大分大工学部の宇田泰三教授(応用化学)と、同大全学研究推進機構の一二三恵美教授の研究グループが、インフルエンザウイルスを分解、無効化できるとされる「スーパー抗体酵素」(抗原分解酵素)について、ヒトと同様にインフルエンザに感染する犬の腎細胞で、その無効化を確認することに成功した。宇田教授は「ウイルスそのものを破壊できる画期的な物質で、新薬開発の突破口になる」としている。
インフルエンザウイルスは、主に細胞に感染する時に働くヘマグルチニン(HA1-16)と、増殖したウイルスが細胞から離れる時に働くノイラミニダーゼ(NA1-9)というタンパク質の組み合わせからできている。数千万人が死亡したスペイン風邪やアジア風邪など、世界中で流行したインフルエンザウイルスはHA1、HA2、HA3型が多かった。
研究グループは、HA1型とHA2型のタンパク質のアミノ酸配列で共通する「領域」に着目。この領域を狙い撃ちにして分解するスーパー抗体酵素を作れば、ウイルスそのものも分解できるのではないかと考えた。
研究グループは、配列が共通する領域をネズミに注入。できた抗体から作用を持つスーパー抗体酵素を拾い出し、犬の腎細胞に希釈したスーパー抗体酵素を注入したところ、ウイルスの増殖を抑制したという。
グループは今後、人間から同様の作用を持つ「ヒト型スーパー抗体酵素」の作製を目指す。これまでインフルエンザの治療薬は「タミフル」が一般的だったが、今回、ウイルスそのものを分解できることから、治療を根本的に変えることができる可能性がある。
宇田教授は「インフルエンザを含め、C型肝炎や狂犬病、がんなどの新たな治療法の開発につながるのではないか」と話している。
研究成果は7日、米国科学誌「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー」の電子版に掲載された。
■スーパー抗体酵素
体内に入ったウイルスや細菌などに結合して抵抗する「抗体」と、ある物質を分解するなど体内で化学反応を促進する「酵素」の作用を併せ持つ分子。標的とするウイルスなどのタンパク質を、狙い通りに分解できるのが特長。医薬品への応用が期待される。
=2011/09/28付 西日本新聞朝刊=