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No63784 の記事


■63784 / )  朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)
□投稿者/ Townmemory -(2011/06/29(Wed) 22:16:18)
http://blog.goo.ne.jp/grandmasterkey/
    「朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)」


    ●番号順に読まれることを想定しています。
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1 no62750
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2 no62997
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3 no63720
     朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上) no63754


         ☆


    『うみねこ』を、朱志香=ベアトリーチェの物語として創作ふうに読み解いていくというエントリです。順番にお読み下さい。

     Ep4の後編です。


    ●魔女の発想を持つ霧江

     霧江が密室の中で、朱志香に小一時間尋問されている話の続き。話題その2です。

     留弗夫一家に隠された事情はだいたいわかった。次に聞きたいのは霧江本人のことだ。あんたはいったいどういう人なの? 何を求め、何を守ろうとしている人なの?

     そういうことを聞かれたからって、霧江が素直に全部答えたとも思えませんが、わたしたちはEp8まで見たので、おおむね知っています。

     たとえばEp7の裏お茶会。霧江が大量殺人者になっていくエピソードがあります。霧江は「殺す前に長々としゃべるのは三流悪役」という持論を持っているのですが、絵羽の前で長々と喋って、絵羽に射殺されてしまいます。

     これはもう、ほとんどの人が同様に考えていると思いますが、留弗夫が死んだことを知った霧江は、だったらもう自分も生きててもしょうがないやと思って、わざと絵羽に自分を殺させたのです。そう考えると筋が通ります。

     霧江という人は、留弗夫さんがこの世にいないんだったら、自分もこの世にいたくない。そのくらい留弗夫を愛しているんだ、そういう気持ちを持っていることがわかります。
     そこまで思い詰めた愛のかたちを持っているのは、この物語の中には、たった2人しかいません。1人は霧江、もう1人はベアトリーチェです。

     六軒島事件の犯人は、全員を殺すことに意味を見いだしています。自分を含めた全員が死ねば、全員が相互に観測不能状態に陥るからです。自分がどこにいてどうなったのかわからないし、他の人がどうなったのかもわからない状態になります。なにしろ死んでますからね。
     それは「猫箱」ということに、ひとしいのです。どうなったのか、どうなっているのかわからない。その場合、逆説的に、可能性が増える。というのが、「シュレディンガーの猫箱」です。死んだ人は、観測できないことによって、生きてるかもしれないことになる。
     そのようにして、全員が死んだ結果、全員が生きているという可能性を現出させることができる、それが「黄金郷」であるらしいのです。
    (詳しくはこちらを参照のこと→ 「チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷」

     留弗夫さんがいないというのに、そのまま自分ひとり生きて、「留弗夫さんがいない」という現実を観測しつづけるなんて耐え難い。観測者である自分を消滅させることで、「留弗夫さんがいない」という観測現実じたいを消滅させてしまおう。
     そのようなアクションとしてこの自死を見たとき、この発想は「ベアトリーチェの黄金郷」に限りなく近しい。霧江という人は実はほとんど魔女なのです。


     Ep4は、しょっぱな第1の晩で留弗夫が死に、しかし霧江はラスト近くまで生き残るというシナリオです。つまり「留弗夫は死んで、霧江は生きてる」という状況が、Ep7お茶会と同一です。
     よってこのとき霧江は、Ep7お茶会と同様に、もう自分は死んでもいいや、と思っています。

     が、自分は死ぬとしても、ひとつ手当てしておかなければならないことがあります。


    ●須磨寺送りの阻止

     それは残される縁寿のことです。

     自分が死に、右代宮家もほぼ壊滅状態にある場合、本土に取り残されている縁寿がどうなるかといえば、これはほぼ間違いなく須磨寺家に引き取られます。
     縁寿を須磨寺にやらないために、あらゆる手をつくしてきたのに、そうなっては台無しだ。

     だからEp7などでは、絵羽に向かって、「自分がどんなに縁寿を憎んでいるのか」というストーリーを、迫真の演技で披露する。
     自分が死ぬ場合、右代宮家で生き残るのは絵羽だけです。よって、縁寿を須磨寺にやらないためには、絵羽が縁寿をひきとってくれなければならない。ところが譲治を殺したのは留弗夫・霧江コンビです。ふつうだったらそんな状況にはなりえません。
     けれども、絵羽という人は家族愛のかたまりです。「縁寿ちゃんはひどい霧江の被害者だったんだ、なんてかわいそうな」と思わせることができれば、絵羽が縁寿を引き取る可能性が出てきます。
     だめ押しで、絵羽が自分を射殺するようもっていきます。「縁寿ちゃんから母を奪ったのは自分のこの手だ」というひけめを与えるわけです。


     そんなわけで、霧江の行動式が、だいたい把握されます。
     留弗夫がいなかったら、自分は生きててもしょうがないが、縁寿が須磨寺送りになることだけはうまいこと避けたい。
     そういう、わりかし具体的なガイドラインを霧江は持っています。
    (どこまであけすけに朱志香に語ったかというのは、微妙ではありますが)


     さて、そこでEp4の客室の状況に戻ります。
     留弗夫はもうおらず、縁寿は本土に置いてきている。目の前には自分を殺そうとする殺人者がいる……。
     これはEp7お茶会の状況と、ほぼ同じ。
     よって、Ep4のここでも、同様の行動式で動く。そのように把握することにします。

     自分はここで死ぬとして、うまいこと他人に影響を及ぼし、縁寿が須磨寺に引き取られないように手配をしたいものだ……。

     そういう思惑を知ってか知らずか、朱志香は霧江にテスト問題を出します。


    ●ロジックエラーの二択

    「魔女が悪魔を召喚して、島の人々を殺してる」というストーリーを、戦人相手に完遂したい。
     そういう、ちょっとびっくりするような希望を朱志香はのべます。
     戦人が真に受けてくれるように、協力しろ。そんなことを霧江に言うわけです。

     でも、そういうファンタジーなことを、他人に真に受けさせるのはなかなか難しいことです。だいたい、人死にが出ているということだって、なかなか真に受けるものじゃありません。
     Ep3なんかじゃ、第1の晩で6人死んでるのに、生き残った連中は「どうせドッキリなんでしょ」なんていうナメた理解をしていました。家族の生々しい死体がごろごろ転がるようになって、ようやくみんな本気になるのです。

     戦人を本気にさせるには、いろいろ手続きが必要だ。

     たとえば、戦人から見て、知性において最大級に信用がおける人物。霧江のような人物が迫真の演技で深刻なことを言えば、戦人は真に受ける。


     そこで。
    「戦人に電話をかけろ。そして《魔女や悪魔が我々を殺しに来るぞ》というストーリーを語れ」
     朱志香はそういう命令をします。
     ちゃんと伏線として、同じ内容の電話を朱志香は戦人にしておいてあります。同じ証言が複数重なることになって、信憑性が出る。

     そして、次のような付帯条件をつけます。
    (はっきり条件提示をしたというより、自然にこういうことになります)

     1.命令に従わず、「朱志香から逃げろ」という電話をした場合、霧江を殺す。
     2.命令通りのストーリーで電話をした場合、それによって油断させ、戦人を殺す。

     これは実は子供たちに出題した三択クイズと同じものです。自分・大切な相手・それ以外の全員、のどれかを生贄に捧げよ、ということです。ただ、それ以外の全員はもう死んでしまっている状況ですので、第3の選択肢は無効になっちゃってます。

     この二択は、実際には意味のないものです。それは朱志香にもわかっているし、霧江にもわかっています。
     1の「朱志香から逃げろ」という電話をした場合、朱志香はもちろん霧江を殺し、戦人は朱志香と対決しにくるので、朱志香は戦人を殺します。
     2の選択肢「戦人を殺す」を選ぶような人でなしを、朱志香は許さないので、朱志香は霧江を殺します。そして戦人のところに行って、おそらく朱志香は戦人を殺すことになります。

     どっちみち、バッドエンドしかない選択問題です。いってみれば、窓からも出られないしドアからも出られない「ロジックエラーの密室」のようなものなんです。

     朱志香的には、霧江がどっちを選んでも、べつにさしつかえありません。霧江が「殺人犯は朱志香よ!」と指名しても、大きな問題にはならないのです。
     実際のEp4では、魔女ベアトリーチェの姿で戦人の前に現われて、問題を出したり罪を問い詰めたりしたわけですが、それが朱志香の姿で行なわれるだけです。
     朱志香の姿で同じことをやって、爆弾を爆発させるだけです。戦人が何かを思いだしてくれたからって、べつに彼と2人で島を出て逃避行する気もないですし。

     このような、「ロジックエラーの選択肢」を出すのは、もちろん、
    「この設問にどう答えるかにおいて、霧江自身の価値観を露呈せよ」
     という意味です。

     どっちかを選ぶのなら、それで霧江という人物を見切ることができる。
     朱志香が想定しなかった、あっと驚くような別解を出してくるのなら、それはそれで朱志香の糧になる。
     行くも地獄、帰るも地獄。そういう状況で、霧江は何を最適解とするのか?
     そいつは是非とも見てみたい。


    ●霧江が出した「正解」

     そんな問題を出された霧江です。
     前述のとおり、自分は死んでもいいし、むしろ死にたいくらいのことを思っています。
     が、縁寿が須磨寺送りにならないような方策だけは、何とかとらねばならない。霧江の勝利条件は、自分が生き残ることではなく、縁寿が須磨寺送りにならないように持っていくことです。

     Ep7の場合は、目の前の絵羽を誘導すればよかったし、それは比較的簡単でした。しかし朱志香でそれは難しい。なぜなら、もう見るからに朱志香本人も死ぬ気満々だからです。かりに生き延びても逮捕・服役が待っていて、用をなしません。

     ですから戦人に生き延びてもらうしかありません。戦人が生きていれば、縁寿を保護してくれるでしょう。右代宮グループが戦人の後ろ盾になり、戦人が縁寿の後ろ盾になる。この構図が発生することにカケるしかありません。

     が、単純に朱志香が望むようなファンタジーストーリーを語ったところで、戦人が死ぬのは目に見えています。ただ選択肢1をバカみたいに選んではダメなわけです。

     霧江は電話をかけます。

     霧江は、悪魔が現われてみんなを次々に殺害していったんだ、悪魔や魔女というものは実在するのよ……というストーリーを語り出します。
     朱志香は、あぁ、そっちね……と思い、かるく失望します。
     ところが、その後、霧江はびっくりするようなことを付け加えます。

    「………もし。あなたの前に悪魔やら魔女が現れても。」
    「あぁ…。」
    「その正体を、疑う必要は何もないわ。……そういうものだと、理解して。」
    (略)
     だから、……あなただけは信じ、理解して、………私たちに受け止め切れなかった存在を、……受け止めてほしいの。
    (Episode4)

     このことについては、「右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル」を先に読んだほうが、理解がしやすいかもしれません。

     魔女が現われたら、危険だから注意しろ、というのが当然のところです。大勢を殺した存在なんですからね。ですが霧江はすさまじいことを言って、傍聴していた朱志香をぎょっとさせます。

     魔女のことを、そういうものだと理解しなさい。
     魔女のことを信じて理解して、受けとめてあげなさい。


     朱志香は、
    「私のことを理解してくれ、私のことを認めてくれ、私の本当を知ってくれ」
    「私のことばを聞いてくれよ」

     という強い願いを持っていて、そのせいでこの事件を始めています。
     魔女がどうとかいうことも、「私は本当はこういう存在でありたいんだ」という、理解を求めるメッセージです。

     そしてその願いは、おもに戦人に向けられています。
     私という人間が、こうしてここにいたんだよ。戦人のことを待っていたんだよ。それを知ってほしい。私のことを思いだしてほしい。私のことを認めてほしい。
     そういう内心を持っている。

     霧江はそれを見抜いた。

     戦人がぶじに島を出る可能性があるとすれば、それは、戦人が朱志香をただしく理解し、受けとめ、それによって朱志香の心が満ちたりたときだ。

     だから、
    「戦人くん、これからあなたの前に、魔女と称する人物が現われる。その人物のことを理解して受けとめてあげなさい」
     そういうスゴイことを、霧江は言う。

     それはまさに、正解にして最適解だったのです。霧江がぎりぎりで伝えたことばを正しく理解することができれば、戦人はたぶん生還してた……。


    ●「右代宮戦人の罪」を身にしみて理解する者

     さて。けっこうショックなことをいろいろ霧江からきいてしまった朱志香は、霧江をかたづけたあと、自室に戻って魔女の衣装を着て、戦人を呼びだし、嵐のバルコニーに出現するわけです。

     とりあえず戦人に三択クイズを出します。大切な人の名前は空欄にしてあります。
     その空欄に彼が何を入れるか。それがひとつのポイントです。何かをちゃんと覚えているのかどうか。紗音の名前を入れるかどうか。あるいはひょっとして朱志香の名前を入れたりするかどうか。

     戦人くんときた日には、さっき霧江から「理解して受けとめてあげなさい」と示唆されていたのに、
    「愛してるぜベアトリーチェ、そして俺はせっかくだから二番の選択肢を選ぶぜ」
     とかいう、クリティカルにひどいことを言います。
     ベアトリーチェが一番求めてやまない言葉を使ってベアトリーチェを攻撃しているのですからこれはもう最悪です。

     これはどうも反応が悪いな、と思った朱志香は、「どうして6年間も右代宮家から離れたのだ、それをとがめに感じないのか」と、わりと直接的に問いただします。

     戦人は、「そりゃ子供っぽかったかもしれないが、オヤジだって悪いんだからおあいこで相殺ってことでいいだろ、こっちもいろいろ悩んだんだからごちゃごちゃいうなよ」くらいの答えでした。

     朱志香は「もっと他に懺悔すべきことがあるだろう。おまえには罪がある。それを思いだせ」と強要します。具体的には、紗音との約束を思いだすかどうか。あるいは奇跡的に、その陰にいた朱志香のことをおもんばかって悔恨するかどうか。

     戦人は、「わけがわからない」という反応です。そなたの罪でこの島の全員が死ぬ、と言われて逆上したりします。

     無理もない、といえば、無理もない話ですが、戦人くんは「理解し、受けとめる」ということが、ほとんどできませんでした。まあ公平に見て、朱志香が言ってるのは一種の無茶ぶりではありますからね。


     しかし。
     朱志香はここで、単に言葉通りの意味で、「なにがしの約束を思いださない戦人、それを思いだせ」ということを言っているのではないわけです。

     問題は、
    「思いだせるか、思いだせないか」
     ではない。
    「人の気持ちがわかるか、わからないか」
     です。

     紗音との約束を、忘れっちゃって、さっぱり思い出せないという、表層的な現象が問題なのではありません。
     そういうことをしたら紗音がどんな思いを抱くか、ということをまったく考えた形跡がない。それをとがめているのです。
     紗音がどんな気持ちで待っていたかなんて想像しようともしないし、そのまた陰で朱志香がどんな気持ちでそれを見ていたかなんて考えもしない。

     戦人は留弗夫のことを、「明日夢にひどいしうちをした、悪党」だと思っています。ことここに至ってもその認識が変わっていない。
     どうして親父はそんなことをしたんだろう、そこには何か特別な理由が?
     といったことを想像していこうという態度が、さっぱりない。

     だいたい、
    「浮気をして、子供までできたあげく、前妻の喪にも服さないで再婚する」
     という留弗夫の行動を、「明日夢母さんをないがしろにしたな!」として怒ってるわけですが、「紗音と約束しといてそれをコロッと忘れ、6年間まったく放置する」というのは紗音をないがしろにしてるにもほどがあります。留弗夫はとがめに感じていますが戦人はそうじゃないのです。自分の都合しか考えてない、他人を責めるばかりで、自分がやってることに自覚がない。明らかに戦人のほうがろくでなしです。

     それを考えろ、気付け!
     朱志香ベアトリーチェは、そう言っているのです。

     朱志香には、それは人ごとではありません。
     その戦人の考え無しの態度は、
    「夏妃が、どんな気持ちで自分を見守ってくれていたか考えもしなかった朱志香」
     という立場と、完全にひびきあっています。

     朱志香ベアトリーチェが、戦人の罪を告発するとき、それは朱志香自身の罪をも告発しているのです。

     これまで見てきたとおり、Ep1〜4を通して朱志香は、
    「ろくでもない生きる価値のない人間だと思っていた人が、全然そうではなくて、すぐれた心の持ち主だった。自分の目がくさっていただけだった」
     という体験を、いやというほど繰り返しました。
     自分の気持ちしか頭にない、人の気持ちを考えもしない自分だったから、大切なことがまったく見えていなかったのです。

     そして今ここに、自分の気持ちしか頭にない、人の気持ちを考えもしない少年がいます。
     それがどれだけ罪深いことか。
     その罪深さを最も身にしみて理解しているのが、朱志香ベアトリーチェです。


     この物語は、自分の気持ちばかりとりあっていて、人の気持ちがわからない2人の少年少女が、それぞれに何か大事なことをつかみとろうとしてもがく物語です。


    「おまえは誰で、どうしてこんなことをしたんだ?」
     そういう疑問を抱き、積極的に身を投げ出して想像していくこと。
     それが霧江のいう、「理解し、受けとめる」です。戦人はそれに失敗してしまいます。失敗してしまいましたから、ベアトの物語は終わっても、戦人の物語はまだまだ続きます。


    ●朱志香から戦人へ。戦人から縁寿へ

     以上が、朱志香=ベアトリーチェの物語です。

     ひどい人たちが集まる右代宮家、六軒島。
     ここを「死」という永遠の扉で閉ざし、観測不能の時空のはざまに、幻想の黄金郷を築こうというのが、彼女の思惑でした。
     すべての人が美しい心を持ち、みんなが慈しみあう理想郷。黄金郷。そういうまぼろしの世界を量子力学のトリックのはざまに築き上げようと思っていました。

     けれども。

     黄金郷は最初からここにあったのです。それが自分に見えていないだけだったのです。

     それが分かった結果。殺人者である自分は、黄金郷の創造者などではなく、黄金郷の破壊者でした。
     黄金郷を、自分の手で損なうということを、4度、繰り返しました。

     もういい。
     もう充分です。自分の罪が充分にわかりました。

     このうえどれだけ繰り返しても、戦人への愛は成就せず、美しいものを自分の手で壊すことのくりかえしです。

     もうこれ以上、自分の手で黄金郷を壊したくありません。ですから彼女は、ゲームを放置し、永遠に停止しようとします。
     それができなかったので、彼女は、思考ずることをやめ、動作することをやめ、人形のようになることでこの拷問からドロップアウトします。


     そしてゲームには、まだ自分の罪が――人の気持ちがわからないという罪がはっきりと自覚されてはいない、右代宮戦人が取り残されます。彼は、ベアトのいないゲーム盤の中で、それを知っていくことになります。

     右代宮戦人がそれを思い知ったあと――

     12年後の世界に、右代宮家を憎み、六軒島を憎み、そこが実は光輝く黄金郷であることに気付きもしない右代宮縁寿が取り残されています。
     自分が霧江と絵羽にどんなに慈しまれ守られていたかなんて知りもしないで、六軒島の人々がどんなにいい人たちだったか知りもしないで、絵羽を憎み、右代宮家を心のない金持ちだと思っています。

     そうじゃないんだ。
     そうじゃないことを、俺もベアトリーチェも、この島で知ったんだよ。

     戦人はとくべつに、縁寿を六軒島に呼び、そのことを教えてあげるのでした。


    ●まぼろしよ美しくあれ

     これが、わたしの目には見ることができた、まぼろしの世界です。

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