| |||
(16時間8分前に更新) |
共に国境に位置する離島である長崎県対馬市と与那国町には類似点が多い。
対馬は韓国、与那国は台湾との交流を礎に自立を模索している。が、いずれも人口流出に歯止めがかからない。そこへ新たな共通点が加わろうとしている。自衛隊配備だ。
対馬には、陸海空合わせて約700人の自衛隊員が駐留する。ここ数年は、市議会などが増強要請を繰り返している。背景には「国防ナショナリズム」の高まりと地域経済の疲弊があるようだ。
対馬では2005年以降、竹島(韓国名・独島)問題が飛び火するかたちで、韓国の退役軍人らが「対馬も韓国領だ」と唱えて座り込みを行ったり、日本の国家主義的な超党派議員団が来島したり、一般市民も領土問題に意識が働く出来事が相次いだ。
そうした中、市議会に対して直接、自衛隊増強の働き掛けを行ったのは対馬防衛協会である。与那国でも、中国の海洋進出や尖閣諸島の領有権問題が浮上する中、与那国防衛協会が署名運動を展開し、町議会や町長に誘致を働き掛けた経緯がある。
しかし、市民にとってより切実な問題は、雇用や福祉への対応だ。対馬市の財部能成市長は増強要請の背景に「地域振興の面がある」と認めている。与那国町の外間守吉町長も「地域活性化のための自衛隊誘致」を明言している。
だが、最初の自衛隊配備から半世紀を経た対馬市で、人口が半減している事実からも明らかなように、自衛隊に町おこしの役割を期待するのは無理がある。
防衛省は、与那国島民を二分しても自衛隊配備を強行する構えだ。その狙いの先には何があるのか。
与那国への自衛隊配備は、時間を置かず沖縄全体に波及する要素をはらんでいる。それは沖縄の歴史的なターニングポイントになるだろう。
自衛隊は与那国にとどまらず、南西諸島全域への展開を模索している。他地域を見れば、与那国も短期間に「自衛隊の島」に染まる可能性が高い。与那国を足掛かりに先島は自衛隊、沖縄本島は米軍という勢力分布、役割分担が構築されるかもしれない。同時に日米の軍事一体化も進む。そうなれば、沖縄全域が軍事の島の様相を帯びるだろう。
与那国町には、住民参加で練り上げた「自立ビジョン」がある。外間町長はそれを「聖書」になぞらえる。だが、柱となる「国境交流」は、国防ナショナリズムが下支えする自衛隊誘致とは相反する。
釜山との定期航路開設で対馬の韓国人観光客はうなぎ上りだ。対馬は自衛隊を配備しながら韓国との交流を軌道に乗せた、との評価もできる。が、韓国と台湾では事情が異なる。台湾の場合、中国との複雑な関係も見据える必要がある。現に台湾からは「(自衛隊配備で)投資がしにくくなる」との声もあるという。
対馬と与那国で異なるのは島のアイデンティティーだ。対馬には古来、「防人の島」としての自負がある。沖縄が希求してきたのは国境の砦(とりで)を固めることではなく、自由に往来できる経済圏の確立だ。