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東日本大震災(福島原発)(ニュース特集)

【東電賠償】自主避難、どこまで賠償 放射性物質の除染も焦点

 東京電力福島第1原発事故の賠償問題で残る焦点となっているのは、政府の指示を受けずに自主的に避難している住民への賠償をどこまで認めるかだ。放射性物質の除染をめぐる賠償の行方も注目される。

 文部科学省によると、自主避難の住民は地震や津波による人も含め、8月末時点で約3万6千人に上る。賠償範囲の目安を定める同省の原子力損害賠償紛争審査会は9月21日の会合で、自主避難を賠償対象に含めることでは合意している。

 会合では、原発事故直後に大量の放射線被ばくを回避するために避難したケースと、一定期間が経過した後に健康への影響を懸念して避難したケースに2分類し、議論を進めることを決定。「事故直後」を線引きする日付は、政府が計画的避難区域などの指定を発表した4月11日か、実際に指定した22日が候補となっている。

 賠償対象の地域や項目については、これから議論が本格化する。対象地域内で実際に避難した人と、そうでない人の賠償内容に差をつけるかなど検討課題は多い。

 除染については、推定年間被ばく線量が20ミリシーベルトを超えている地域を中心に、国が主導して進める。20ミリシーベルトを下回っている地域についても、市町村や住民と連携し1ミリシーベルトに近づけることを目指している。

 この除染費用を誰が負担するのか、まだ議論は始まっていない。紛争審査会は今後、兆円単位と言われる費用を東電がどこまで負担すべきか検討を進める。

(2011年10月 2日)


■首都圏まで広がる汚染 千葉と埼玉の分布公表

 文部科学省は29日、福島第1原発事故で放出された放射性セシウムについて、航空機で測定した千葉県と埼玉県の土壌への蓄積状況を示す分布図を公表した。すでに公表された福島、栃木、茨城、群馬県などと合わせて見ると、原発から南西方向に比較的高い線量の地域が帯状に伸び、薄まりながら首都圏まで汚染が広がっている様子が明らかになった。

 文科省は、風の影響によって原発から北西方向に広がった放射性物質が、福島市西部の山間部で南西に方向を変え、群馬県西部まで汚染が広がったと分析している。

 また原発の南方では、茨城県北部で風がいったん海側に向きを変えた後、再び陸地側に方向を変え、千葉県北西部まで到達して数値が高い地域ができたとみている。千葉県柏市や松戸市などの土壌中のセシウムは1平方メートル当たり6万~10万ベクレル、放射線量は毎時0・2~0・5マイクロシーベルトと高かった。埼玉県南東部の三郷市や西部の秩父市でも同様に高い地域があった。

 文科省によると、毎時0・2マイクロシーベルト以上だと年間被ばく線量が一般人の被ばく限度の1ミリシーベルトを超える恐れがある。

 9月8~12日にかけて放射線検出器を搭載したヘリコプターで上空から測定した。

 写真:航空機で測定した放射性セシウムの蓄積量を示す広域地図(文部科学省提供)


■1~3号機100度切る 冷温停止の条件クリア

 東京電力は28日、福島第1原発2号機の原子炉圧力容器下部の温度が100度を切ったと発表した。すでに80度を下回った1、3号機と併せ、震災で冷却機能を失った1~3号機すべての原子炉で、冷温停止状態に向けた条件の一つをクリアした。

 東電によると、2号機では同日午後5時現在で99・4度となった。1号機は78度、3号機は79度だった。

 もう一つの条件である放射性物質の放出抑制も達成しつつあると政府、東電はみている。経済産業省原子力安全・保安院はこの状態が維持され、思わぬトラブルで状況が悪化しないよう、中期的な安全確保に向けた考え方を近く公表する方針。政府は東電から具体的な安全確保策の報告を受け、冷温停止状態が実現したかどうかを総合的に判断する見通しだ。

 事故収束の工程表の「ステップ2」は冷温停止状態の実現が目標で、「圧力容器下部温度が100度以下」になり「放射性物質放出による被ばく線量が大幅に抑制」できていることを条件としている。

 東電は2、3号機の炉心にシャワーのように水をかける効率的な冷却方法を導入。また原発の敷地境界の被ばく線量は、目標としていた年間1ミリシーベルトを下回る0・4ミリシーベルトまで低くなった。

 ただ東電の松本純一原子力・立地本部長代理は記者会見で、放射性物質の放出量をより正確に評価する必要があるなどとした上で、「数値は(条件を)満たしているようではあるが、冷温停止の判断時期にはまだ少し早いと思う」と述べた。


■冷温停止、汚染水浄化… 事故収束に向け新段階

 東京電力福島第1原発では事故収束に向けた作業が新たな段階に入った。直面する多くの課題と現状を理解するキーワードをまとめた。

 【冷温停止】通常の原子炉では、核分裂反応が止まり、冷却水が100度未満で燃料が安定的に冷却されている状態を指す。しかし、福島第1原発では燃料が溶融して正確な水温が把握できないため、政府がどう定義するかを検討。圧力容器底部の温度が100度以下になり、放射性物質の放出を管理、放射線量を抑制した状態という条件を示した。事故収束に向けた東電の工程表では「ステップ2」で実現するとしている。

 【ステップ1、2】事故収束に向け、政府・東電統合対策室が作成した「工程表」の各段階。最初の3カ月間の「ステップ1」では原子炉の安定的な冷却を目指し、建屋地下にたまった汚染水を浄化して原子炉に戻す「循環注水冷却」や、2、3号機の使用済み燃料プールでの循環冷却、水素爆発防止のための窒素封入などを実施。7月から3~6カ月の「ステップ2」では、原子炉を冷温停止状態にして住民避難の解除を始め、その後3年をめどに使用済み燃料のプールからの取り出しに着手するとした。

 【汚染水の浄化】原子炉への注水に伴って増加する原子炉建屋やタービン建屋地下にたまった高濃度の放射性物質を含む汚染水から放射性物質を取り除く処理。日本、米国、フランスのメーカーの技術を組み合わせた設備で、6月に本格稼働を開始。水漏れなどのトラブルが続発、たびたび停止し、稼働率が低迷している。東電は、8月以降、放射性セシウムや塩分を除去する新たな装置を稼働させ、処理能力を向上させる計画だ。

 【原発ロボット】放射線量が高い原子炉建屋内など、作業員の被ばくが懸念される場所で、人に代わって事故収束作業を行う。高い放射線量に耐えられる材質が使われ、遠隔操作で動く。多くはカメラを搭載。線量調査のほか、放射性物質分析のためのちり採取、温度や酸素濃度の測定、砂やほこりの掃除、がれき撤去などに利用する。米国の「パックボット」、軍事用の「ウォリアー(戦士)」、撮影ができる無人ヘリ「Tホーク」、スウェーデン製ロボットなどが投入され、千葉工大、東北大などが開発した「クインス」も原子炉建屋に入った。

 【緊急時避難準備区域】主に福島第1原発から20~30キロ圏で、緊急時に屋内退避や避難を求める可能性がある地域。政府が原子力災害対策特別措置法に基づき福島県広野町全域、楢葉町、川内村、田村市、南相馬市の一部を指定。放射線の影響が特に大きい子どもや妊婦、要介護者、入院患者らの避難と、区域内の学校を休校にするよう求めた。細野豪志原発事故担当相は、原子炉への注水が中断されても安全性が確保できるかを8月上旬までに確認し、この区域の指定解除を地元自治体と協議する方針を表明した。

 写真:千葉工大、東北大など開発の「クインス」(上)、米国製「ウォリアー」(下左)、無人ヘリ「Tホーク」(下2枚は東京電力提供)


■原発事故で相談電話開設 政府や専門の研究機関

 東京電力福島第1原発事故を受け、政府や被ばく医療の専門機関が、放射線の健康への影響などについて市民の相談を受け付ける電話窓口を開設している。

 経済産業省原子力安全・保安院は、原発事故の全般的な状況などの問い合わせに毎日24時間対応する。電話番号は03(3501)1505。

 文部科学省は健康相談ホットラインを開設。放射線や放射線の影響に詳しい相談員が応対する。毎日午前9時から午後9時までで、電話番号フリーダイヤル(0120)755199。

 放射線医学総合研究所は、被ばく医療や、放射性物質が体に付着した場合の除染方法などを解説する。毎日午前9時から午後9時までで、電話番号043(290)4003(11日から)。

 首相官邸のホームページには原発事故に関連する情報がまとめて掲載されている。


原発と国家

 東日本大震災と東京電力の福島第1原発事故は人々の暮らしを破壊し、日本を不安に陥れた。戦後史に刻まれた2011年3月11日。地震と津波は途方もないがれきの山を残し、原子炉から漏れ出した放射性物質との苦闘はいまも続いている。巨大な複合災害はこの国に何を問いかけているのか。危機管理の不在、原 発安全神話、技術立国の過信、名門企業のおごり。隠れていた負の遺産を直視し、新しい日本を創る道を探してみたい。

会見要旨

「奮闘する新聞」

 東日本大震災は、地域に根付いた報道を続ける新聞社にも大きな打撃を与えた。停電で動かない輪転機、予期せぬトラブル。だが、それでも新聞の発行が止まることはなかった。

「被災地首長に聞く」

 東日本大震災の津波で岩手、宮城両県の沿岸部は壊滅的な被害を受けた。深い傷痕が残る中、再建に向けた懸命の取り組みが始まる。海とともに生きる多くの住民を抱えた自治体は震災をどう受け止め、どうまちづくりを進めるのか。被災地の首長に聞いた。

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