きょうの社説 2011年10月14日

◎行政に嘆願書 「談合の風土」変える決意を
 奥能登の公共工事を巡る談合問題で、奥能登2市2町で作る「奥能登商工振興協議会」 などが県と輪島市に行政処分の軽減を求める嘆願書と署名簿を提出したのは、建設業者が倒産や廃業に追い込まれると、地域経済に影響が出るという理由だった。産業の乏しい地域にあって、建設業が雇用の受け皿になっている現実はあるにせよ、行政処分に「配慮」を求める嘆願に県や輪島市が応じられるわけがない。

 今回の嘆願書などの提出で、むしろ気になるのは「身内」をかばうような要望が、あた かも地域の総意のごとく出てくる風土である。住民が助け合い、もたれ合う優しさは能登の良さでもあろうが、「談合」に対する甘い見方は、地域のためになるとは思えない。

 談合は決して「共存共栄の知恵」や「必要悪」などではない。業者が経営努力をせず、 なれ合いで高い落札価格を維持していくことにより、間接的に「税の横領」を続けていく行為である。今、地域に必要なことは、「談合の風土」を地域ぐるみで変えていく強い決意ではないのか。

 能登に限らず、北陸の建設業界は公共工事への依存度が高く、談合が何度も摘発されて きた。2008年には滑川市発注の下水道工事で、滑川建設業協会が組織ぐるみで談合を繰り返していた事件が摘発された。2009年には七尾市の前副市長が市発注工事に絡み、収賄容疑で逮捕されている。地域の付き合いが濃密な所ほど談合が日常化し、そこに発注側も絡む「官製談合」の疑いは一向に解決されない。また、おしなべて自治体側には、談合を減らす努力が不足しているようにも思われる。

 罰則の指名停止期間は全国的に長期化し、違約金も高額化の傾向にある。石川県の場合 、2008年に発覚した能登島大橋復旧工事をめぐる談合事件を受け、違約金が請負額の30%に引き上げられた。談合が発覚した場合、業者に対して赤字受注が確実となる厳しい制裁を科すことで、不正行為の抑止につなげるのが狙いだった。その経緯と趣旨を振り返れば、処分に「手心」を加えることなど、できるはずもない。

◎甲状腺検査 被曝医療の新たな出発に
 福島第1原発事故に伴う福島県の県民健康管理調査の一環として、今年4月1日時点で 18歳以下の子ども全員を対象とする甲状腺検査が始まった。日本の被曝(ひばく)医療の新たなスタートともいえる。約36万人を生涯にわたって検査する世界に例のない取り組みであり、長期の被曝医療体制を支える人材育成も並行して進める必要がある。

 体の代謝を支えるホルモンなどを分泌する甲状腺は、放射性ヨウ素がたまりやすい。チ ェルノブイリ事故では、汚染された牛乳などの出荷制限措置がとられなかったため、子どもの甲状腺被曝が広がり、甲状腺がんが多発した。

 検査を行う福島県立医大の専門家は「チェルノブイリに比べて内部被曝が少なく、甲状 腺がんはまず起こらない」とみているが、親子の不安、恐怖心は強く、検査とその結果伝達に際しては丁寧な対応と説明が重要である。

 研究データを集めるだけといった機械的な対応で検査に不信感を持たれるようなことが ないよう、あえて求めておきたい。進学や就職で県外に出た場合でも、安心して検査を受けられる仕組みを整えておくことも欠かせない。

 また、住民の間では内部被曝に対する不安が強い。甲状腺検査と同時に、全身測定装置 (ホールボディーカウンター)などを用いた内部被曝の検査体制も拡充する必要があろう。

 健康調査の中心となる福島県立医大は先ごろ、放射線医学総合研究所(千葉市)と放射 線影響研究所(広島・長崎市)と連携協定を締結した。両研究所が持つ高度な放射線医療技術と、被曝者の追跡調査や心理的支援のノウハウを活用する狙いである。今後、広島大と長崎大の協力も得て被曝医療の拠点をつくる計画という。

 日本の被曝医療研究は、広島、長崎両大が中核となってきたが、予算を含めて独占的な 傾向も否めなかった。原爆被曝者は年々減少しており、今後の大きな課題である内部被曝や低線量被曝に関する研究はあまりなされていない。福島から被曝医療研究を新たに進展させてもらいたい。