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No52853 の記事


■52853 / )  Ep7をほどく(10)・すべてのベアトリーチェのために
□投稿者/ Townmemory -(2010/09/27(Mon) 17:46:08)
http://blog.goo.ne.jp/grandmasterkey/
    ■目次
    no51893 Ep7をほどく(1)・「さいごから二番目の真実」
    no52013 Ep7をほどく(2)・まずEp7を紗音説で読む(上)
    no52052 Ep7をほどく(3)・まずEp7を紗音説で読む(中)
    no52113 Ep7をほどく(4)・まずEp7を紗音説で読む(下)
    no52153 Ep7をほどく(5)・分岐する世界の同一存在
    no52562 Ep7をほどく(6)・ベルンの動機、読者の動機
    no52651 Ep7をほどく(7)・ジェシカベアト説(上)
    no52748 Ep7をほどく(8)・ジェシカベアト説(中)
    no52812 Ep7をほどく(9)・ジェシカベアト説(下)


         ☆


    ●「恋もできない身体」の人は誰?

     真っ赤な画面の中で、源次と南條にむかって、

    「どうして私を助けたんですか! こんな大怪我で、恋もできない体で生きていたくない!」

     と絶叫した人がいました。誰?

     この人……。潜水艦でやってきたイタリアンベアトさん、ベアトリーチェ・カスティリオーニ嬢じゃないのかな……と思うのですが、どうでしょう。

     つまりこういうこと。

     金蔵はじつはとんでもない悪党だった。潜水艦から出てきた10トンの黄金に目がくらんだ。
     山本中尉をそそのかして、「イタリア人を殺して黄金を山分けしましょう」とそそのかした。
     人格者の山本中尉がそれに反対したので、金蔵は、イタリア人の部屋に独自に襲撃をしかけ、「日本軍が黄金めあてに我々を殺しに来た!」というフィクションをイタリア側に信じ込ませた。
     イタリア軍が反撃に出て、日本軍との戦闘が発生する。双方がほぼ全滅し、生き残った負傷者を金蔵が射殺していく。これで黄金はすべて金蔵ひとりのものだ。

     ところがもうひとり無事に生き残った人物がいた。それがベアトリーチェ・カスティリオーニだった。彼女は金蔵を激しくなじる。
     金蔵は例えばベアトリーチェ嬢の足を撃って動けなくする。顔などをさんざん殴って抵抗する気持ちを奪ったかもしれない。鼻がつぶれたり眼球が損傷したかも。そのあと金蔵はさらなる暴行を加える。

     そうしてから金蔵は、新島の南條医師のところにベアトリーチェを担ぎ込む。南條診療所で意識をとりもどした彼女の第一声は「どうして助けたんですか! あのまま死にたかった!」。

     その後、金蔵とベアトリーチェが別荘で暮らしたというのは、
    「金蔵が体の不自由なベアトリーチェを監禁した」
     と見るわけです。
     ベアトリーチェは自殺しようと思ったが、そんな折り、自分が妊娠していることに気づいてしまう。お腹の子には罪はない。
     そこで、出産まで待って、その直後に自殺する。


     このろくでもない仮定をとると、あの「赤い画面の三場面」が、

    ・イタリア人の黄金を横取りしようとするひどい金蔵
    ・イタリアンベアトを暴行したひどい金蔵
    ・実の娘である九羽鳥庵ベアトを性的に搾取するひどい金蔵

     というように、「ひどい金蔵シリーズ」で揃うのです。


     あの真っ赤な画面で語られたことって、クレルのおなかをベルンカステルが引き裂いたら出てきたことでした。
     Ep7では、運命に翻弄されたものの、基本的には善良な金蔵像が語られました。

     クレルという猫箱の中には、

    「金蔵が善人である」可能性と、
    「金蔵が悪党である」可能性が、

     両方含まれていたっていうことです。生きた猫と死んだ猫。重なる2つの可能性。


     なのにベルンカステルは、「金蔵が善人である」ほうだけを、選んで語ってた。

     ベルンカステルはそんなふうに、いろんなことを、「選んで語ってる」んじゃないかな……。


     わたしはなんとなく直感で、ジェシカ世界の金蔵は大悪党で、ヤス世界の金蔵は善人なんじゃないかな、と思っているんですが、これはうまく説明がついたら、また別の機会に合わせてみることにします。


    ●霧江の大量殺人世界

     霧江がライフルを手に入れて、絵羽以外の全員を殺害してしまうシナリオが描かれ、ベルンカステルはご丁寧に、
    「これは全て真実」
     という赤字をくださいました。

     いまここで展開している推理では、「パラレルワールド」を大々的に想定しています。ベルンカステルは「別の人間がベアトリーチェになっちゃうパラレルワールド」を見つけてきて、「その世界の真相」を、これが真相ですよという顔で披露している。そういう推理なのですからね。

     というわけで、「霧江殺人鬼世界」も、「広いカケラ世界には、そういうことになる可能性だってあるよ」という受け取り方で良いと思います。ベルンカステルはそういう世界を見つけてきて上映しているという解釈です。
     なにしろカケラの海には無限の可能性があるんだから、当然そういう可能性だってある。

     そのカケラ世界には、霧江が大量殺人するという真実はたしかにあるんですから、「これは全て真実」です。
     縁寿のカケラ世界で起こった「六軒島の真相」が、これである可能性は充分にあります。これであっても全然おかしくない。
     けれども、「そうでない可能性」もたっぷりあるのだから、愛をもってそちらを選べばよいのです。無限の可能性の中から、どれを手に取るかは、だいたい愛の有無によってきまる。ベルンカステルは縁寿に対してアイがないから、こういう悪趣味なことをする。

     ただ、全然悪趣味かというと、そうでもないふしがある。

    「殺すまえに長々と喋るのは三流悪役よね」という合理的思考をもってる霧江が、絵羽のまえで長々としゃべるのは、これはあきらかに意図的だ。
     多くの人が同じ考えだと思うのですが、霧江の前に絵羽が現われた瞬間、霧江は留弗夫が殺されたことを察して、彼女は絵羽に射殺されようと思ったんだと思う。留弗夫がいなかったら生きててもしょうがない。

     ただひとつ、心残りといえば愛娘の縁寿だ。縁寿を須磨寺送りにはしたくない。
     となれば、右代宮家で唯一生き残ることになる絵羽に引き取ってもらうしかない。
     けれども、夫と愛息を殺した霧江の娘をひきとって育てようなんて、絵羽が思うはずがない。

     そこで、霧江は殺される前に、
    「自分がどんなに縁寿を憎みきっているか」
     というエピソードを、迫真の演技で披露する。

     絵羽は家族愛のかたまりのような人です。「縁寿ちゃんもあの霧江の被害者だったんだ。なんてかわいそうな子だろう。私が愛をそそいで育ててあげなければ」というふうに思うだろう。
     そうなってくれれば、安心して留弗夫さんのところに行ける。


     愛する人が死んで、自分も死ぬ。最後に事実とは違う「幻想」を遺していく。つまり、ある意味では、霧江はベアトリーチェだともいえるのです。


    ●「我こそは我にして我等なり」

     という、クレルの詠唱。

     これは気にさわる。というか、気になります。
     Ep7を読みながら、いろんなことを考えてました。たとえば一例ですが、
    「一人称にして三人称なり。キャラにして語り部なり。台詞にして地の文なり」
     くらいの意味じゃないかとかね。

     Ep7は、三人称だと思われていた地の文が、急に「私は」とか言い出して、それはクレルの語りになっていったりするんですね。
     だから、この作品において、キャラクター性のない地の文だと思われていた文章は、実は「クレル」という人物の一人称の語りだったのだ。
     ミステリーには、「一人称の語りではウソをついてもいいが、三人称の地の文ではウソをついてはいけない」という、誰が決めたのかもさだかでないことなのに、なんとなくルールのように振る舞って、そうでなければいけないようにみんな思いこんじゃっている規則らしきものがあります。わたしは個人的にくだらないと思っているんだけれども。

     でも、三人称にみえるだけで、ほんとは一人称だった、というギミックがあるんなら、地の文でウソついても「規則らしきもの」には抵触しないですねー、幻想描写を書いても良いですよねー、とかね。

     以上のことは、まあ、ひとつの考え方としてこれはこれでありだとして。


     平行世界の発想を扱っているうちに、また別のことを思いついたのです。

     我こそは我にして我等なり。

     私は、私という一人の人物であるけれども、同時に「私たち」という集団でもある。

     自分の推理に引きつけた言い方になるのですが、
     あるキャラの行動として描かれたものは、実は別のキャラのものかもしれない。

     我=クレルは、ひとりの人間であり、複数の人間である。
     なぜなら、「我」「我等」だから。つまり、他の人間のことを含んでいるからである。
     つまりクレルのこととして語られたことは、実際には複数の人間の物語である。
     私のことでありながら、別の人のことかもしれない。
     紗音のことでありながら、同時に朱志香のことかもしれない。
     紗音と朱志香を含み、それ以外の何人もの人間を含んだ集合が「我等」かもしれない。

     そういう含みをもたせた呪文が、「我こそは我にして我等なり」かもしれない。

     クレルという人物の「中身」は、結局のところ、明かされはしないのです。
     つまり、クレルという人物は、「猫箱」だ。
     開かない猫箱の中身は確定しません。
     クレルの中身は、紗音かもしれないし、朱志香かもしれないし、それ以外の誰かかもしれない。
     その、「紗音」「朱志香」「それ以外の誰か」「それ以外の誰か以外のまた誰か」「そのまたそれ以外の誰か」……。この集合のことが、「我等」なんじゃないか。


     唯一明言されているっぽいことがあります。
    「クレルは犯人だ」ということです。

     だからこういう合わせ方をしたいのです。

    「クレルは、あまたのカケラ世界で、“ベアトリーチェ”になってしまったすべての人々のアバターである」

     ヤス・シャノン世界において、ベアトリーチェになるのはヤス紗音です。だからクレルは紗音です。
     ジェシカ世界において、ベアトリーチェになるのは朱志香です。だからクレルは朱志香です。
     あるカケラ世界で大量殺人を犯すのは霧江です。だから霧江はベアトリーチェです。クレルは霧江です。
     明日夢の生んだ子が運命のいたずらで福音の家に送られ、右代宮邸に雇われ、自分の出生を知って右代宮をにくみ、大量殺人を犯すカケラ世界は存在しえます。だからその世界では明日夢の生んだ子がベアトリーチェです。そしてクレルはその子です。
     絵羽はもちろんベアトリーチェの資格があります。あの島であの日に殺人を犯すのですから。クレルは絵羽です。

     クレルは自分を「我等」だという。これらの人々を一言で表わすことばが「我等」。

     あぁ、我こそは我にして我等なり。
     なれど我等、運命に抗えたるためしはただの一度もなし。
    (Episode7)


     クレルの中には、そんな「すべてのベアトリーチェたち」がいるんだと思う。


     そして、ウィルと刀で渡りあったクレルは、
    「あまたのベアトリーチェのうちの、ヤス紗音の側面
     なんだろうと思うのです。

     我は我等にして我なり。
     クレルは、すべてのベアトリーチェであり、その中のヤスである。


     クレルはウィルの推理に対して、正解だとも不正解だとも言いません。ただ「お見事です」というのです。

     正解じゃないのです。なぜなら、シャノン世界以外では、それは真実じゃないのだから。
     不正解じゃないのです。なぜなら、シャノン世界ではそれは真実なのだから。

     でも、あまたのカケラ世界の中の、真実のひとつをみごとに切り裂いている。だから「お見事」なのです。



     ひとつ確かだと思えることがある。
     どのベアトリーチェも、一人残らず、「こんなことしたくなかった」と思ってるに違いないのです。

     ……恐らく、理解できるのは、自分だけ。
     自分の中にいる自分たちにだけでも、せめてわかってもらえれば、それでいい。
    (Episode7)


     クレルは自分の物語を語ります。
     でも、それがベルンカステルに理解してもらえるとは、期待してなんかない。ひょっとしたら、ウィルに理解されることだって、全然期待してはいなかった。

     クレルはたぶん、ベルンやウィルに向けて語っていたんじゃない気がするんです。
     彼女は、自分の中にいるすべてのベアトリーチェに向けて語っていたんだと思う。

     こんな気持ちは誰にも理解できまい。
     理解できるとしたら、別の世界で同じ運命を強いられた人間だけだろう。
     ベアトリーチェを理解できるのはベアトリーチェだけ。
     だから、余人にはわからずとも、「我等」にはそれを、理解してほしい。

     運命に逆らえず、ベアトリーチェになってしまった者の気持ちは、運命に逆らえずベアトリーチェになってしまった者たちにしかわからない。私の気持ちを、私たちはわかってくれるだろうか。

     クレルの中で、無限のベアトリーチェが、彼女の物語に耳を傾けていた……。のであってほしいと、わたしは願います。


    (次回最終回の予定)
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