| ●番号順に読まれることを想定しています。できれば順番にお読み下さい。 Ep8を読む(1)・語られたものと真実であるもの(上) no59667 Ep8を読む(2)・語られたものと真実であるもの(下) no59700 Ep8を読む(3)・「あなたの物語」としての手品エンド(上) no59771 Ep8を読む(4)・「あなたの物語」としての手品エンド(中) no59806 Ep8を読む(5)・「あなたの物語」としての手品エンド(下) no59987 Ep8を読む(6)・ベアトリーチェは「そこ」にいる no61043 Ep8を読む(7)・黄金を背負ったコトバたち no61527 Ep8を読む(8)・そして魔女は甦る(夢としての赤字) no61687 Ep8を読む(9)・いま、アンチミステリーを語ろう no61746
☆
あと1回か2回で終わります。ブログのカウンターを見る限り、思いのほか、みなさん議論についてこられているようで、わりとびっくり。当初の予想では、だいたい皆さん脱落して、最終的には半分になっているだろうと想像していたのですが、実際には一割減ほどでした。ブラボゥ。
●Ep8以降のジェシカ=ベアトリーチェ犯人説
「Ep8以降のジェシカ=ベアトリーチェ犯人説」というお題でいくつか整えます。
大ざっぱなところから話しますと、Ep8を読んで、従来の考えを変更しなければならない、といった部分はありませんでした。 ただ、「そのまま飲み込んだらうまく消化できない描写」が、いくつかあるにはありました。 それらについては、ある種の「解釈」を行なうことによって、ジェシカ説への着地が可能でした。それについて語ります。
(「朱志香ベアトリーチェ説」の詳細については、「●Ep7推理」と「サファイア・アキュゼイション」をご覧下さい)
●思いのほか小さかった留弗夫の秘密
留弗夫の「俺は殺されるかもしれんな」の「家族の話」が、とうとう留弗夫本人の口から語られました。
が。 その内容が、ちょっとあれでした。
かいつまんでいうと、正妻の明日夢が死産して、愛人の霧江が出産したもんだから、混乱して、霧江が産んだ子を明日夢の子だってことにしちまったんだそうです。 霧江はそうとは知らずに戦人を半ば憎悪していましたし、留弗夫一家のここ数年のごたごたは、元をたどれば全部それが原因なのでした。留弗夫サイアク! そりゃ殺されても文句は言えないわ、そんな話でありました。
うーん、まあ、筋は通っています。多くの人はもっと大きめの真相があると想像していたでしょうが、別にいけなくはありません。
それに加えて、戦人が落ちる落ちる恐怖症なのは、留弗夫が遊園地で戦人をぶんぶん振り回したからだそうです。うーん、そうですか。なるほどね。
本当に?
そうなるとあれですね。『うみねこのなく頃にEp1』、つまり第1話には、大きなミスリードフェイクが2個も設置されていたと、そういうことになりますね。第1話、やることがいっぱいあるでしょうに、あとになってから1話をふりかえって、「あっ、こんなところにすでに伏線が!」ってびっくりさせる布石をいくらでも置いておきたいでしょうに、単にほとんど中身のないトラップを置いていたと。そういうわけなのでしょうか。
このふたつ(出生の秘密と、落ちる恐怖症の謎)が、同時に種明かしされるというのは、明らかに「戦人=19年前の赤ん坊」説を掣肘する意図があるものでしょう。
戦人は19年前に九羽鳥庵ベアトリーチェが産んだ赤ん坊である。だから戦人は明日夢からは産まれていない。その赤ん坊は夏妃の手によって崖から落とされたため、戦人には高いところから落ちることに関する恐怖症があるのである。 という「戦人=19年前の赤ん坊」説。 これは、作中の条件をいくつも同時に説明できる、非常に端正な理論なのです。
はっきりいいますと、作者が「戦人=19年前の赤ん坊」説につながることを意識せすに、「留弗夫の家族話」や「戦人の出生」や「落下恐怖症」といった条件を置いたなんてこと、ありえないのです。必ず意識的だったはずです。
では、作者は、この3つの条件を一直線上に配置できる端正な論理を、自分で設定しておきながら、自らそれを捨てて、 「それらの背後には事件の真相につながるようなたいした事情はなかった」 という空虚な真相のほうを採用したわけなのでしょうか。
●右代宮戦人の「カケラ紡ぎ」
そうじゃない、というところに持っていきましょう。そこに持っていくのは難しくありません。
「戦人は九羽鳥庵ベアトから生まれたんだけれど、そうでないかのように語られたんだ」 というふうに考えてしまおうと思います。 というか、そのように考えてあげないと、「Ep5戦人犯人説」が不成立になってしまいかねませんよ。そしたら「Ep5夏妃犯人説」だけが成立した真実になってしまいます。
だから「戦人の出生の秘密を隠すために、別の説明が繰りひろげられたんだ」と考えることにします。 その上で、「戦人=19年前の赤ん坊」説を掣肘したいのは、じつは作者じゃなくて戦人なんだ、という乗せ方をしてみます。
*
Ep8のゲーム盤は、右代宮戦人が、 「六軒島と、右代宮一族を、幸せだけでいっぱいに満たそう」 という意図でもって作り上げたものです。(そうですよね?)
縁寿に「こんなの茶番!」と見抜かれて、「確かにそうだ」と自分で認めながらも、「それでもここには真実があるんだ」と言い張った。そういう世界です。
真実というのは一義的なものではなくて、各人が「何を見ようと思うか」によってめまぐるしく姿を変えるものなんだ。 そこに幸せを見ようとすることによって幸せを手に入れることができるものなんだ。 そういうことを縁寿に教えようとして作った世界でした。
いってみれば。 Ep8は、「右代宮戦人の幸せのカケラ紡ぎ」なんだ。
『ひぐらし』の古手梨花ちゃんも、8つめのエピソードで「カケラ紡ぎ」をやっていました。 梨花ちゃんが幸せになれる世界をつくるためには、いろんな条件が、たくさん必要でした。 なので彼女は、たくさんのカケラ屑から、必要な条件をかきあつめました。
彼女には、「鬼隠し編を経験し、仲間を信じることを知った前原圭一」が必要でした。鬼隠し編からそれを持ってきました。 「目明し編を経験し、沙都子を守りたい気持ちを手に入れた園崎詩音」が必要でした。目明し編からそれを持ってきました。 「暇潰し編を経験し、梨花を救えなかった悔恨に苦しんだ赤坂衛」が必要でした。暇潰し編からそれを持ってきました。 そうやっていくつもの条件(カケラ屑)を組み合わせてひとつにまとめあげたのが、「祭囃子編」という、梨花の幸福をみちびきだすことのできるひとつのカケラ世界でした。
右代宮戦人も、それに似たことか、ほとんど同じことをしたかもしれません。 だって、『うみねこ』にも、「すべての駒を初期状態でプロモーションさせる」とか「複数のカケラをつぎはぎでつなげる」といった表現がありますものね。
Ep8の六軒島の人々は、自分がどうなる運命なのか知っています。それを知っていて、いろんなことを縁寿に託そうとするわけです。 つまり、いくつかのゲーム盤を経験した人々が、その経験を持ったままゲーム盤上に乗っているわけです。「祭囃子編」みたいにね。
これを、「いくつものカケラを組み合わせて作ったカケラ世界、だからこその奇跡」だと思うことにしましょう。 だったらついでに、 「カケラの海のどこかには、戦人が実は霧江から生まれているカケラ世界も存在する」ということにしてしまいましょう。これはわりと簡単に見つかりそうなカケラだ。 そういうカケラから、カケラ屑をちょっと削って、Ep8にドッキングしてきましょう。 すると留弗夫は、「戦人は霧江が産んだんだ」というエピソードを語ってくれます。
ウソでもなんでもなく、まちがいなく真実なのです。
だって、そういう真実がある世界から、そういう真実を拾ってきて置いているのですからね。「茶番ではあるが、真実でもある」わけです。
でもね……。 やっぱり、そんなふうに都合良く、すべてが幸せではなかったからこそ、六軒島の惨劇は起こったんでしょう。 だから。幸せのカケラは幸せのカケラとして存在するとして、そうじゃない世界。 そういうカケラ屑が融合していない世界では、それほど幸せではない展開が存在した、かもしれない。
ですからここでは、「あんまり幸せじゃあなかった世界」について、思いを馳せることにしましょう。つまり、「戦人のほんとうの出生の秘密」と、「どうして戦人はそれを隠したかったのか」について。
●右代宮霧江を地獄から救う方法
「右代宮戦人は、九羽鳥庵ベアトから生まれたのだが、そうではないかのように語られた」 という仮定を、まず置いてしまいましょう。
「右代宮戦人は、霧江から生まれた」という真実が、カケラ紡ぎによって意図的に「持ってこられた」ものだとするならば。 戦人は「そういう真実が必要だった」ので、わざわざ探して持ってきたことになります。
戦人は、「右代宮戦人は霧江から生まれた」という真実をどうしても欲しかったのだ。 そういうふうに考えたいのです。 それはなぜか。
戦人は六軒島のすべての人の心を、幸せで満たしたかったのだからです。
霧江は、かつて留弗夫が自分ではなく明日夢を選んだことにずっと傷ついているのです。明日夢がぶじに子どもを産み、自分が死産であったことにも傷ついています。だから「明日夢が産んだ子である戦人」に対して、憎悪に近い感情を抱いています。 その感情は、これからもずっと続く見込みなのです。 それは幸福なことじゃない。
霧江には、「愛する留弗夫とともにある限り、戦人を憎悪しなければならない」という地獄があるのです。 その地獄から彼女を解きはなつ方法はただひとつ。 「右代宮戦人が霧江から生まれたという真実が存在すること」 です。
その真実を存在させるためには、「戦人は金蔵と九羽鳥庵ベアトの子であって、留弗夫の子じゃない」という真実が存在してはなりません。カチあってしまいます。単に明日夢の子じゃないというだけでは、霧江を救うには足りません。戦人は霧江を慕っています。必要なのは、「おまえの子が、必然として、おまえを慕ってる」という留弗夫の言葉です。
戦人にとっても、彼は霧江さんを尊敬していて、もっと仲良くしたいし、愛されたいのです。だから、「霧江さんが俺のカーチャンである」という真実を生み出す。 実際の事実がどうであるかに関わらず、そういう「黄金の真実」を手元にひきよせる。
欠けたるものなき理想の六軒島を縁寿に見せるためには、ぜひともそのカケラパーツが欲しい。縁寿の母に、幸せの顔をうかべさせるためには……。
そしてこれは、縁寿を「黄金の真実」の境地にみちびくためにも必要なことでした。なぜなら、 「留弗夫の家族の話、という“謎”があり、それは事件の謎と関わっているらしい」 という疑いを放置していた場合。
「この“謎”の答えを知りたい! それを手掛りに、六軒島の真実にせまりたい!」
という欲望を刺激してしまうからです。 戦人は妹に、それとは違う種類の「真実の手に入れ方」を知ってもらいたいのですから、こっち側に誘導してはなりません。 ですから、 「留弗夫の話にはべつに謎なんてなかったんだ、因縁もなかった、六軒島殺人事件とはつながってなかったんだ」 というかたちを断固としてつくらねばなりません。
これは、以前のエントリでも語ったような、 「存在しない真実だとわかっているが、それでも欲しい」 という、魔女たちの願いと、ほとんど同型の願望です。
●シャノン=ベアトリーチェ世界の真実
Townmemory式の「ジェシカ=ベアトリーチェ説」では、「戦人は九羽鳥庵ベアトから生まれた19年前の赤ん坊である」という条件が必須です。 (詳しくはこちらから→ Ep7をほどく(5)・分岐する世界の同一存在)
なのでこのような、「戦人は霧江から生まれた」という作中描写があってもなお、「戦人を19年前の赤ん坊でいつづけさせる」解釈を必要とするわけです。戦人は九羽鳥庵ベアトの子だけれども、それでも霧江の子だと言い張らねばならないからこうなってるんだ、と。
ですがわたしは、「戦人は霧江から生まれた」という言及を、まったくうそっぱちとは思っていなくて、これはやっぱり真実の一種であるとみなしています。そういう真実はカケラ世界にかなり色濃く存在してます。
というのも。 ふつう、シャノン=ベアトリーチェ説を成立させるためには、「九羽鳥庵ベアト以外の母から産まれており」「幼少時に崖から落ちた経験はなく」「にもかかわらず落下恐怖症がある」右代宮戦人くんの存在を必要とします。
Ep8で留弗夫の口から語られたことは、条件にぴったりマッチします。というか、この真実があってくれないと、シャノン=ベアトリーチェ説に不都合をきたしますので、あってもらわないとこまります。戦人が霧江から生まれたというのは、そっち側の真実なのでしょう。 わたしは、シャノン=ベアトリーチェ説を真実でないとは思っておりませんから(別々のカケラ世界に、ジェシカが犯人になる世界とシャノンが犯人になる世界があるだろうという考えですから)、これはこっちの意味で重要な真相解明ではあります。両方のこと考えるの結構めんどうくさいんだぞう。
だいたい、イメージとしては以下のような考え方です。 Ep7に、こういう謎がありました。 「イタリア人の黄金を強奪しようとしたのは、山本中尉と、金蔵、いったいどっちだったのか?」
両方の可能性が提示されていて、その答え合わせはいまだになされていません。両方の可能性がある猫箱の状態になっていて、箱は未開封なのです。 なので現状、 「黄金強奪の計画者は山本中尉だった」「黄金強奪の計画者は金蔵だった」 が両立している。
それとほぼ同様に、 「戦人の実母は霧江であった」と「戦人の実母は九羽鳥庵ベアトだった」 が、現状両立していると認識することは可能で、
「落下恐怖症の原因は留弗夫」と「落下恐怖症の原因は崖からの落下」 も両立しており、 その延長上に、
「ベアトの中身は紗音」と「ベアトの正体は朱志香」 が両立的に存在している。
そういうカケラの分岐のアングルを見ています。
*
ところで。 イタリアの黄金を強奪しようとしたのは山本中尉か金蔵か、という例を出したのは、無作為なことではなくて、わざとです。 というのも。 山本中尉が悪党の場合は紗音がベアトリーチェになる。 金蔵が悪党の場合は朱志香がベアトリーチェになる。
という構図がなんとなく見えてきてしまって、その構図はきれいだなとわたしが思ってしまったからです。
そのことについて書こうと思いますが、そうとう長くなるので、別エントリに分けます。
(続きます)
|