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No63754 の記事


■63754 / )  朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)
□投稿者/ Townmemory -(2011/06/28(Tue) 09:06:24)
http://blog.goo.ne.jp/grandmasterkey/
    「朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)」


    ●番号順に読まれることを想定しています。
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1 no62750
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2 no62997
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3 no63720


         ☆


    『うみねこ』を、朱志香=ベアトリーチェの物語として創作ふうに読み解いていくというエントリです。順番にお読み下さい。

     前後編でEp4を扱います。


    ●3つのイベント

     Ep4を朱志香の物語として読む場合、重要なイベントは3つあります。

     ひとつは、「三択クイズ」
     ふたつめは「霧江との対決」
     みっつめが「戦人には罪がある」


     この順にお話を展開させていきます。


    ●三択問題の意図

     一コ前のEp3では、右代宮親世代を全員生かしておき、どんな反応があらわれるかを見ました。
     では今度は、右代宮の子供世代たちを見てみよう。
     彼ら・彼女らは、いったい何を大事だと思っているのか。そのために、どれだけのことをする覚悟があるのか。

     どうやら人間は、死の危険にさらされると、本性を露呈するみたいです。ですから、彼ら彼女らには、死にそうな状況を味わっていただかねばなりません。

     しかし、子供世代と大人世代を同時に生かしておくと、大人が子供を守ってしまうので、いまいち緊迫感を与えられません。
     そこで大人たちを6人殺し、残った大人は別室や倉庫に隔離して、子供たちから引き離します。

     子供たちから確実に何らかの反応を引き出したいので、三択形式の問題を作ります。
     譲治に出題された問題は、こうでした。

     以下に掲げる3つの内。
     2つを得るために、1つを生贄に捧げよ。
     一.自分の命
     二.紗音の命
     三.それ以外の全員の命
     何れも選ばねば、上記の全てを失う。
    (Episode4)

     2番の「紗音」のところには、本人が愛する相手が入ります。朱志香なら嘉音。真里亞ならママでしょうか。

     朱志香は、Ep1から3までのあいだに、六軒島の人々が、「自分自身よりも大切なもの」のことについてカミングアウトしていくさまを、いやというほど目撃してきました。
     こんどは、子供世代の面々にも、それをカミングアウトさせようというのです。

     おまえは何が(誰が)大事なんだよ。
     それは自分自身と比べてどのくらい大事なんだよ。


     そういうことを端的に露呈せざるを得ない質問事項になっています。

     ただ、譲治と真里亞がどういう反応を示すのかは、おおむね朱志香にはわかっています。
     ですから、ここで重要なことは、

    「朱志香自身が、自分の価値観を告白する」
    「戦人の大切なものは何か、それはどのくらい大切なのか、を喋らせる」


     このふたつが主眼になります。

     戦人については、ここでは置いておきます(あとでまとめて問い詰めることになるのですね)。
     まず、朱志香本人は、大切なものをどのように扱うのか。


    ●朱志香の回答と「夏妃リフレイン」

     彼女はこう回答します。
     大切な嘉音くんを死なせる選択は論外。自分と嘉音くん以外の全員を死なせる選択も、嘉音くんに罪の意識を背負わせることになるから、彼を不幸にするだろう。だから、乙女として選択するならば、「自分を死なせる」以外にはない。
     しかしそれ以前に、こんな馬鹿げた三択をつきつける奴をぶんなぐり、選択肢そのものを無効にしてやる! 戦って全員を守る、それが「右代宮次期当主」としての選択だ。

     朱志香のこの回答を、
    「愛する人がいちばん幸せになれる選択をする、という方針を明確にした上で、状況そのものにあらがっていく」
     という形に読み替えたとき。

     これは、Ep1で夏妃が宣言したことと、まったく同一といえます。

     夏妃はEp1で、「朱志香を守ることが最優先で、そのためなら何でもする」という方針を明確に宣言します。
     その上で、「殺人犯には抗戦する」という実際の行動をとりました。朱志香の回答は、夏妃が見せた態度のリフレインなんです。

     特に注目したいのは、朱志香は、戦ってみんなを守ることを「右代宮次期当主」としての選択だというのです。

     Ep1で夏妃は、犯人と一騎打ちをすることでみんなを守ろうとしたとき、「右代宮家代表、右代宮夏妃です」と名乗っているのです。

     夏妃という人は、自分が片翼の紋章を持てないことに、忸怩たる思いをいだいていた人です。それでも、言動だけは片翼にふさわしい、右代宮家にふさわしいことをしようとつとめていた人です。

     朱志香はそれを知っています。
     だから彼女は、「これが片翼の鷲の選択だ!」といって、夏妃と同じ行動を取る

     それは、右代宮家当主である朱志香から、片翼を持たない夏妃に対して、「あなたの態度はまさに右代宮家にふさわしいものだ」という認定を与えたのに等しいのです。

     母さん、あなたは立派な人だ。右代宮の誇りを持った人だ。
     そういう、ベアトリーチェからの「遠い返信」として読むことができるのです。


    ●霧江を閉じこめて語らおう

     朱志香はEp3の中で、
    「霧江という人は、私にとって重要なことを教えてくれそうだ」
     という認識を持ちました。

     謎が多い人です。
     Ep3まで消化してきて、夏妃、楼座、絵羽のことは、かなり解明されました。母親たちが本気で、娘や息子をいつくしんでいることも、いやというほどわかりました。

     ただ、右代宮家の母親4人のうち、霧江のことだけが、よくわからない。
     縁寿を連れてきていないので、「霧江と縁寿の母子関係」の実体をたしかめることができません。
     戦人との関係も、いまいち微妙なところがあって、判然としない。


     それを確かめてみたい、と朱志香は思います。
     確かめるための方策をとります。

     その方策というのは簡単なことで、第1の晩では殺さずにおいて、しばらく泳がせておき、第8の晩(ラストの殺人)のときにどこか適当な部屋に追い込みます。
     それで足でも撃って動けなくしておき、小一時間も問い詰めたらよいわけです。

     Ep4では、霧江は殺人者から逃げて本館の客室にたてこもり、戦人に電話をかけてきました。あれは実際には、客室に犯人が同室していて、霧江は負傷させられ、逃走不可能な状態にあったと考えるわけです。

     さあ、自分の命を人質に取られた状態で、霧江は何を言い、何をするのか。


    ●留弗夫一家の家庭問題を知りたい

     朱志香には、霧江から手に入れたい知見がいくつかあります。

     まっさきに知りたいのは、「戦人家出事件の真相」です。戦人が家出しなかったら、そもそもこんな連続殺人事件は起きなかったっぽいのです。

     なんでまたそんな、6年間も家出するほど親子関係がこじれたのか。自分の運命を決定的に狂わせたきっかけですから、それは知りたい。

     これまで朱志香は、霧江を第1の晩でまとめて殺しちゃったり、銃撃戦のあげく殺しちゃったりしていたので、ゆっくり事情をきくひまがありませんでした。Ep4客室というのは情報収集の絶好のチャンスであって、これを見逃すとは思えません。というかそのチャンスを作るために、Ep4みたいな殺人の順番を設定しているわけです。(ここで想定しているストーリーでは)


     戦人が激怒して家出までした理由は、確かこうでした。
    「留弗夫が、明日夢の喪もあけないうちから霧江と籍を入れた」
     という、ちょっと常識では考えられない行動を留弗夫がとったからです。

     じっさい、なんちゅー非常識だ、と夏妃などはEp7で激怒しておりました。

     そもそもをいえば、「留弗夫が浮気をした」というところが発端なわけですが、単に「浮気」だけでは、戦人が6年間一瞬たりとも許さん、というほどは激怒しないように思います。
     それだけではなくて、
    「浮気をして、子供までできたあげく、前妻の喪に服さないで再婚する」
     という連続技が問題なわけです。
     明日夢という人への敬意がまったく感じられない行動をとった。いらない人だったかのように扱った。
     だから戦人が義憤にかられることになる。


     そこで問題になるのが、なんでまた留弗夫はそんな行動をとったのかってことです。
     それが大問題になるのをわからない留弗夫ではないでしょう。

     かりに留弗夫が、そういうことをわからないお馬鹿さんだったとしても、彼のそばには霧江がいるのです。あなたそれはデメリットが多いからおやめなさいと強く助言しそうなものです。

     とりあえず喪があけるまで1年くらい待ったらよいのです。縁寿はひとまず認知だけしておき、明日夢の両親にきっちり筋をとおし、戦人にもゆっくり説明して、喪があけて、さてそれでは、といって籍を入れたらたぶん何の問題もなかった。そうすることによるデメリットなんてなさそうですよ。

     が、留弗夫はそうしなかったし、賢者である霧江も、留弗夫に反対しなかった。
     何故だ。
     そこには、彼らしか知らない、何かの事情があるはずだ。それを教えろ、と朱志香は迫ります。


    ●須磨寺家が要求したこと

     そこで「須磨寺」というキーワードを登場させることにします。Ep4は、須磨寺の実体が露呈するエピソードなのです。

     霧江の実家、須磨寺家は、ヤクザそのものか、限りなくヤクザに近い家です。霧江が愛人になって子供まで作って、そのことに家が激怒したなんていう話がありました。本来なら霧江はスマキにされて海中投棄されるとこだったそうです(そう書いてあります)。

     よろしいですか、もし留弗夫が即座に籍を入れなかった場合、霧江は実際にそうなってた、というのが、ここでわたしが語るストーリーです。

     作中では、霧江が勘当だけで済んだのは右代宮グループから須磨寺への金銭的な優遇があったからだ、みたいな説明がされていますが、確かにそういうこともあったでしょう。
     が、金銭だけでは済まない部分もあります。
     ヤクザというのは面子を重んじますから、本家の総領娘がどっかの馬の骨の2号さんをやってるなんていう状況を、彼らは許すはずありません。そんな恥をかくくらいなら自分らで霧江を殺すわ、というのが彼らの価値観です。実際にそう書いてあります。

     しかもその家の次男坊の、正妻ならまだしも愛人とは…。
     本来なら、これほどの不名誉ならば、本家の娘とて容赦はされない。
     棒を立てて、右に倒れれば太平洋、左に倒れれば日本海に、簀巻きにされて放り込まれているところだ。
    (Episode4)

     よって、金のことは金のこととして、それとは別に、「霧江が愛人の立場である」という状況を解消してもらわなきゃ、須磨寺的には面子が立ちません。ですので須磨寺は、そういう条件を出しました。それがのめないならうちで霧江を殺すよ?

     これが、霧江の語った「即座に入籍しなければならなかった理由」だろうと想定することにします。
     愛人じゃダメ。いちおうの富豪である右代宮家の正妻ということなら、それなりの面子は立つ。

     これは喪が明けた1年後ではダメです。なぜなら、縁寿はもう生まれているからです。1年待つとすると、非嫡出子となる縁寿は、母の籍に入って須磨寺縁寿になります。それはとりもなおさず「霧江はシングルマザーになりました」という事実を戸籍が証明するということであるのです。
     だから絶対に即座の入籍でなくてはならない。縁寿は最初から右代宮縁寿でなければならない。そのためには縁寿の誕生と同時に入籍がなければなりません。

     そうでない場合、赤ちゃんを抱いてそのへんを散歩していた霧江は、ある日、黒塗りの車に乗った黒ずくめの男たちにさらわれて、やがて水死体として発見されることになります。
     これは、同じEp4で語られる「黒塗り車に乗った黒ずくめたちに拘束されそうになる縁寿」の展開と、響き合います。Ep4は、「母子が二代にわたって須磨寺から圧力を受ける話」という側面があります。縁寿が須磨寺から圧力を受ける描写をもとにして、霧江もそうだったかもしれないという方向に想像を進められるか、という部分があるわけです。

     もうひとつ大事なことは、霧江がスマキになって海に放り込まれたあと、須磨寺縁寿は須磨寺家の手に落ちることになります。
     須磨寺家の籍にいる縁寿が、須磨寺の祖父や祖母や叔母の手元に渡るわけですから、世間的には何の問題もないわけです。そして縁寿は、右代宮家に影響を及ぼすための何らかのカードとして使われます。
     いや、カードとして使われるぶんにはまだ良いです。
     須磨寺家で育つというのがどういうことなのか。それをEp4で須磨寺霞が怨念をこめて語り尽くすわけです。霧江だって、どうも須磨寺がいやでいやで、それでおん出てきた。留弗夫の子を妊娠したのも、あえて須磨寺から勘当されたいがためのカケなのじゃないかとも思えます。

     縁寿が須磨寺縁寿になることを、断じて避けねばならない。そのためには、喪に服すとかそういうことをとっぱらってでも、即座に入籍しなければならない。
     世間からそしられたり、息子が激怒して家出するかもしれないがそれもやむをえない。


    ●全部自分のせいにする留弗夫

     こんなややこしい、泥沼めいた事情を、12歳当時の戦人に説明するわけにはいきません。だから黙っています。すると、何も知らない戦人は明日夢がないがしろにされたと思って激怒して家出するわけです。

     じゃあ、17〜18歳になった戦人になら、説明したら理解できるだろうから、留弗夫は説明をするかというと、これはしません。
     なぜならそんなのは言い訳にしかならないからです。
     それに、今後、戦人と霧江とのあいだには好ましい関係性が生じてもらいたいのです。霧江の実家はひどい悪党でね、なんていうお話をしていいわけがない。

     だから留弗夫は、そうした種々を自分1人の腹にぐっと収めて、俺1人がすべて悪かったんだと言って、実の息子に土下座するんだ。それが男のけじめというもんです。


     そんな話を霧江の口から、朱志香は聞いちゃったわけです。そう考えます。

     そこにあるのは、自分のしでかしたことについて、すべて自分で背負い込んで、不器用なりに何とか責任を取ろうとする、1人の男の姿です。

     留弗夫叔父さん、立派な人じゃないか。
     女にだらしない、顔だけちょっといい、しょうもないオッサンだと思っていたけれども(実際、夏妃=朱志香の母は、留弗夫に対してそういう評価っぽいです)、そうじゃあなかったらしい。男らしくけじめつけてるじゃないか。

     そう、ここにもひとつ、「駄目な人だと思いこんでいたが、そうじゃなかった」が発見されました。またしても。

     そういう立派な父親に対して、事情をわかろうともせず、だだっ子のようにあたりちらして、あてこすりのように家出する戦人という人はいったい何なんだという話になる。

     そして、それは。
     その「いったい何なんだ」は朱志香には人ごとではありません。
     相手の気持ちや事情をわかろうともせず、幼児みたいな心根で、母さんのことを嫌ったりしていた朱志香自身……その姿と完全に一致するからです。

     ここに至って、
    「自分の気持ちばかり考えて、他人の美しい心をまったく見ていなかった朱志香の物語
     だったものは、
    「自分の気持ちばかり考えて、他人の美しい心をまったく見ていなかった朱志香と戦人の物語
     へと変質をとげるのです。

     だから、そうしたことを嫌というほど思い知った朱志香ベアトリーチェは、このEp4で退場し、まだ全然そういうことを思い知っていない戦人は、バトンタッチされて、物語の中にひきつづき取り残されます。


    (続く)

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