放射線怖がりすぎないで 東大病院放射線科・中川恵一准教授

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 福島第1原発事故の長期化に伴い、放射線被ばくに対する不安が高まっている。日常的に診療で放射線を扱う東大病院放射線科の中川恵一准教授は、放射線の健康影響を分かりやすくまとめた「放射線のひみつ」(朝日出版社、945円)をこのほど出版、放射線を怖がりすぎて必要な食物を取らないことなどによる健康被害をむしろ懸念している。4月末に福島県で現地調査も行った中川さんに、今回の事故による健康影響をどうみるのか、話を聞いた。

 

 -放射線による健康影響はどのようなものか。


 「細胞が死ぬことで、脱毛や白血球の減少、生殖機能の喪失などが起きる『確定的影響』と、DNAの損傷で発がんの可能性が高まる『確率的影響』とがある。確定的影響は被ばく量が250ミリシーベルトを超えないと出ないので、今回の事故では一般市民はそこまで至っていない。問題は確率的影響で、年間被ばく量が100ミリシーベルトを超えるとがんによる死亡が増えることが分かっている」


 -どれだけ増えるか。


 「100ミリシーベルトでおよそ0・5%、200ミリシーベルトでは1%、がんによる死亡率が高まる。日本人の3人に1人はがんで死亡するので、ある人ががんで死ぬ確率は33・3%だが、100ミリシーベルトを被ばくすると33・8%になる。千人の集団は333人ががんで死ぬが、集団全員が100ミリシーベルトを被ばくするとがんで死ぬ人が5人増えるとも言える」


 -100ミリシーベルト以下ではどうなのか。


 「がんの死亡率が高まるかどうか分かっていない。生活習慣や食生活など、がんを増やすさまざまな要因に隠れて、数値として出てこない」


 -影響はないのか。


 「ないとは言い切れない。安全だという証拠があるわけではないので、土の表面を除去するなど、被ばくをできるだけ減らす努力は必要だ。だが、多くの放射線医学の専門家は、10ミリシーベルト以下では、がんのリスクが上がるとは考えていない」


 -6月末現在で、福島第1原発事故による一般市民への健康影響をどう評価するか。


 「放射性物質の大量放出は止まっており、首都圏を含め、福島県以外では健康に問題はないと考えられる。福島県民でも年10ミリシーベルトを超える人はほとんどいないだろう」


 -校庭の利用制限で問題となった年20ミリシーベルトの基準はどうか。


 「成人なら問題ないが、小児や妊婦に対しては高いのではないか。生活上の不便をどの程度受け入れるかは、住民が決める側面もあり、文部科学省が一方的に20ミリシーベルトとしたのはまずかった」


 -放射線を過度に恐れることによる健康被害を訴えているが。


 「例えば野菜不足によるがん死亡のリスクは100ミリシーベルトに相当する。塩分の取りすぎは約200ミリシーベルト、運動不足や肥満は400ミリシーベルト程度の被ばくと同じリスクだ。喫煙や毎日3合以上の飲酒はがんで死亡するリスクが約2倍になり、2千ミリシーベルトの被ばくに等しい」


 「避難生活のストレスや校庭で遊べないこと、水泳をしないことの方が健康に影響を与えることがある。被ばくを避けることによる不利益を勘案して、どう対処するか判断することも必要だ」


 -気を付けることは。


 「政府や自治体が出荷や摂取の制限をしていない食物は大丈夫だが、山に生えているキノコや山菜は放射性物質を吸収しやすいので食べない方がよい」

 

(熊本日日新聞 2011年7月14日朝刊掲載)

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