少女たちの聖戦 第7話 【夏空踊る奏鳴曲】
みなさま、少女たちの聖戦第7話更新です。
前回ラストで蟲に寄生された蛍。
彼女に待ち受ける運命は・・・。
などと書いてみても、どうなるかは・・・
おそらく皆様の予想通り。
多少詰込み気味ですが、
いろんな要素に加えフラグも入れておきました。
それではどうぞ。
鬱陶しい梅雨は過ぎ去り、季節は本格的な夏を迎えようとしていた。各敵組織が幹部を投入してきた一大攻勢を退けた少女たちは、気分も晴れやかに夏の到来を喜んでいた。それは間近に迫る夏休みへの期待と、この季節が持つ独特な開放感が少女たちを浮かれさせていた。
そんな心の隙を突くように、妖魔たちの集団『紅の亡霊』が暗躍を始める。目的の障害となっている巫女たちを排除するため、硬軟織り交ぜた策謀を巡らせる。少女たちの戦いは、新たな局面と危機によって彩られることになる・・・。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第7話 【夏空踊る奏鳴曲】
キーンコーン・・・
「じゃ、今日はこれで終わり。みんな、夏休みが近いけど気を引き締めてね?」
担任ルイーダ先生の言葉に、クラスの空気は和む。先生が教室を出て行くと、あちこちで夏休みの話題が溢れる。
「ねぇねぇ、雫さんは夏休みどうするの?」
机の中の荷物を片付けているクラスメイトに声をかけてみる。
「あ、ひかりさん。私は家に戻って、実家の手伝いをすることになるかと・・・。」
雫さんの家の話はあまり聞いたことがない。
「雫さんの家って、神社だよね?ここから近いの?」
「ええ。そんなに遠くはないですけど・・・。」
雫さんの表情に戸惑いが浮かぶ。
「雫さんの巫女姿、カッコいいもんねぇ。・・・でね、相談なんだけど。みんなで海水浴とか行かないかな?」
本題を切り出す。2,3日前から計画を立て、今日になってみんなに聞いて回っていた。
「それは構いませんけど・・・。どこに行くんです?あまり遠いところはちょっと・・・。」
「うん。それは大丈夫。この学園の北に小さな海水浴場があるでしょ?」
了承を得て、計画を明かす。この秘密のお話をしている感じが、何となく楽しかったりする。
「あの近くに祖父母がやってた小さな民宿があるんだけど、去年で閉めちゃったから貸切できるんだ・・・。」
そう言って雫さんの顔を見ると、驚きと戸惑いが混じったような表情をしていた。
「雫さん?どうしたの?」
我に戻ったように、ぼそぼそと雫さんが呟く。
「私の家、その近くなの・・・。」
前回ラストで蟲に寄生された蛍。
彼女に待ち受ける運命は・・・。
などと書いてみても、どうなるかは・・・
おそらく皆様の予想通り。
多少詰込み気味ですが、
いろんな要素に加えフラグも入れておきました。
それではどうぞ。
鬱陶しい梅雨は過ぎ去り、季節は本格的な夏を迎えようとしていた。各敵組織が幹部を投入してきた一大攻勢を退けた少女たちは、気分も晴れやかに夏の到来を喜んでいた。それは間近に迫る夏休みへの期待と、この季節が持つ独特な開放感が少女たちを浮かれさせていた。
そんな心の隙を突くように、妖魔たちの集団『紅の亡霊』が暗躍を始める。目的の障害となっている巫女たちを排除するため、硬軟織り交ぜた策謀を巡らせる。少女たちの戦いは、新たな局面と危機によって彩られることになる・・・。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第7話 【夏空踊る奏鳴曲】
キーンコーン・・・
「じゃ、今日はこれで終わり。みんな、夏休みが近いけど気を引き締めてね?」
担任ルイーダ先生の言葉に、クラスの空気は和む。先生が教室を出て行くと、あちこちで夏休みの話題が溢れる。
「ねぇねぇ、雫さんは夏休みどうするの?」
机の中の荷物を片付けているクラスメイトに声をかけてみる。
「あ、ひかりさん。私は家に戻って、実家の手伝いをすることになるかと・・・。」
雫さんの家の話はあまり聞いたことがない。
「雫さんの家って、神社だよね?ここから近いの?」
「ええ。そんなに遠くはないですけど・・・。」
雫さんの表情に戸惑いが浮かぶ。
「雫さんの巫女姿、カッコいいもんねぇ。・・・でね、相談なんだけど。みんなで海水浴とか行かないかな?」
本題を切り出す。2,3日前から計画を立て、今日になってみんなに聞いて回っていた。
「それは構いませんけど・・・。どこに行くんです?あまり遠いところはちょっと・・・。」
「うん。それは大丈夫。この学園の北に小さな海水浴場があるでしょ?」
了承を得て、計画を明かす。この秘密のお話をしている感じが、何となく楽しかったりする。
「あの近くに祖父母がやってた小さな民宿があるんだけど、去年で閉めちゃったから貸切できるんだ・・・。」
そう言って雫さんの顔を見ると、驚きと戸惑いが混じったような表情をしていた。
「雫さん?どうしたの?」
我に戻ったように、ぼそぼそと雫さんが呟く。
「私の家、その近くなの・・・。」
◆◆◆
「白翁、首尾はどうだ?」
薄暗い洞窟の中、一人の男が妖魔・白翁に問いかける。
「カカッ。蟲は順調に育っているのぅ。そろそろ脱皮させる頃合じゃな。」
白翁は長く伸びた髭をさすりながら、ほくそ笑む。
「ふ、そうか。では白翁、脱皮させるついでに『影』も目覚めさせてやれ。」
男、碎 玄奘はその笑みに応えるように唇の端を歪ませながら指示を出す。
「カカッ!ではあの二人にも手を貸してもらいますぞ?」
「良かろう。凶禍、琥珀・・・聞いていたな?」
奥の暗闇からフラッと現れる二人。その表情は、妖艶な微笑が浮かんでいる。
「はい、玄奘様・・・。お任せください。」
「良い結果をお持ちいたします、玄奘様・・・。」
そのまま白翁の後ろにつく。
「では、行ってくるかの・・・。」
白翁が一礼してその場を立ち去り、二人の女妖魔が後を付いていく。その姿が見えなくなった頃、玄奘は1人奥の祭壇に向かう。
「煉獄もあと少し・・・。時間稼ぎをしてもらうか・・・。」
◇◇◇
夏休み直前の週末、少女たちは買い物に出ていた。夏服、水着、えとせとら・・・。少女たちのショッピングは、今日もまた戦場であった。
「ふ、ふえぇ?!まだ続けるんですかぁ?!もう勘弁してくださいぃぃ・・・。」
レティの叫びが、試着室から聞こえてくる。いつものように、あれやこれやと試着させて似合いそうなのを選んでいた。
「ビキニかワンピースか・・・それが問題だ。あっ、パレオ付きもいいよね!」
私は何パターンか試着室に持っていき、試着を終えた水着を畳んで置いておく。文句を言いながらもレティは全部試着して、その姿を見せてくれる。
「ひかり・・・。そろそろ終わりにしませんか?もう決めましたから・・・。」
涙を浮かべながら懇願されて、私は自分の分を持ってレティの試着室の前に向かう。
「あはは・・・。レティが可愛いから、着せ替えしたくなるんだよねぇ。」
その言葉を聞いて、着替え終わったレティの顔が朱に染まる。
「な、な、何を言っているんです?もう・・・」
恥ずかしそうに抗議の声を上げるレティ。そんな彼女を連れてレジに向かう。他にも一緒に海水浴に行く仲間たちが、買い物を楽しんでいた。
同じように水着売り場ではリズとサブリナ、エイルと星。隣にある夏服売り場ではフィーとアーニャ、雫と月華が買い物を続けている。
レジを済ませ、レティと一緒に下のフロアに移動する。小物やアクセサリーが売っているフロア。そこでは、慧と昴が買い物をしている。
「レティ、帽子でも見てく?」
日焼け防止クリームとか、必要な小物はたくさんある。でもその前にファッション性を優先したグッズは欠かせない。
「はい。・・・あれ?オルガさんと、先生?」
こちらを向いたレティの視線が、私を通り過ぎてその背後に向く。
「え?」
私もその視線を追って後ろを向く。そこには私服姿のオルガさんとルイーダ先生、そしてもう一人の女性がいた。その女性の顔は、どこかオルガに似ていた。
「あら、ひかりさん。レティさん。貴方たちもお買い物?」
ルイーダ先生がこちらに気付いて声をかけてくる。
「あ、はい。先生方も・・・?」
緊張しながら問いかけると、柔らかい微笑を返してくれる。
「そうよー。あ、この女性はオルガさんのお姉さんで、私の古い友人なの。」
そう紹介された女性は、どこか警戒するように会釈をする。
「アガサ・カラグーニスです・・・。」
「姉さん、こちらが瀬名ひかりさん。で、隣がラウレンティアさん。」
オルガさんが紹介してくれる。私たちはそれに合わせて会釈をする。
「ど、どうも・・・。」「よろしく、お願いします・・・。」
少しぎこちなく挨拶をする。その間も、アガサさんは警戒の色を緩めない。
「あ、そうそう。聞いたわよ?みんなで海水浴に行くんだって?しかも泊まりで。」
ルイーダ先生が思い出したように聞いてくる。その向こうでは、オルガさんが手を合わせて謝っている。
「はい。・・・もしかして、ダメ、でした?」
少し上目遣いで聞いてみる。
「ううん。夏休みは一応自由だもの。でも・・・私も参加させてもらうわ!!」
「「ほえ?!」」
思わずレティと同時に驚きの声を上げてしまう。
「保護者枠でね!」
そう言ってそのままオルガさん達と行ってしまう。私とレティは顔を見合わせて、なんとも言えない戸惑いの表情を浮かべた。
「ま、まあ大丈夫だよ・・・ね?」
「は、ははは・・・。でも、先生って意外と陽気な人だったんですねぇ。」
「いや、陽気って言うか・・・。強引だよねぇ、でもいいんじゃない?引率者がいたほうが、いろいろと楽だし。」
ルイーダ先生なら息苦しくはないだろうし、何より親を説得するのに都合がいい。
「楽しくなりそうですね・・・。ね、ひかり。」
「そだねー。レティの可愛い水着姿も楽しみだよー。」
そう言って予定通り、小物を探しに歩き出す。隣では真っ赤な顔をしたレティが俯きながら付いてくる。そして、もうすぐやってくる夏休みに想いを馳せながら買い物を続けた。
◆◆◆
「ここならいいじゃろ。」
二人の女妖魔を連れた白翁は、大きなビルの裏で立ち止まる。
「二人とも準備を始めるんじゃ・・・。」
そう言って二人を促すと、女妖魔たちはゆっくりと地面に何かを描いていく。それは直線と曲線を組み合わせた、儀式的な紋様。白翁はその中心に、黒い石を置く。紋様が完成すると、白翁が念じる。するとその黒い石は、地面に沈んで消える。
「・・・よし。ではお前たちは蟲の相手をしてもらうぞ。」
その言葉に二人は情欲にまみれた笑みで頷く。
「カカカ・・・。では呼んでやるとしよう・・・・。」
白翁はそう呟くと、懐から細い筒を取り出し口に咥える。そして辺りに小さく掠れた、息を吐くような音が響く。
◇◇◇
「・・・?」
1人自室にこもっていた少女・蛍は、何者かの呼び出しを受けたような気がした。
「呼ば、れた・・・。行か、なきゃ・・・。」
頭に直接響くような甲高い笛の音を聞いた瞬間、何も考えられなくなってしまった。
「早く行かな、いと・・・」
自分を呼ぶその音に導かれるように、身支度もそこそこに部屋を飛び出す。
「は、やく・・・はや、く・・・行かな、くちゃ・・・。」
ただ、呼ばれた場所に行くことしか、考えられなかった。
そんな蛍を、偶然見かけた一人の少女・柚。
「あれは・・・蛍?どこ行くのかな・・・あんな格好で・・・?」
その姿は一目見て異常だとわかる。髪は乱れ、服装も乱れたまま、ふらふらと足元も覚束ないような足取りで歩いていったのだ。
「・・・よし。」
すばやく自室に入り、服を着替える。それは少女にとって仕事着であり、戦闘用でもある巫女装束。退魔のための符も一式持って部屋を出る。
「何もなければいいけど・・・。」
不安に駆られながら、蛍を追う。仲間に連絡しようかとも思ったが、取り越し苦労で無駄足を踏ませるのは申し訳ない。
「状況を確認してからでも、遅くないよね・・・。」
◆◆◆
「カカカ、来たか・・・。」
白翁の待つビルの裏に、蛍はふらつきながらやってくる。
「あ・・う・・・」
蛍の表情は虚ろで、しかしその瞳には何かを期待するような光が灯っていた。
「ほう、まだ深層意識で抵抗しておるのか・・・?じゃが、もうすぐそれも終わり・・・。」
蛍の様子を覗き込みながら、ニタリと笑みを浮かべる。
「今のおぬしなら見えるじゃろう?その中心に立つのじゃ・・・。」
その言葉にゆっくりと頷き、蛍は指示された場所に立つ。
「さあ、始めるとするかの・・・。」
そう言って念じ始める白翁と二人の女妖魔。次の瞬間、辺りに絶叫が響き渡る。
「だめえええええぇぇぇぇ!!!」
それに続く足音。妖魔たちが動き出すより早く、『それ』は蛍を突き飛ばす。
「なっ?!」
代わってその場にいたのは、蛍を追いかけていた柚だった。
「何するか知らないけど、思惑通りにはさせないんだから!!」
柚はそう啖呵を切る。だが、すぐに異常に気が付く。
「え・・・身体が、動か、な・・・い?」
その様子に、白翁は目を細める。
「クカカ・・・。まあいいじゃろう。どちらでも大して変わらんしの。」
そのまま念が強まる。柚の足元が黒く光り、膨大な妖気が渦を巻いてあふれ出す。さらにその外では、結界が張られている。
「きゃ、きゃあああああ?!?!」
柚の叫びもまた、結界の外に届くことは無かった。
「カカカ・・・。これであとは終わるまで、『影』に任せておけばいいじゃろ・・・。」
白翁は柚に一瞥をくれると、蛍のほうに向き直る。
「蛍と言ったかの・・・?おぬしの仕込みはそこの二人に任せるとするかの・・・。」
二人の女妖魔・凶禍と琥珀が、蛍の身体を支えるように寄り添う。
「うふふ・・・。さあ、楽しみましょう・・・。」
「すぐ分かる・・・。妖魔の身体の素晴らしさが・・・。」
二人の手が、蛍の身体を這い回る。その表情が、紅く上気していく。
「では先に帰らせてもらうかのぅ・・・。二人とも、やりすぎるでないぞ?」
◆◆◆
「ふうあ・・・くぅああ・・・」
目の前で仲間が、自分の代わりに窮地に立たされている。
「ああん・・・ひああっ・・・」
にもかかわらず、何も出来ない。
「んんぅ・・・あくぅ・・・」
それどころか。
「ふああ・・・イイよぅ・・・」
快楽を貪るのに夢中になっていた。
「ああふ・・・凶禍様、琥珀さまぁ・・・もっとぉ・・・」
与えてくれるのは、二人の先輩妖魔。
「うふふ・・・もっと感じていいのよ?何も考えずに、ね?」
「快感に身を委ねていいの。もっともっと、キモチヨクなっていいの・・・。」
そんな言葉を囁きながら、凶禍と琥珀の二人は絶え間なく指を動かす。
「あああぁぁ!・・・・くうん・・・ふあああ・・・」
その指の動きに加え、夜になると感じていた皮膚の下を這い回る蟲の動きに酔いしれる。
(ダメ、なのに。おかしくなっちゃうのに。抑えきれないよ・・・)
目の前では柚が、苦しんでいる。自分のせいで、柚が犠牲になっているのに。
(それが、気持ちイイなんて。私、もうダメみたい・・・)
ゆっくりと、頭の中が塗り替えられていく。
(気持ちイイ・・・柚が苦しむ姿、感じちゃう・・・)
いつの間にか、価値観も変化していく。
(何で、苦しんでるの・・・?受け入れれば、こんなに、気持ちイイのに・・・)
その口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。それはひどく妖艶で、邪悪さを感じる微笑。
「ふふ、受け入れたようね・・・。おめでとう。コレであなたも、立派な妖魔の仲間入りね・・・。」
「素晴らしいでしょう? 抗っていたのが馬鹿らしく思えるほどに、ね?」
二人の言葉に、迷うことなく頷く。
「あふぅ、とっても、すてきぃ・・・♪もう、人間になんて、もどりたくないぃ・・・。」
気持ちよくて、気持ちよくて、たまらない。
(妖魔になるのがこんなに気持ちイイなんて・・・♪受け入れて、良かった・・・)
後悔はない。むしろ、多幸感が身体を支配していた。
「もう、わかってるわよねぇ?これから、どうするのか・・・。」
凶禍の言葉に、蛍は頷く。その瞳は、金色に輝いていた。
「はいぃ、凶禍さまぁ、琥珀さまぁ。玄奘様のために、働くことですぅ♪」
迷い無く、よどみ無く。歌うように、蛍は知らないはずの男のために生きることを告げる。
「よく出来ました。休みに入るまで、これまでと同じように暮らしなさい。指示があるまで我慢するのよ?」
琥珀の言葉に心底残念そうに頷く。
「うふふ・・・。じゃ、まずはあの娘の仕上げを任せるわ。じっくり、楽しみなさい・・・。」
凶禍はそう言うと、琥珀を伴い姿を消す。蛍は恍惚とした表情を浮かべながら、柚の姿を見つめる。
「あはぁ♪私は玄奘様の蟲・・・。蟲使いの蛍。柚・・・、貴方も早く受け入れて、一緒に楽しみましょ・・・♪」
蕩けきった微笑に、かつての快活さは微塵も感じられなかった。それは粘着質な欲望を隠すことのない、奔放で妖艶な笑顔であった。
◆◆◆
一方、柚は動きを封じられたまま、膨大な妖気の渦に晒されていた。
「く、あああああ?!」
叫ぶことしか出来ない。あまりに深く濃厚な妖気の中で、身を護ることすらできない。
(このままじゃ、魂まで穢されちゃう・・・)
それは死に等しい。心を強く持とうとしたその時、妖気の流れに異変が生じる。
「え?!い、いやああああ?!」
地中から黒い石が浮かび上がる。その石から発せられる妖気が体にまとわり付き、巫女服を穢し黒く染めていく。
(妖気が、まるで・・・人の手みたいに動くなんて・・・?)
わずかに視線を下に向ける。すると黒い影のようなものが数本、身体の上を蠢いていた。
(な、何なの・・・?え、そこは・・・ダメェッ!!)
今まで誰にも触れさせた事のないそこに、影が触れようとしている。
「いやああ!・・・ふあああ?!」
触れた瞬間、身体に痺れが走る。不快ではなく、むしろ心地よい浮遊感を伴った痺れ。それが快感であると気付くのに、時間は掛からなかった。
(な、なんで私、感じちゃってるの・・・?)
困惑。だがそれすらも打ち消すほどの強い波動が、痺れとなって押し寄せる。
(あ、う・・・?よ、妖気が・・・中に・・・)
甘美な衝撃に心は抵抗できないまま、妖気の濁流に押し流されていく。
『ふふっ・・・。何を怯えているの・・・?』
どこかで聞いたような、慣れ親しんでいるような声。
(この声は・・・私?)
気が付くと、暗い闇の中に浮かんでいた。ここが私の精神世界だと、すぐに理解できた。
『意外に落ち着いているのね・・・。魂まで穢され、侵食されようとしているのに・・・。』
最悪の状況に、何故か心は落ち着いていた。
(この声は、私を惑わすため。まだ、負けてない!)
言い聞かせるように、強く念じる。
『あはは・・・。残念だけど、もう遅いのよ?この心も身体も、魂すらも変わってしまうのだから。』
嘲笑するように、宣告する声。そこには歓喜の色が含まれている。
(あなたはいったい・・・?)
私を支配しよう、乗っ取ろうという妖魔の名すら知らない。
『私?私に名前なんてないわ。強いて言えば、影。そしてこれからは・・・』
声が聞こえなくなる。そして、世界が閉じる。閉じ行く世界の中、私は必死に抵抗しようとした。
「は、あはは・・・やっと!やっと外に出ることが出来た・・・!」
解放の喜びに、思わず笑い声が漏れる。
「クク・・・解放していただいた玄奘様のためにも、しっかり働かなくてはね!」
昏い笑みを浮かべながら、あたりを見回す。そこには1人の少女が立っていた。
「おめでとう。・・・何と呼べばいいかしら?」
その少女の表情は妖艶で、かつての彼女ならそんな表情をすることはない。
「ありがとう・・・私のことは、っ?!」
『蛍!早く私を封じて!!』
わずかに人としての人格が戻る。目の前の少女・蛍に懇願する。
「何故?せっかく妖魔になれたのに・・・?さっさと受け入れなさい。」
蛍は冷徹に、人としての柚に通告する。その瞳には、金色の光が爛々と輝いていた。
『そんな・・・』
「・・・ふふ、ようやく諦めた。これからじっくりと取り込んであげる。」
その表情は残忍で、瞳はどこまでも深い闇を映していた。
「貴方のことは蛍でいいのよね?なら、私も今までどおり『柚』と呼んでくれる?」
その言葉に頷き、淫靡に笑う蛍。それを見た柚もまた、欲情を露にした微笑を向ける。
「さあ、楽しみましょ。玄奘様のお力になれるその時を夢見て・・・」
「あはは・・・。そうね、妖魔になれたことを祝福して・・・ね。」
二人の唇が重なる。そのまま、闇の中に姿が溶けて消えていった。残されたのは、かすかな妖気の名残とむせ返るような雌の淫臭だけだった・・・。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第7話 【夏空踊る奏鳴曲】 完
◆◆◆
とある地下施設の一室に、女性たちの声が響く。
「ルシル、オニキスから連絡のあった地域の監視体制はどうなってるの?」
そこは悪の?秘密組織・コードダークの本部。幹部・キヨカが情報収集に当たっていた。
「元々近代化が遅れていた地域ですから、完璧な監視体制は難しいですね・・・。」
隣でモニターを睨みながら、実働部隊の隊長・ルシルが報告する。
「ただ、ミウの実家の道場が近くにあるので、そこを拠点にしようかと。」
キヨカは怪訝そうな表情を浮かべる。
「大丈夫なの?」
実家である以上、両親や近所付合いもある。不安要素がないわけではない。
「その辺りは抜かりなく。すでにヒバリを中心としたメンバーで下準備も済んでいます。」
言外に込められた言葉の意味を、正確に理解したルシルの返事に満足そうに頷く。
「そう。ならいいわ。そのまま進めて。」
「はい、キヨカ様。」
その返事を聞きながら、キヨカは物思いにふける。
(少し、静か過ぎるわね。何かしら動いているとすれば、『紅の亡霊』か・・・。ただでさえ動きが読みづらいのに、フォローが後手に回ってるわね・・・。)
「キヨカー?キ・ヨ・カー!!」
耳元で大きな声で叫ぶ一人の女性。コードダーク首領・メイ、その人である。
「・・・メイ様、研究はもうよろしいんですか?」
耳を押さえながらゆっくりと振り返る。メイの姿はいつものように、下着姿に白衣という出で立ちだ。
「ん。ひと段落ついた。概論は出来たし、あとは実験と実践を重ねるだけ~。あ、1つもらうね~。」
テーブルに置かれていたクッキーを1つ頬張りながら、さらっと報告する。
「各所から入手したサンプルの分析は、どうです?」
「そっちはほとんど終わってる~。うちでそのまま使うことはないと思うけどね~。」
各地の調査の過程で技術提携を結んだ組織から提供された、技術サンプル。お互いに研究結果をフィードバックしながら活動していくことになっている。
「じゃ、あとで書類にまとめておきますね。」
データベースに入れるのは勿論、文書にしておくのも重要。特に機密文書に関しては、幹部たちが自ら行うことになっている。
「あ、メイ様、キヨカ様。」
看護婦姿の女性が部屋に入ってくる。
「どうしたのー?」
メイが間延びした声で問いかける。
「あの、退魔士協会とか言うところから、情報共有の申し出が・・・。」
「どっちに?」
キヨカは確認のために聞き返す。
「病院のほうです。どうしましょうか?」
その答えを聞き、キヨカの目が光る。相手が求めている情報と、こちらが手に入れる情報を天秤にかける。
「受けましょう。細かいことはあとで詰めるようにセッティングして。」
指示を受けた看護婦が一礼して外に出て行く。
「よかったのー?」
メイが伺うようにキヨカを見る。
「新しい情報が入るかもしれませんし、新しい研究サンプルが手に入るかもしれません。」
その言葉を聞いて、メイの表情は輝く。
「そうだね~。楽しみだな~。」
「ふふ・・・。妖怪どもの動きも、もう少し掴めるようになるでしょう・・・。」
そう言ってキヨカは部屋を出て行く。
暗躍するコードダーク。誰一人、その動きを脅威と感じないまま、世界の闇に根ざしていく・・・。
皆様いかがでしたか?
蛍に続き柚までも・・・。
そして凶禍・琥珀の正体は?
と言いながら、次回予告でお約束が。
ネタバレしようがどこ吹く風で突き進みます。
ちなみに蛍・柚はあの状態で9割洗脳。
次回とどめを刺そうかと。
そして次回、ついにゲストが・・・。
どこに出しても恥ずかしくない作品に仕上げたいと思います。
カッコいいトコ見せてもらうとしましょう。
それでは次回更新でお会いしましょう。
次回予告!
待ちに待った夏休みの到来。少女たちは気分も上々に海水浴へと繰り出す。そこで待つ新たな出会い。楽しい時間は緩やかに、それでいて駆け足で過ぎていく。そして動き出す玄奘の野望。そこに待つのは、あまりに残酷な現実だった・・・。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第8話 【海風薫る悲しみの挽歌】
「お、お母様・・・?どうして・・・嘘だと言ってよ、お母様!!」
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「白翁、首尾はどうだ?」
薄暗い洞窟の中、一人の男が妖魔・白翁に問いかける。
「カカッ。蟲は順調に育っているのぅ。そろそろ脱皮させる頃合じゃな。」
白翁は長く伸びた髭をさすりながら、ほくそ笑む。
「ふ、そうか。では白翁、脱皮させるついでに『影』も目覚めさせてやれ。」
男、碎 玄奘はその笑みに応えるように唇の端を歪ませながら指示を出す。
「カカッ!ではあの二人にも手を貸してもらいますぞ?」
「良かろう。凶禍、琥珀・・・聞いていたな?」
奥の暗闇からフラッと現れる二人。その表情は、妖艶な微笑が浮かんでいる。
「はい、玄奘様・・・。お任せください。」
「良い結果をお持ちいたします、玄奘様・・・。」
そのまま白翁の後ろにつく。
「では、行ってくるかの・・・。」
白翁が一礼してその場を立ち去り、二人の女妖魔が後を付いていく。その姿が見えなくなった頃、玄奘は1人奥の祭壇に向かう。
「煉獄もあと少し・・・。時間稼ぎをしてもらうか・・・。」
◇◇◇
夏休み直前の週末、少女たちは買い物に出ていた。夏服、水着、えとせとら・・・。少女たちのショッピングは、今日もまた戦場であった。
「ふ、ふえぇ?!まだ続けるんですかぁ?!もう勘弁してくださいぃぃ・・・。」
レティの叫びが、試着室から聞こえてくる。いつものように、あれやこれやと試着させて似合いそうなのを選んでいた。
「ビキニかワンピースか・・・それが問題だ。あっ、パレオ付きもいいよね!」
私は何パターンか試着室に持っていき、試着を終えた水着を畳んで置いておく。文句を言いながらもレティは全部試着して、その姿を見せてくれる。
「ひかり・・・。そろそろ終わりにしませんか?もう決めましたから・・・。」
涙を浮かべながら懇願されて、私は自分の分を持ってレティの試着室の前に向かう。
「あはは・・・。レティが可愛いから、着せ替えしたくなるんだよねぇ。」
その言葉を聞いて、着替え終わったレティの顔が朱に染まる。
「な、な、何を言っているんです?もう・・・」
恥ずかしそうに抗議の声を上げるレティ。そんな彼女を連れてレジに向かう。他にも一緒に海水浴に行く仲間たちが、買い物を楽しんでいた。
同じように水着売り場ではリズとサブリナ、エイルと星。隣にある夏服売り場ではフィーとアーニャ、雫と月華が買い物を続けている。
レジを済ませ、レティと一緒に下のフロアに移動する。小物やアクセサリーが売っているフロア。そこでは、慧と昴が買い物をしている。
「レティ、帽子でも見てく?」
日焼け防止クリームとか、必要な小物はたくさんある。でもその前にファッション性を優先したグッズは欠かせない。
「はい。・・・あれ?オルガさんと、先生?」
こちらを向いたレティの視線が、私を通り過ぎてその背後に向く。
「え?」
私もその視線を追って後ろを向く。そこには私服姿のオルガさんとルイーダ先生、そしてもう一人の女性がいた。その女性の顔は、どこかオルガに似ていた。
「あら、ひかりさん。レティさん。貴方たちもお買い物?」
ルイーダ先生がこちらに気付いて声をかけてくる。
「あ、はい。先生方も・・・?」
緊張しながら問いかけると、柔らかい微笑を返してくれる。
「そうよー。あ、この女性はオルガさんのお姉さんで、私の古い友人なの。」
そう紹介された女性は、どこか警戒するように会釈をする。
「アガサ・カラグーニスです・・・。」
「姉さん、こちらが瀬名ひかりさん。で、隣がラウレンティアさん。」
オルガさんが紹介してくれる。私たちはそれに合わせて会釈をする。
「ど、どうも・・・。」「よろしく、お願いします・・・。」
少しぎこちなく挨拶をする。その間も、アガサさんは警戒の色を緩めない。
「あ、そうそう。聞いたわよ?みんなで海水浴に行くんだって?しかも泊まりで。」
ルイーダ先生が思い出したように聞いてくる。その向こうでは、オルガさんが手を合わせて謝っている。
「はい。・・・もしかして、ダメ、でした?」
少し上目遣いで聞いてみる。
「ううん。夏休みは一応自由だもの。でも・・・私も参加させてもらうわ!!」
「「ほえ?!」」
思わずレティと同時に驚きの声を上げてしまう。
「保護者枠でね!」
そう言ってそのままオルガさん達と行ってしまう。私とレティは顔を見合わせて、なんとも言えない戸惑いの表情を浮かべた。
「ま、まあ大丈夫だよ・・・ね?」
「は、ははは・・・。でも、先生って意外と陽気な人だったんですねぇ。」
「いや、陽気って言うか・・・。強引だよねぇ、でもいいんじゃない?引率者がいたほうが、いろいろと楽だし。」
ルイーダ先生なら息苦しくはないだろうし、何より親を説得するのに都合がいい。
「楽しくなりそうですね・・・。ね、ひかり。」
「そだねー。レティの可愛い水着姿も楽しみだよー。」
そう言って予定通り、小物を探しに歩き出す。隣では真っ赤な顔をしたレティが俯きながら付いてくる。そして、もうすぐやってくる夏休みに想いを馳せながら買い物を続けた。
◆◆◆
「ここならいいじゃろ。」
二人の女妖魔を連れた白翁は、大きなビルの裏で立ち止まる。
「二人とも準備を始めるんじゃ・・・。」
そう言って二人を促すと、女妖魔たちはゆっくりと地面に何かを描いていく。それは直線と曲線を組み合わせた、儀式的な紋様。白翁はその中心に、黒い石を置く。紋様が完成すると、白翁が念じる。するとその黒い石は、地面に沈んで消える。
「・・・よし。ではお前たちは蟲の相手をしてもらうぞ。」
その言葉に二人は情欲にまみれた笑みで頷く。
「カカカ・・・。では呼んでやるとしよう・・・・。」
白翁はそう呟くと、懐から細い筒を取り出し口に咥える。そして辺りに小さく掠れた、息を吐くような音が響く。
◇◇◇
「・・・?」
1人自室にこもっていた少女・蛍は、何者かの呼び出しを受けたような気がした。
「呼ば、れた・・・。行か、なきゃ・・・。」
頭に直接響くような甲高い笛の音を聞いた瞬間、何も考えられなくなってしまった。
「早く行かな、いと・・・」
自分を呼ぶその音に導かれるように、身支度もそこそこに部屋を飛び出す。
「は、やく・・・はや、く・・・行かな、くちゃ・・・。」
ただ、呼ばれた場所に行くことしか、考えられなかった。
そんな蛍を、偶然見かけた一人の少女・柚。
「あれは・・・蛍?どこ行くのかな・・・あんな格好で・・・?」
その姿は一目見て異常だとわかる。髪は乱れ、服装も乱れたまま、ふらふらと足元も覚束ないような足取りで歩いていったのだ。
「・・・よし。」
すばやく自室に入り、服を着替える。それは少女にとって仕事着であり、戦闘用でもある巫女装束。退魔のための符も一式持って部屋を出る。
「何もなければいいけど・・・。」
不安に駆られながら、蛍を追う。仲間に連絡しようかとも思ったが、取り越し苦労で無駄足を踏ませるのは申し訳ない。
「状況を確認してからでも、遅くないよね・・・。」
◆◆◆
「カカカ、来たか・・・。」
白翁の待つビルの裏に、蛍はふらつきながらやってくる。
「あ・・う・・・」
蛍の表情は虚ろで、しかしその瞳には何かを期待するような光が灯っていた。
「ほう、まだ深層意識で抵抗しておるのか・・・?じゃが、もうすぐそれも終わり・・・。」
蛍の様子を覗き込みながら、ニタリと笑みを浮かべる。
「今のおぬしなら見えるじゃろう?その中心に立つのじゃ・・・。」
その言葉にゆっくりと頷き、蛍は指示された場所に立つ。
「さあ、始めるとするかの・・・。」
そう言って念じ始める白翁と二人の女妖魔。次の瞬間、辺りに絶叫が響き渡る。
「だめえええええぇぇぇぇ!!!」
それに続く足音。妖魔たちが動き出すより早く、『それ』は蛍を突き飛ばす。
「なっ?!」
代わってその場にいたのは、蛍を追いかけていた柚だった。
「何するか知らないけど、思惑通りにはさせないんだから!!」
柚はそう啖呵を切る。だが、すぐに異常に気が付く。
「え・・・身体が、動か、な・・・い?」
その様子に、白翁は目を細める。
「クカカ・・・。まあいいじゃろう。どちらでも大して変わらんしの。」
そのまま念が強まる。柚の足元が黒く光り、膨大な妖気が渦を巻いてあふれ出す。さらにその外では、結界が張られている。
「きゃ、きゃあああああ?!?!」
柚の叫びもまた、結界の外に届くことは無かった。
「カカカ・・・。これであとは終わるまで、『影』に任せておけばいいじゃろ・・・。」
白翁は柚に一瞥をくれると、蛍のほうに向き直る。
「蛍と言ったかの・・・?おぬしの仕込みはそこの二人に任せるとするかの・・・。」
二人の女妖魔・凶禍と琥珀が、蛍の身体を支えるように寄り添う。
「うふふ・・・。さあ、楽しみましょう・・・。」
「すぐ分かる・・・。妖魔の身体の素晴らしさが・・・。」
二人の手が、蛍の身体を這い回る。その表情が、紅く上気していく。
「では先に帰らせてもらうかのぅ・・・。二人とも、やりすぎるでないぞ?」
◆◆◆
「ふうあ・・・くぅああ・・・」
目の前で仲間が、自分の代わりに窮地に立たされている。
「ああん・・・ひああっ・・・」
にもかかわらず、何も出来ない。
「んんぅ・・・あくぅ・・・」
それどころか。
「ふああ・・・イイよぅ・・・」
快楽を貪るのに夢中になっていた。
「ああふ・・・凶禍様、琥珀さまぁ・・・もっとぉ・・・」
与えてくれるのは、二人の先輩妖魔。
「うふふ・・・もっと感じていいのよ?何も考えずに、ね?」
「快感に身を委ねていいの。もっともっと、キモチヨクなっていいの・・・。」
そんな言葉を囁きながら、凶禍と琥珀の二人は絶え間なく指を動かす。
「あああぁぁ!・・・・くうん・・・ふあああ・・・」
その指の動きに加え、夜になると感じていた皮膚の下を這い回る蟲の動きに酔いしれる。
(ダメ、なのに。おかしくなっちゃうのに。抑えきれないよ・・・)
目の前では柚が、苦しんでいる。自分のせいで、柚が犠牲になっているのに。
(それが、気持ちイイなんて。私、もうダメみたい・・・)
ゆっくりと、頭の中が塗り替えられていく。
(気持ちイイ・・・柚が苦しむ姿、感じちゃう・・・)
いつの間にか、価値観も変化していく。
(何で、苦しんでるの・・・?受け入れれば、こんなに、気持ちイイのに・・・)
その口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。それはひどく妖艶で、邪悪さを感じる微笑。
「ふふ、受け入れたようね・・・。おめでとう。コレであなたも、立派な妖魔の仲間入りね・・・。」
「素晴らしいでしょう? 抗っていたのが馬鹿らしく思えるほどに、ね?」
二人の言葉に、迷うことなく頷く。
「あふぅ、とっても、すてきぃ・・・♪もう、人間になんて、もどりたくないぃ・・・。」
気持ちよくて、気持ちよくて、たまらない。
(妖魔になるのがこんなに気持ちイイなんて・・・♪受け入れて、良かった・・・)
後悔はない。むしろ、多幸感が身体を支配していた。
「もう、わかってるわよねぇ?これから、どうするのか・・・。」
凶禍の言葉に、蛍は頷く。その瞳は、金色に輝いていた。
「はいぃ、凶禍さまぁ、琥珀さまぁ。玄奘様のために、働くことですぅ♪」
迷い無く、よどみ無く。歌うように、蛍は知らないはずの男のために生きることを告げる。
「よく出来ました。休みに入るまで、これまでと同じように暮らしなさい。指示があるまで我慢するのよ?」
琥珀の言葉に心底残念そうに頷く。
「うふふ・・・。じゃ、まずはあの娘の仕上げを任せるわ。じっくり、楽しみなさい・・・。」
凶禍はそう言うと、琥珀を伴い姿を消す。蛍は恍惚とした表情を浮かべながら、柚の姿を見つめる。
「あはぁ♪私は玄奘様の蟲・・・。蟲使いの蛍。柚・・・、貴方も早く受け入れて、一緒に楽しみましょ・・・♪」
蕩けきった微笑に、かつての快活さは微塵も感じられなかった。それは粘着質な欲望を隠すことのない、奔放で妖艶な笑顔であった。
◆◆◆
一方、柚は動きを封じられたまま、膨大な妖気の渦に晒されていた。
「く、あああああ?!」
叫ぶことしか出来ない。あまりに深く濃厚な妖気の中で、身を護ることすらできない。
(このままじゃ、魂まで穢されちゃう・・・)
それは死に等しい。心を強く持とうとしたその時、妖気の流れに異変が生じる。
「え?!い、いやああああ?!」
地中から黒い石が浮かび上がる。その石から発せられる妖気が体にまとわり付き、巫女服を穢し黒く染めていく。
(妖気が、まるで・・・人の手みたいに動くなんて・・・?)
わずかに視線を下に向ける。すると黒い影のようなものが数本、身体の上を蠢いていた。
(な、何なの・・・?え、そこは・・・ダメェッ!!)
今まで誰にも触れさせた事のないそこに、影が触れようとしている。
「いやああ!・・・ふあああ?!」
触れた瞬間、身体に痺れが走る。不快ではなく、むしろ心地よい浮遊感を伴った痺れ。それが快感であると気付くのに、時間は掛からなかった。
(な、なんで私、感じちゃってるの・・・?)
困惑。だがそれすらも打ち消すほどの強い波動が、痺れとなって押し寄せる。
(あ、う・・・?よ、妖気が・・・中に・・・)
甘美な衝撃に心は抵抗できないまま、妖気の濁流に押し流されていく。
『ふふっ・・・。何を怯えているの・・・?』
どこかで聞いたような、慣れ親しんでいるような声。
(この声は・・・私?)
気が付くと、暗い闇の中に浮かんでいた。ここが私の精神世界だと、すぐに理解できた。
『意外に落ち着いているのね・・・。魂まで穢され、侵食されようとしているのに・・・。』
最悪の状況に、何故か心は落ち着いていた。
(この声は、私を惑わすため。まだ、負けてない!)
言い聞かせるように、強く念じる。
『あはは・・・。残念だけど、もう遅いのよ?この心も身体も、魂すらも変わってしまうのだから。』
嘲笑するように、宣告する声。そこには歓喜の色が含まれている。
(あなたはいったい・・・?)
私を支配しよう、乗っ取ろうという妖魔の名すら知らない。
『私?私に名前なんてないわ。強いて言えば、影。そしてこれからは・・・』
声が聞こえなくなる。そして、世界が閉じる。閉じ行く世界の中、私は必死に抵抗しようとした。
「は、あはは・・・やっと!やっと外に出ることが出来た・・・!」
解放の喜びに、思わず笑い声が漏れる。
「クク・・・解放していただいた玄奘様のためにも、しっかり働かなくてはね!」
昏い笑みを浮かべながら、あたりを見回す。そこには1人の少女が立っていた。
「おめでとう。・・・何と呼べばいいかしら?」
その少女の表情は妖艶で、かつての彼女ならそんな表情をすることはない。
「ありがとう・・・私のことは、っ?!」
『蛍!早く私を封じて!!』
わずかに人としての人格が戻る。目の前の少女・蛍に懇願する。
「何故?せっかく妖魔になれたのに・・・?さっさと受け入れなさい。」
蛍は冷徹に、人としての柚に通告する。その瞳には、金色の光が爛々と輝いていた。
『そんな・・・』
「・・・ふふ、ようやく諦めた。これからじっくりと取り込んであげる。」
その表情は残忍で、瞳はどこまでも深い闇を映していた。
「貴方のことは蛍でいいのよね?なら、私も今までどおり『柚』と呼んでくれる?」
その言葉に頷き、淫靡に笑う蛍。それを見た柚もまた、欲情を露にした微笑を向ける。
「さあ、楽しみましょ。玄奘様のお力になれるその時を夢見て・・・」
「あはは・・・。そうね、妖魔になれたことを祝福して・・・ね。」
二人の唇が重なる。そのまま、闇の中に姿が溶けて消えていった。残されたのは、かすかな妖気の名残とむせ返るような雌の淫臭だけだった・・・。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第7話 【夏空踊る奏鳴曲】 完
◆◆◆
とある地下施設の一室に、女性たちの声が響く。
「ルシル、オニキスから連絡のあった地域の監視体制はどうなってるの?」
そこは悪の?秘密組織・コードダークの本部。幹部・キヨカが情報収集に当たっていた。
「元々近代化が遅れていた地域ですから、完璧な監視体制は難しいですね・・・。」
隣でモニターを睨みながら、実働部隊の隊長・ルシルが報告する。
「ただ、ミウの実家の道場が近くにあるので、そこを拠点にしようかと。」
キヨカは怪訝そうな表情を浮かべる。
「大丈夫なの?」
実家である以上、両親や近所付合いもある。不安要素がないわけではない。
「その辺りは抜かりなく。すでにヒバリを中心としたメンバーで下準備も済んでいます。」
言外に込められた言葉の意味を、正確に理解したルシルの返事に満足そうに頷く。
「そう。ならいいわ。そのまま進めて。」
「はい、キヨカ様。」
その返事を聞きながら、キヨカは物思いにふける。
(少し、静か過ぎるわね。何かしら動いているとすれば、『紅の亡霊』か・・・。ただでさえ動きが読みづらいのに、フォローが後手に回ってるわね・・・。)
「キヨカー?キ・ヨ・カー!!」
耳元で大きな声で叫ぶ一人の女性。コードダーク首領・メイ、その人である。
「・・・メイ様、研究はもうよろしいんですか?」
耳を押さえながらゆっくりと振り返る。メイの姿はいつものように、下着姿に白衣という出で立ちだ。
「ん。ひと段落ついた。概論は出来たし、あとは実験と実践を重ねるだけ~。あ、1つもらうね~。」
テーブルに置かれていたクッキーを1つ頬張りながら、さらっと報告する。
「各所から入手したサンプルの分析は、どうです?」
「そっちはほとんど終わってる~。うちでそのまま使うことはないと思うけどね~。」
各地の調査の過程で技術提携を結んだ組織から提供された、技術サンプル。お互いに研究結果をフィードバックしながら活動していくことになっている。
「じゃ、あとで書類にまとめておきますね。」
データベースに入れるのは勿論、文書にしておくのも重要。特に機密文書に関しては、幹部たちが自ら行うことになっている。
「あ、メイ様、キヨカ様。」
看護婦姿の女性が部屋に入ってくる。
「どうしたのー?」
メイが間延びした声で問いかける。
「あの、退魔士協会とか言うところから、情報共有の申し出が・・・。」
「どっちに?」
キヨカは確認のために聞き返す。
「病院のほうです。どうしましょうか?」
その答えを聞き、キヨカの目が光る。相手が求めている情報と、こちらが手に入れる情報を天秤にかける。
「受けましょう。細かいことはあとで詰めるようにセッティングして。」
指示を受けた看護婦が一礼して外に出て行く。
「よかったのー?」
メイが伺うようにキヨカを見る。
「新しい情報が入るかもしれませんし、新しい研究サンプルが手に入るかもしれません。」
その言葉を聞いて、メイの表情は輝く。
「そうだね~。楽しみだな~。」
「ふふ・・・。妖怪どもの動きも、もう少し掴めるようになるでしょう・・・。」
そう言ってキヨカは部屋を出て行く。
暗躍するコードダーク。誰一人、その動きを脅威と感じないまま、世界の闇に根ざしていく・・・。
皆様いかがでしたか?
蛍に続き柚までも・・・。
そして凶禍・琥珀の正体は?
と言いながら、次回予告でお約束が。
ネタバレしようがどこ吹く風で突き進みます。
ちなみに蛍・柚はあの状態で9割洗脳。
次回とどめを刺そうかと。
そして次回、ついにゲストが・・・。
どこに出しても恥ずかしくない作品に仕上げたいと思います。
カッコいいトコ見せてもらうとしましょう。
それでは次回更新でお会いしましょう。
次回予告!
待ちに待った夏休みの到来。少女たちは気分も上々に海水浴へと繰り出す。そこで待つ新たな出会い。楽しい時間は緩やかに、それでいて駆け足で過ぎていく。そして動き出す玄奘の野望。そこに待つのは、あまりに残酷な現実だった・・・。
コードダークⅡ ~少女たちの聖戦~
第8話 【海風薫る悲しみの挽歌】
「お、お母様・・・?どうして・・・嘘だと言ってよ、お母様!!」