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年金を支給し始める年齢を引き上げるかどうか。その議論が、厚生労働省の審議会で始まった。厚生年金の支給開始年齢は現在、引き上げの最中だ。男性は2025年、女性は30年まで[記事全文]
戦没者の遺骨帰還は「国の責務」。政府はそういう。その「責務」を果たさなかった結果、残されたのは、行き場を失った大量の遺骨である。いったい、どうするのか。[記事全文]
年金を支給し始める年齢を引き上げるかどうか。その議論が、厚生労働省の審議会で始まった。
厚生年金の支給開始年齢は現在、引き上げの最中だ。男性は2025年、女性は30年までかけて、段階的に65歳にする。
これを68歳まで引き上げたり、引き上げのペースを速めたりする案が示された。
いずれも、政府が「税と社会保障の一体改革案」論議で、5月末に公表していた内容だ。
高齢化・少子化が進むなか、なるべく多くの人が働き、社会を支えるようになるのは望ましい。その意味で、引き上げは選択肢になりうる。
だが、高齢者が働ける場を確保できないと、生活に困る人を増やすことになりかねない。
しかも、年齢引き上げは、いま制度を支えている世代にだけ影響することに注意したい。すでに年金を受け取っている高齢者はもちろん、現在61〜64歳の「団塊の世代」も対象外だ。
支え手世代は「なぜ自分たちだけが割を食うのか」と受け止めるだろう。逃げ水のように支給が遅くなる分、受け取る金額が減ると感じるのが自然だ。
ただ、受け取る期間が短くなれば、それだけ損をするという単純な話ではない。引き上げによって年金財政が楽になる分、現役世代が将来、受け取る年金が増える可能性も出てくる。
というのは、いま段階的に上がっている年金の保険料は17年度には上限で固定され、あとは積立金を含めた一定の枠内のお金を誰にどう配るかという判断になるからだ。
年齢引き上げが、年金財政や将来の年金にどのような影響を及ぼすのか。具体的な制度設計をもとに試算をして、議論を深める必要がある。そして、実施するなら、世代間で不公平が生じないよう、できるだけ早く進めるほうが望ましいだろう。
ただし、引き上げで影響を受ける世代の不満を和らげるためにも、すでに支払われている年金について、物価や賃金の下落に応じて支給額を引き下げることが先決だ。
支給額の大幅な減額は高齢者の反発を招くため、必要な額の引き下げが行われず、年金が高止まりしている実態は看過できない。
このままだと、賃金が下がって保険料収入が少なくなる分、財政が悪化し、将来世代が受け取る額が下がってしまう。
年金を受け取る側と支え手とのバランス、高齢者が働く場の確保などに目配りした包括的な議論を期待したい。
戦没者の遺骨帰還は「国の責務」。政府はそういう。
その「責務」を果たさなかった結果、残されたのは、行き場を失った大量の遺骨である。いったい、どうするのか。
フィリピンで第2次大戦中に亡くなった旧日本兵の遺骨として集められた骨の多くは、日本人以外のものではないか。現地で、そんな指摘があった。
地元住民からは「墓地に埋葬していた祖先の骨が盗まれた」という訴えも相次いだ。祖先の骨を信仰対象とする人々もおり、反発も起きている。
事実関係の調査を求める遺族らの声を受け、厚労省が検証し、報告書を公表した。
最悪の「お役所仕事」――。そう言うしかない内容だ。
現地に残されていた骨をDNA鑑定などで調べたところ、女性や子ども、あるいは現地の人のものとみられるものが多数を占めた。
ところが、厚労省は同じ手順で集め、すでに日本に届いた1万5千柱を超す骨は「日本兵のもの」と強弁する。骨はすでに焼かれており、DNA鑑定は難しいという。
一方で、これらの骨は東京・千鳥ケ淵戦没者墓苑には納めていない。「遺族感情を考えての判断」というのだから、訳がわからない。
この混乱を招いた背景には、厚労省の方針変更がある。現地住民の宣誓書と比国立博物館の証明書があれば、日本兵と認定する運用を08年から始めた。その後、事業を民間に委託した。受託したNPOは、骨を持ち込む住民らに「日当」を払った。
すると、送還された骨は07年の161柱から、09年度にはざっと7700柱、10年度は上半期だけで約6300柱へと急増した。少し調べるか、現場で立ち会っていれば、この異変に厚労省が気づかぬはずがない。
税金を費やしている責任感が、あまりに足りない。
遺骨の収集は、日本軍によって災禍を受けた地域で行われることが多い。礼を失したり、住民感情を傷つけたりしないような細心の注意が要る。
現地で発行された証明書や宣誓書のずさんさは明らかだ。厚労省は遺骨を漫然と保管していてはいけない。比政府と協議し、再調査も含めて誠意ある対応を急がねばならない。
戦後66年。残念ながら、骨は風化し、土にかえっていく。収集は難しさを増すばかりだ。今回の「お役所仕事」は、こんな実態に気づかせてくれた。
これを機に、事業のあり方そのものを考え直すべきだ。