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二章:反撃
第一話:一年後


 あれから、プレイヤーたちはいくつかのグループにまとまった。グループといっても完全に統一した組織のようなものもあれば、大まかな理由で組織だった行動をとらないグループもある。
 一つは《攻略組》。積極的に世界に散らばる未知領域アンノウンブラックを踏破して、世界の地図の暗い部分を埋めて行き、最後にあのラスボスを倒すのを第一目標としている者たち。
 そこの一番の実力四人組クアドロ・クリアランスと呼ばれるクラン。たった四人ながら破竹の勢いで各地の未知領域アンノウンブラックを攻略しているらしい。
 二つ目は《小安組》。あまりフィールドに繰り出さずに、街で前線に赴くプレイヤーのサポートを第一に考えるグループだ。街の中にいるからといって安心はできない。時々、モンスターが群れをなして街を襲いに来るからだ。
 彼らも戦えないというわけではないが、やはり前線を駆け巡る《攻略組》とは見劣りする。
 そこで出てくるのが三つ目。《防衛組》。《小安組》よりもフィールドには出るが、《攻略組》とは大きな違いがある。それは、その拠点周辺のモンスターの駆除というわけだ。あまり街から離れず、拠点の防衛にその力を注ぎこむ。
 この三つのグループは互いに利害関係が一致している。
 現実世界に帰りたい、という利害関係が。
 しかし、このほかに《無法組》と呼ばれるグループが出来上がっていた。
 PKプレイヤーキラーとまではいかなくとも、強引に路地裏にプレイヤーを連れ込み、所持品などを強奪したり、未知領域攻略の邪魔をしたりするグループ。《無法組》の思考は分からないが、それは他のプレイヤーたちとは違う思想を持っている。
 だって、それは現実世界への帰還を邪魔するものでしかないのだから。

 そして、ある少年は、今日もまた一人でフィールドへと赴く。
 いまだ、彼はある少女と再会を果たせずにいた。

 残りプレイヤーは、三千五百人。
 たったの一年で、五〇〇人の人間が、この世界から姿を消していた。




◆◆◆




「フッ!」

「……ッ!」

 鈍く光る剣の刀身と武骨な巨大鎌がぶつかり合う。オレンジ色の火花がエフェクトとして飛び散り、松明の灯る暗い空間を一瞬ずつ照らしていく。
 金属がぶつかり合い、ギギギという耳障りな音を暗い空間に響かせながら二つの影は何度も己の獲物を振るう。
 片方は異形。《ダイイング》と呼ばれる死神のようなモンスター。黒い襤褸衣のような外套の下には、血肉臓器どころか皮すらない白骨。肋骨の中心には邪悪な熱を帯びる紫炎が揺らいでいる。手には全長四メートル前後の大鎌で、相対する敵の命を今にも刈り取ろうとしている。
 片方は人型。黒いロングコートとパンツを着用している。手には黒い細身の剣を握っていて、それで以って巨大な鎌を受け止めている。

「ッ!!」

 ダイイングは鎌を竜巻のように回転させ少年の体をどんどん部屋の隅へと追いやって行く。《リーバーズ》。ダイイングが使う驚異の一〇〇連続攻撃。鎌を扱う武器のスキルとしても上位のスキルだ。
 少年はバックステップで避け、ときには黒い剣の腹で鎌の刃を受け流し難を逃れている。
 ゴギガガギギゴガガギギッ!! と壮絶な連撃に顔をしかめながら、体に無数のかすり傷を創りながら、それでも直撃は避けている。
 あの《反乱》のあと、すぐにメニュー画面を閉じてしまった少年には知るよしもなかったが、あの《ハークス》というラスボスはゲームのシステムに若干の改造を施したらしい。
 流血エフェクトと、痛覚の増大。去り際に残した言葉が『楽しそうでしょ』だったらしい。
 《ライフゲージ》――頭の上にある緑の横線――がジリジリと幅を縮めていくのを肌で感じ取りながら、少年は勝機チャンスを待っていた。
 今、ダイイングが使用している《リーバーズ》は上位スキル。上位スキルには大きな特徴がいくつかある。一つは、その圧倒的効果。他の追随を許さない。一つは、その華麗なエフェクトグラフィック。そして――――スキル発動後の硬直時間の長さ。
 百発。この攻撃を受けきれば、ダイイングには大きな硬直時間が訪れる。それこそ、少年の連続攻撃で殺せるような長い時間が。
 ダイイングの攻撃、《リーバーズ》だけでなく、あの鎌から繰り出される連続攻撃は、縦や横といった攻撃ではなく球という立体的な攻撃と捉えた方が正しい。鎌を振り回すだけではなく、まるで舞を踊るように体を回転させるなどして滑らかな連続攻撃を放ってくるのだ。

(……九〇、九一、九二――)

 鎌のヘッドスピードは一五〇キロを超えている。にも拘らず、少年はその一撃一撃を丁寧に記録していく。この連続攻撃が唐突に終わってしまうとこちらが体勢を崩してしまう。それはあまり得策ではない。
 ダイイングの大鎌が今まで以上に一際大きく振り上げられる。コンボフィニッシュだ。
 少年はこの攻撃を避けずに、あえて剣で受け止める。そうすれば衝撃で、少なくとも二割のライフゲージが削られてしまうだろう。今まで削り取られてきたライフと合わせると、残りのライフゲージは二割を切るかもしれない。
 しかし、避けた後の時間すら惜しい。少年のステータス面を考えるとガードしても相手の攻撃に押し切られることは無いはずだ。
 振り上げられた鎌の刃が、松明の不思議な光を反射させて鈍く輝く。
 瞬間。ギュゴッ!! と空気の膜を切り裂きながら死を振りまく死神の鎌が少年の脳天めがけて振り下ろされた。
 少年はそれを、真正面から剣の腹を使い受け止め、弾き返す。
 スキル発動後の硬直と攻撃を弾かれたことによるよろめきが重なり合い、さらなる硬直時間を生んだ。
 少年はダイイングのがら空きの懐――紫炎揺らめく肋骨部分、急所ポイントに潜り込んだ。そして、剣を横に構えると無駄のないモーションでスキルを発動させる。
 横振りから蹴りも織り交ぜる二連続攻撃スキル《ランブル》。この大チャンスにこのスキルを使ったのを他のプレイヤーに見られれば間違いなく馬鹿の烙印を押されるだろう。それはどんなに弱いスキルでもその使用直後には硬直時間が設定されているからである。こういう大チャンスの場合は小技の連続より大技を二撃ぐらい叩き込んだ方が効率が良いとされるのだ。
 しかし、少年にはそのあるはずの《硬直》がなかった。十分の一秒すらその硬直はあり得なかった。
 そこから少年のスキルの連打が始まる。
 蹴りを入れた体勢のまま剣を振りかぶり勢いよく振りおろした直後に突き攻撃の《スパイク・アウト》。突きを入れたままの体勢で剣を跳ねさせて袈裟がけに切り捨てる。そこから滑らかに体重を移動させながらスキルを発動する。《ソウル・エッジ》、ソウルゲージを少し消費しながら剣の威力を増大させる下位スキル。蒼い光を帯びた黒剣が体重を乗せられたままダイイングの肋骨に食い込み両断する。
 一気にダイイングのライフゲージが三割を割り込んだ。

「ああぁああああああああああああああああああああああああッ!!」

 体中の酸素をかき集め最後の連撃を繰り出そうと裂哮する。
 振り抜いた剣の勢いを殺すことないどころか、剣の遠心力に任せてさらに勢いを増大させる。剣の軌道を横から縦にクロールするように変えて最後の一撃に力を込める。《ソウル・エッジ》の効果継続のまま、その軌道は襤褸衣のような黒いローブに覆われた骸骨の体を縦に一閃。
 振り下ろした黒剣が床にぶち当たり火花が散るエフェクトが出る。そして、真っ二つに割れた髑髏が上下に僅かばかりずれたかと思うと、肋骨の中心にある紫炎がふっと消えさり、その体を崩落させた。

「…………ふぅ」

 少年は額に滲んできた汗をぬぐい、体に生じた熱を逃そうと黒いロングコートをパタパタと煽ぐ。
 数秒後、崩落したダイイングの体が白い光子のポリゴンに変化し、虚空へと消えていく。
 そして、全てが消えたころに、虚空に一つのアイテムが浮かぶ。それこそ、少年が求めていたものである。
 《死神の鎌》。これを《鍛冶師》に頼み分解してもらい、そこから生まれる金属素材メタルマテリアルが少年には必要だった。
 それにゆっくりと触れると、手にずっしりとした重みが感じられる。触れると即座に《ポーチ》に転送される機能をあえて外しているのだ。

「…………これで、準備はできたかな?」

 そう。少年は一年間かけてじっくりと準備をした。
 前作経験者であるプレイヤーどころかゲーム自体あまりしなかった少年にとって、ある意味このVRMMOの世界は都合がよかった。
 努力した分だけ、結果が現れる。
 現実世界ではありえないような事象だ。
 一年。このほぼ現実と大差ない世界――仮想現実の世界において、少年は努力に努力を重ねた。前作経験者であるとあるプレイヤーに追い付くために。
 愚直とも言えるほど、ひたすらに。
 そして、今、トッププレイヤーたちとあまり大差ないレベルに達することが出来た。
 反撃の狼煙は上がった。次は、行動に移す時である。

「…………今度こそだ。白雪。今度こそ、見つけてやる」

 少年とはぐれ、今も前線で戦い続ける少女を、見つけ助けるために。
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