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[30078] 【習作】――Blood Blade Online――
Name: 害虫◆4c57bf1d ID:0c460657
Date: 2011/10/10 09:11
こんにちは。

害虫と申します。

最後まで完結出来るかわかりません。

これは、中学生の小説もどきです。至らない点が多々ありますが、どうぞ見てあげてください。

感想でアドバイスや指摘して頂けると助かります。

良い点、悪い点言って貰えると執筆意欲が湧きます。また、この作品は小説家になろうにて連載中ですので、こちらで頂いて意見はなろうサイトでも反映していこうと思います。

それでは、よろしくおねがいします。



[30078] 一条恭介――Ⅰ
Name: 害虫◆4c57bf1d ID:0c460657
Date: 2011/10/10 09:14
 ――一条恭介は歩いていた。
 寒さによってその身を枯らしてしまった、歩道に無造作に植えられている木々を横目に見ながら、恭介は身を震わせながら歩行を続ける。

 枯れてしまった木々は、冬を過ぎればまたその葉を青々と生やす。いくら年月が経とうとも、その光景はすぐには変わっていかない。そろそろ、本格的な冬の到来といったところだろうか。焦げ茶色の枝を、冬の寒波を乗せた風が吹き付けた。

 吹いた風は、僅かに露出している恭介の顔面に容赦なく襲い掛かり、その寒さに恭介は顔をしかめた。

 いくら冬用の服を着ているといっても、その寒さを全て防ぐ事は出来ない。深めに被ったニット帽を更に手で引き伸ばし、目が見えていないのではないかと思うほどに、顔を覆わせた。マフラーで首の辺りを丁寧に防護し、その下は厚めの黒のパーカー。下はジーンズを履いている。

 恭介は時々吹き付ける寒風を凌ぎながら、秋葉の街をそれこそ隠れるようにして歩いていく。遊歩道に植えられている木は、誰の目に止まることなくまるで空気の一部とでも化している。恭介もそれに習うように、一言も発せずにただ黙々と歩いていた。

 秋葉の街はこの寒さであるにも関わらず、何か異様な熱気に包まれている。
 チェックのシャツをズボンの中に入れて、リュックを背負いバンダナを付けている、いかにもな男が目に止まった。

 一体、この男はどんな人生を歩んできたのだろうか。恭介はそれを考えると、無性に腹が立った。

 何で、こんな奴が。

 何で、僕が。

 そんな黒い念に囚われるのも一瞬のうち。それはすぐに、自分の中の萎えた心に打ち消されてしまう。どうせ、どうせ。恭介は半分、諦めていた。この男がどんな人生を送ってきたのか。そんな事は、自分に関係の無い事だ。この男に限らず、自分よりも恵まれた人生を歩んできた奴なんて、ざらだ。

 恭介はそう考えると、すぐにその男の事を頭から打ち消した。

 活気に溢れた街を歩いていると、自分の暗い思考をいくらか紛らわせる事が出来る。それに気づいたのは、つい最近だった。根本的な解決にはならないかもしれないが、恭介はそうやって自分を騙す事で、ある種の安心感を感じていた。

 この街は恭介の唯一落ち着ける場所と言っても良かった。決して、恭介の趣味と合う場所ではない。恭介はこの街の至るところに開かれている、メイド喫茶には何の魅力も感じない。ガラスケースの中で貴重に扱われている、無駄に顔が整ってスタイルの良い水着姿の女のフィギュアにも、何の関心も無かった。

 ただ、この街の活気が気に入っているだけなのだ。

 自分を鎮めてくれるこの街を、恭介は気にいっていた。

 恭介はふと、歩行の速度を緩めた。

 可愛い女の子の宣伝の旗が立っている電気屋。そこに、サンプルなのだろうテレビが置いてあった。バラエティを映す訳でもなく、それには堅苦しいスーツを着て眉根に皺を寄せているニュースキャスターの顔が映っていた。

 画面右上には《どうする? 止まらない若年層の犯罪》というテロップが流れていた。ニュースキャスターがコメンテーターに話題を振っている。

 何の事件に対してなのか、恭介にはさっぱり分からなかったが、コメンテーターは悩ましい顔をして、ありきたりな言葉を言った。

『そうですねぇ。やはり、教育の問題なのではと思いますね。いわゆる、ゆとり世代と言われるこの時代で、子供達は甘い社会を学んでしまったのではないかと思います。この傷害事件もそうですが、巷で溢れかえる万引きも然りです。少年法によって守られている子供達は、何かをしてしまっても、社会が守ってくれるというのを知っているんです。だからこそ、危ない事でもやってしまう。
 確かに、勉強以外にも大事な事はたくさんあります。それを学んでいくのが、社会に生きる者の務めでしょう。しかし、だからといって甘やかして何でもやらせてしまうというのはおかしい気もしますね。現代の子供達には、まず人としての勉強をして欲しいと思いますね』

 いかにもそれらしい言葉をつらつらと並べたコメンテーターに満足したのか、ニュースキャスターに再び画面が移る。

 犯罪を起こすのに、年齢は関係ない。教育なんて全く関係ない。犯罪を起こすか、起こさないか。殺すか、殺されるか。それは全てその人が持って生まれた運命だと、恭介は感じた。コメンテーターの上っ面だけの言葉は、恭介を再びいらつかせるには十分だった。

 暫く、その後のニュースを見ていると、恭介を客と勘違いしたのか店の中から店員が出てきた。

「テレビをお探しでしょうか? それならお店の中に今話題の、高画質テレビを取り揃えておりますが」

 店員はニコニコと営業スマイルを浮かべながら、恭介ににじり寄った。今の時代、家電製品は長持ちするものが多くなってきていて、中々買い換える人が少ないのだろう。売れ行きこそ下降気味だが、一つ当りの単価は、携帯電話やゲーム機器よりも遥かに高い。店側としては、そんな数少ない客を逃すわけにはいかないのだろう。

 しかし、生憎のところ恭介はテレビが欲しいわけではなかった。恭介は小さく「すいません」と謝ると、足早にその場を立ち去った。

 後ろから、店員の少し嘲りと憎しみが混ざった視線を感じたが、また新たな客を見つけたのかすぐにあの張り付いたような笑顔に戻っていた。

 恭介は腕に付けている時計をチラリと見やる。午後四時。

 秋葉の街はこれからがピークだった。これぐらいの時間帯から、一気に人が増える。今テレビで話題の人気アイドルグループのコンサートがあったり、仕事帰りのサラリーマン、漫画やパソコン、アニメのグッズを買いに来た中高生、様々な人が溢れかえっていく。

 活気があるのは良いのだが、恭介はそんな人混みに紛れていくのはあまり好きではなかった。何よりも、息苦しいし居心地が悪い。特に目的も無く、ただ彷徨っている恭介にはなおさらだった。

 あんな、仮想のものの何が良いんだか。

 恭介には、この街に来る人々の思考は理解出来なかった。恭介は僅かに見える狭い視界を、時計から周囲に向ける。

 半ば強引に、メイド服を着ている若い女に連れて行かれる四十過ぎと思われる中年の男を見かけた。何が良いのか、女は男に上目遣いを使ったりして気を引こうとしている。

 それが接客とは分かっていたものの、恭介は内心、その女が滑稽に思えていた。

 本当に、この世界は面白い。恭介はキラキラと光り始める街のネオンが鮮やかに空を彩っていく様子を見つめていた。

 そして、人が多くなってきているのと同時に、恭介は自然にこの街から離れていった――。

 途中、やはり自分のように電気屋の店員に捕まったのか、同じぐらいの年齢の男の子が店の中に入っていくのを見た。自分の意識というものが無いのだろうか。流されるままに、自分の人生を歩んでいって、何が楽しいのだろう。

 いや、そもそも人生を歩んでいくことの何が楽しいのだろうか。

 娯楽? 恋愛? 友情?

 そのどれもが、自分とはかけ離れすぎている。これらのものが何なのかは恭介には理解出来なかったのだが、直感的に全てが自分とは違うというのは認識する事ができた。

 また、寒風が恭介を襲ってきた。僅かばかりに聞こえていた雑踏も、今はもう聞こえない。秋葉の街からは既に離れている。

 恭介は自分が住む場所へと歩みを進めていく。

 そして、実感した。この寒風と、独特の気分の高揚は、もうすぐ冬本番が訪れる事の前触れだと。


 ――――七回目の冬がやってきた。



[30078] 一条恭介――Ⅱ
Name: 害虫◆4c57bf1d ID:0c460657
Date: 2011/10/10 21:46
┣╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂┫

 恭介は自分の家に帰ると、静かに玄関のドアに鍵を差し込んだ。金属製のドアは珍しく、その金属光沢を余すことなく、周囲に晒している。まるで西洋の城の門のようだった。年代物なのか、所々は錆がついていてみすぼらしい。

 やはり鉄製の鍵を差込み、右に回転させると小さく音が鳴りドアの鍵が開いた。

 重いドアを寒さで上手く動かせない手で、ゆっくりと引いた。

 途端、暖かな風が恭介の頬を撫で付けた。後ろからは寒さ、前からは暖かさ。二つ同時に体感しているのは、ちょっとした贅沢だろうか。

 無機質な外見とは違い、家の中は驚くほどに柔らかさに包まれている。コンクリートで出来ている恭介の家なのだが、流石に内面までコンクリートにしてしまっては寛げないので、中はフローリングになっている。

 いきなり暖かい場所に入ったので、その温度差で感覚が麻痺してしまう。だが、これが何ともいえない。麻痺した感覚が、恭介にわずかばかりの快楽を与えてくれるのだ。

 恭介は首に巻いていたマフラーを外すと、玄関脇に置いてある靴箱の上に無造作に置いた。

 この寒さの中でも首ではしっかり守られていたようで、赤くなった顔とは対照的に、白い肌を晒しだした。頚動脈がトクトクと振動するのを感じる。

 恭介はほっと息を吐くと、靴を脱ぎ家の中に入る。

 恭介の家はコンクリートで造られた二階建ての一軒家だ。三十坪ほどの敷地を存分に使った家で、ここに住んでいるのは恭介とその父、母。それに、中学三年生の妹が一人。家族四人で暮らすのには丁度良いスペースなうえ、恭介は普段あまり家にはいない。大体は、外に出てぶらぶらとしていたり、平日は地元の公立高校に行っている。家にいるときは、自分の部屋に閉じこもっているだけだ。

 ここは自分の家だが、自分がいるべき場所ではない。恭介はそう思っていた。だから、家族とはあまり関わりを持たないし、そんな自分にわざわざ学校の授業料を払っている両親にも悪いので、恭介は高校を卒業したらすぐに働くつもりでいた。

 今日は休日。日曜日だ。妹は何処かに出かけているのだろう、家にはいない。両親は共働きで、水曜日が休日な様で日曜日のこの時間帯にはいない。

 つまり、今は恭介一人が家にいるのだ。

 恭介は二階にある自分の部屋に入る。リビングは暗く、テレビを見る気にもなれなかったので、やはり今日も部屋に閉じこもる事にした。

 窓から見える景色にはもう既に夕日が映っている。冬になるにつれて、日照時間は短くなっていくのだが、今日は天気が崩れ気味だったので、日が落ちるのが幾分早い様に思えた。

 五畳ほどの部屋には、必要最低限のものしか置かれていない。ベッドと、小さな勉強机。それに、ノートパソコンだ。

 恭介はノートパソコンのバッテリーを繋ぎ、スタンバイになっていたのを起動させる。

 すると、すぐに昨日開いていた画面が映し出された。

「やっぱり、スタンバイは便利だな」

 普通に電源を切ってしまうと、次に立ち上げるときに何分も待たなければならない。恭介のパソコンは決して性能が良いとは言えないので、なおさらだ。

 故に、スタンバイという機能を発見した時にはいくらか興奮したのを覚えていた。

 …………馬鹿らしい。

 恭介は映し出されたウィンドウの人工的な光を見つめる。

 昨日開いていたのは、チャットだった。

 スタンバイにしたせいで、サーバーとの接続は切れてしまっていた。

 恭介はすぐに退出ボタンを押す。こうしないと、処理が上手くできないのか不具合が発生してしまうのを恭介は身をもって体験していた。チャットの入室画面へ戻り、再び名前を入れて入室をする。恭介はチャットでは、《藍》と名乗っていた。特に深い意味は無く、ただ単純に藍色が好きだからである。たまに、女性と勘違いされるが、その時はそのまま女性を偽って、相手を釣る。

 入室すると、すぐに参加メンバーから挨拶が殺到した。

『こん』
『こんばんは』
『藍さんちーっす!』

 流れるようにして、チャット画面がスクロールされていく。恭介は同じように打ち込むと、発言ボタンを押して入室者をチェックした。

 いつものメンバーだ。恭介がチャットに来たのはほんの数日前。余りにも暇を持て余していたので、適当にネットを閲覧しているときにたまたま見つけたサイトだった。喋る内容は自由で、主に暇つぶしのための雑談。自分と同じような年齢の人もいれば、社会人だという人もいる。恭介は、主に会話を眺め見る事しかしあにが、時偶に気になる話題になると、発言をしている。

 その発言に、チャットメンバーはすぐに返事を返す。現実の世界じゃ味わえない奇妙な連帯感が、居輔をチャットにのめり込ませた。恭介には、学校で親しいと思える友人はいない。せいぜい、物の貸し借り程度の付き合いだ。恭介はそれ以上の関係は求めないし、クラスメートも恭介とそれ以上の関係になろうとはしなかった。

 勿論、孤独を感じないわけが無い。自分には友人がいないというのは、恭介の密かなコンプレックスだったが、そのコンプレックスを指摘して茶化すような奴さえ、いなかった。恭介はほとんど空気の存在なのだ。

 だからこそチャットは人との対話を普段ほとんどしない恭介にとって、自分を全て隠して他人になれる、いわば第二の現実だった。

『今日は何をしてたの?』

 話が自分に振られた。恭介に尋ねてきたのは、ハンドルネーム《優輝》。恭介は寒さで悴んだ指を擦り合わせ、気晴らし程度に暖めると、すぐにキーを叩き出した。

『今日は学校が無かったから、いつも通り秋葉でうろうろしてた。優輝は?』

『そっかぁ。僕も今日は学校が無かったから、外出してたよ。しかも、偶然にも秋葉!』

『まじで!? 俺はついさっき帰ってきたんだけど。もしかしたら、優輝とニアミスしてたかも……』

『ありえる! それで、恭介は何をしに行ったの? 僕は、ちょっと今やっているオンラインゲームの特典が欲しくて、秋葉の電気屋でゲームのソフトを買ってたんだけど』

『俺は別に目的は無いよ。暇だったから、ちょっとぶらぶらして秋葉を散策してただけ。学校行ってもあんまり楽しくないしね。特に趣味とかも無いから。それで、優輝が言ってる特典っていうのは、あのこないだ聞いたゲームの?』

 恭介は言ったキーを叩く手を止めた。流石に、ずっと打ちっぱなしだと慣れていないせいか、指の動きが鈍ってくる。手を両手で組んで解していく。

 ペキ、と間接が小気味良い音を立てた。

 恭介は、優輝の言っているゲームのホームページを勧められて一回だけ見たことがあった。何でも、今一番勢いがあり人気も話題も沸騰中のMMORPGなのだそうだ。恭介は、この手のゲームはやったことが無かったので、登録をしたりはしなかったが、優輝は今これにはまっているらしい。

 MMORPGなのだが、今までのものよりも断然グラフィック性能が優れていて、低スペックのパソコンでも出来るというのが売り文句らしい。

 優輝も初めはそれに釣られてやったそうなのだが、実際にやってみると王道であるにも関わらず熱中するのだという。

 詳しいゲームの内容は、恭介は知らなかったのだが優輝はこの話題になると途端に、文に熱が篭る。文字だけを見ても、その興奮が恭介に伝わってくるのだ。

 恭介が少し休憩している間にもう既に、恭介と優輝の会話は完全に流されていた。

 入室している人数は恭介と優輝を含め十人。恭介は優輝との会話に徹しているが、その他の参加者は各々自分の会話相手を見つけて自由に話している。このチャットの基本的な使い方としては、入室してすぐは、暇をしているチャットのメンバーと雑談。そこで、話が合う人を見つけたら二人での会話になるのである。まるで、ホストのようだ。

 恭介は大体はこうして優輝と話している。優輝は恭介と同じ年齢らしく、住んでいる場所も恭介とはそう離れていないらしい。何せ、秋葉でニアミスする程だ。何処に住んでるかまでは知らないが、恐らくは電車で行ける距離だろう。

 一分後、優輝が発言をした。その言葉には何処か熱が篭っている。最近は、このゲームの話になると、やたら優輝は口数が多くなる。それほど、熱中しているということだろう。勿論、恭介はそれについては無知同然なので、知ったように相槌を打つだけだ。

『そうなんだよ! MMORPGの《ブラッド・ブレイド・オンライン》! 実は、これの特典で今日行った秋葉の電気屋で指定されたゲームソフトを買うと、ゲーム内で使えるレアな武器が手に入るんだよ。だから、今日はわざわざ秋葉まで繰り出したんだ。でも、その指定されたソフトが何の陰謀なのかやたら高いんだよ。しかも、そのソフトのハードを持ってないから遊べないし……』

 なら買うなよ。と、恭介は突っ込みたくなったがそれを抑えて、

『そうなんだ』

 と相槌を打った。

『それでね、この特典で貰った武器がそれはもう強くてさ! さっきも試しに使ってみようと思ってログインしたんだけど、今まで苦労していた敵も楽々! 高い買い物だったけど、やっぱり買ってよかったと思うよ。あ、それとさ。もし藍が欲しいなら今日買ったゲームを譲りたいんだけど』

『へー、そうか。んで、そのソフトのタイトルは? 後、ハードも教えて』

『えーとね、タイトルは《最強モンスター育成バトル》……で、ハードはクラインかな』

 いかにも面白く無さそうな名前だ。恐らくは、《ブラッド・ブレイド・オンライン》を運営している会社が販売しているゲームなのだろう。在庫処理の為に抱き合わせで売ったという事だろう。確かに、プレイヤーの多い《ブラッド・ブレイド・オンライン》の強い武器とセットにすれば、それこそ飛ぶように売れるだろう。優輝も、それに釣られてまんまと買ってしまった口だ。

 まんまと会社の思惑にはまったということか。

 恭介は机の引き出しを出し、その中に乱雑に放り込まれているゲーム機器を漁る。大体は、秋葉で徘徊している内に無理矢理買わされてしまった物で、その度に処分方法を考えていたのだが、いつか役立つだろうとこの中に溜め込んでいたのだ。

 その数、およそ十。メジャーな機器からマイナーな機器まで一応揃えてあるはずだったのだが、どれも優輝の言っているクラインのパッケージは見つからなかった。

 よっぽど、マイナーなハードなのだろうか。それとも、只単に高値だったから知らないうちに恭介が買うのを拒んでいたのか。そもそも、恭介はほとんどゲームをしないので自分が持っているゲームの種類を把握しきれてはいなかった。

 宝の持ち腐れ。

 いっそのこと、このゲーム全て優輝に譲ってしまおうか。

「――本当に、使えないな」



[30078] 一条恭介――Ⅲ
Name: 害虫◆4c57bf1d ID:029eb423
Date: 2011/10/13 00:52
 そう悪態を吐きながら、恭介は引き出しにまたゲームを詰め込んで乱暴に閉めた。

 恭介は急いでチャットに文字を打ち込む。

『悪い。クラインは持ってないから、俺もいらない』

『そっかぁ。了解。じゃぁ、ゲーム屋でも持っていくことにするよ』

『あぁ、悪い。まぁでも、ゲーム屋に持っていけばそのクソゲー臭のするのも、少しは役に立つだろ』

『うん、確かにそうだね。それじゃ、僕はそろそろ落ちるよ。早く手に入れた武器を使って、無双したいし』

 どうやら、優輝は《ブラッド・ブレイド・オンライン》をするつもりらしい。一体、一日何時間やるつもりなんだろうか。聞いた話によると、優輝がこれを始めてからまだ一週間。しかし、その僅かな期間でランキング上位まで上り詰めたとの事。勿論、今日のようにわざわざ特典を買いに行ったりしているのもあるのだが、やはり技術の差だろう。

 前に優輝が自慢していたのを恭介は少し聞いただけだったのだが、こういったMMORPGをプレイして十年近くになるらしい。

 恭介には十年前どころか二年前の話題になると、もうその知識は尽きてしまう。だから、果たして十年前のそれがどういったものか、皆目検討付かなかった。だが、本人が誇っているのならばそれは胸を張れる事なのだろう。

 仮にゲームの話だとしても、ゲーム参加者からしてみれば時にはそれは教師やはたまた大統領なんかよりも尊敬出来る人物に成り得る。

 優輝のそういった点から考えれば、短期間でランキング上位に上り詰めるのも至難の業では無いのだろう。それに、一日十時間以上もやっていれば尚更だ。

 学校に行っている時間を引けば、一日でゲーム出来る時間なんて限られているはずなのに、一体何処からそんな時間を持ってこれるのだろうか。

 恭介は少し考えたが、止めた。優輝の様なゲームにのめり込んでる人の事何て、恭介には分からない。

 ましてや、実際に会った事の無い人物についてあれこれと考えても只の空想でしかなかった。

 恭介は溜息を吐いて、少し目を瞑るとすぐにまたチャットに戻る。

『おっけー。それじゃぁ、俺も落ちるわ』

 そう発言して退出ボタンを押そうとしたところで、優輝が止めに入った。

『あ、ちょっと待って!』

『ん?』

『藍もやっぱり、一緒にやらない? 今なら、新規登録キャンペーンで低レベルでも簡単にレベルが上げられるようになってるし、フレンド登録で僕と一緒に強い敵を倒して簡単に高経験地も溜められる。藍はこういうのあんまりやってないっぽいけど、やってみたら絶対に面白いから!』

 恭介は少し考える。今までも、何回かこうして優輝に誘われた事がある。だから、ホームページも少し見てみた。

 だが、それでも登録していないのは何となく気分が乗らなかったからだ。不慣れな上に、ゲームの知識が殆ど無い恭介にとっては、見知らぬ人と一緒に遊ぶMMORPG等、未知の領域に等しい。そんな恭介が、優輝のようなコアプレイヤーが溢れているゲームを果たして楽しめるか。

 優輝に散々その魅力を聞かされていたので、恭介も少しは興味を持っているのだがいかんせん気分が乗らない。

 ただ、だからといってずっとゲームをやらないと、折角出来た話し相手との会話にも付いていけなくなる。何よりも、そんな恭介に愛想を尽かして優輝が離れていくのが怖い。今までを孤独に過ごしてきた分、優輝の存在は友達以上だった。

 そんな存在を失ってしまえば、自分はこれからどうしたらいい?

 また、あの時の生活に戻るのか?

「嫌だ……。そうだ、始めれば優輝ももっともっと俺に構ってくれる……」

 恭介は直ぐにチャットに文字を打ち込んだ。

『やる! 今から俺も始めるから、色々と教えて』

『ほんとっ!? それじゃぁ、とりあえず新規登録して出来たらまたチャットに来てね。僕がそこから色々と指示するから』

『了解』

 ――良かった。

 いくら気が合うとはいえ、世間話ばっかりしていたのではすぐに飽きてしまう。共通の趣味さえ持っておけば、まず話題には困らない。

 そういう点で言えば、ゲームというのは正に格好の趣味だ。ゲームは多量な知識から構成されているから、話題なんて腐るほど出てくるだろう。

 恭介は何で今までやらなかったのだと、後悔した。

 そうだ、もっと早くからやっておけば良かったんだ。優輝は、一番信頼できる友達じゃないか。最初からこうしていれば、もっと早く仲良くなれた。

「丁度、暇してたんだよ」

 画面の向こうの優輝に話しかける。

 暇を持て余している恭介には、ゲームをする事でその有り余る時間を有効に活用が出来る。暇人の一種の役得だ。

 そして、恭介はすぐにチャットの回線を切った。

「えっと――まずは、新規登録……っと」

 恭介は検索欄に《ブラッド・ブレイド・オンライン》と打ち込む。すると、何秒もかからないうちに膨大なサイトが表示された。やはり、人気作故にヒット件数はかなり多い。攻略サイトから、ブログ、ホームページ、SNSサイト、コミュニティ――――。様々な人間が、今このゲームをプレイしている様が良く伺える。

 その中から、一番トップに来た公式サイトを開く。何度か見た光景。重なり合う剣と剣の周りに、まるで散りばめられた星の様に血痕がついている。全体的に黒色を基調としたデザインは、その血の赤を余計に際立たせている。何度見ても、趣味の悪いサイトだと恭介は思ったのだが、安直にこのゲームの名前からすれば仕方ない事なのかもしれない。

 暫くすると、プレイ動画が再生されたが、恭介はそれを全く見ずにスキップさせる。すると、次は御馴染みのインフォメーション画面になった。

 運営からの様々な情報や、公式の掲示板等へのリンク、遊び方から推奨スペックまで、細かく分類分けされたメニューが画面の右脇に表示された。

 恭介はその中から新規登録をクリックする。

 すると、すぐに必要事項の記入が現れた。ネットで何かをするときには、大体これが出てくるので恭介はスラスラと打ち込んでいく。

 利用規約に同意しますか? というチェックボックスにチェックを入れると、ゲームIDが登録された。恭介はそのゲームIDと自分で決めたパスワードを手近にあったメモ用紙にメモを取ると、すぐにお気に入りからチャット画面を表示させる。

 名前を打ち込み、入室。

 恒例の挨拶を飛ばして、すぐに優輝に話しかけた。

『優輝、登録し終わったぞ。次は何すればいい?』

 すぐに返信が来た。

『おぉ! やっと藍と出来るねっ。それじゃぁ、まずは登録したゲームIDとパスワードを使ってログイン画面からゲームの中に入るんだけど、その前に藍は初期設定を登録するんだよ。プレイヤーの名前とか、性別とか、職業とか。まぁ、画面の指示に従ってれば出来ると思うから、そこらへんは詳しく説明しないけど。それで、それが終わるとゲームが始まってチュートリアルになるから、それは受けなくていいよ。時間かかるし、僕が教えた方が手っ取り早いから。いい? チュートリアルを飛ばすと《primitive town》っていうところに自分のキャラクターが出るから、僕が行くまで絶対に動かないでね』

 恭介は長々と語られた優輝の文をじっくり三回ほど読み、記憶する。

 パソコンのスペックの問題で、ゲームとチャットを同時に行うのは不可能だった。なので、記憶しておかないと分からなくなってしまう。

『おっけ。分かった。んじゃ、向こうで会おう』

『はいはーい、それじゃ落ちる』

 その言葉と共に恭介もチャットを閉じた。

 そして、もう一度サイトのトップページにくると、さっき書いたメモを見ながら、ログインIDとパスワードを入れていった――――。



[30078] 夏野優輝――Ⅰ
Name: 害虫◆4c57bf1d ID:029eb423
Date: 2011/10/14 23:16
 冬の空の陽は短い。正にそれを表している様に、まだ午後の四時を回ったころなのにも関わらず既に辺りは薄暗がりになっていた。

「――はーっ、はーっ」

 息を吐き出すと、それが白くなって視覚出来る。そろそろ、この格好では寒いのだろうか。夏野優輝はすっかり冬の準備を始めた秋葉の街を歩いていた。

 歩いている人たちの中には、もう既に冬の格好をしている人もいる。優輝はそれを見ながら、数時間前の自分を恨んだ。優輝が出たときには然程寒くは無かったので、特別厚着をしてこなかったのだが、この時間帯になって一気に寒くなった。そんな優輝の今の格好は、長袖の白のTシャツ一枚の上に、ダウンジャケットを羽織っているだけ。下は灰色のカーゴシャカパンだ。

 一応、優輝の身体の大まかな部位は全て隠れてはいるのだが、それでも生地が薄いので嫌でもその寒さを感じてしまう。ましてや、マフラーやネックウォーマーの類をつけていないので、首元の感覚はほぼ寒さで封印されていた。

 さっさと用事を済ませて帰ろう。優輝はそう思うと、足を速めた。前方から吹き付ける風が優輝の柔らかい猫毛をふわりとかきあげる。優輝はそれを煙たそうに冷えた右手で押さえつけた。この髪は、優輝が少し動くだけですぐに揺れ動いてしまう。優輝はそれが嫌で嫌で仕方が無かった。それに、ストレートで全く癖が無い髪なので、髪型は大体普通に下ろしただけになる。分け目を作ろうにも、直ぐにそれも直ってしまい手が付けられない状況だ。

 だから、優輝はお金が貯まったらパーマをかけるつもりだ。パーマをかければ、少しは格好の良い髪形に出来る気がしていた。

 優輝はポケットからシンプルな黒の財布を取り出した。

「二、四、六、八……九千円か」

 優輝は札の数を数えると、それをまた財布の中にしまった。勿論、これはパーマをかける為に溜めているお金だ。近くの美容室で料金を聞くと、一万二千円と言われたのでそれに向かって優輝がコツコツと貯めたものだった。

 しかし、今の優輝にはそんな事よりも大切な事があった。

「あー、もー……寒いなぁ。さっさと買って帰ろっと」

 人並みに流れるようにして歩いていくと、優輝は目的の店の前で立ち止まった。やたらと目を引くネオンに顔をしかめながらも、優輝はすぐに店の中に入っていく。入ると直ぐに、暖房の暖かさが身体の奥底にまで沁みていくのを感じた。

 冷えた身体にこの暖かさはまるで天国さながら。優輝はしばし、その場に立ち尽くして温まっていた。そんな優輝を邪魔そうに見ながら、大学生と思われる男が店の置くの方へと進んでいった。確かに、入り口のすぐ近くで立っている優輝は他の客からしてみれば迷惑この上ないだろう。だが、一々そんな事を気にしている優輝ではない。

 優輝は更にそこで何分か立ち止まって、やっとその思い足取りを動かした。

 優輝が来たこの店は秋葉でも有数の大型電気店だ。ゲームから家電製品、コアな機器まで大体が取り揃えてある。三階建ての大きなビルで、階数こそ多くは無いのだが、面積はかなり広い。優輝は慣れた足取りで店内のエスカレーターを駆け上っていき、二階にあるゲームコーナーに小走りで到着した。興奮なのか疲れなのか、少し息が切れてしまっている。

「やば。少し運動しないとなぁ……」

 そうぶつぶつと独り言を言いながら、優輝は目的のゲームを探す。流石に大型電気店というだけあって、その品揃えは半端ではない。有名作品しか置いていないような店では、優輝が手に入れたいゲームが売っていない。だからこそ、品揃えが良いこの店にわざわざ足を運んだのだが、品物が多すぎるというのもそれはそれで困るものだ。

 探していくのが非常に面倒臭い。優輝は小さく舌打ちをすると、焦らずゆっくりとゲームのタイトルを眺めていく。RPG、パズル、シミュレーション。その他様々なジャンル、様々なハードで細かく分類された商品の棚を流れるようにして動いていく。

 そして、徐々に徐々に欲しいゲームの内容で絞っていくと、今度は指で一つづつタイトルを確認していく。探して求めているゲームのハードは優輝の持っていないものだった、というよりもそのハード自体が世間的にあまり認知されていない。このゲームを知ったときにはプレイしようかと思ったのだが、やはり優輝もハードを持っていなかった為に断念した。

「えぇっと……うわっ、クラインってゲームのタイトル少なっ! しかも無いし……」

 クラインというのがゲームのハードだ。しかし、それは人気が無いのかゲームコーナーの端っこに申し訳程度に並べられているだけ。他のものと比べると圧倒的にスペースが狭い上に、僅かに並んでいるソフトも、どれもこれもがありきたりな名前ばかり。しかも、ソフトには少し埃がかかっていて長年ここから動かされていないことが伺える。

 しかも、優輝が探しているゲームはここには置かれていなかった。六作品ほどしか無いので、ここからならば探すのも簡単だった。

 優輝は心の中で悪態を吐くと、軽く棚に陳列しているほかのゲームを見ながら足を動かす。ゲームコーナーには余り人がいなかったので、何を見ようがソフトの順番を入れ替えるという地味な嫌がらせをしようが全く問題が無いのだが、今はそんな悪戯をする気力さえ湧かない。
 
「あーあ。近所のゲーム屋には置いてないし秋葉にも無いし。ネットはもう予約が殺到してるから無理だろうし……」

 そう文句を言いながら渋々エスカレーターに乗ろうとするところで、優輝の視界の隅にあるものが移った。


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