| 「Ep6紗音による救出は『ベアトを殺す一手』ではない」
というタイトルです。ベアトの心臓の話です。
長いタイトルですが、表題のとおりの内容をこれから書きます。ささいな内容ではありますが、なんとなく意識の端にひっかかってたので、ちょっとだけ詳しく書いてみます。
●状況説明
Ep6で戦人が、「ロジックエラーの密室」閉じこめられました。窓から出ちゃダメ。ドアから出るときは、チェーンがかかった状態で外に出なきゃいけない。でも外からはチェーンはかけられない。 さあ、ここから出てみろ。戦人はそう言われて、困り果ててしまいました。
戦人が思いついた手は、「誰か別の人に、部屋に入ってもらう」というものでした。 チェーンロック開ける。 戦人が部屋の外に出る。 誰かが部屋に入る。 その誰かがチェーンロックをかける。
これで、戦人は部屋の外にいて、ドアのチェーンはかかっています。脱出できました! いや、脱出できたと思いました。
ところが。
六軒島にいる人が、誰ひとり、戦人の部屋に駆けつけられないという状況ができてしまいました。 いとこ部屋と隣部屋に、ほとんどの人々は閉じこもっています。 この2部屋は、窓とドアに封印がなされたため、開けることができません。よって、ここから人が出てきて戦人のかわりにチェーンを掛けることができません。 2部屋以外の場所に、5人の人物がいます。戦人は、この5人の誰かに助けに来てもらおうとしました。 ところが、この5名様は、ヱリカに殺されてしまいました。 死んだ人間は、戦人を救出しに来ることはできません。
それ以外に、味方はいません。
誰かが代わりに部屋に入ってくれないと、戦人は外に出られません。 なのに、誰も部屋に来ることができないのです。11人が「閉じこめ」られていることと、残りの5人が「死んで」いることによって。
●変更された条件
さて、これがロジックエラーの密室でした。 誰かが助けに来てくれないといけないのに、誰も助けに来られない。
このコンフリクトに風穴を開けたのが、ガァプでした。 彼女はこんなことを指摘したのです。
「いとこ部屋と隣部屋は封印がなされているが、封印を破れば出てこられるのである」 「そして、封印は健在であることが確認されたのは扉だけ。隣部屋の窓の封印が健在かどうかは確認されていない」 「だから隣部屋の窓から誰かが出て、戦人の代わりにチェーンを掛けにいくことができる」 (ちょっとはしょりました)
隣部屋には、秀吉、譲治、紗音、熊沢、南條の5名がいますから、このうち誰かが窓から飛び出して戦人のところに駆けつければ良いわけです。 これで戦人は密室から脱出できる……
と思ったら、ドラノールたちはこんな反則技を使ってきました。
「謹啓、謹んで申し上げる。ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じるものと知り給え。」 隣部屋の窓は開いてた可能性がある。でも、そこから人が出たという推理を使っちゃダメ。 ひどい話です。
●紗音と隣部屋を使った解法
この密室を、ベアトリーチェが解きました。 ベアトリーチェは問題を解いたうえで、ヱリカに逆質問をかけます。
「いとこ部屋にいる嘉音が戦人を救出したのだ。いとこ部屋から嘉音を脱出させる方法を答えてみよ」
いとこ部屋というのは、窓もドアも封印が健在なので、そこから外に出られないという設定です。 ヱリカはこの問題に解答することができません。ヱリカは魔女に敗北するわけです。
さて。 おおかたの読者が想定している、この謎への解答は、こうでしょう。
「嘉音はじつは存在せず、彼は実体としては紗音である」 「つまり紗音は嘉音本人である」 「紗音は隣部屋にいるので、窓から脱出することができる」 (隣部屋の窓を使ってはならないという条件は、のちにドラノールが撤回しました) 「紗音は戦人と入れ替わりに客室に入り、チェーンを掛けることができる」 「紗音のこの行動を『嘉音が行なった』と表現することは可能である」
こまかい異同はあるでしょうが、だいたいこんな感じの答えが模範解答として流通しているはずです。 紗音と嘉音は、2人組のように描かれているけれども、じっさいには体はひとつしかありませんよ、という、一種の「疑惑への解答」になってるんだろう、そういう解釈の仕方ですね。
これできれいに解けるわけですから、これで良いわけです。 (わたしは別の解を持っていますが、それはちょっと脇に置いておきます。ご興味があれば、こちらへ。「ep6初期推理3・密室解法/戦人は単騎で脱出できる」「ep6初期推理4・戦人脱出その2/金文字/一なるトリック」)
これで良いわけなのですが、細かいところで、ひとつだけ、注意を喚起したいことがあります。それが、
「この答えは、『ベアトを殺す一手』ではない」
ということなのです。
●隣部屋の窓は使えない。にもかかわらず
「ベアトを殺す一手」って何なのかというのを、先に説明しておきます。フェザリーヌが存在をほのめかした「この密室を解く究極の方法」みたいなものです。「ベアトの心臓」という言い方で覚えている人も多いかもしれません。 この手を使えば、密室は解ける。でも、それは同時にベアトの心臓をさらすことになるので、物語は終わっちゃうだろう。そんな世界の終わりじみた密室解法があるんだ、ということをフェザリーヌは言うのです。
時間を少し巻き戻して……。
「隣部屋の窓が開いてるじゃないの」というガァプの攻撃に対して、 「ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じる」 と天界チームが言い出したところに話を戻します。
隣部屋の窓は開けることができる。でも、そこから人が出たという推理をしてはいけない。 そういうことになっちまいました。
別の時空でそれを傍聴していた縁寿はフンガイします。「卑怯じゃないの!」とかいって、例のあの顔でかんしゃくを起こします。 そして彼女はフェザリーヌにやつあたりします。「アンタ、どうせ答えがわかってて、余裕の顔してるんでしょ?」と。
ところが、フェザリーヌは意外な返事をします。
「………すまぬな、人の子よ。……私も、これには困った。」 (略) 「私も、隣部屋の窓がまだ開いていることは気付いていた…。……しかしながら、それを反論に使えぬと封じられるとは、想像もしなかった…。」 (略) 「……ふむ。……だから私も困ってしまった。……このおかしな封印宣言のせいで、2つの部屋は再び密室に戻ったも同然になってしまった。……恐らくだが、」 (略) 「……………答えは、ない。」 (略) 「隣部屋の窓以外に、出口はない。……にもかかわらず、隣部屋の窓を推理に組み込むことが許されぬ。…………この密室を解く答えは、恐らく、ない。」 なんと、フェザリーヌは、 「隣部屋の窓が使えないのなら、私にもこの密室は解けません」 そんなことを言い出すのです。
この密室は、フェザリーヌにも解けない。 だから、おそらく答えはない。 答えがないのに、プレイヤーは答えないといけないのだから、プレイヤーの負けである。
フェザリーヌはそんな判断をくだしちゃいました。
が。 そこでハタと、彼女は1つだけ手を思いつきます。
「……………………。……いや、一手、あるにはある。……しかしその手は、………二度と使えぬ手だ。……そしてそれは、…ベアトの心臓の一部でもある。」 (略) ………そうか。 ……この長き物語も、……いよいよ幕を下ろす時が来たのか…。 その謎を明かすことは、……いよいよ、………ベアトを殺す、ということだ。 フェザリーヌが思いついた「その一手」は、ベアトの心臓をさらすものであり、それを使ったら最後、物語に幕が下りてしまう。 そういう最後の必殺技だ、と彼女は述べます。
もう、いいたいことはおわかりだと思います。
話の流れをまとめると、こうなります。
「隣部屋の窓が使えないのなら、この密室は解けない」 「あ、ちょっと待てよ」 「隣部屋の窓を使わなくても、密室を解く方法を、ひとつ思いついた」 「でもそれは『ベアトの心臓』そのものであって、ベアトを殺すもの、物語に幕を下ろすものであるのだぞ……」
さらにまとめると、こうなります。
「隣部屋の窓を使わずに密室を解くための、唯一の方法は、ベアトの心臓をさらすことであり、物語に幕を下ろすものである」
順ぐりに会話を追っていくと、そういう意味になりますね。
ということは。 「隣部屋の窓から、紗音が飛びだして、戦人を救出に向かった」 という推理は、「ベアトの心臓」ではありません。
なぜなら、隣部屋の窓が使われているからです。「隣部屋の窓を使わずに密室を解く方法なんてない……あ、一個あったけど、それはベアトの心臓だもん」というのが、この話の流れだからです。隣部屋の窓を使った解法は、ベアトを殺す一手では、ありえません。
だいたい、「紗音と嘉音は2人いるように見えるけど、実際には1人の人間でした」というのは、ベアトの謎において、かなりの大ゴマではありますが、心臓というほどではなさそうですよ。 だって、それだけでは解けない謎がいっぱいあります。そのことひとつわかったからって、「物語が終わり」というほどではないでしょう。
というわけで、「ロジックエラーの密室」の解法は、紗音が助けに来るというアイデア以外に、フェザリーヌが思いついたもう一つがあります。 それは、ベアトの心臓に直結していて、それが明かされたらベアトは死んで物語は終わりだ、というくらいのものです。
それは何でしょう。
この「それは何でしょう」こそが、今回このエントリで得ることのできる最大の発見です。 なぜなら、「ベアトの心臓とは、紗音と嘉音が実際には1人だったってことだ」と思っている人には、「フェザリーヌの思いついたベアトの心臓って何だろう」という問題設定は発生しないからです。
●ちなみに
以上が今回の本論です。以下は、よだんです。
ここから先はよだんですから、「最後に書いてあるからここはきっと大事なことなんだ」と思ってはいけません。思わないで下さい。 (以前書いたことあるのと同じことをくりかえして書くだけですからね)
わたしは前述のとおり、紗音や隣部屋の窓を使わないで解ける、別の密室解法を、大きく分けて2つほど、持っています。
ひとつは、「戦人が1人で脱出する方法」。 もうひとつは、「謎そのものを存在できなくさせる方法」です。
前者はたぶん、「雛ベアトリーチェが思いついた脱出法」と同一だろう、とわたしは思っています。 だって、雛ベアトが密室の解き方を思いついたとき、「隣部屋の窓を使ってはならない」という条件は、まだキャンセルされていませんでした。ですから、雛ベアトが思いついた解き方は、隣部屋の窓を使わないものでなければならない(と思う)のです。
そして、後者のほう、「謎そのものを存在できなくさせる方法」のほうが、「ベアトの心臓」です。 わたしが思うに、たぶん。
「戦人が1人で脱出する方法」については、先に挙げたふたつのリンク、 「ep6初期推理3・密室解法/戦人は単騎で脱出できる」 「ep6初期推理4・戦人脱出その2/金文字/一なるトリック」 ここに書いてあります。
ベアトの心臓のほう……「謎そのものを存在できなくさせる方法」のほうですが、これは一言で説明できるので、ここで説明します。簡単です。いつもわたしが言ってるやつです。
「赤い字は、真実じゃないことを言ってるときがある」
これを青い字なんかでポロッと言えば、それだけで「窓から出られない」とか「チェーンが外れた状態でドアから出てはいけない」とかいう、赤い字で言われた条件が消えてなくなります。つまり、密室の謎そのものがなくなります。密室そのものがなくなるのですから、戦人は外に出られます。
この作品……『うみねこ』の殺人関連の謎は、すべて「赤い字による条件設定」で成り立っているのですから、赤い字が虚構を語っているのなら、すべての殺人に謎はなくなります。 そんなことになったら、もう謎なんて作れませんから、この物語は幕を閉じます。 そんなことになったら、ベアトは魔女ではいられませんから、ベアトは滅びます。
ベアトが魔女でいられるのは、赤い字があるからですから、赤い字はベアトの心臓です。
Ep8のラストで、縁寿が赤い字を真実とは認めないことによって、赤字で死が宣告された人々が平然と生きていられる、という展開が出ました。「赤い字は、真実じゃないことを言ってるときがある」。
その認識が提示された直後に、ベアトは死にました。 そして、物語は幕を閉じました。
すべては、フェザリーヌの言った通りになったわけです。
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