日本政府の資産をどんどん売却せよ
いま、日本国債の危機がさまざまなかたちで取り沙汰されている。だがそれらは、はたしてどれほど実態に即しているだろうか。危機を煽る言説を注意して聞いてみると、その多くが「破綻」の意味と「いつなのか」とを明確にしていないことがわかる。「たんなる一般論」と「現実を分析したうえでの議論」とは、区別して考えなければならない。どういう条件の下で、何年で破綻するか。それをはっきりいわなければ、お話にさえならない。
端的に結論をいえば、「現時点で日本の国債は、少し心配ではあるが、心配しすぎる必要はない。まともな政策さえしていけば大丈夫なレベルである。だが、現在の民主党のような政策をあと10年もやられたら、それはアウトになるかもしれない」という話である。
まず最初に、国の債務をめぐる状況を正確に理解しておく必要があろう。1月22日に次のような報道が流れた。「日本の財政がどれだけ借金漬けになっているかを示す『国内総生産(GDP)に対する純債務比率』が2010年に先進国で最悪の水準になる見通しだ。総債務残高を使った国際比較では既に1999年から先進国で最悪になっているが、資産を差し引いた純債務ベースでも、これまで最悪だったイタリアを初めて上回る」(『日本経済新聞』)。
これはどういうことか。よくマスコミでは、国債や借入金、政府短期証券の金額を合計して、「日本は国の債務が800兆円あり、地方の債務が200兆円。合計で1000兆円の負債総額になる」という言い方がなされる。だが、忘れてはならないのは、日本は「政府の保有する資産」が、諸外国と比べて桁違いに巨大であることである。
まず地方について先に述べるならば、地方債はたしかに200兆円ほどあるのだが、地方の資産もおよそ200兆円あるから、全体でみれば、これを除外して考えても大きな支障はない。次に国について見ると、国には総計で500兆円ほどの資産がある。そのうち、150兆円ほどは容易には売れない実物資産だといわれるが、少なくとも残りの350兆円は売却可能なものである(2007年度の国のバランスシートを見ると、有価証券・現預金は130兆円。特殊法人等への貸付金・出資が250兆円で、これは特殊法人廃止などですぐに取り崩し可能である)。
先の記事の話は、グロス(債務総額)ではなく、ネット(債務総額から政府資産を引いた金額=純債務ベース金額)のGDPに対する比率はどうか、ということである。これまでは、世界各国の債務総額の対GDP比を比べて、日本の財政状況が断トツに悪いと喧伝されてきた。純債務ベースではイタリアが日本を上回っていたからだ。それがついに、純債務ベースで見てもイタリアを抜いた、というのが今回の報道の肝なのである。
たしかに、この話はまったく褒められた話ではない。だが、これはさらによく考える必要がある。OECD統計では純債務は金融資産だけを除いて計算しているが、実物資産を除くとどうなるか。日本は60%程度にまで良化するが、他の主要国で、日本ほど巨大な実物資産を所有している政府はないから、ランキングは大きく変わる。
そもそも、なぜ日本政府はかくも巨大な資産を抱え込んでいるのか。それは公務員の老後を守るためでしかない。
たとえば外為特別会計にはGDPの20%に当たる100兆円ほどの金額がある。先進国でこれだけの規模の外貨準備をもっている国はない。だいいち外貨準備をもって大々的に介入するのは、変動相場制の理念と完全に矛盾する。日本の次に大きな外貨準備をもつカナダも、せいぜい2%程度。まさに桁が1つ違う。そして、この莫大な資金をどこで運用するかの決定権は財務省にあり、それが利権だ。
また、年金の積立金も150兆円ほどあるが、これもこんなに積み立てている国はない。政府は「高齢化が急速に進展しているから、将来の保険料を急に上げずに済ませるためだ」と説明しているが、これだけの金額があるのとないのとでどれほど保険料が違うかを計算してみると、じつはあまり変わらないのである。なのに、なぜこれだけ抱え込んでいるかといえば、やはり運用するメリットがあるからである。これだけの金額を運用すると、年間300億円ほどの手数料が動く。どこで運用するかは随意契約だから、金融機関は皆、口を開けてその300億円を待っている。これがすなわち利権となるのである。
郵政にしてもそうである。じつは政府は郵政の株式を5兆円以上もっている。この株を売却し、さらに完全民営化の会社として健全に運営してもらって法人税を納めてもらえばいいのに、株の売却を止めてしまった。
こうした資産を政府にもたせておくと、だいたいろくなことにはならない。莫大な資産があるということ自体が、役所のパワーを強くしている。つまり「天下り天国」だということの言い換えでしかなく、じつは「有効に活用しない」と宣言しているようなものなのである。
日本政府の資産をどんどん売却、または年金資産は国民に還元していけば、グロスの政府債務は縮小していく。当初はネットの数字はあまり変わらないが、最終的にはよくなる。やがてさらに、民間が売却された資産を有効に活用しはじめ、そこから利益を上げて経済が回りはじめれば、税収が上がりはじめる。そうなれば、ネットの政府債務も縮小していくことが期待できるのである。
「お金を刷って」名目成長率を上げればいい
次に問題になるのが、GDPに対する純債務比率がここまで悪化した理由である。純債務残高対GDP比は、日本は1995年に26.3%であったが2010年に104.6%と大幅に悪化した。イタリアは95年には99.0%であったが2010年は100.8%。ほぼ横ばいであった。なぜこの差が生まれたか。じつはその間、日本の名目GDPが3%減少したのに対して、イタリアでは65%増加した。つまり、日本がデフレに陥り、分母となるGDPを拡大させなかったことが問題なのである。じつは、日本の名目GDP成長率はゼロかマイナスで、先進国平均4%超のなかで断トツのビリだ。
債務残高とGDP比の関係は、じつはプライマリーバランスのGDP比と成長率と金利の関係に依存する。成長率と金利はほぼ連動して動くので、債務残高のGDP比が安定的になるためには、プライマリー収支が改善していけばよいということになる。単純化していえば、プライマリー収支が赤字縮小の方向にあれば、純債務残高のGDP比はそうそう大きくはならないのである。逆に、破綻を純債務残高対GDP比の発散とすれば、破綻とはプライマリー収支が誰の目にも悪化傾向が確認されるときだ。
プライマリーバランスが改善するかどうかは、税収と歳出の関係による。名目成長率と歳出は、ほぼ比例的に伸びていく。だが、税収には累進構造があるから、成長率1%の伸びに対して国税では1.1、地方税では1.05ほどの伸び(弾性値)が期待できる。つまり、名目成長率が3%になれば、歳出は概ね3%伸びるが、国の税収は3.3%伸びるということである。これを何年も続けていけば、じつは財政再建ができてしまうのだ。
本当に財政収支のことを考えるのであれば、ある程度、名目成長率が高めになったほうがいいに決まっている。しかし財務省は、今回の財政収支試算(後年度影響試算)などでも名目成長率をきわめて低く置いている。これは、財務省の悲願である「増税」を主張できなくなることを恐れているからだとしか思えない。なぜなら、はっきりいってしまえば名目成長率を上げるには、少しお金を刷ればいいだけの話だからである。たしかに実質成長率を上げるのはそれなりに難しい。だが名目成長率を上げるためには、インフレ率をマイナスにさえ設定しなければいいのである。
こういうと、「インフレになると、金利が上がってしまうからダメだ」という反論がなされることがある。しかし、これも間違いだ。たしかに利払いは大変になるが、その分、GDPが増えるので、債務残高のGDP比を考えたら、大した問題ではないのである。「成長率より金利が高い」と頑強に主張する専門家のなかには、民間金利と国債金利を混同している人すらいる。民間金利が成長率より高いのは当たり前で、民間金利が成長率と同じだったら、借り入れて事業を興せば間違いなく儲かってしまう。国債金利は民間金利よりも低く、つまり、じつは長期的には成長率と大差なくなるのである。なお、先進国では名目成長率が4%を超えると成長率が金利より大きくなる傾向もある。だから、名目4%は破綻回避の黄金率だといってもいい。
(Voice 2010年4月号 より)
「GreenWorkplace」で実現する「節電でも成果が挙がる働き方」 東日本大震災による影響で、東日本を中心に全国的に節電に取り組む必要が出てきた…
つらい環境や嫌な相手は変えられなくても、ストレスは軽くできる!
今日から効果が上がる「ストレスゼロ・テクニック」とは?
社内や取引先との人間関係、重いノルマや責任など、ビジネスマンはストレスにさらされ続けている。ストレスを抱えていると仕事のパフォーマンスが悪くなり、さらなるストレスを生むこともしばしば…
「コンプライアンス」という言葉はきっと耳にしているはず。だが、その意味するところをほんとうに理解しているだろうか? 日本にコンプライアンスの考え方が本格的に導入された時点から、そのルールづくりに携わってきた野村修也先生に、誤解されがちな「コンプライアンスの真の意味」についてうかがった。
温室効果ガスの削減など、環境問題に注目が集まるなか、石油はともすれば「悪しき要因」としてばかり取り上げられがちである。しかし、無資源国であるわが国にとって…
悩める個人投資家に朗報!
元為替チーフディーラーの両雄が!)下落相場でも勝てる!)投資法を徹底指南!
木内博一 (農事組合法人「和郷園」代表理事)
当連載が本になりました!
『最強の農家のつくり方』(定価1,470円)
「農業界の革命児」が語る成功の方程式と日本再生への構想をぜひ、ご一読ください。
野口悠紀雄(早稲田大学教授)
「オフショア」「タックスヘイブン」の姿を知ることで、日本経済の問題点と進むべき道が見えてくる!
第2回 タックスヘイブンは存在悪か?