少女たちの聖戦 第2話 【胎動と覚醒の序曲】
みなさま、長らくお待たせしました。
ようやく第2話が完成しました・・・。
個人的な事情もあり執筆ペースが遅れてしまいました。
今回も前回同様、悪堕ちもエロもない日常のお話。
顔見せに近い内容ですが、ちょっとだけバトル的なものが含まれています。
正直かなり長くなってしまったので、
飽きてしまうかもしれませんが
最後まで読んでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
闇。そこは暗く深い闇に満ちた世界。
「・・・」
音も無く、闇の中で何かが蠢く。
「・・・頃合いか。」
次の瞬間、気配が増える。闇の中、青い炎が辺りを照らす。影は五つ。
「我々が望む世界を創るために。この世界を混沌に導こう、我が同志たちよ。」
言葉は無く、四つの影はただ頷くだけ。
「では、状況を開始しよう。」
そして気配は消える。再び闇が訪れる。何もなかったかのように。
「・・・せいぜい張り切るがいい。最後に全てを手にするのは我一人で十分なのだから。」
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第2話 【胎動と覚醒の序曲】
「いやぁそれにしても、こんなに大人数になるとは思わなかったよ・・・」
私は後ろを振り返りながら呟く。
「ふん。私はレティに誘われたから付いてきただけだ。でなければこんな奴らと・・・」
「あら?私たちはひかりにどうしても、と請われましたので一緒に来たのですわ。」
エイルの言葉に勝ち誇ったようにリズが反応する。その隣ではサブリナが苦笑しながら、アーニャと話をしている。
「それでさ、フィーってば、服着るの忘れてて。」
「ああ、それがこないだの騒ぎですか。リズお嬢様もこの前・・・」
不意に言葉が途切れる。リズとフィーがジト目で二人を睨んでいた。
「サブリナ・・・。何を話しているのかしら?」
「アーニャ!人の失敗をべらべらと・・・」
二人の抗議を受け、サブリナとアーニャは笑みを浮かべながら口を閉じる。
「楽しそうですね、ひかり。」
隣でレティが笑みを浮かべながら私の顔を覗き込む。
「うん!やっぱりみんなで仲良く買い物とか、楽しいよね!」
私は満面の笑みで答える。外出する機会は何度かあったけど、この人数・メンバーで出かけるのは初めて。
「さ、まずは下着でも見に行こうか?」
ようやく第2話が完成しました・・・。
個人的な事情もあり執筆ペースが遅れてしまいました。
今回も前回同様、悪堕ちもエロもない日常のお話。
顔見せに近い内容ですが、ちょっとだけバトル的なものが含まれています。
正直かなり長くなってしまったので、
飽きてしまうかもしれませんが
最後まで読んでいただければ幸いです。
それではどうぞ。
闇。そこは暗く深い闇に満ちた世界。
「・・・」
音も無く、闇の中で何かが蠢く。
「・・・頃合いか。」
次の瞬間、気配が増える。闇の中、青い炎が辺りを照らす。影は五つ。
「我々が望む世界を創るために。この世界を混沌に導こう、我が同志たちよ。」
言葉は無く、四つの影はただ頷くだけ。
「では、状況を開始しよう。」
そして気配は消える。再び闇が訪れる。何もなかったかのように。
「・・・せいぜい張り切るがいい。最後に全てを手にするのは我一人で十分なのだから。」
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第2話 【胎動と覚醒の序曲】
「いやぁそれにしても、こんなに大人数になるとは思わなかったよ・・・」
私は後ろを振り返りながら呟く。
「ふん。私はレティに誘われたから付いてきただけだ。でなければこんな奴らと・・・」
「あら?私たちはひかりにどうしても、と請われましたので一緒に来たのですわ。」
エイルの言葉に勝ち誇ったようにリズが反応する。その隣ではサブリナが苦笑しながら、アーニャと話をしている。
「それでさ、フィーってば、服着るの忘れてて。」
「ああ、それがこないだの騒ぎですか。リズお嬢様もこの前・・・」
不意に言葉が途切れる。リズとフィーがジト目で二人を睨んでいた。
「サブリナ・・・。何を話しているのかしら?」
「アーニャ!人の失敗をべらべらと・・・」
二人の抗議を受け、サブリナとアーニャは笑みを浮かべながら口を閉じる。
「楽しそうですね、ひかり。」
隣でレティが笑みを浮かべながら私の顔を覗き込む。
「うん!やっぱりみんなで仲良く買い物とか、楽しいよね!」
私は満面の笑みで答える。外出する機会は何度かあったけど、この人数・メンバーで出かけるのは初めて。
「さ、まずは下着でも見に行こうか?」
複合商業施設・ハルモニアパーク。ネジの1つから自動車まで揃う、国内でも最大級のショッピングモール。
「ねぇねぇコレなんてどうかな?それともこっちにする?」
私はレティにブラやショーツを勧めていく。向こうではサブリナがリズに、アーニャがフィーの下着を見立てている。エイルは一人早々に選んで、レジに向かってしまった。
「ひかり、楽しんでませんか・・・?」
さっきからあれやこれやと勧められて疲れたのか、レティは恨めしそうな目でこちらを窺う。
「あはは、そんなことないよ?じゃ、どれにする?」
そこにあるのは、青・赤・黒など10色の派手さを抑えた意匠の下着。レティはその中から二つを手に取る。
「じゃ、じゃあこの水色のとピンク色のを・・・」
「ん。わかった。」
私は残りを持ってその場を離れ、元あった場所に戻してくる。ちなみに私は、薄紫色のを選んでいた。
「さ、レティ。レジに行こう?」
小さく頷き私の後ろを付いてくるレティ。他の娘たちも品定めを終えてレジに並び始めていた。
そんな時、だった。
ドカァァァアアン!!
建物が揺れ、轟音が響く。地震ではなさそうだ。揺れは一瞬で、すぐに収まった。
「きゃあああぁぁぁ!?」
唐突に周囲から悲鳴が聞こえてくる。視線をそちらに向けると、そこには下を見渡せる大きな窓。土煙のようなものが上がっていた。
「あれは・・・?」
そのなかで、大きく黒い影が動いていた。それと対峙するように小さな影が二つ。赤と青、二つの影が謎の怪物の攻撃をかわしながら舞い踊る。それは、少女のようだった。どこかで見覚えのあるような、そんな面影のある二人の少女。
「慧と・・・昴に、似てるなぁ・・・?」
私は何となくそう思った。本当にそうであるとは知ることも無く。
周りでは歓声と悲鳴が入り混じって、誰もがその戦いを見守っていた。その視線を集める少女たちの戦いは、クライマックスを迎えようとしていた。
「魔力・・・じゃない?!」
リズが驚いたように呟く。周りにいた人たちも呆然として見ていた。そのなかでエイルがポツリと囁く。
「あれは、精霊の力を借りているんだ・・・。」
その言葉に振り向こうとしたその時、黒い影が光に包まれる。辺りを白く覆った光が収まった頃、そこにはもう黒い影も二人の少女戦士の姿もなかった。
「何だったんだろう・・・?」
私は言い表せない小さな不安が心に広がっていくのを感じていた。あの黒い影のことも、二人の少女のことも知っているような気がした。見たことはないはずなのに、何故か知っている。それが不思議で、不安でもあった。
下着の買い物を済ませた私たちは、ひとまず休憩のために小さなカフェに入ることにした。
「それにしても、アレなんだったんだろうねー?」
他のテーブルからそんな声が聞こえてくる。アレというのは、さっきの戦いのことだろう。
「何かヘンな奴がカード張ったら、車が化け物になって・・・」
初めから見ていたらしい。私たちの知らない話に、聞き耳を立ててしまう。
「盗み聞きとはいい趣味をしている。いい機会だ。その性根、叩き直してやろう。」
エイルが耳元で囁く。声がマジだ。慌てて意識を目の前の話に引き戻す。
「あはは・・・」
その場にいた全員の視線が私に向いていたことに、初めて気が付いた。
「もう・・・ひかりってば。聞いてなかったのね?」
アーニャがあきれたように呟く。
「ああう・・・ごめん。で、何の話だったの?」
「この後どうしようかって・・・」
フィーが苦笑いを浮かべながら、そっと応えてくれる。
「洋服でも見に行こうかなって話していたんだけど・・・。」
「じゃ、ちょっと休んだら行こうか。すぐ下にファッションフロアがあるしね。」
私はそう言ってアイスティーのストローを咥える。ちらりとレティを見ると、小さく笑みを浮かべていた。
趣味的なブティックから高級なオーダーメイドの店まで揃うそのフロアで、私たちはそれぞれ品定めを始めた。いや、それはすでに着せ替え遊びのような光景だった。服を着せられているのはレティ、リズ、フィーの三人。私とサブリナ、アーニャがアレコレと服を見繕っては着せている。店員さんも一緒になって楽しんでいるような状態だ。
「ちょ、ちょっと・・・エイル!見てないで何とか言ってやってください!」
レティが離れた場所に立っているエイルに助けを求めた。しかし、エイルは苦笑いを浮かべながら見ているだけ。その手にはいつの間にか紙袋が1つ増えていた。
「アーニャ・・・まだ試着するのですか・・・?」
フィーは涙声になっている。アーニャは早々に自分のものを確保していた。
「サブリナ!次のを早く持ってきなさい!」
「はい、お嬢様。こちらなどいかがでしょう?」
リズは逆に楽しんでいるようだ。サブリナも慣れているのか、次の服を手渡すと着終わった服をキレイに畳んで店員さんに渡している。
「ひかり・・・もう、いいですか・・・?」
レティも涙を浮かべながらこちらを覗いてくる。恥ずかしくて仕方ないらしい。
「むう・・・しょうがないなぁ。じゃ、好きなの選んで?」
私がそう言うと、レティはゆっくりと元の服に着替えて選び始める。レティが選んだのは、ジーンズ一枚とTシャツやキャミソール数枚。
「あれ?フリル付きのが趣味かと思ってた・・・」
私はレティが選んだものを見て、そんな感想を抱いた。
「あ、あれはお母様の趣味で・・・。それにこういうのに興味もありましたし・・・。」
だとしてもラフすぎるような気がしないでもない。まあ、いいか。着てみたいと言う以上、反対する理由もないし。
「ん。じゃ会計済ませようか。エイルが待ってるし。」
「はい。」
そう言って私とレティはレジに向かう。リズたちはまだ時間がかかりそうだ。フィーは、着せ替え人形になっていた。
会計を済ませエイルを探す。外が一望できる大きな窓のそばにあるベンチに、彼女はいた。そしてなぜか、空を見つめていた。まるで睨むように。
「エイル~。お待たせ・・・て、怖い顔して何を見てるの?」
私はそう声をかけながら、エイルの視線の先を追いかける。
「・・・ひと?人が宙に、浮いて・・・?」
私は驚く。だがエイルはそれには驚いていないようだ。気を取り直してよく見ると、その人影は見覚えのある女性のようだった。
「あ・・・し、星さん?」
星 麗燐。同じクラスの仲間であり、エイルのルームメイト。その彼女が、空を飛んでいた。何をしているのかはよく分からないが、何かを探しているように見える。
「あ・・・。」
こちらの視線に気付いたのか、星さんは飛んで行ってしまった。さっきは感じた不吉な予感を、今回は感じなかった。
「ひかり。今のは秘密にしておいてやってくれないか。」
エイルが真剣な表情で私を見つめる。
「え・・・。分かった、エイルがそう言うなら。」
「すまない。」
何かを知っているのか、神妙な面持ちでエイルが頭を下げる。
「気にしないで。話せるときが来たら話してくれればいいから。ね?」
「ああ、そのときは必ず・・・。」
私とエイルはみんなに合流して、小物や生活雑貨を買いにいくことにした。今のままでも困ることはないけれど、もう少し女の子らしい部屋にしておきたい。私たちはそれぞれ目当てのものを探すために一旦別れ、あとで集合することにした。
「うわぁ・・・可愛いのがいっぱい・・・。」
レティが山と積まれたぬいぐるみ風クッションの前で目を輝かせる。
「ふ、このようなもの私が買うとでも?」
そう言いながらエイルは、きょろきょろと視線を泳がせている。気になって仕方ないのだろう。
「エイル。気に入ったのあったら買ってもいいんだよ?」
私は笑いを噛み殺しながらボソッと呟く。
「な、何を言って・・・。」
反論しようとしたエイルの目線が、1つのぬいぐるみに吸い寄せられる。
「か・・・」
「蚊?蚊がいるの?」
「かわいい・・・。」
エイルはそう呟くと、一目散にそのぬいぐるみのもとに飛んでいった。そこにあったのは、イノシシのぬいぐるみ。『ラブボア』と商品名が書かれている。
「エイルってば、本当は可愛いものに目がないんですよ。」
いつのまにかレティがそばに来て、エイルの様子を眺めている。その手には、ライオンのぬいぐるみが抱えられていた。
「レティは、それ?」
「はい!可愛いですよね・・・ひかりもどうです?」
「あ、いや・・・私はいい、かな。可愛いのとか、似合わないし。」
「そうですか・・・こんなに可愛いですのに・・・」
そんなことを言いながら、レジへと向かう。エイルは、早々に会計を済ませていた。明らかに、大きな袋を抱えている。よく見ると、棚に並んでいたラブボアのぬいぐるみがごっそりとなくなっていた。
「エイル・・・。」
1階の玄関ホールで集合した私たちは、山のような荷物を抱えながら一旦寮に帰ることにした。さすがに荷物が多いので、自室に運んでから学園前にあるカフェに集まることになった。
カフェ・インテルメッツォ。学園の正面入り口前にあるファミレス規模の比較的大きなスイーツカフェ。世界中のスイーツが揃う、年頃の女の子たちにとって夢のような店でもある。それでいて店のマスターが直々に入れる紅茶や珈琲が人気のカフェである。
「ふぅ~。ここのケーキセットが一番だねぇ・・・」
私はダージリンティーを一口含んで、思わず呟く。鼻と舌に広がる風味を楽しみながら、セットのモンブランを切り分けて口に運ぶ。
「うん。甘すぎなくて美味し。」
私は感想を言いながら食べていく。他のみんなも口々に美味しいと言いながら、スイーツを楽しんでいた。
そんな時、黄昏に染まる街角から悲鳴が聞こえてきた。直後、街角の暗がりから痩身巨躯の人影?が姿を現す。人にしてはあまりに大きく、額には角らしきものが突き出ている。
「オーガ?・・・いや、オニ・・・か?」
リズが息を呑み、サブリナは身構えながら呟く。フィーの傍ではアーニャがじっと見つめていた。
「え?あれ、何?」
私の思考は目の前の状況についていけなかった。呆然と、見ていることしか出来なかった。だが、ふと気付く。
「怪我してる・・・?」
全身に傷を負い、まるで何かから逃げようとしているようだった。次の瞬間、違和感に気付く。騒がしかったはずの店内が妙に静かだった。周りには、レティ、エイル、リズとサブリナ、フィーにアーニャ・・・・と、もう一人。
「柚・・・さん?」
ついさっきまでここには居なかったはずのクラスメイトの一人、清家 柚がそこにはいた。見たことも無い厳しい表情を浮かべながら、指先に文字の書かれた細長い紙をはさんで。
「結界を張りました。皆さんに害が及ぶことはありませんが、ここを動かないでくださいね?」
そう言うと、足早に店を出て行ってしまう。視線を外に戻すと、他にもクラスメイトがいた。十六夜 雫さん、来栖 蛍さん、そして月華さん。柚さんを含め全員が白襦袢に緋袴。いわゆる巫女の姿だった。
そして、戦いは終わろうとしていた。何らかの術がかかったのか、鬼のようなものの動きが止まる。そこへ飛び掛る雫たち。化け物は、抵抗も出来ないまま消滅してしまった。
「すごい・・・。」
そう言ったのは誰だろうか。その声とともに周囲のざわめきが戻ってくる。先ほどまでの混乱が嘘のように、日常の風景が戻ってきた。まるで、何事も無かったかのように。
ふと窓の外を見ると、雫が口元に指を当てていた。黙っていて欲しい、ということなんだろう。小さく頷くと雫たちは学園のほうに去っていった。
「みんな、色々あるんだね・・・。」
レティがそんなことを口にする。
「そうだね・・・。」
確かにみんな、色々抱えているのかもしれない。私に力があれば、みんなを助けてあげられるのかな・・・。
カフェを出て寮に戻る。買ってきたものを1つ1つ取り出しながら、今日あったことを思い返してみる。
謎の化け物と闘う二人の少女戦士。
空を飛び何かを探すクラスメイト。
鬼と戦うクラスメイトの巫女さんたち。
買い物の楽しさよりも、あまりに衝撃的な出来事が強く印象に残っていた。
「・・・ひかり?どうしたの?」
手が止まっていた私を覗き込むように、レティが声をかける。
「ふえっ?!あ、ううん、なんでもないよ?」
私は慌てて取り繕いながら、片付けを済ませてしまう。
「じゃ、ご飯にしようか?」
外を見ると、すでに日が落ちて月が輝いていた。
「はい。」
レティを連れて部屋を出る。するとそこに黒い姿をした少女が一人歩いてくる。
「オルガさん・・・?」
オルガ・カラグーニス。その姿は修道服、いわゆるシスターの格好だった。背中には十字架をかたどった、巨大な何か。その姿は異様であり、何故かとても彼女に似合っていた。
「失礼。」
オルガさんはそのまま私たちの横を素通りして部屋へと入っていく。あまりに自然で、かける言葉も見つからなかった。
「オルガさんって、シスターだったんだ・・・」
問題はそこじゃないような気がする。レティの言葉に苦笑いを浮かべつつ、私は食堂に向かう。
(みんな、何かと戦ってるのかな・・・。私は、今のままでいいのかな・・・?)
そんな想いが、私の心を支配していた。昼間から、ずっと。
(私にみんなを、レティを護れる力があれば・・・)
手のひらを見つめる。しかし、そんな力は出てこない。頭を振り、顔を上げる。
(ううん。きっと一緒にいることがみんなを護ることになるんだ・・・多分。)
そう自分に言い聞かせて、私は夕食のために食堂に向かった。
食事、風呂と済ませて部屋に戻ると、レティは早速今日買ってきたパジャマに着替える。いや、それはパジャマと言うより着ぐるみに近いような気がするが。
「えへへ。どうですか?似合ってます?」
「か、可愛いよレティ・・・。」
私は抱きしめてしまいそうになるのを必死にこらえていた。そんなレティの姿は、三毛猫着ぐるみパジャマ。胸にはライオンのぬいぐるみを抱えていた。
「ありがと・・・。さ、ひかりも。」
そう言って笑顔で私に着替えを促すレティ。
その時だった。
『汝、我が呼びかけに応えその力を呼び覚ませ!』
頭の中に声が響く。そして、空気が変わる。今までに感じたことのない何かが、学園の中に集まっていくのを感じる。
「レティ、何これ・・・?気持ち悪い・・・。」
ふと見ると、レティも厳しい顔をしていた。
「濃密な闇の魔力が・・・こんなときにいったい何故?」
そう言ってレティは部屋を飛び出して行ってしまう。
「私も、行かないと・・・。」
ズキズキと急に痛み出した頭を抱えながら、私はレティを追うように部屋を出る。何かに導かれるように寮を出て、学園の中へと入っていく。
校庭の中央に、ソレはいた。暗闇の中にありながら、その闇色の巨体は際立って見えた。
「何なのよ、アレ・・・。」
私は思わず呟く。漆黒の巨体に青白く光る瞳。見たこともない怪物がそこにはいた。
「レティ?!」
遠巻きに見ていた私の眼に飛び込んできたのは、その怪物に襲われようとしている最愛の友の姿。そこには他にも多くのクラスメイトたちがいたが、彼女だけしか見えなかった。
(レティ!逃げて!!)
魔法が使える生徒たちが必死に食い止めようとするが、怪物は止まらない。
昼間見た少女戦士たちもそこにいた。
空を舞う無口な少女も。鬼と戦っていた巫女たちも。シスターの少女も。
だが、怪物を止めることは出来ない。誰一人、止めることは出来なかった。
「いや・・・いやぁ・・・」
私は、目を背けそうになる。
そんな時、だった。
『汝、我が力解放し、悪しき闇を討ち祓え!!』
胸元から光が迸る。私はゆっくりと、その光の源を握り締める。
「お願い、聖鍵ベルスフィア!私に力を、みんなを、レティを護る力を貸して!」
そして運命は廻りだす。
胸元の聖鍵から光が放たれる。闇夜を切り裂き、光が魔法陣を描いていく。光の奔流が降り注ぎ、私はその光に包まれる。そして、私は覚醒する。
足にはヒールつきの白いブーツ。手には白いロンググローブ。白とピンクを基調としたワンピースに、頭には翼をあしらったティアラ。
リボンやフリルのついた可愛さ重視のその姿は、普段なら絶対に着ることのないもの。昔見たアニメの世界に出てくる魔法少女を形にしたような格好だった。
私は溢れる力をその身に抱いて、みんなの、レティの前に舞い降りる。
「お待たせ、レティ!」
「ひかり・・・なのですか?」
レティの瞳は驚きと喜びに輝いていた。私は小さく頷くと、怪物に相対する。
「闇夜に輝く1つ星!聖なる光に想いを乗せて、黒雲切り裂きここに推参!・・・なんてね☆」
何となく思い浮かんだセリフを言ってみる。恥ずかしいけど、何となくそうしないといけないような気がした。お約束、と言うやつだ。
グルルルアアアァァァァ!!
怪物が雄叫びを上げながら向かってくる。私はゆっくりと右手を空に高く掲げる。
「光よ集え!熾天使ラズナエルの名の下に!!神剣クロムハート!!」
掲げた右手に白金の、光り輝く剣が現れる。私はそれを怪物に向けて振り下ろす。
「光に、消えなさい!!ホーリージャッジメント!!」
切っ先を中心に魔法陣が幾つか展開され、そこから数多の閃光が放たれる。
グギャアアアアァァァァ!!
その光は怪物を貫き、穿ち、焼き払い、消し飛ばしていった。
全てを覆い尽くす白い光の爆発が収まると、そこには何事も無かったかのような夜の世界が広がっていた。空には月が、冷たく静かに輝いていた。
「ひかり・・・その姿は・・・?」
「よくわかんないけど、コレが、聖鍵ベルスフィアが力を貸してくれたみたい。」
私はゆっくりとレティたちに向き直ると、その瞬間もとの服装に戻っていた。
「それにしてもレティ・・・そのカッコ、恥ずかしくない?」
彼女はよほど慌てていたのか、パジャマのままでここに来ていた。レティは自分の格好を見て、真っ赤になってしゃがみこむ。
「あう・・・み、見ないでくださいぃ・・・。」
それを見て、場の空気が和らぐ。みんなの顔に笑顔が浮かぶ。
「と、云うわけでこれからもよろしくね、みんな!」
私はその場に居並ぶ少女たちに手を差し出す。少女たちはお互いに顔を見合わせ、ゆっくりと頷く。
「ええ、もちろん!」
「当然ですね!」
「仕方ないな・・・」
そう言いながら少女たちは手を重ねていく。みんなの夢や希望を護るために、私たちは力を合わせて立ち向かう。お互いに言葉は無くてもわかっていた。
「じゃ、戻ろっか?」
そんな一言で私たちは寮へと戻っていく。学園の屋上で一部始終を見つめていた人影に気付くこともないまま。
◆◆◆
「ククク、覚醒したか・・・」
校庭を立ち去る少女たちを見つめる影は呟く。夜闇の中でその影はなお暗く、月の光に照らされることもなかった。
「聖鍵ベルスフィア・・・厄介な代物だが、覚醒状態のほうが不安定だからな。」
誰に聞かせるわけでもなく、その影は己に言い聞かせるように呟いていた。
「それにしてもあの娘・・・本人は気付いてない様だが、相当な魔力キャパシティを持っているな。フフフ、面白くなりそうだ・・・」
その一言を最後に、影はその姿を消す。残るのは白く輝く月の光だけだった。
◆◆◆
私はレティと二人で部屋に戻り、軽くシャワーを浴びた。
(疲れてるはずなのに、不思議なくらい身体が軽い・・・)
今までに感じたことのない熱を、身体の内側に感じていた。それは何故か心地よく、疲れを忘れさせてくれるような気がした。
「ひかり、はいコレ。」
私は身体を拭き、レティに渡されたものを身に着けていく。
「わぁ、可愛いですよ、ひかり!」
可愛い・・・?私は改めて自分の格好を見てみる。それはレティとおそろいの黒猫のパジャマ。フードには猫耳、手にはご丁寧に肉球まで付いている。当然しっぽもついていた。
「ふえっ?!ななな、なんで私、こ、こんなカッコ・・・?」
ギギギ・・・と音がしそうなほどぎこちなく顔を上げてレティを見る。
「可愛いからいいじゃないですかぁ~」
そう言ってレティは抱きついてくる。
「ちょっ・・・何を・・・?!」
急な展開に頭がついてこない。
(え?どういうこと?まさかレティも?ううんでもそんなことあるわけ・・・)
「ありがとう、ひかり。助けてくれて。護ってくれて。」
「え、あ、ううん。当然だよ、そんなの・・・。だって、友達でしょ?」
心のどこかでがっかりしながら、何とか言葉を返す。
「それでも、嬉しかった・・・。」
レティの潤む瞳が私の心をざわつかせる。
「そ、そう?でも、私もレティを護れてよかった・・・。」
「ひかり・・・。」
「さ、さあ、そろそろ寝ようか。私、疲れちゃった。」
私は何とかレティの瞳から視線を外し、心にもないことを言ってしまう。
(こ、このままじゃ、わ、私、抑え切れなくなっちゃう・・・)
「そ、そうですね・・・じゃあ、ひかり。おやすみなさい・・・」
「うん。おやすみー。」
レティはもぞもぞと布団のなかに入っていく。私も電気を消して布団にもぐりこむ。肌に残るレティのぬくもりを抱きながら、眠りにつく。
結局眠りに落ちたのは、かなり時間が経ってからだった。
◆◆◆
「また随分派手に動き出したものね。」
ここは悪の秘密組織コードダークの本部。その一室で白衣を着た数人の女性が、報告書を片手に話しこんでいた。
「で、キヨカ様。メイ様は何と?」
「今は様子見だそうよ。新しい知識を実用レベルに持っていくので頭が一杯みたい。」
「そうですか。では我々は手はずどおり『沈黙の処刑人』の制圧を優先します。」
「ええ。よろしくね、ルシル。あそこだけは放っておいても利益にならないから。」
ルシルとその後ろに控えていた女性たちが席を立つ。
「他の組織については監視を続けて。無理に深入りしないように、ね。それでは解散しましょう。」
キヨカがそう締めくくると、集まっていた女性たちが席を立ち部屋を出て行く。と、そこへ1人の少女が。
「なんじゃ、もう終わりか。せっかく来てやったというのに。」
いや、彼女は少女ではない。協力者である魔族の1人、バフォメットのレジェンダである。
「レジェンダ様・・・お呼びした覚えはありませんが。」
その言葉にレジェンダはニヤリと笑う。
「じゃが、伝えておいたほうがいいと思うての。・・・どうやら彼奴らに歯向かう者がおるようじゃ。それも、半端じゃない素質を持った、な。」
「そう、ですか。ま、当分は泳がせておきましょう。どういう形になったとしても、全てを手に入れるのは私たち、ですからね。」
ニヤリと唇の端を歪ませて、レジェンダに視線を向ける。
「ふふ、そうじゃな。そうでなくては面白くない。」
レジェンダもまた唇だけで笑みを作り、そのまま踵を返して部屋を出て行く。
「さあ、楽しみましょう。私たちのための混沌を、ね。」
その言葉は、誰に届くことも無く薄暗い部屋に響いていた。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第2話 【胎動と覚醒の序曲】 完
いかがだったでしょうか?
日常シーンほど時間がかかるのはもはやデフォ・・・?
そんな感じで長々と書いてしまったような気もします。
登場人物が多い上にそれぞれが別の組織と相対するので、
全員が集まるシーンは長くなってしまうのです・・・。
さて次回からは本業?に戻ります。
1人ずつ・・・堕ちていただこうと思います。
大どんでん返しも悪堕ちを彩るエッセンス、
とだけ言っておきましょう・・・。
それでは次回更新でお会いしましょう。
次回予告!
目覚めたひかりの力。動き始めた闇の勢力。そんななか、1人の少女に危機が迫る。ひかりは、仲間たちは間に合うのか。そして動き出す、もう1つの闇。少女たちは、激しい戦いの舞台に立つ。
第3話 【失意と沈黙の小夜曲】
「アタシはアタシ。誰のものでもない!あんたの野望はここで終わらせてあげる!!」
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「ねぇねぇコレなんてどうかな?それともこっちにする?」
私はレティにブラやショーツを勧めていく。向こうではサブリナがリズに、アーニャがフィーの下着を見立てている。エイルは一人早々に選んで、レジに向かってしまった。
「ひかり、楽しんでませんか・・・?」
さっきからあれやこれやと勧められて疲れたのか、レティは恨めしそうな目でこちらを窺う。
「あはは、そんなことないよ?じゃ、どれにする?」
そこにあるのは、青・赤・黒など10色の派手さを抑えた意匠の下着。レティはその中から二つを手に取る。
「じゃ、じゃあこの水色のとピンク色のを・・・」
「ん。わかった。」
私は残りを持ってその場を離れ、元あった場所に戻してくる。ちなみに私は、薄紫色のを選んでいた。
「さ、レティ。レジに行こう?」
小さく頷き私の後ろを付いてくるレティ。他の娘たちも品定めを終えてレジに並び始めていた。
そんな時、だった。
ドカァァァアアン!!
建物が揺れ、轟音が響く。地震ではなさそうだ。揺れは一瞬で、すぐに収まった。
「きゃあああぁぁぁ!?」
唐突に周囲から悲鳴が聞こえてくる。視線をそちらに向けると、そこには下を見渡せる大きな窓。土煙のようなものが上がっていた。
「あれは・・・?」
そのなかで、大きく黒い影が動いていた。それと対峙するように小さな影が二つ。赤と青、二つの影が謎の怪物の攻撃をかわしながら舞い踊る。それは、少女のようだった。どこかで見覚えのあるような、そんな面影のある二人の少女。
「慧と・・・昴に、似てるなぁ・・・?」
私は何となくそう思った。本当にそうであるとは知ることも無く。
周りでは歓声と悲鳴が入り混じって、誰もがその戦いを見守っていた。その視線を集める少女たちの戦いは、クライマックスを迎えようとしていた。
「魔力・・・じゃない?!」
リズが驚いたように呟く。周りにいた人たちも呆然として見ていた。そのなかでエイルがポツリと囁く。
「あれは、精霊の力を借りているんだ・・・。」
その言葉に振り向こうとしたその時、黒い影が光に包まれる。辺りを白く覆った光が収まった頃、そこにはもう黒い影も二人の少女戦士の姿もなかった。
「何だったんだろう・・・?」
私は言い表せない小さな不安が心に広がっていくのを感じていた。あの黒い影のことも、二人の少女のことも知っているような気がした。見たことはないはずなのに、何故か知っている。それが不思議で、不安でもあった。
下着の買い物を済ませた私たちは、ひとまず休憩のために小さなカフェに入ることにした。
「それにしても、アレなんだったんだろうねー?」
他のテーブルからそんな声が聞こえてくる。アレというのは、さっきの戦いのことだろう。
「何かヘンな奴がカード張ったら、車が化け物になって・・・」
初めから見ていたらしい。私たちの知らない話に、聞き耳を立ててしまう。
「盗み聞きとはいい趣味をしている。いい機会だ。その性根、叩き直してやろう。」
エイルが耳元で囁く。声がマジだ。慌てて意識を目の前の話に引き戻す。
「あはは・・・」
その場にいた全員の視線が私に向いていたことに、初めて気が付いた。
「もう・・・ひかりってば。聞いてなかったのね?」
アーニャがあきれたように呟く。
「ああう・・・ごめん。で、何の話だったの?」
「この後どうしようかって・・・」
フィーが苦笑いを浮かべながら、そっと応えてくれる。
「洋服でも見に行こうかなって話していたんだけど・・・。」
「じゃ、ちょっと休んだら行こうか。すぐ下にファッションフロアがあるしね。」
私はそう言ってアイスティーのストローを咥える。ちらりとレティを見ると、小さく笑みを浮かべていた。
趣味的なブティックから高級なオーダーメイドの店まで揃うそのフロアで、私たちはそれぞれ品定めを始めた。いや、それはすでに着せ替え遊びのような光景だった。服を着せられているのはレティ、リズ、フィーの三人。私とサブリナ、アーニャがアレコレと服を見繕っては着せている。店員さんも一緒になって楽しんでいるような状態だ。
「ちょ、ちょっと・・・エイル!見てないで何とか言ってやってください!」
レティが離れた場所に立っているエイルに助けを求めた。しかし、エイルは苦笑いを浮かべながら見ているだけ。その手にはいつの間にか紙袋が1つ増えていた。
「アーニャ・・・まだ試着するのですか・・・?」
フィーは涙声になっている。アーニャは早々に自分のものを確保していた。
「サブリナ!次のを早く持ってきなさい!」
「はい、お嬢様。こちらなどいかがでしょう?」
リズは逆に楽しんでいるようだ。サブリナも慣れているのか、次の服を手渡すと着終わった服をキレイに畳んで店員さんに渡している。
「ひかり・・・もう、いいですか・・・?」
レティも涙を浮かべながらこちらを覗いてくる。恥ずかしくて仕方ないらしい。
「むう・・・しょうがないなぁ。じゃ、好きなの選んで?」
私がそう言うと、レティはゆっくりと元の服に着替えて選び始める。レティが選んだのは、ジーンズ一枚とTシャツやキャミソール数枚。
「あれ?フリル付きのが趣味かと思ってた・・・」
私はレティが選んだものを見て、そんな感想を抱いた。
「あ、あれはお母様の趣味で・・・。それにこういうのに興味もありましたし・・・。」
だとしてもラフすぎるような気がしないでもない。まあ、いいか。着てみたいと言う以上、反対する理由もないし。
「ん。じゃ会計済ませようか。エイルが待ってるし。」
「はい。」
そう言って私とレティはレジに向かう。リズたちはまだ時間がかかりそうだ。フィーは、着せ替え人形になっていた。
会計を済ませエイルを探す。外が一望できる大きな窓のそばにあるベンチに、彼女はいた。そしてなぜか、空を見つめていた。まるで睨むように。
「エイル~。お待たせ・・・て、怖い顔して何を見てるの?」
私はそう声をかけながら、エイルの視線の先を追いかける。
「・・・ひと?人が宙に、浮いて・・・?」
私は驚く。だがエイルはそれには驚いていないようだ。気を取り直してよく見ると、その人影は見覚えのある女性のようだった。
「あ・・・し、星さん?」
星 麗燐。同じクラスの仲間であり、エイルのルームメイト。その彼女が、空を飛んでいた。何をしているのかはよく分からないが、何かを探しているように見える。
「あ・・・。」
こちらの視線に気付いたのか、星さんは飛んで行ってしまった。さっきは感じた不吉な予感を、今回は感じなかった。
「ひかり。今のは秘密にしておいてやってくれないか。」
エイルが真剣な表情で私を見つめる。
「え・・・。分かった、エイルがそう言うなら。」
「すまない。」
何かを知っているのか、神妙な面持ちでエイルが頭を下げる。
「気にしないで。話せるときが来たら話してくれればいいから。ね?」
「ああ、そのときは必ず・・・。」
私とエイルはみんなに合流して、小物や生活雑貨を買いにいくことにした。今のままでも困ることはないけれど、もう少し女の子らしい部屋にしておきたい。私たちはそれぞれ目当てのものを探すために一旦別れ、あとで集合することにした。
「うわぁ・・・可愛いのがいっぱい・・・。」
レティが山と積まれたぬいぐるみ風クッションの前で目を輝かせる。
「ふ、このようなもの私が買うとでも?」
そう言いながらエイルは、きょろきょろと視線を泳がせている。気になって仕方ないのだろう。
「エイル。気に入ったのあったら買ってもいいんだよ?」
私は笑いを噛み殺しながらボソッと呟く。
「な、何を言って・・・。」
反論しようとしたエイルの目線が、1つのぬいぐるみに吸い寄せられる。
「か・・・」
「蚊?蚊がいるの?」
「かわいい・・・。」
エイルはそう呟くと、一目散にそのぬいぐるみのもとに飛んでいった。そこにあったのは、イノシシのぬいぐるみ。『ラブボア』と商品名が書かれている。
「エイルってば、本当は可愛いものに目がないんですよ。」
いつのまにかレティがそばに来て、エイルの様子を眺めている。その手には、ライオンのぬいぐるみが抱えられていた。
「レティは、それ?」
「はい!可愛いですよね・・・ひかりもどうです?」
「あ、いや・・・私はいい、かな。可愛いのとか、似合わないし。」
「そうですか・・・こんなに可愛いですのに・・・」
そんなことを言いながら、レジへと向かう。エイルは、早々に会計を済ませていた。明らかに、大きな袋を抱えている。よく見ると、棚に並んでいたラブボアのぬいぐるみがごっそりとなくなっていた。
「エイル・・・。」
1階の玄関ホールで集合した私たちは、山のような荷物を抱えながら一旦寮に帰ることにした。さすがに荷物が多いので、自室に運んでから学園前にあるカフェに集まることになった。
カフェ・インテルメッツォ。学園の正面入り口前にあるファミレス規模の比較的大きなスイーツカフェ。世界中のスイーツが揃う、年頃の女の子たちにとって夢のような店でもある。それでいて店のマスターが直々に入れる紅茶や珈琲が人気のカフェである。
「ふぅ~。ここのケーキセットが一番だねぇ・・・」
私はダージリンティーを一口含んで、思わず呟く。鼻と舌に広がる風味を楽しみながら、セットのモンブランを切り分けて口に運ぶ。
「うん。甘すぎなくて美味し。」
私は感想を言いながら食べていく。他のみんなも口々に美味しいと言いながら、スイーツを楽しんでいた。
そんな時、黄昏に染まる街角から悲鳴が聞こえてきた。直後、街角の暗がりから痩身巨躯の人影?が姿を現す。人にしてはあまりに大きく、額には角らしきものが突き出ている。
「オーガ?・・・いや、オニ・・・か?」
リズが息を呑み、サブリナは身構えながら呟く。フィーの傍ではアーニャがじっと見つめていた。
「え?あれ、何?」
私の思考は目の前の状況についていけなかった。呆然と、見ていることしか出来なかった。だが、ふと気付く。
「怪我してる・・・?」
全身に傷を負い、まるで何かから逃げようとしているようだった。次の瞬間、違和感に気付く。騒がしかったはずの店内が妙に静かだった。周りには、レティ、エイル、リズとサブリナ、フィーにアーニャ・・・・と、もう一人。
「柚・・・さん?」
ついさっきまでここには居なかったはずのクラスメイトの一人、清家 柚がそこにはいた。見たことも無い厳しい表情を浮かべながら、指先に文字の書かれた細長い紙をはさんで。
「結界を張りました。皆さんに害が及ぶことはありませんが、ここを動かないでくださいね?」
そう言うと、足早に店を出て行ってしまう。視線を外に戻すと、他にもクラスメイトがいた。十六夜 雫さん、来栖 蛍さん、そして月華さん。柚さんを含め全員が白襦袢に緋袴。いわゆる巫女の姿だった。
そして、戦いは終わろうとしていた。何らかの術がかかったのか、鬼のようなものの動きが止まる。そこへ飛び掛る雫たち。化け物は、抵抗も出来ないまま消滅してしまった。
「すごい・・・。」
そう言ったのは誰だろうか。その声とともに周囲のざわめきが戻ってくる。先ほどまでの混乱が嘘のように、日常の風景が戻ってきた。まるで、何事も無かったかのように。
ふと窓の外を見ると、雫が口元に指を当てていた。黙っていて欲しい、ということなんだろう。小さく頷くと雫たちは学園のほうに去っていった。
「みんな、色々あるんだね・・・。」
レティがそんなことを口にする。
「そうだね・・・。」
確かにみんな、色々抱えているのかもしれない。私に力があれば、みんなを助けてあげられるのかな・・・。
カフェを出て寮に戻る。買ってきたものを1つ1つ取り出しながら、今日あったことを思い返してみる。
謎の化け物と闘う二人の少女戦士。
空を飛び何かを探すクラスメイト。
鬼と戦うクラスメイトの巫女さんたち。
買い物の楽しさよりも、あまりに衝撃的な出来事が強く印象に残っていた。
「・・・ひかり?どうしたの?」
手が止まっていた私を覗き込むように、レティが声をかける。
「ふえっ?!あ、ううん、なんでもないよ?」
私は慌てて取り繕いながら、片付けを済ませてしまう。
「じゃ、ご飯にしようか?」
外を見ると、すでに日が落ちて月が輝いていた。
「はい。」
レティを連れて部屋を出る。するとそこに黒い姿をした少女が一人歩いてくる。
「オルガさん・・・?」
オルガ・カラグーニス。その姿は修道服、いわゆるシスターの格好だった。背中には十字架をかたどった、巨大な何か。その姿は異様であり、何故かとても彼女に似合っていた。
「失礼。」
オルガさんはそのまま私たちの横を素通りして部屋へと入っていく。あまりに自然で、かける言葉も見つからなかった。
「オルガさんって、シスターだったんだ・・・」
問題はそこじゃないような気がする。レティの言葉に苦笑いを浮かべつつ、私は食堂に向かう。
(みんな、何かと戦ってるのかな・・・。私は、今のままでいいのかな・・・?)
そんな想いが、私の心を支配していた。昼間から、ずっと。
(私にみんなを、レティを護れる力があれば・・・)
手のひらを見つめる。しかし、そんな力は出てこない。頭を振り、顔を上げる。
(ううん。きっと一緒にいることがみんなを護ることになるんだ・・・多分。)
そう自分に言い聞かせて、私は夕食のために食堂に向かった。
食事、風呂と済ませて部屋に戻ると、レティは早速今日買ってきたパジャマに着替える。いや、それはパジャマと言うより着ぐるみに近いような気がするが。
「えへへ。どうですか?似合ってます?」
「か、可愛いよレティ・・・。」
私は抱きしめてしまいそうになるのを必死にこらえていた。そんなレティの姿は、三毛猫着ぐるみパジャマ。胸にはライオンのぬいぐるみを抱えていた。
「ありがと・・・。さ、ひかりも。」
そう言って笑顔で私に着替えを促すレティ。
その時だった。
『汝、我が呼びかけに応えその力を呼び覚ませ!』
頭の中に声が響く。そして、空気が変わる。今までに感じたことのない何かが、学園の中に集まっていくのを感じる。
「レティ、何これ・・・?気持ち悪い・・・。」
ふと見ると、レティも厳しい顔をしていた。
「濃密な闇の魔力が・・・こんなときにいったい何故?」
そう言ってレティは部屋を飛び出して行ってしまう。
「私も、行かないと・・・。」
ズキズキと急に痛み出した頭を抱えながら、私はレティを追うように部屋を出る。何かに導かれるように寮を出て、学園の中へと入っていく。
校庭の中央に、ソレはいた。暗闇の中にありながら、その闇色の巨体は際立って見えた。
「何なのよ、アレ・・・。」
私は思わず呟く。漆黒の巨体に青白く光る瞳。見たこともない怪物がそこにはいた。
「レティ?!」
遠巻きに見ていた私の眼に飛び込んできたのは、その怪物に襲われようとしている最愛の友の姿。そこには他にも多くのクラスメイトたちがいたが、彼女だけしか見えなかった。
(レティ!逃げて!!)
魔法が使える生徒たちが必死に食い止めようとするが、怪物は止まらない。
昼間見た少女戦士たちもそこにいた。
空を舞う無口な少女も。鬼と戦っていた巫女たちも。シスターの少女も。
だが、怪物を止めることは出来ない。誰一人、止めることは出来なかった。
「いや・・・いやぁ・・・」
私は、目を背けそうになる。
そんな時、だった。
『汝、我が力解放し、悪しき闇を討ち祓え!!』
胸元から光が迸る。私はゆっくりと、その光の源を握り締める。
「お願い、聖鍵ベルスフィア!私に力を、みんなを、レティを護る力を貸して!」
そして運命は廻りだす。
胸元の聖鍵から光が放たれる。闇夜を切り裂き、光が魔法陣を描いていく。光の奔流が降り注ぎ、私はその光に包まれる。そして、私は覚醒する。
足にはヒールつきの白いブーツ。手には白いロンググローブ。白とピンクを基調としたワンピースに、頭には翼をあしらったティアラ。
リボンやフリルのついた可愛さ重視のその姿は、普段なら絶対に着ることのないもの。昔見たアニメの世界に出てくる魔法少女を形にしたような格好だった。
私は溢れる力をその身に抱いて、みんなの、レティの前に舞い降りる。
「お待たせ、レティ!」
「ひかり・・・なのですか?」
レティの瞳は驚きと喜びに輝いていた。私は小さく頷くと、怪物に相対する。
「闇夜に輝く1つ星!聖なる光に想いを乗せて、黒雲切り裂きここに推参!・・・なんてね☆」
何となく思い浮かんだセリフを言ってみる。恥ずかしいけど、何となくそうしないといけないような気がした。お約束、と言うやつだ。
グルルルアアアァァァァ!!
怪物が雄叫びを上げながら向かってくる。私はゆっくりと右手を空に高く掲げる。
「光よ集え!熾天使ラズナエルの名の下に!!神剣クロムハート!!」
掲げた右手に白金の、光り輝く剣が現れる。私はそれを怪物に向けて振り下ろす。
「光に、消えなさい!!ホーリージャッジメント!!」
切っ先を中心に魔法陣が幾つか展開され、そこから数多の閃光が放たれる。
グギャアアアアァァァァ!!
その光は怪物を貫き、穿ち、焼き払い、消し飛ばしていった。
全てを覆い尽くす白い光の爆発が収まると、そこには何事も無かったかのような夜の世界が広がっていた。空には月が、冷たく静かに輝いていた。
「ひかり・・・その姿は・・・?」
「よくわかんないけど、コレが、聖鍵ベルスフィアが力を貸してくれたみたい。」
私はゆっくりとレティたちに向き直ると、その瞬間もとの服装に戻っていた。
「それにしてもレティ・・・そのカッコ、恥ずかしくない?」
彼女はよほど慌てていたのか、パジャマのままでここに来ていた。レティは自分の格好を見て、真っ赤になってしゃがみこむ。
「あう・・・み、見ないでくださいぃ・・・。」
それを見て、場の空気が和らぐ。みんなの顔に笑顔が浮かぶ。
「と、云うわけでこれからもよろしくね、みんな!」
私はその場に居並ぶ少女たちに手を差し出す。少女たちはお互いに顔を見合わせ、ゆっくりと頷く。
「ええ、もちろん!」
「当然ですね!」
「仕方ないな・・・」
そう言いながら少女たちは手を重ねていく。みんなの夢や希望を護るために、私たちは力を合わせて立ち向かう。お互いに言葉は無くてもわかっていた。
「じゃ、戻ろっか?」
そんな一言で私たちは寮へと戻っていく。学園の屋上で一部始終を見つめていた人影に気付くこともないまま。
◆◆◆
「ククク、覚醒したか・・・」
校庭を立ち去る少女たちを見つめる影は呟く。夜闇の中でその影はなお暗く、月の光に照らされることもなかった。
「聖鍵ベルスフィア・・・厄介な代物だが、覚醒状態のほうが不安定だからな。」
誰に聞かせるわけでもなく、その影は己に言い聞かせるように呟いていた。
「それにしてもあの娘・・・本人は気付いてない様だが、相当な魔力キャパシティを持っているな。フフフ、面白くなりそうだ・・・」
その一言を最後に、影はその姿を消す。残るのは白く輝く月の光だけだった。
◆◆◆
私はレティと二人で部屋に戻り、軽くシャワーを浴びた。
(疲れてるはずなのに、不思議なくらい身体が軽い・・・)
今までに感じたことのない熱を、身体の内側に感じていた。それは何故か心地よく、疲れを忘れさせてくれるような気がした。
「ひかり、はいコレ。」
私は身体を拭き、レティに渡されたものを身に着けていく。
「わぁ、可愛いですよ、ひかり!」
可愛い・・・?私は改めて自分の格好を見てみる。それはレティとおそろいの黒猫のパジャマ。フードには猫耳、手にはご丁寧に肉球まで付いている。当然しっぽもついていた。
「ふえっ?!ななな、なんで私、こ、こんなカッコ・・・?」
ギギギ・・・と音がしそうなほどぎこちなく顔を上げてレティを見る。
「可愛いからいいじゃないですかぁ~」
そう言ってレティは抱きついてくる。
「ちょっ・・・何を・・・?!」
急な展開に頭がついてこない。
(え?どういうこと?まさかレティも?ううんでもそんなことあるわけ・・・)
「ありがとう、ひかり。助けてくれて。護ってくれて。」
「え、あ、ううん。当然だよ、そんなの・・・。だって、友達でしょ?」
心のどこかでがっかりしながら、何とか言葉を返す。
「それでも、嬉しかった・・・。」
レティの潤む瞳が私の心をざわつかせる。
「そ、そう?でも、私もレティを護れてよかった・・・。」
「ひかり・・・。」
「さ、さあ、そろそろ寝ようか。私、疲れちゃった。」
私は何とかレティの瞳から視線を外し、心にもないことを言ってしまう。
(こ、このままじゃ、わ、私、抑え切れなくなっちゃう・・・)
「そ、そうですね・・・じゃあ、ひかり。おやすみなさい・・・」
「うん。おやすみー。」
レティはもぞもぞと布団のなかに入っていく。私も電気を消して布団にもぐりこむ。肌に残るレティのぬくもりを抱きながら、眠りにつく。
結局眠りに落ちたのは、かなり時間が経ってからだった。
◆◆◆
「また随分派手に動き出したものね。」
ここは悪の秘密組織コードダークの本部。その一室で白衣を着た数人の女性が、報告書を片手に話しこんでいた。
「で、キヨカ様。メイ様は何と?」
「今は様子見だそうよ。新しい知識を実用レベルに持っていくので頭が一杯みたい。」
「そうですか。では我々は手はずどおり『沈黙の処刑人』の制圧を優先します。」
「ええ。よろしくね、ルシル。あそこだけは放っておいても利益にならないから。」
ルシルとその後ろに控えていた女性たちが席を立つ。
「他の組織については監視を続けて。無理に深入りしないように、ね。それでは解散しましょう。」
キヨカがそう締めくくると、集まっていた女性たちが席を立ち部屋を出て行く。と、そこへ1人の少女が。
「なんじゃ、もう終わりか。せっかく来てやったというのに。」
いや、彼女は少女ではない。協力者である魔族の1人、バフォメットのレジェンダである。
「レジェンダ様・・・お呼びした覚えはありませんが。」
その言葉にレジェンダはニヤリと笑う。
「じゃが、伝えておいたほうがいいと思うての。・・・どうやら彼奴らに歯向かう者がおるようじゃ。それも、半端じゃない素質を持った、な。」
「そう、ですか。ま、当分は泳がせておきましょう。どういう形になったとしても、全てを手に入れるのは私たち、ですからね。」
ニヤリと唇の端を歪ませて、レジェンダに視線を向ける。
「ふふ、そうじゃな。そうでなくては面白くない。」
レジェンダもまた唇だけで笑みを作り、そのまま踵を返して部屋を出て行く。
「さあ、楽しみましょう。私たちのための混沌を、ね。」
その言葉は、誰に届くことも無く薄暗い部屋に響いていた。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第2話 【胎動と覚醒の序曲】 完
いかがだったでしょうか?
日常シーンほど時間がかかるのはもはやデフォ・・・?
そんな感じで長々と書いてしまったような気もします。
登場人物が多い上にそれぞれが別の組織と相対するので、
全員が集まるシーンは長くなってしまうのです・・・。
さて次回からは本業?に戻ります。
1人ずつ・・・堕ちていただこうと思います。
大どんでん返しも悪堕ちを彩るエッセンス、
とだけ言っておきましょう・・・。
それでは次回更新でお会いしましょう。
次回予告!
目覚めたひかりの力。動き始めた闇の勢力。そんななか、1人の少女に危機が迫る。ひかりは、仲間たちは間に合うのか。そして動き出す、もう1つの闇。少女たちは、激しい戦いの舞台に立つ。
第3話 【失意と沈黙の小夜曲】
「アタシはアタシ。誰のものでもない!あんたの野望はここで終わらせてあげる!!」