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社説:新聞週間 震災と向き合い続ける

 土ぼこりを巻き上げながら宮城県沿岸部を襲い、防風林を越えて住宅をのみ込んでいく大津波。本社ヘリに乗っていた毎日新聞東京写真部の手塚耕一郎記者は、無我夢中でシャッターを切り続けたという。

 共同通信社を通じて配信された手塚記者の写真は、国内50紙、海外約400紙に掲載され、東日本大震災の衝撃を世界に伝えた。このスクープ写真は今年度の新聞協会賞に選ばれた。目撃者として、ありのままの現場を伝えることは、報道の原点と言っていいだろう。

 未曽有の津波被害と、福島第1原発事故を引き起こした3月11日の大震災によって、新聞を含めた報道機関はその存在意義を問われた。

 総力を挙げて大震災の現場に足を運んだ検証報道で、毎日新聞は日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞にも選出された。関係者をつぶさに取材し、多角的な視点で問題点を洗い出し、教訓を提示するのも報道に課せられた重要な使命である。

 震災直後、電気の供給が止まり、通信機能がまひした。そのような中、避難所に届けられた新聞が被災者の重要な情報源として役に立ったのはうれしい。被災しながら新聞発行を続けた地元紙の奮闘に頭が下がる。河北新報や岩手日報、茨城新聞などは停電でコンピューターが作動しなくなり新聞製作に支障が出た。それぞれ災害協定を結ぶ他紙に紙面製作や印刷の代行をしてもらい、乗り切った。

 宮城県石巻市の地元紙「石巻日日新聞」にも驚かされた。停電で輪転機が動かない中、手書きの壁新聞を作って避難所などに張り出した。この壁新聞は米ワシントンのニュース博物館に展示され、同紙は先月、国際新聞編集者協会年次総会で特別賞を受賞した。そのジャーナリズム魂を見習いたいと思う。

 大災害に際して、きめ細かい安否情報や生活情報が大切であることも改めて認識した。被災地では何が不足し、どんな手助けが必要なのか。毎日新聞は、「希望新聞」を通じ、被災地と全国をつなぐマッチングを試みた。新聞やテレビなど既存メディアが、ネットやツイッターを利用し、そうした情報をより広く伝えようとした姿勢も目立った。いわゆるソーシャルメディアとの共存は、時代の流れだろう。

 原発事故はいまだに収束しない。放射線被害一つとっても専門家によって解釈が異なる。どうかみくだいて分かりやすく報道するか。試行錯誤しながら考え続けるしかない。

 「上を向く 力をくれた 記事がある」。15日から始まった新聞週間の代表標語だ。復興の力になる明るいニュースも発信を続けたい。

毎日新聞 2011年10月15日 2時31分

 

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