資金管理団体「陸山会」を巡る政治資金規正法違反(虚偽記載)で強制起訴された民主党元代表、小沢一郎被告(69)の東京地裁(大善文男裁判長)での14日の第2回公判で、元事務担当者の衆院議員、石川知裕被告(38)=1審・禁錮2年、執行猶予3年、控訴=が保釈後の聴取を「隠し録音」した内容の一部が再生された。石川議員が供述調書の修正を求めたのに検事が拒む一方、2人で笑い声を上げる場面もあるなど、「密室」での生々しいやりとりが再現された。【和田武士、野口由紀、鈴木一生】
再生されたのは、東京第5検察審査会が小沢元代表を起訴相当とする1回目の議決を出した直後の昨年5月、石川議員が受けた東京地検特捜部の任意聴取の様子をICレコーダーでひそかに録音した内容を収めたDVDの一部。検察官役の指定弁護士が申請し、5時間超の録音のうち計約20分が再生された。
再生によると、政治資金収支報告書の虚偽記載について石川議員が元代表に「報告し了承を得た」と認めた捜査段階の供述調書を検事が読み上げたのに対し、石川議員は報告時期の訂正を要求。検事は「(どちらでも)変わらねえからさ」と拒み、石川議員は「じくじたる思いですが、仕方ない」と応じた。
調書の一部について石川議員は「じっくり小沢さんが(報告を)聞いているような印象を受ける」と指摘。「椅子に座って『ああ、分かった、分かった』。これが実際ですから。それは(調書に)入れてほしい」などと要望、検事と一緒に笑い声を上げる場面もあった。
聴取の冒頭、検事に録音機の所持を尋ねられた石川議員は「大丈夫です」と否定。「無罪になるわけないのは百も承知です」と漏らす一方、中堅ゼネコン「水谷建設」からの5000万円の裏献金を巡っては机をたたいて反論していた。
録音再生の間、小沢元代表は首をかしげたり、顔をしかめたりすることが目立った。
法廷では再生されなかったが、録音には石川議員が「特捜部は恐ろしい組織だって諭してくれましたよね」と語り、検事が「うんうん」と応じたやり取りなどもある。「供述を変えると元代表が強制起訴される」と、検事が供述の維持を迫る場面もあり、石川議員らの公判で多くの供述調書が却下される根拠となった。録音再生で音声自体を聞いてもらうことで、指定弁護士は不当な取り調べはなかったと強調する狙いがあるとみられる。
◇体調問われ、小沢元代表「大丈夫です」
初公判が開かれた6日夜に緊急入院(10日に退院)し、左尿管結石と診断された小沢元代表はこの日の法廷で少し疲れた表情ものぞかせたが、冒頭、裁判長から「体調はいかがですか」と尋ねられると、「大丈夫です」。休憩を挟みつつ審理を進めることや法廷で水分補給して構わないことを伝えられると、笑顔で「ありがとうございます」と答えた。【和田武士】
「有利、不利ではなく、(検察官役という)公益の代表者として再生すべきだと考えた」。閉廷後、取材に応じた指定弁護士の大室俊三弁護士は異例の録音再生の意義を強調した。リクルート事件など多くの刑事弁護を担当した大室弁護士は、検察の証拠請求に対し「重要証拠が出て来ないことがある」との問題意識を従来抱いていたといい、恣意(しい)的にならないように再生部分を選んだという。
どの部分を再生するかは小沢元代表側の希望も反映された。主任弁護人の弘中惇一郎弁護士は、石川議員が談笑を交えて聴取に応じていた様子が再生されたことについて「密室で検事と怒鳴り合いをするわけにはいかず、疑似友好的な雰囲気を作っている」と指摘。「威迫と利益誘導が(背景に)あった」と述べた。【野口由紀】
録音の再生に対し、ある検察幹部は「強制的な取り調べはなかったと言えるのでは」と話した。別の幹部は「強制的な調べではなく任意性はある。和やかな雑談のような調べで、その意味では不適切」と評価。さらに別の幹部も「一般的な取り調べの範囲を超えていない」と、問題がないことを強調した。
検察OBの一人は「無理な調べがあれば、あんなに和気あいあいとした雰囲気にならない。勾留中の調べも任意性があると言えるのではないか」と分析した。【島田信幸、山田奈緒】
◆法廷で録音が再生された石川被告と検事の主なやりとり◆
《小沢元代表に報告し了承を得た時期を巡り》
石川被告 いまさら言ってもしょうがないけど、あの時は大久保さん(隆規被告)の供述に合わせたんですよ。実際は(04年の)12月なんですよ。(05年の)3月なんかにやらないですよ
検事 12月だろうが3月だろうが変わらねえからさ。また変わると、何でじゃあ変わったのってなっちゃうからさ
被告 分かりました。じくじたる思いですが、まあ仕方ないです
《元代表への報告・了承を認めた捜査段階の供述の維持を巡り》
検事 <石川被告の調書を読み上げ>私が小沢先生に報告や相談をしてその了承を得ましたが、小沢先生の方から積極的な指示があったということはありません
被告 報告の部分なんですよね。極めて短い時間だから。すごいじっくり小沢さんが聞いているような印象を受けると思うんですよね。報告や了承をしてませんでしたなんて言わないんで、ここを変えるってできないですかね。実際は小沢さん、椅子に座って「ああ、分かった、分かった」。これが実際ですから。それはやっぱり(調書に)入れてほしいってのはありますよね
検事 <再び読み上げ>陸山会の他4団体の報告書の内容を報告するにあたり、短時間ではありますが……
被告 「3分くらい」とか時間を(調書に)入れてもらうとありがたい。
検事 それは根拠がないでしょ
被告 はい
<2人の笑い声>
毎日新聞 2011年10月14日 21時23分(最終更新 10月15日 1時37分)