう、可愛い。抱きしめてあげたい。
「じゃ、とりあえず先置いてくるね。」
すがるような視線を背中に感じながら、私はエレベーターに乗り込む。
部屋に入ると、広く開放的な造りに驚く。ロフト式のベッド、備え付けの机や広めの収納は学生寮の一室には見えない。
「うわぁ・・・。」
ちょっとだけ呆けてしまう。こんな部屋で暮らせるなんて思いもしなかった。
「・・・と、早く手伝いに行ってあげないとね。」
ダンボール二つを手早く奥のほうに降ろし、私は鍵を持って部屋を出る。レティが待つ1階ロビーへ急ぐ。
1階ではレティのほかにもクラスメイトが何人か集まっていた。家が近い子達で、私と同じように手伝いに来ているみたい。
「お待たせー。さ、運んじゃおうか。」
私はそう声をかけ、残されていた荷物を自分の台車に乗せる。
「で、レティ。どこの部屋なの?」
先陣を切って歩き出しながら、隣を行く美少女に問いかける。
「6階の16号室です・・・。」
「へぇ~6階の16室・・・。て、私と同じ?」
「え、あ、はい・・・。これからよろしくお願いします・・・。」
私は驚きを隠せないまま、みんなを引き連れて自室に向かう。箱は15個、とりあえず部屋にいれてしまう。コレだけの箱を入れても狭く感じないのが不思議なくらい広い部屋だ。
「整理は後にしようか。お昼食べに行こう?」
「はい!」
私たちは2階にある大食堂に向かう。入り口で食券を買って窓口に出す。ちなみに寮費と同じように、ここの食事代も無料なのだ。各国が予算を出し、企業が投資をしているこの学園は優遇されている。
「あ、あそこにエイルがいる。ちょうどテーブル空いてるみたいだし、あそこにしようか。」
私とレティはトレーを持ってエイルの席に向かう。
「ここいい?」
「うむ。座るがいい。」
私たちはエイルと向かい合うように座る。そこにはもう一人、クラスメイトの少女が座っていた。
「えっと、星 麗燐(しん れいりん)さん。よろしくね。」
「・・・よろしく。」
そっけない返事で食事に戻る麗燐さん。私たちも食事に手をつける。食事中はお互いにあまり話すこともなく、私も食事を済ませることに専念した。
(それにしても美味しいな♪焼加減、塩加減が絶妙だよぅ・・・。)
絶品の料理を味わいながら、昼食を済ませていく。
その場にいる全員が食事を済ませ、おのおのドリンクを片手に食休みをする。
「二人は同室なの?」
私は単刀直入に聞いてみる。
「ああ、そうだ。お前たちも同室か?」
「・・・うん。嬉しかった、ひかりと一緒で。」
そう言って潤んだ瞳を向けるレティ。何故だろう、なんだか落ち着かない。
「ねえ、先に戻るわ。」
麗燐さんはそう言ってさっさと歩いていってしまう。何か気に触るようなこと言ったかな?言ってないよね?
「どうも気難しいのか、私ともあまり言葉を交わしてくれん。私としては気楽でいいのだが。」
エイルもあとを追うように席を立つ。
「私たちも行こうか?」
「はい。」
荷物の整理が待っている。あまりのんびりしていると、夜遅くまでかかってしまう。私たちはすぐに部屋に戻って片付けに入った。
結局荷物の整理は6時近くまでかかってしまった。その大半がレティのものだったが、休憩を挟みながら部屋に積まれていた無数の箱を片付けることができた。
「ふぅ、何とか終わったねぇ。さ、お夕飯にしよ?」
「はい・・・。その前にひかり、これを貴方に受け取って欲しいのです。」
その手にあったのは、小さなペンダント。虹色の輝きを放つクリスタルを中央にあしらった、どう見てもかなり高価なものだ。
「これは聖鍵ベルスフィア。我が家に伝わる宝の1つです。」
「え、でもそんなの受け取れないよ。大切なものなんでしょ?」
今日初めて会った相手から、そんな大事なものを受け取るわけにはいかない。
「いえ、貴方にお預けしたいのです。私たちの友情の証として。父からも、私が最も信頼できる相手に委ねるように言われていますし。」
う、そう言われると悪い気はしない。私は小さく頷く。
「では、失礼して・・・」
レティの顔が近付く。そのペンダントをかけてくれるのだと分かっていても、どこか気恥ずかしい。レティの吐息がかかる。肌のぬくもりが伝わってくる。
(あ、ううダメだよぅ・・・私、そんな趣味ないのに・・・)
そのまま抱き寄せてしまいたくなるのを必死でこらえながら、レティが離れるのを待つ。そしてペンダントをかけ終えた彼女が離れるとき、心のどこかで寂しさを感じていた。
「この聖鍵ベルスフィアがひかりを、私たちを護ってくれるはずです。」
お守りのようなものだろうか。私はレティの言葉を聞きながら、そっとペンダントの上で手を重ねる。
(聖鍵・・・ベルスフィア。私たちを護ってね・・・。)
次の瞬間、何かが私の中に入ってきたような気がした。しかしそれは一瞬のことで、その感覚が何なのかは分からなかった。
「・・・?」
「どうかしましたか?」
「ううん・・・気のせいだったみたい。さ、食堂に行こう。おなか空いちゃった。」
「はい。」
食堂で夕飯を済ませて、私たちは大浴場に向かう。部屋にもシャワーはあるが、やはりお風呂に浸かりたい。
「私、みんなでお風呂に入ったことないので恥ずかしいです・・・。」
「え、そうなんだ。じゃ、一緒に入ろ?」
脱衣場で服を脱ぎ、大浴場へ。
「う、わああぁぁぁ・・・・」
広い。とにかく広い。家の近所の銭湯なんて比べ物にならないほどに。よく見ると、奥のほうには露天風呂まである。
「じゃ、まずは身体洗っちゃおうか。」
「はい。」
私たちは並んで鏡の前に座り、身体を洗っていく。髪を流してから、湯船に浸かる。
「ふうぅ・・・いい気持ち♪」
「うふふ、そうですね♪」
ふと、レティの金色に輝く髪に目を向ける。
「レティの髪、綺麗だよね・・・。」
「いつも手入れしていただきましたから・・・。ひかりの髪も、黒くて綺麗ですよ。」
「ありがと。短くしてないと落ち着かないんだよね・・・。」
ぼんやりと湯船に浸かりながら露天風呂のほうを眺めると、数人の人影が見える。聞き取ることは出来ないが、何か口論しているようだ。
「あれは・・・雫さんと、オルガさん?」
それはクラスメイトの二人。十六夜 雫さんとオルガ・カラグーニスさん。二人の間に何があったのだろうか?するとオルガさんがこちらに戻ってきて、そのまま出て行ってしまった。雫さんはそのまま他の子たちとお風呂に浸かっている。
「何かあったのかな?」
「それは分かりませんが・・・。」
私たちは二人に声をかけることができないまま、何となく押し黙ってしまった。
「そろそろ上がろうか。いい?」
「あ、はい。・・・きゃっ?!」
レティが足を滑らせる。私はそれを抱き寄せるように受け止める。お互いに見つめあうような体勢で固まってしまう。
「だ、大丈夫?」
「は・・・はい。」
私たちはのぼせたように顔を赤くしながら離れる。
(うわわ・・・レティの体、柔らかかったぁ・・・。まだドキドキしてる・・・。)
レティを見ると、火照った顔を背けながら恥ずかしそうに視線だけをこちらに向けていた。
(このままじゃ・・・いつまで我慢できるかわからないよ・・・)
私は出来るだけ意識しないように脱衣場に行って服を着替え、二人とも無言のまま部屋へと向かった。
エレベーターを降りる。私とレティの間には微妙な空気が流れていた。
「・・・だから!誤解だって言ってるじゃない!!」
「何が誤解だって言うのよ!」
私たちの部屋の二つ隣の部屋から怒声が響いている。他の部屋の人たちも表に出てきて、何事かと推移を見守っている。
「どうしたの?」
私は一番手前の少女に話を聞いてみる。
「なんか夕月さんと御厨さんが喧嘩してるらしいんだけど。理由が良くわかんないんだよ・・・。」
「そうそう。誤解だ、そうじゃないってそればっかり。」
よく分からないが、喧嘩しているのはクラスメイトの二人。夕月 慧さんと御厨 昴さん。幼馴染だと聞いていたんだけど。
「取っておいた私の紅茶プリン食べたくせに!楽しみにしてたのに!!」
「だから間違えたって言ってるでしょ!ハチミツプリンもあるからいいじゃない!!」
・・・。
「行こうか、レティ?」
「え?でも・・・いいんですか?」
「大丈夫、大丈夫!ああいうのは明日の朝には仲直りしてるから。」
「そういうものなのですか・・・?」
レティはまだ気にしているようだったが、周りにいた少女たちも部屋に戻っていくのを見て歩き出す。
部屋に入ると買っておいた清涼飲料水を備え付けの冷蔵庫から取り出す。グラスに注ぎ、ひとつをレティに手渡す。
「ふう。さすがに今日は疲れたね。ちょっと早いけど、今日はもう寝ようか?」
「そう・・・ですね・・・。」
うつらうつらとしながらレティはドリンクを飲み干してしまう。そしてそのままゆっくりと布団へと潜り込んでいく。
「おやすみ・・・なさ・・い、ひかり・・・。」
「ん。おやすみ、レティ。」
私はレティの寝顔を盗み見ながら灯りを落とし、布団に入っていく。よほど疲れていたのか、すぐに眠気に襲われる。
(なんだか楽しくなりそうだなぁ・・・。レティは可愛いし・・・。)
私は何となく、レティに預けられたペンダントを指でなぞる。そして、ゆっくりと眠りに付いた。
明日から始まる新生活に想いを寄せながら。
それは夢、だろうか。
「汝、我が声に耳を傾けよ・・・」
荘厳で重厚感のある声。
「汝、我が問いに答えよ・・・」
胸の内側から響く声。夢の中、姿は無い。
「汝、我が力を欲するか?人を超える力を望むか?」
(私は、みんなを、レティを護れる力があればそれでいい・・・)
「汝、人を護るために力を振るい、その身を犠牲に出来るか?」
(みんなを、レティを護れれば、私はどうなってもいい・・・)
「我が力、汝の想い。二つをつなぎ、扉は開かれん。我が同胞たちの想いもまた、汝の力となりて共に進まん。」
(貴方たちの想いと力、確かに受け取りました・・・。みんなを護るため、私はこの力を無駄にはしません。)
声が、気配が消える。入れ替わるように感じるのは、身体の内に広がる大きな力。現実感の無い夢の中での出来事は、記憶の底に封じられていく。私は再び、深い眠りへと沈んでいく。
この日から、私の世界は新たな色に染まる。新たな生活と新しい友人たち。そして、レティ。私は、私の目に映るこの世界を護りたい。それが、私の願い。この願いをかなえる力を、今は欲しい。全てを護りぬく力を、この命に代えても護れる力を!
・・・世界は廻る。運命の歯車は、少女たちの青春と情熱を糧にして廻り始める。少女たちの戦いは、今まさに始まろうとしていた。その先にある未来を、今はまだ、誰も知ることはできない。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第1話 【困惑の前奏曲】 完
いかがだったでしょうか?
少々長く、だらだらした内容になってしまったかもしれません。
日常シーンを書くのがこんなに難しいとは・・・。
今回登場した少女たちのもうひとつの顔は、
次回以降明らかにしていこうと思います。
もちろん、悪堕ちシーンも・・・。
それでは今回はこの辺りで。
次回更新でお会いしましょう。
次回予告!
動き始める闇の勢力。混沌と破壊がその身に降りかかるとき、少女の力は目覚める。そして鳴り響く聖戦の鐘。少女たちの終わりの見えない戦いが始まる・・・。
第2話 【胎動と覚醒の序曲】
「闇夜に輝く1つ星!聖なる光に想いを乗せて、黒雲切り裂きここに推参!・・・なんてね☆」
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少女たちの聖戦、本編のスタートです。
前作・プロローグに登場したメンバーは、
追々登場させていこうと思います。
慣れない日常シーンを書いていたせいか、
プロローグからも二週間近くかかってしまいました。
多少だらけた展開になっているかもしれませんが、
ひらにご容赦を。
それではどうぞ。
時空界震。世界の理を変えた大異変からおよそ1年。ここ明堂市でも桜の季節がやってくる。この一年で街の風景は大きく変わった。遅れていた開発は急ピッチで進み、大都市と呼ぶに相応しい高層ビル群。そして歴史を感じさせる旧い街並が同居している。否、風景だけではない。そこに住む人々もまた、大きく変わっていた。魔法世界の住人たちの移住も進み、街角では種族の違いを感じさせることの無い日常が繰り広げられていた。
そして、春の訪れとともに始まる新たな生活。今やこの町の象徴となった海上学園・私立星凛女子学園でも、少女たちの希望に満ちた新たな生活が始まる。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第1話 【困惑の前奏曲】
「行ってきまーす!」
私は玄関を飛び出す。今日から始まる高校生活にワクワクしながら、商店街のアーケードを駆け抜ける。早朝の商店街は静まり返っていて、少し寂しい。この道を通ることもこれからは少なくなると思うと、さらに寂しく感じてしまう。
「でも、楽しみのほうが大きいんだよねぇ・・・。」
全寮制の女子高。初めて両親と離れて生活する。不安よりも期待のほうが大きい。そして、新しい友達が出来る喜びはそれを上回っている。
学園の前に向かうバスに飛び乗り、流れる街並みを眺める。子供の頃から見慣れた街の風景は、この一年で大きく変わってしまった。それが嬉しくもあり、寂しくもある。バスのなかの光景も一年前とは違う。角が生えていたり、下半身が蛇だったり、そんな少女たちが制服を着てバスに乗っている。
「ま、私たちと大して変わらないよね・・・」
近所に越してきたアラクネさんの一家はいい人だったし。そんなことを考えていると、学園の入り口が見えてくる。
「うわぁ・・・!」
入江の中に浮かぶ人工島。そこに私が今日から通う学校、星凛女子学園はある。何度見てもため息が出てしまう。
入り口のゲートにIDカードを使って入ると、大きな扉が三枚。その中央にある扉をくぐると、そこはすでに学園の中だった。これが魔法の力らしい。
学園の中は、ここが海上であるとは思えないくらい近代的で開放的な造りになっていた。私は案内表示に従って、一際大きなホールに入っていく。入り口でクラス分けとホール内での席順を確認する。ちょうど真ん中くらい。私は中で時間を待つことにした。
「あのぉ・・・同じクラスですか?」
ホールの中で声をかけられ振り向く。するとそこには金髪碧眼の、まるでお人形さんのような少女がいた。
「え、あ、うん。そうみたいだね。私、瀬名ひかり。あなたは?」
「あ、はい。私はラウレンティア・フォン・シトラウス・エルグランデ・アルベルティーニと申します。」
「え、ラウレ・・・長いね。レティ、って呼んでもいい?」
「レティ・・・はい!お願いします!」
なんだか急にキラキラし始めたレティ。とても嬉しそうだ。
「おい。そこのお前。初対面なのに失礼だとは思わないのか。」
突然声をかけられ、驚いて振り向く。そこには同じく金髪の少女が立っている。エルフ、だろうか。
「お前って・・・私のこと?」
「そうだ、無礼者。そのお方は・・・」
「エイプリル!私が良いと言ったのですから。貴方こそ名乗りもせずに。」
古くからの友人なのだろう。レティに窘められ、プイと目をそらす。
「・・・エイプリル・エアハートだ。」
「よろしくね。エイプリルさん・・・エイルさん。」
「な・・・?!」
「仲良くしなきゃダメですよ?エイル。」
愛称を付けられ驚くエイルに、レティが追い討ちをかける。それに怒ったのか、赤い顔をして席について俯いてしまう。私とレティも笑いながら席に着く。ほどなく入学式は始まった。
「みなさん、今日この日を迎えられたことを嬉しく思います。あの・・・」
学園長のお話が続くなか、私は辺りを横目で見回す。レティ、エイルのほかにも、どこか浮世離れした雰囲気のクラスメイトたち。
「時空界震の結果、私たちは新たな隣人を得るに至りました。みなさんの隣にも、新たな仲間が座っています。」
姿かたちが違っても、みんなこの世界に生きる仲間。一緒に暮らす友人たち。
入学式が終わり、私たちはそれぞれのクラスに向かう。私もレティとエイルの三人で移動しようと腰を浮かせる。
「ちょっと。そこの貴方、私を案内なさい。」
言われてそちらを向くと、銀髪の少女。側頭部から伸びる角は、彼女が魔族であることを示している。
「いいよ。行こ。」
私は彼女の手を取って歩き出す。
「私、ひかり。瀬名ひかり。あなたは?」
「私の名はリューシャ・アヴェリン。偉大なる魔王様の娘よ!」
最後のほうは聞き流し、私は彼女を連れて行く。
「リューシャ・・・リズでいいよね?呼びやすいし。」
「リズ?!・・・ま、まあいいでしょう。サブリナ、行きますわよ。」
「はい、お嬢様。ひかりさん、私はサブリナ・コントレラス。お嬢様のメイドをしております。今後ともよろしく。」
どこにいたのだろう?ふっと影のように現れた少女、サブリナは褐色のエルフのようだ。二人を連れてレティたちのところに来ると、エイルが露骨に嫌そうな顔をした。
「お前は・・・」
そしてそのまま先に行ってしまった。レティはそれを追いかけるように歩いていってしまう。
「どうしたのかな?」
「彼女はエルフ、私はダークエルフ。私は気になりませんが、彼女たちエルフは私たちダークエルフを嫌っていますから。」
サブリナが説明する。その表情は淡々としていて、事実だから仕方ないと言う感じに見える。
「エルフ族は孤高を気取っておりますし。ドワーフとも仲が悪いんですのよ?」
リズが補うように説明してくれる。
「じゃ、仲直りしないとね♪」
そう二人に笑いかける。リズとサブリナはきょとんとした様子だったが、急に笑い出す。
「それは冗談かしら?貴方、面白いわね。」
私はリズ、サブリナの二人と教室に入る。もうすでにレティとエイルは席について話をしている。私たちもそれぞれの席に付いて、あたりを見回してみる。翼を持った少女も、尻尾が生えている子もいる。去年までなら想像もできない光景だけど、これが今の私たちの世界。
「さあ、みんな席について。・・・私は担任のルイーダ・バシルール。よろしくね?」
入ってきて早々自己紹介を始めるルイーダ先生。そのまま流れるように各自の自己紹介に移っていく。
レティ、エイル、リズ、サブリナ・・・ここまでで知り合ったみんなも綺麗だったけど、改めてクラスメイトを見てみると美少女ばかり。ルックスの審査でもあったのかな?と思うくらい。私が選ばれているのが不思議な気がする。
海外から来た少女や天空都市出身の子、ちょっと子供っぽい妖怪娘や天然なけもの娘までクラスメイトは個性があって楽しそう。
自己紹介が終わると、今後の授業に関する説明や学校の説明などが行われた。そのほとんどは事前にパンフレットなどで知っているものだったが、再確認ということだろう。
「じゃ、今日はここまで。明日から一緒に頑張りましょう。」
そう言ってルイーダ先生は教室を出て行く。途端にざわめきだす教室。どこかぎこちなく始まった雑談も、色恋沙汰やファッションの話で盛り上がっていく。私もその輪に混ざりながら、レティやエイル、リズにも話を振っていく。
「わ、私はドレスばかりでしたから、こんな服は・・・」
「私か?いや、可愛いのはちょっとな・・・」
「もっと露出を増やしたほうがよくありません?」
さすがにこちら側の服には興味があるらしく、ファッション雑誌を食い入るように見つめている。
「私は濡れない服とか欲しいですね・・・。」
マーメイド族のデルフィナさんがそう答えている。
「でもでも、こんなのも良くない?」
スキュラ族のアーニャが勧めているのは、露出度の高い服。二人とも魔法の力で私たちと変わらない姿をしている。
あれやこれやと話をしていると、学校の鐘の音が聞こえてくる。
「あ~・・・。そろそろ移動しようか?」
私たちはそろって寮へと歩き出す。寮もこの学校の敷地内にある。歩いてもそうたいしてかかることは無かった。道すがら特別教室や保健室などの場所を確認しながら、のんびりと何人かのグループで話しながら寮に向かう。
「フィーとアーニャは同じ部屋なのかな?」
私はそう問いかけてみる。私は同室が誰かは知らないのだけど、他の子たちのなかには特別に決まっている人もいるらしい。
「あ、はい。無理を聞いていただきました。」
「ま、あたしがいないと何も出来ないからね。」
幼馴染だと言う二人の息はぴったりだ。
「それを言うなら私とサブリナも同室でしてよ?」
「お嬢様の身の回りの世話を仰せつかっておりますから。」
リズの答えを補うようにサブリナが答える。この二人も幼馴染のような関係なのだろう。
「私はまだ知りません・・・。その、できればこちらの方と一緒に生活してみたかったので・・・。」
「私も聞いていないが。まあ、出来ることなら話の合う者と同室であってほしいが。」
レティとエイルはまだ誰と一緒になるか分からないらしい。私と同じように初めて親から離れて暮らすんだろう。期待と不安が入り混じったような顔をしている。
寮の入り口に辿り着くと、広いロビーは荷物と人でごった返していた。家から送った荷物がロビーに置かれていて、それぞれが自分で持って上がらなければならないらしい。私は家が近いから、今回の荷物自体は少なめだと思う。それでもダンボール二箱にはなったけれど。足りない分などはあとで家に取りに行くこともできる。
「まずは鍵をもらってこないとね。受付に行こうか。」
受付では名前とクラス番号で鍵と番号札をもらえる。番号札は荷物を受け取るために必要なのだ。
「えっと、私は6階の16号室だね・・・。」
台車に乗った荷物を受け取りエレベーターに向かう。それぞれが荷物を運ぶのに精一杯で、誰かとお喋りしている余裕はなさそう。私もとりあえず自分の荷物を部屋に運ぶことにする。すると、そこにレティの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「もう!こんなにいらないって言っておいたのに!」
ふとそちらを見ると、レティの前にはダンボールの山が出来上がっていた。多い人でも5個くらいなのに、三倍はあるだろうか。ロッカールームが特別製とはいえ、入りきるのだろうか?
「レティ・・・。あとで手伝うから、ね?」
私がそう声をかけると、涙で潤む瞳をこちらに向けるレティ。
「はいぃ・・・。お願いします、ひかり・・・。」
不覚にもドキッとした。・・・うう、可愛い。抱きしめてあげたい。
「じゃ、とりあえず先置いてくるね。」
すがるような視線を背中に感じながら、私はエレベーターに乗り込む。
部屋に入ると、広く開放的な造りに驚く。ロフト式のベッド、備え付けの机や広めの収納は学生寮の一室には見えない。
「うわぁ・・・。」
ちょっとだけ呆けてしまう。こんな部屋で暮らせるなんて思いもしなかった。
「・・・と、早く手伝いに行ってあげないとね。」
ダンボール二つを手早く奥のほうに降ろし、私は鍵を持って部屋を出る。レティが待つ1階ロビーへ急ぐ。
1階ではレティのほかにもクラスメイトが何人か集まっていた。家が近い子達で、私と同じように手伝いに来ているみたい。
「お待たせー。さ、運んじゃおうか。」
私はそう声をかけ、残されていた荷物を自分の台車に乗せる。
「で、レティ。どこの部屋なの?」
先陣を切って歩き出しながら、隣を行く美少女に問いかける。
「6階の16号室です・・・。」
「へぇ~6階の16室・・・。て、私と同じ?」
「え、あ、はい・・・。これからよろしくお願いします・・・。」
私は驚きを隠せないまま、みんなを引き連れて自室に向かう。箱は15個、とりあえず部屋にいれてしまう。コレだけの箱を入れても狭く感じないのが不思議なくらい広い部屋だ。
「整理は後にしようか。お昼食べに行こう?」
「はい!」
私たちは2階にある大食堂に向かう。入り口で食券を買って窓口に出す。ちなみに寮費と同じように、ここの食事代も無料なのだ。各国が予算を出し、企業が投資をしているこの学園は優遇されている。
「あ、あそこにエイルがいる。ちょうどテーブル空いてるみたいだし、あそこにしようか。」
私とレティはトレーを持ってエイルの席に向かう。
「ここいい?」
「うむ。座るがいい。」
私たちはエイルと向かい合うように座る。そこにはもう一人、クラスメイトの少女が座っていた。
「えっと、星 麗燐(しん れいりん)さん。よろしくね。」
「・・・よろしく。」
そっけない返事で食事に戻る麗燐さん。私たちも食事に手をつける。食事中はお互いにあまり話すこともなく、私も食事を済ませることに専念した。
(それにしても美味しいな♪焼加減、塩加減が絶妙だよぅ・・・。)
絶品の料理を味わいながら、昼食を済ませていく。
その場にいる全員が食事を済ませ、おのおのドリンクを片手に食休みをする。
「二人は同室なの?」
私は単刀直入に聞いてみる。
「ああ、そうだ。お前たちも同室か?」
「・・・うん。嬉しかった、ひかりと一緒で。」
そう言って潤んだ瞳を向けるレティ。何故だろう、なんだか落ち着かない。
「ねえ、先に戻るわ。」
麗燐さんはそう言ってさっさと歩いていってしまう。何か気に触るようなこと言ったかな?言ってないよね?
「どうも気難しいのか、私ともあまり言葉を交わしてくれん。私としては気楽でいいのだが。」
エイルもあとを追うように席を立つ。
「私たちも行こうか?」
「はい。」
荷物の整理が待っている。あまりのんびりしていると、夜遅くまでかかってしまう。私たちはすぐに部屋に戻って片付けに入った。
結局荷物の整理は6時近くまでかかってしまった。その大半がレティのものだったが、休憩を挟みながら部屋に積まれていた無数の箱を片付けることができた。
「ふぅ、何とか終わったねぇ。さ、お夕飯にしよ?」
「はい・・・。その前にひかり、これを貴方に受け取って欲しいのです。」
その手にあったのは、小さなペンダント。虹色の輝きを放つクリスタルを中央にあしらった、どう見てもかなり高価なものだ。
「これは聖鍵ベルスフィア。我が家に伝わる宝の1つです。」
「え、でもそんなの受け取れないよ。大切なものなんでしょ?」
今日初めて会った相手から、そんな大事なものを受け取るわけにはいかない。
「いえ、貴方にお預けしたいのです。私たちの友情の証として。父からも、私が最も信頼できる相手に委ねるように言われていますし。」
う、そう言われると悪い気はしない。私は小さく頷く。
「では、失礼して・・・」
レティの顔が近付く。そのペンダントをかけてくれるのだと分かっていても、どこか気恥ずかしい。レティの吐息がかかる。肌のぬくもりが伝わってくる。
(あ、ううダメだよぅ・・・私、そんな趣味ないのに・・・)
そのまま抱き寄せてしまいたくなるのを必死でこらえながら、レティが離れるのを待つ。そしてペンダントをかけ終えた彼女が離れるとき、心のどこかで寂しさを感じていた。
「この聖鍵ベルスフィアがひかりを、私たちを護ってくれるはずです。」
お守りのようなものだろうか。私はレティの言葉を聞きながら、そっとペンダントの上で手を重ねる。
(聖鍵・・・ベルスフィア。私たちを護ってね・・・。)
次の瞬間、何かが私の中に入ってきたような気がした。しかしそれは一瞬のことで、その感覚が何なのかは分からなかった。
「・・・?」
「どうかしましたか?」
「ううん・・・気のせいだったみたい。さ、食堂に行こう。おなか空いちゃった。」
「はい。」
食堂で夕飯を済ませて、私たちは大浴場に向かう。部屋にもシャワーはあるが、やはりお風呂に浸かりたい。
「私、みんなでお風呂に入ったことないので恥ずかしいです・・・。」
「え、そうなんだ。じゃ、一緒に入ろ?」
脱衣場で服を脱ぎ、大浴場へ。
「う、わああぁぁぁ・・・・」
広い。とにかく広い。家の近所の銭湯なんて比べ物にならないほどに。よく見ると、奥のほうには露天風呂まである。
「じゃ、まずは身体洗っちゃおうか。」
「はい。」
私たちは並んで鏡の前に座り、身体を洗っていく。髪を流してから、湯船に浸かる。
「ふうぅ・・・いい気持ち♪」
「うふふ、そうですね♪」
ふと、レティの金色に輝く髪に目を向ける。
「レティの髪、綺麗だよね・・・。」
「いつも手入れしていただきましたから・・・。ひかりの髪も、黒くて綺麗ですよ。」
「ありがと。短くしてないと落ち着かないんだよね・・・。」
ぼんやりと湯船に浸かりながら露天風呂のほうを眺めると、数人の人影が見える。聞き取ることは出来ないが、何か口論しているようだ。
「あれは・・・雫さんと、オルガさん?」
それはクラスメイトの二人。十六夜 雫さんとオルガ・カラグーニスさん。二人の間に何があったのだろうか?するとオルガさんがこちらに戻ってきて、そのまま出て行ってしまった。雫さんはそのまま他の子たちとお風呂に浸かっている。
「何かあったのかな?」
「それは分かりませんが・・・。」
私たちは二人に声をかけることができないまま、何となく押し黙ってしまった。
「そろそろ上がろうか。いい?」
「あ、はい。・・・きゃっ?!」
レティが足を滑らせる。私はそれを抱き寄せるように受け止める。お互いに見つめあうような体勢で固まってしまう。
「だ、大丈夫?」
「は・・・はい。」
私たちはのぼせたように顔を赤くしながら離れる。
(うわわ・・・レティの体、柔らかかったぁ・・・。まだドキドキしてる・・・。)
レティを見ると、火照った顔を背けながら恥ずかしそうに視線だけをこちらに向けていた。
(このままじゃ・・・いつまで我慢できるかわからないよ・・・)
私は出来るだけ意識しないように脱衣場に行って服を着替え、二人とも無言のまま部屋へと向かった。
エレベーターを降りる。私とレティの間には微妙な空気が流れていた。
「・・・だから!誤解だって言ってるじゃない!!」
「何が誤解だって言うのよ!」
私たちの部屋の二つ隣の部屋から怒声が響いている。他の部屋の人たちも表に出てきて、何事かと推移を見守っている。
「どうしたの?」
私は一番手前の少女に話を聞いてみる。
「なんか夕月さんと御厨さんが喧嘩してるらしいんだけど。理由が良くわかんないんだよ・・・。」
「そうそう。誤解だ、そうじゃないってそればっかり。」
よく分からないが、喧嘩しているのはクラスメイトの二人。夕月 慧さんと御厨 昴さん。幼馴染だと聞いていたんだけど。
「取っておいた私の紅茶プリン食べたくせに!楽しみにしてたのに!!」
「だから間違えたって言ってるでしょ!ハチミツプリンもあるからいいじゃない!!」
・・・。
「行こうか、レティ?」
「え?でも・・・いいんですか?」
「大丈夫、大丈夫!ああいうのは明日の朝には仲直りしてるから。」
「そういうものなのですか・・・?」
レティはまだ気にしているようだったが、周りにいた少女たちも部屋に戻っていくのを見て歩き出す。
部屋に入ると買っておいた清涼飲料水を備え付けの冷蔵庫から取り出す。グラスに注ぎ、ひとつをレティに手渡す。
「ふう。さすがに今日は疲れたね。ちょっと早いけど、今日はもう寝ようか?」
「そう・・・ですね・・・。」
うつらうつらとしながらレティはドリンクを飲み干してしまう。そしてそのままゆっくりと布団へと潜り込んでいく。
「おやすみ・・・なさ・・い、ひかり・・・。」
「ん。おやすみ、レティ。」
私はレティの寝顔を盗み見ながら灯りを落とし、布団に入っていく。よほど疲れていたのか、すぐに眠気に襲われる。
(なんだか楽しくなりそうだなぁ・・・。レティは可愛いし・・・。)
私は何となく、レティに預けられたペンダントを指でなぞる。そして、ゆっくりと眠りに付いた。
明日から始まる新生活に想いを寄せながら。
それは夢、だろうか。
「汝、我が声に耳を傾けよ・・・」
荘厳で重厚感のある声。
「汝、我が問いに答えよ・・・」
胸の内側から響く声。夢の中、姿は無い。
「汝、我が力を欲するか?人を超える力を望むか?」
(私は、みんなを、レティを護れる力があればそれでいい・・・)
「汝、人を護るために力を振るい、その身を犠牲に出来るか?」
(みんなを、レティを護れれば、私はどうなってもいい・・・)
「我が力、汝の想い。二つをつなぎ、扉は開かれん。我が同胞たちの想いもまた、汝の力となりて共に進まん。」
(貴方たちの想いと力、確かに受け取りました・・・。みんなを護るため、私はこの力を無駄にはしません。)
声が、気配が消える。入れ替わるように感じるのは、身体の内に広がる大きな力。現実感の無い夢の中での出来事は、記憶の底に封じられていく。私は再び、深い眠りへと沈んでいく。
この日から、私の世界は新たな色に染まる。新たな生活と新しい友人たち。そして、レティ。私は、私の目に映るこの世界を護りたい。それが、私の願い。この願いをかなえる力を、今は欲しい。全てを護りぬく力を、この命に代えても護れる力を!
・・・世界は廻る。運命の歯車は、少女たちの青春と情熱を糧にして廻り始める。少女たちの戦いは、今まさに始まろうとしていた。その先にある未来を、今はまだ、誰も知ることはできない。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第1話 【困惑の前奏曲】 完
いかがだったでしょうか?
少々長く、だらだらした内容になってしまったかもしれません。
日常シーンを書くのがこんなに難しいとは・・・。
今回登場した少女たちのもうひとつの顔は、
次回以降明らかにしていこうと思います。
もちろん、悪堕ちシーンも・・・。
それでは今回はこの辺りで。
次回更新でお会いしましょう。
次回予告!
動き始める闇の勢力。混沌と破壊がその身に降りかかるとき、少女の力は目覚める。そして鳴り響く聖戦の鐘。少女たちの終わりの見えない戦いが始まる・・・。
第2話 【胎動と覚醒の序曲】
「闇夜に輝く1つ星!聖なる光に想いを乗せて、黒雲切り裂きここに推参!・・・なんてね☆」